熊と森
お待たせしました。次の章に移ったからといって何があるわけでもないんですけどねっ!
夕焼け空、下には雲。こういうのを雲海というのだろう。
俺は飛行機に乗った事は北海道に行くために一度乗った以外は無い。それも通路側の席だったのでほとんど景色が見えなかった。
つまり実質初めてみる事になるこの光景。とても神秘的で思わず嘆息してしまう。
――普通だったら。
「……何で落ちてんの?」
はい、転移したら上空8,000m近い所にいました。
「ふざけんなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺が叫ぶと同時に一気に加速していき雲に突っ込む。体は濡れるし息は詰まるし散々である。
「っ!!! ぷはっ!」
雲から抜けるとたまらず息を吸う。なんか服も濡れたし、踏んだり蹴ったりである。
下を見るとそこには海があった。そう、海である。
いや、視界の隅に見えるのは大陸だろうか。でもここからどう考えても普通に落ちて行ったら海にドボンだ。
「くっ……『空衝』」
風魔法で自分を吹きとばし海岸に近付く。とはいってもそれで地面に激突しては笑えないので威力を調整して泳いで行けばすぐにたどり着けるくらいの距離に向かって自分を飛ばす。
着水する寸前にもう一度魔法を使い減速をする。そしてもう一つ魔法を使った。
「『空衝』、我魔力を以て地面と為せ『空中歩行』」
減速をさせたまま足を下に向けて魔法を発動させると空中を踏みしめる。そのまま【跳躍】の力を受けて海岸まで一気にジャンプした。
見事に砂浜に着地する。その時に足にめちゃくちゃ重量がかかったが自動で【金剛化】が発動してくれたお陰で何ともない。さすがレベル9のスキルだ。そんな【金剛化】さえも破ってくるキメラの爪って実はめちゃくちゃに強かったんだな。
しっかりとポーズまで決めて1秒ほどとまった後辺りを見回す。同時に【索敵】を発動させたところによると一匹の魔物が近づいている事に気付いた。
俺はそちらの方に向くと木刀を構える。10秒ほど待つと砂浜の奥の森から一匹のクマが出てきた。
[ブラッディーベアー Lv65
HP 600/600
MP 10/10
◆スキル
[夜目lv1]
[咆哮 lv2]
]
ダンジョンの外としてはなかなかの強さだろう。だがそれでもダンジョンで落ちてから最初に出会ったオークよりも弱い。
俺は木刀を腰に戻すと懐からオーガソードを取り出して距離を詰める。
レベルアップしたおかげでステータスが一気に上昇したせいかいきなり予想以上の速度が出て無理やり停止させる。要練習だな。
俺はそのまま短剣で一気に首を刎ねると返り血がつかないように後ろへ下がった。
ブラッディーベアーは首から血を噴き出すとすぐに光の粒子となっていき、ドロップ品を残すと消え去って行った。
「ふう……それより、人はいないのか?」
俺は森に向けて再度【索敵】を発動させる。しかし引っかかるのは魔物ばかり。どうせ後ろは海岸だし森の方角へ進むしかないだろう。
「っと、その前に自分のステータスを確認しとかないとな。タナトスの奴にもらった加護ってのも知りたいし」
えい、【鑑定】!
[
【名前】 セイイチ・キサラギ 17歳
【性別】男
【種族】人族
【レベル】36 (29↑)
【生命力】4300 (3000↑)
【魔力】 6800 (5000↑)
【筋力】 5000 (3200↑)
【防御】4900 (2900↑)
【持久力】4200 (2800↑)
【敏捷】 3900 (2700↑)
【魔攻撃】6800 (5050↑)
【魔防御】6000 (4500↑)
【運】300
◆スキル
※鑑定系スキル
[鑑定 lv10](MAX!)
[看破 lv7](1↑)
※隠蔽系スキル
[偽装 lv7]
[隠密 lv5](1↑)
※戦闘系スキル
[剣術 lv9](1↑)
[短剣術 lv9](1↑)
[見切り lv3](NEW!)
[剛腕 lv9](1↑)
[豪脚 lv8](1↑)
[跳躍 lv6](2↑)
[威圧 lv8](1↑)
[咆哮 lv4]
[溶解液 lv6]
[金剛化 lv9](NEW!)
※魔法スキル
[魔力支配 lv1](NEW!)
[空間魔法 lv1](NEW!)
[土魔法 lv9](1↑)
[無魔法 lv9](1↑)
[風魔法 lv9](2↑)
[火魔法 lv9](2↑)
[光魔法 lv8](2↑)
[闇魔法 lv8](2↑)
[結界魔法 lv6](3↑)
[回復魔法 lv9](1↑)
[魔法陣魔法 lv1](NEW!)
※索敵系スキル
[夜目 lv7]
[遠見 lv8](2↑)
[索敵 lv8]
※生産系スキル
[魔石加工 lv7]
[料理 lv6](2↑)
[裁縫 lv3]
[錬金 lv4](2↑)
※その他
[使役 lv6]
[思考分割 lv6]
[並列思考 lv7](NEW!)
[高速思考 lv5](NEW!)
◆エクストラスキル
[強欲の芽レベル2]
[水精魔法](NEW!)
[最適化 lv1](NEW!)
◆固有スキル
[精神誘導 lv8](NEW!)
[異種族間交尾]
[再生 lv8](2↑)
[火炎耐性 lv5](2↑)
[岩石化](NEW!)
◆称号
[ダンジョンの踏破者](NEW!)
[異世界を渡りし者]
[前人未踏]
[強くてニューゲーム]
[下剋上]
◆加護
[魔神の加護](NEW!)
]
[魔力支配]【魔力感知】と【魔力操作】の二つのスキルを所持し、且つどちらかのスキルレベルが10に達している場合に習得可能。
【魔力感知】と【魔力操作】それぞれスキルレベル10相当のスキルが行使可能。また、空気中に漂っている魔力を体内に吸収する事が出来る。吸収速度はスキルレベルに依存
[並列思考] 発動させると並列的な思考が可能になる。
[空間魔法] 空間を総べる魔法。
[魔法陣魔法] 魔法陣から魔法を使う事が出来るようになる。威力は魔法のスキルレベルに依存
[水精魔法] 【水魔法】のスキルレベルが10になると取得。
水魔法レベル10と同じ働きをする。
[最適化] 自身のスキルを最適化させる。
[ダンジョンの踏破者] ダンジョンを一人で踏破したものに贈られる称号。
所有者が踏破した迷宮の階層数以下のダンジョン内で生命力、魔力、運以外のステータス1.5倍
[魔神の加護] 魔神から贈られる加護。
取得時に魔力、魔攻撃、魔防御のステータスに1000プラスされ、魔法スキルのスキルレベルが全て1ずつ上昇する。また、レベルアップ時の魔力、魔攻撃、魔防御のステータス上昇値に補正。
また、【思考詠唱】スキルが獲得可能になる。
「おぉ……」
間の抜けた声しか出ない。それもそのはず、いつの間にかチートの権化になっていたのだ。
尤も、この世界平均的なステータスを知らないので何とも言えないがあのキメラを倒せている時点でその辺の人よりは強い自信がある。
しかもこの魔神の加護、相当なチートである。やっぱりあいつ本当に凄かったんだな……この【思考詠唱】ってのはなんだ? しかも獲得可能になるってだけで獲得はしてない訳か。レアスキルか?
まあ気になる所はいろいろあるがこの一番気になるスキル【最適化】から確認しておこう。これはどういう意味だ?
ためしにスキルを使ってみる。するといつものレベルアップ時のアナウンスのようなものが脳内に響く。
“【最適化】が選択されました。スキルの最適化を行いますか?”
スキルの最適化? どういうことだ?スキルをよりよいものにしていくということだろうか。
俺は取りあえずYESと念じる。
“承認を受けました。これよりスキルの最適化を行います。【思考分割 lv6】を【並列思考 lv7】と統合し、【並列思考 lv8】に最適化しますか?”
すると返事が返ってくる。どうやら【最適化】とはスキルの統合を行うスキルと認識していいだろう。
まずは【並列思考】と【思考分割】。【並列思考】は【思考分割】の完全上位互換でこちらを手に入れると【思考分割】はいらない子になる。統合に使ってしまっても問題ないだろう。
俺は再びYESと念じる。
“承認されました。【思考分割 lv6】と【並列思考 lv7】に統合します。……成功しました。【並列思考 lv8】を獲得しました。”
よし、森を抜ける前にこれだけはやっておこう。
十分後、俺は【威圧 lv8】と【咆哮 lv4】を統合し【覇気 lv3】へ、さらに【溶解液】を人間規格に作りかえた。
作りかえた、といっても今までの【溶解液】はゲ○のように口から吹き出しことしかできなかったのを魔法と同じように空中に生成できるように改良したのだ……【最適化】が。俺では無い。
一通り確認を終えるとようやく森へ向かいだした。
森に入ってしばらくまっすぐ進む。普通森のような所では同じ場所をグルグル回ってしまう事があると言うが【索敵】と【魔力支配】、そして『劣化索敵』まで付いている俺には当てはまらない。
ちなみに【空間魔法】を使って王国に戻ろうかとも思ったが不可能だった。
それはレベルが低いのか、魔力が足りないのか、魔法に対する理解が足りないのかは知らないがとにかく地道に歩くしかないという結論を出した。
時々襲い掛かってくる魔物を一撃で倒しつつ進んでいく。
そして森に入ってから1時間ほど歩いた所で【索敵】の端に森の終わりが見えた。今の【索敵】の範囲は半径10kmなのでここから10km離れたとこりにあるということになる。
「うげぇ……どんだけひろいだよこの森」
そしてさらに1時間ほど少し急いで歩くとやっと森を出る事が出来た。辺りは見渡す限りの草原。遠くに見えるのはシマウマのようなかっこをした草食動物がいる。
さらに奥にいくとそれなりに整備してる道が見つかった。どうやら人がいる事が分かったひとまず安心する俺。
もう一度【索敵】を使う。今度は人間らしき反応を見つけた。どうやら隠れているような仕草をしているのが分かる。
俺はその人間と接触する為にそちらに向けて歩きだした。




