中二病と空間魔法
テンプレキターーーーーーー!
大事な事だから二回言いました。何て言うかついにこの時が来た! って感じだね。
最初にダンジョンから出てきたときは商人を盗賊から救って……っていうテンプレを夢想したのに盗賊の手伝いをして商人の首を刎ねることになってしまった。
そして冒険者ギルドに入ったとき、その時も密かにこのテンプレを夢見ていた。だが誰にもからまれることなく過ぎてしまったので少しだけ残念な気持ちになってたりするのだ。
改めて彼を見てみよう。いかにもな怖い顔つきに腰には片手剣が吊るされ、腰には小さな瓶のポーションが括りつけられている。顔だけ見ればどこで新人冒険者にからんでもおかしくなさそうな顔だ。
「おいおい、ここはひ弱なガキが来るような場所じゃねえよ。せいぜいグレイウルフにケツでも噛まれんのが落ちさ」
男は煽るような口調で俺に絡んでくる。周りの様子を見ても止める気配はない。こいつのパーティーの仲間であろう男たちはこちらを向いて苦笑している。こういう事はよくあるのだろうか。
「ご心配なく。確かに登録したばかりのひよっこですがこれでも試験をランクDで通った身なんで簡単にはやられませんよ」
俺が答えると男は少しだけ驚いたような表情を浮かべるがすぐに戻す。
「はん! ちょっとばかし戦闘ができるからって調子に乗ってんじゃねえよ。そんなやつは結局自分の力量も測れずにつっ込んで無駄死するのが落ちだ」
そう告げる男の声音には挑発よりも自分の事を本当に心配して忠告をしているような気がした。
「その事はしっかりと心に刻みつけてますよ。命あっての冒険者ですからね」
俺がそう答えると男は鼻を鳴らして行ってしまった。あれ? 俺のテンプレは?
しばらくするとジョズが戻ってきた。ジョズはもう完了の報告は済ませたようで軽い足取りでこちらへやってくる。
「おう、あんたか。そっちの依頼は何もなかったか?」
「依頼自体は問題なかったけどな。お前が来るちょっと前に変な冒険者に絡まれた」
おれが言うとジョズは驚いたような顔をする。
「へぇ、誰に絡まれたんだ?」
「なんかいかにも悪そうな顔つきをしたおっさんだった」
俺が答えるとジョズはあの男の後ろにいた仲間と同じような苦笑いを浮かべる。
「ああ、そいつはアルドって言ってな。この町にいるお人よしだ」
どうやらジョズはあいつの事を知っているようだ。お人よしってなんだ?
「あいつは初めて見る奴に絡んで無謀な奴等が死んだり大けがを負ったりしないように忠告に回ってるんだよ。確かランクはC-だったと思うがこうやって初心者に絡むためにランクを上げないだけで実際にはB近い実力だってのは聞いたことあるな」
なるほどな、別に初心者から金を巻き上げる当たり屋みたいな奴ではない訳だ。何でもああいう「お人よし」ってのはどんなギルドの中にも大体一人くらいはいるらしい。こいつらは警告だけじゃなくて俺が思い描いていたようなテンプレ冒険者が湧いて出てくるのを予防する働きもあるらしい。テンプレって実際に体験しようとすると意外に起こらないものなんだな。
そのまま俺達は冒険者ギルドを後にして宿屋へ向かった。
宿に帰ってくると宿で飯を食いながら俺はジョズにいくつか質問をする。
「なあ。空間魔法についての本って知ってるか?」
「空間魔法?」
ジョズが聞き返す。ギルドの魔法について書かれている本に空間魔法の記述はなかった。
異世界物の小説的に考えるとかなりレアなスキルなのかロストテクノロジー的な魔法になってしまっているか禁術扱いで広まらないとかの理由じゃないかと思っている。
「空間魔法? 確か大昔に禁術指定を受けて途絶えたっていうあれか?」
ビンゴ! どうやら禁術からの絶滅のようだ。
「へぇ、むかしは本当にあったんだな。今はもう完全に廃れてるのか?」
「いや、確かどこかに住むハイエルフの長が長年をかけて習得したとか聞いた事があるな。あとは一部の上位魔族は覚えている奴がいるとも聞いた」
ジョズはスープをすすりながら答える。やけに詳しいが有名な話なんだろうか。
「人族で覚えている奴はいないのか……空間魔法ってのはどんな魔法なんだ?」
人族で覚えている人がいないのは残念だが空間魔法が有名ならその効果もある程度知れ渡っていてもいいはずだ。
そう思ったがジョズは俺の方を見るとニヤリとする。
「あんた、空間魔法に興味があるのか? やめとけって、あれを習得できたハイエルフは800年くらいそれに専念してやっとのことで覚えたんだぜ? 魔法にたけているハイエルフでさえそれほどの時間がかかるんだから人族にはまず無理だろうな」
空間魔法ってそんなに習得しにくいのか。まあすでに持っている俺には関係ないがな。
「まあロマンがあっていいだろ。それでどんな効果があるんだ?」
俺が聞くとジョズは宙を見ながら思い出すように話す。
「そうだな……確か自分の周りの空間を把握する力を手に入れたりアイテムぶくろと同じような効果を持った魔法とかが有名だな。後はテレポーテーションなんてのもあったがごく短距離を移動することしかできない上に詠唱がアホみたいに長いからそっちは昔から使われていなかったみたいだけどな」
空間魔法について説明するジョズはやけに魔法について詳しい。もしかして……
「もしかしてお前、空間魔法に憧れてた頃があった?」
俺が聞くとジョズはうっ、と言葉を詰まらせた。やっぱり図星か。
どうやらこの世界にも中二病みたいのがあるんだろうか。結構殺伐とした雰囲気を持っていた異世界に親近感がわいた気がする。
「まあ俺はそう言うのも悪くないと思うぞ?」
「ほっとけ!」
俺がニヤニヤしながらジョズに言ってやるとジョズは顔を赤くしながら叫ぶ。別に俺は邪神だ! みたいな意味の分からん事を口走るよりはいいと思うよ? うん。
え、俺の中二病時代? べ、別にどうってことはないよ?ただちょっと邪神に夢見てたりしてただけだ。決してリアルで痛い発言などはしていない。代わりにパソコンの中にいろいろ書いていたけど……
今もパソコンの中に残っているあのブツは貧乳コレクションと並ぶ二大見られたくないデータである。その辺りもあの変な神が消しておいてくれた事を信じるしかないだろう。
っと、脱線したな。とにかく空間魔法についての情報が得られただけで良しとしよう。
俺は夕食を食べ終わると自分の部屋に戻り早速空間魔法の練習をする。ジョズの話を聞く限り効果が一番しょぼそうなものは空間把握の魔法だろう。
これなら【魔力感知】や『劣化索敵』の応用ですぐに習得できそうな気がする。
「イメージは劣化索敵と同じ感じで……いや、感じ取るのは魔力じゃないから結界のように範囲を指定すればいいのか?……」
『劣化索敵』のイメージが射出した魔力の反射で感じ取るのに対して今考えている魔法は結界のように範囲を指定してその中にある空間の情報を写真のデジタル化のように情報として俺の頭の中に表示させる感じだ。
「全て空間は我が手の中に 『空間把握』」
…………何も起こらない。魔力自体は流れているのだが魔力が霧散して情報が脳内に入ってこない。
「うーん。魔力が霧散するからいけないのか? じゃあ……魔を遮れ『魔力遮断』」
この部屋の中に結界が貼られる。文字通り魔力を遮断する結界なのだが魔力を遮断することはできても魔力が魔法として発現してしまうと防げなくなってしまう。何とも使い勝手の悪い魔法なのでキメラ戦の時にも使うことはなかった。
「これで……全て空間は我が手の中に 『空間把握』――っ!?」
俺は急な頭痛に襲われ思わず魔法を切断する。【魔力感知】の比ではない量の情報が一気に流れ込んできて処理しきれなかったのだ。
俺は【並列思考】を使ってもう一度魔法を発動させる。今度は問題なく魔法を発動できた。
「おおっ……これは凄いな」
周りの情報が手に取るように分かる。目をつぶって視覚情報を遮断してみるが頭から360度が見えるのは当然。さらに魔法の範囲内であればベッドの下まで分かる。光は関係ないので真っ暗な所にも何があるのか分かる。尤もこちらの効果は【夜目】を使えば解決できてしまえるので問題はないのだが。
「……問題があるとすれば白黒なのとブレる事くらいか?」
そう、この魔法は光で認識するわけではないので色がつかない。更に体を早く動かしたりするとそこがブレるので戦闘の補助に使おうとするとラグが起きたりして使いづらい事になりそうだ。
「なら今度は……全ての空間は我が手の中に あらゆる理を知れ 『領域』」
俺は即興でイメージをすると【高速思考】も同時に発動させ魔法を唱える。
すると今度はあら不思議。先程までと同じような情報の波が処理されていくが今度は色が分かるし早く動いてもブレない。完璧といっていいほどの仕上がりになった。
今俺がやったのは【高速思考】による情報処理の加速と従来の『空間把握』が得る情報量の増加だ。
情報処理の加速はそのままだが情報量の増加、こちらは「この物質は何色の光を反射するのか」を解析することによって思考の中に疑似的に色が分かるような処理を施しているのだ。
これを使うことで同様に音。更には不可視の赤外線や紫外線も把握する事が出来る。びっくりするほど高機能な魔法だ。
だがこの魔法を使うと【並列思考】と【高速思考】を限界まで引き出さなければいけないのでかなり疲れる。これはもしもやばくなった時の切り札にでもしておこう。
「それにしても疲れた……眠い」
久しぶりに頭を使ったからか物凄く眠い。他の空間魔法も試してみたいがとっとと寝よう。
**********
“【←%&$!】による精神への干渉が進行します”
**********




