崩壊とテンプレ
とまあ意気込んでみたものの別に何か特別な事をするわけではない。ちょっと今の力をしっかりと把握したいだけだ。
例えばセレナさんとの戦闘。あのときはお互いに加減をしていたからほとんど力を出さずに済んだ。
しかしこれが本気の勝負だったらどうなっていただろうか?
本気で戦うことになったらあまり油断してると殺される可能性もある。しかし今まで通りの力の出し方でやったらつい殺しちゃいました。なんて本当に笑えない。せっかくなのでこの機会に自身の力を把握しておこうと思う。
「じゃあまずは……拒絶せよ『拒絶結界』」
万が一に備えて土地の形に沿って立方体の結界を張っておく。これで予想外の事故があってもたいていの物は弾く事が出来る。
「一応こっちも……音を閉ざせ『防音結界』っと」
これで近所迷惑を考えずに破壊活動ができる。
まずはスキルを全て切った状態で柱に向かって全力で殴る。さすがにスキルが無かったらそこまでの被害にはならないだろう。
俺は拳を全力で振り抜いた。
……結論から言おう。
穴が開いた。
柱に穴が開いたとかじゃない。家に穴が開いた。
え? 何これ? ソニックブームって奴なの? とんでもない威力なんだけど?
その数瞬後、いきなり大きな音を立てて家が上から崩れ落ちてくる。驚いたが無魔法の『衝撃波』で瓦礫を吹き飛ばして対処する。
「……あーあ、やっちまった」
多分方角的に考えると結界が無かったら依頼主のおっさんの家も吹き飛んでただろう。これは本格的に手加減を覚える必要があるかもな。
その後俺は一度結界から出て火魔法で家の残骸も消し炭にしておいた。家の「解体」では無いので消し炭になっても問題はないだろう。
俺は依頼主の下へ任務完了の報告に行く。
俺が依頼主のおっさんを呼ぶとおっさんは口をあんぐりと開けて先程まで家があったところを見つめていた。
「え? 確か1時間前まであそこに家が建ってたんだよな?」
当たり前だろこのおっさん。ボケでも始まったのか?
「ええ、ついでなので整地のサービスもしておきました」
簡単に言うがなんだかんだ言ってこっちの方が時間がかかった。
地中に刺さったままの家の柱などを土魔法で排除する作業が慣れるまで大変だったのだ。
最終的には土を水のように操って行く事によって解決したのだが。
「整地ってお前……そんな簡単にやるもんじゃねえよ……」
「それよりも、こちらのサインをお願いできますか?」
おっさんがどこか夢をみているような感じだが無視してサインを要求する。ついついやっちゃったけどあんまり聞かれても面倒だからな。
俺はおっさんからサインをもらうとギルドに戻る。思ったより早く終わったな。
ギルドに戻るとまだジョズの姿は見えない。もうとっくに終わったという可能性もあるがおそらくまだ終わってないのだろう。
俺が受付の方を見ると最初に受理してくれた職員のお姉さんが完了報告のカウンターに移動していたのでそちらに並ぶ。
「すいませーん。依頼完了してきたんですけど」
俺がカウンターにサインの入った紙を置きながら話しかける。
「少々お待ちください……ってこれ、あなたがさっき受けたやつじゃないですか!? まだ1時間しか経ってませんよ!?」
職員さんが依頼内容を見た直後に俺の方を見て驚く。やっぱり普通は1時間では終わらないのだろう。木造とはいえ三階建てだったし。3人推奨の依頼というのだからやはり驚くのだろう。
「コホン……失礼しました。ではこちらを受理させていただきます。ではこちらの魔道具にギルドカードを触れていただけますか?」
職員さんは四角い魔道具に紙を挟むとこちらに出してくる。改札のICカードの読み取り部のような所に当てればいいのだろう。
俺がギルドカードで魔道具にタッチするとギルドカードが淡く発光してすぐに収まる。それと同時に魔道具に挟まっていた紙が急に燃えて灰になった。これで依頼完了なのか?
「はい、完了です。ギルドポイント200と、こちらが報酬の大銀貨1枚と銀貨7枚です」
ギルドポイント? 名前から察するに昇格までに必要なポイントだろうか? この辺の説明はされていなかったな。
俺は銀貨を受け取ると受付から離れる。
ついでに金の方もある程度の事が分かってきた。せっかくなので説明しておこう。一体誰に説明するんだよとか言わない事、説明は説明だ。
この世界の金の単位はギルというらしい。が、教育水準的な問題なのか基本的に銀貨何枚、と言った呼び方がされているので普段の生活では滅多に出てこない。
1ギルが石貨1枚
10ギルで銅貨1枚
100ギルで大銅貨1枚
1000ギルで銀貨1枚
1万ギルで大銀貨1枚
10万ギルで金貨1枚
100万ギルで大金貨1枚。ここまでは10進数だ。
さらにその上には1ケタ飛んで1億ギルの白金貨。
一番高いのは100億ギルの黒金貨だ。
途中まで10枚ごとに上がるのは教養のない庶民でも手を使えばすぐに計算ができるように。もっと大きくなるとどうせ教養のない庶民は見る事も出来ない金なので簡単にする必要はないという考えがあるかららしい。
レートは1ギル=4~6円ほどだ。ただし大陸が広いからか土地代は端の方に近くなるだけでかなり安くなる。先程のレートで計算すれば広さあたりの料金は元の世界の月面の値段の20倍くらいだろう……例えが悪いな。
ちなみにこれは都市ジェークルとその近隣の国家における共通貨幣だ。ここからノスティア王国がどのくらい離れているのかは知らないが向こうではまた別の単位が使われている可能性が高い。
俺はジョズを待ちながらギルドのベンチに腰掛け本を読んでいる。空間魔法について知りたいが全く文献が無いのは廃れているからか、それともマイナーな魔法なのか。もしかして効果が強すぎて禁術扱いになってたりするのだろうか。
俺がそんな事を思っていると不意に声をかけられた。
「お? また随分と弱そうな奴がいるじゃねえか」
その声に反応して咄嗟に顔を上げるとそこにはいかつい顔をしたおっさんが俺を見下ろしていた。
その瞬間、俺の頭の中は一つに染まった。
テンプレキターーーーーーー!
ちなみに月の権利書は1エーカー(1200坪)で2700円。つまりこの世界では60坪で2700円。これ大体東京ドームのグラウンドを15万円(大銀貨4枚)しないくらいで買うことができる驚きの安さです。




