お人よしと門番
それから三人の死体を火魔法で燃やして土魔法で埋めれば完璧だ。人間の場合は死体が残るのだが、しっかりと焼却したし魔法で地下20mまで掘って埋めた。掘った痕跡も完全に消えたのでよっぽどの事が無い限り見つからないだろう。
俺が処分を終えてジョズの所へ戻るとジョズは馬車の中から透明な板を持って出てきた。
「やった! 俺のギルドカードがあった! これでなんの問題もなく町へ入れるぞ!」
その板をみるとジョズの名前と「D」と書かれていた。おそらくあれがギルドカードなのだろう。
「じゃあ町に行くか。この道をたどって行けば着くだろうし問題はないはずだ。お前馬車運転できる?」
「ああ、問題ない。でもこれで行くのか? 確かにあいつ等は違法商人だがさすがに殺して奪い取った物って言ったら面倒な事になるぞ?」
「うーん、そうだな。じゃあつかまって売り飛ばされそうになったところを命からがら逃げ出したってことにしておけばいいんじゃないか? そうすればなんとかなるだろ」
俺達は簡単に決めるとすぐに出発をする。馬の方も主人が変わってもなんとも思っていないのかそのまま出発する事が出来た。
ガタガタと揺れる馬車の中、ケツが痛い。クッションもあるんだがあのデブが使っていたせいか変なにおいがするので死体と一緒に燃やした。
とにかくこのがたがたをなんとかしたいが今の俺に出来ることなんてなかった。
仕方が無いので御者台にでてジョズのおしゃべりでもしようか。
「よう、調子はどうだい?」
「ああ、ここまでくれば俺でも道は分かる。問題ないぞ」
俺がジョズに聞くとすぐに答えが返ってくる。どうやらここのあたりは冒険者時代に時々依頼できた事のある道らしい。
「それにしてもあんた、相当なお人よしだよな」
「え?」
ジョズに言われて俺は思わず聞き返す。俺はお人よしなんて言われた事は滅多にない。変態とかキモイとかシスコンとかなら言われたことあるけど。主に妹とかに。
「いやいや、どう考えてもお人よしだろうが。俺が嘘ついてたらどうするつもりだよ? 普通だったら俺の言い分だけを聞いて殺人まではしないぞ?」
「んー、まあ大丈夫だろ。最初にあった時から演技には全く見えなかったし、実際弱いし」
「うっ……まあ仮に俺が弱かったとして嘘がうまかったとしたらどうするつもりだったんだよ。商人の一行を殺したんだぜ? へたすりゃあんただって町に入れなくなってたところだ」
「……まあそん時は遠くの国に逃げるなりなんなりするし、ぶっちゃけだまされたとしてもお前くらいなら返り討ちにする自信あるし」
口ではそう言うが実際は自分の迂闊さを怨んでいる。確かにこいつが俺も見抜けないような嘘をついていたら犯罪の片棒を担がされることになっていた。
それにこいつが相手だったら確かに返り討ちには出来るだろうがこれが大商人だったら? 国だったら?
下手すれば俺が身ぐるみはがれていたかもしれないな。どうも人にあっていないせいか人を疑うという事を脳が忘れているようにも見える。
王城にいた頃の俺だったら王女とか王様とかの言葉を疑いまくってたからな。その反動で人を疑う事が出来なくなってるなんてことが無ければいいのだが……
そんな俺の心中を察したのかジョズが溜息をつく。
「まったく、あんたが俺にあってなかったら今頃あの商人に身ぐるみはがれてたぞ……」
「その言葉が出てくる時点であんたも十分なお人よしだよ」
俺は軽口をたたきながら心の中で誓う。
「人の事を簡単に信じない」
今のはこいつがお人よしだったから良かったものの王女みたいなのが出てきたら本当に騙されていたかもしれない。
「あの頃みたいに人を疑ってかかって……」
「うん? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない」
取りあえずは胸に刻みつけておいた。以前の感覚さえ取り戻せばそう簡単には騙されないはずだ。
……大丈夫だよね?
それからしばらくすると【遠見】でやっと捉えられるくらいの距離に城壁と思わしきものがある。おそらくあれが目的の場所なのだろう。
「なあ、見えてきたけどあれでいいのか?」
俺が前を向いたままジョズに尋ねる。
「はぁ? 一体どんな目してるんだよ……でもまあ距離からして俺たちの目指してる所だろうな、そこが都市ジェークル。この辺りで最大の都市だ」
「へぇー」
【遠見】を使って城壁をよく観察すると石を積み上げた上に複雑な魔法陣が張り巡らされているのが魔力の流れで分かる。おそらく魔法がそれなりに発達してそれが代々受け継がれていくくらいの歴史はあるのだろう。
「所であんた、身分証は持っているのか?」
「え?」
もちろん、持っているわけがない。
俺がそう言うとジョズは困ったような表情をしていう。
「じゃあ補償金を渡す必要があるな。これって商人の金の中から取ってきていいのかな?……」
どうやら身分証なしで入るにはお金がかかるらしい。思わず奪ってきちゃったなんて金が使えるかどうかは確かに不安だな……
「じゃあ俺が金だけ持ってお前とは別に入って行くから町の中で合流するというのはどうだ?」
「なるほどな、じゃあ俺は行商に交じって行くからあんたは向こうの入り口で済ませてくれ」
俺の提案にすぐに了承するジョズ。これで俺が金を全部奪って持っていったらどうするつもりだろうか。やっぱりこいつはお人よしだな、誰かさんと一緒だ。
俺はジョズから入場料を聞くと怪しまれないように少しの食料と金貨・銀貨を2枚ずつ、銅貨を5枚もらって馬車を降りた。時間が無かったので貨幣の価値は聞けなかったが後で知っておかなければならないだろう。
俺は馬車が並ぶ所とは違う列に着く。馬車の列より流れが速いようで順番はすぐにやってきた。
人の良さそうなおっちゃんが身分証を確認していた。
俺の番になるとおっちゃんに身分証を見せろと言われる。
「あの、田舎から出てきたばっかりで身分証を持っていないんですけど……」
日本人の固有スキルを発動させつつ低い物腰で答える。
「そうなのか。ここから近い村だとクシナ村か?」
おっちゃんが問いかけてくる。クシナ村ってどこだよ。一瞬肯定しようとしたがなんとなく否定した方がいい気がした。
「いえ、そのクシナ村がどこにあるのかは知りませんがもっと遠くだと思われる村から来ました」
俺が答えるとおっちゃんは笑みを浮かべる。
「そうか。なるほど、どうやら本当らしいな」
おっちゃんが本当だと言うのでなぜかと聞くと実はクシナ村なんて存在しないらしい。一応鎌を掛けてみてそれで肯定するような奴は嘘をついている、という判断基準だそうだ。
「悪かったな、試すような真似して。身分証が無ければ補償金として大銀貨1枚、さらに入場料として銅貨1枚もらうがいいか?」
大銀貨? 金貨と銀貨の間の価値の硬貨だろうか。俺は持っていなかったので金貨と銅貨を1枚ずつ出す。
「ほい、確かに受け取った。こっちはお釣りの大銀貨9枚と仮身分証だ。ちゃんとした身分証を発行するときにそれを出せば大銀貨を返してもらえる」
おっちゃんから大銀貨と仮身分証を受け取るとおっちゃんは道を開けてくれた。
「ようこそ、都市ジェークルへ!」
これでやっと町へ来た……やったねせいいち!ハーレム築き放題だよ! 作者がさせないけど。




