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閑話 従魔と純愛

閑話をもう一話投下してみたり。今週中には次章に突入します。

 それからさらにひと月が経った頃。スライムは草原を過ぎて山の麓にいた。


 ここはノスティア王国から歩いて2日程の場所に位置するケルボア火山。山の中に生息する魔物は火に耐性を持つ魔物か水魔法を主に使う魔物がほとんどだ。


 それは山の中の話だが麓にもオークやオーガをはじめとした凶悪な魔物がすみついている。


 もちろんスライムだって馬鹿では無い。ここにオーガクラスの魔物がいる事くらい分かっている。


 尤も、彼の力を以てすればオーガが相手でも負ける事はないだろうがそんな戦いをするために火山に来たわけではなかった。

 彼は何かを探すかのような仕草をして麓の岩場を移動する。


 しばらくすると目的の物を見つけたのか喜ぶように体をフルフルと震わせた。


 そこにいるのは一匹のスライム。だが彼とは違い体は緑色ではなく赤く透き通るような綺麗な色をしていた。


 この魔物の名前はレッドスライム。スライムの亜種で火耐性を持ち、ごく稀に火魔法を使う個体もいるが火山の周辺では一般的な魔物だ。


 スライムを見つけたレッドスライムは逃げるように岩の陰に潜り込んでどこかへ行こうとするが誠一の下で鍛え、さらには主人を探すために日々の鍛錬を怠らなかったスライムからすればとても遅い。


 彼は何でもないように岩の陰にもぐりこみレッドスライムを追いかけて行く。


 それから3分ほど、レッドスライムは岩の陰から陰へと逃げ回ると一つの岩の陰に行く。


 その岩の下の地面にはスライム一匹分が通れるほどの穴があいている。逃げていたレッドスライムはすぐさまその穴に飛び込んだ。


 もちろん誠一のスライムもそれに続いて穴に入る。


 スライムが穴を抜けると異様な光景が広がっていた。


 そこには人間が20人ほどは入るであろう空洞にぎっしりと詰められたレッドスライム。その中でひと際大きい個体は群れのボスだろうか。


 レッドスライムの群れは壁、床、天井などを伝って一匹のスライムに襲い掛かる。


 しかしそれを狙っていたかのように彼は体をくねらせた。


 それと同時に襲い掛かるレッドスライム達。傍から見るとレッドスライムが大きなボールを作っているようにも見える。


 それを見ていた群れのボスは勝利を確信して喜びを表しているのかスライムの表面が波打つ。


 が、途中から異変に気付いたのか、ボスはレッドスライムのボールに注目する。


 よく見ると少しずつボールが小さくなっている。最初は気のせいかと思ったボスも明らかに小さくなっている事やボールの外側にいるレッドスライム達が何やら混乱している事に気付いてボールに近づく。


 そうしている間にもレッドスライムのボールはどんどん小さくなっていきやがて一匹のスライムを同じ大きさになる。


 すると出てきたのは緑のスライム。つまり誠一のスライムであった。


“固有スキル【スライムイーター】を獲得しました”

“スキル【火魔法】を獲得しました”


 その直後に彼のスライムの脳内にアナウンスが響く。それを聞き流すと呆然としているレッドスライムのボスに向かって突進した。


 突進されたボスはそのまま転がって行き絶命した。元々は雑魚のスライムは亜種になってもその弱さは健在のようであっさりと死んでしまった。


 彼はそれを見届けると先程までボスの座っていた地面の出っ張っている部分に座ると体全体で満腹感(・・・)を表した。


 そう、彼は大量のレッドスライムを捕食したのだった。


 スライムが生物として持つ特性の消化能力。スライムはその弱さ故に狩りをする事が出来ない。なのであらゆる環境に適応するため草、虫、葉などの物を何でも食べる事が出来るように進化していった。


 その結果スライムはゴキブリ並みの雑食性を手に入れ今日まで絶滅せずに生きる事が出来たのだ。


 そして彼はその消化能力を攻撃に転じるという本来ならば考えられもしないような技を自力で編み出したのだ。


 厳しい鍛錬の末、同族を食らい、オークの顔面を焼くほどの消化液を分泌する事が出来るようになった彼に対して有象無象のスライムが消化し合って勝てる道理が無かった。


 そして彼の習得した固有スキル、【スライムイーター】。このスキルは捕食したスライムの属性を吸収する事が出来ると言った内容のスキルだった。


 先程までに襲い掛かってきたレッドスライム達は【火魔法】を持っていなかったがレッドスライムには確実に火属性に適性がある。


 それはとてもスキルとして発現しないようなレベルのごく微量な適性だったが【スライムイーター】はその適性を吸収していった。


 塵も積もれば山となるとは良く言ったもので100近いレッドスライムを捕食した彼は適性が規定の値を超えたためスキルとして【火魔法】を手に入れる事が出来たのだ。


 彼はその結果が当然とでも言うように堂々とボスの場所を陣取っている。


 彼が満腹感からかウトウトとしてきて今日はここで寝ようかと考えたその時だった。



 突然彼の体が痙攣したかのようにびくりと跳ねる。


 突然の事に何事かと思うスライムだがその原因が分かった瞬間。彼の体は喜びを全身で表わしているかのように動き出す。


 ――今までほとんど感じ取れなかった主人とのつながりが再び認識できるようになったのだ。


 その意味する所は一つ。自分の主人がダンジョンから出てきたという事。


 スライムは歓喜するがすぐに主人との繋がりに意識を向ける。


 そこで彼は途切れる前と比べて格段につながりが弱い事に気付いた。

 だが彼が取り乱す事はなく原因を考える。


(シュジン……キョリ……トオイ?)


 同じ空間上にいないときの特有の感覚が無いことから彼は主人から距離が離れているせいだと推測した。それもここからノスティア王国程度の距離じゃない。その何百倍もの距離が離れている事にも気がついていた。


 彼は一刻も早く自身の敬愛する主人の下へ行こうと決意した。



(zzz……)


 が、その前に彼は睡眠を選んだようだ。



――鈴SIDE――



 ダンジョンで事件が起きた日から大体一か月と半分くらいが経った。私達の訓練も再開され暫く塞ぎこんでいた結衣も部屋から出てきて訓練をしてくれるようになった。


 こちら(異世界)に来てから……いや、来る前からこの子の保護者をやってきた私からするとかなりうれしい出来事だ。25歳のニートな息子が仕事を見つけて働くようになってくれた時のような嬉しさがあった。いや、これはさすがに例えがひどすぎるわね。


 それはさておき今はダンさんの指導で剣術……今は剣術というより接近戦について教えてもらっている。


「いいか! この『身体強化』を完全に使いこなす事は前衛にとって最低限のスキルだ! これができないと力の強い魔物と相手をするときにどうしても限界が来る。後衛もある程度は使えるようにしておけば万が一相手に接近されたときに身を守る事が出来るから覚えておくように」


 ダンさんが教えるのは『身体強化』のコントロールね。『身体強化』自体はセリスさんから習っているけどそれをコントロールして動き回るのはダンさんの担当らしい。絶対自分が苦手だって言いたくないだけだと私は思っている。


「ううー。鈴ちゃん、これ難しいよー」


 隣で私に泣き付いてくる結衣。何でもこの魔法は苦手らしくて何度も失敗している。


「ほら、コツさえつかめば簡単よ。基本的になんにでもセンスあるあなたならすぐ覚えられるわ」


 私が手伝ってやりながら結衣が魔力を練り始める。


「我が身を覆う魔力よ 我が身体を導け 『身体強化』……お、いい感じに――あれ?」


 途中まで出来ていたのに急に結衣が集中力を切らしたようにして間の抜けた声を上げた。


「何? どうしたの?」


 私が聞いても反応を示さずに何やらブツブツと言いながら頷いている。


「んー、これって……もしかして……あぁ、そうか!」

「さっきから一体どうしたのよ」


 何やら納得した様子の結衣にもう一度問いかける。


「あのね? 誠一君はやっぱり生きてたんだよ!」

「……はぁ?」


 いきなりわけのわからない事を言いだす結衣。一体何を言っているのかしら。


「だからね、誠一君はまだ生きてる。そしてこの世界のどこかにいる。私にはなんとなくだけどそれが分かったの! だからきっと生きてるんだよ! 誠一くんの事だから私達の所へ合流しに来てくれるはずだよ!」


 突然嬉しそうに話しだす結衣。でもその目を見ても現実逃避しているようには見えない。本当に如月くんが生きているという確信があるんだろう。


「……そう、あなたがそう思うならきっと生きているんでしょうね。結衣の彼に関する勘は外れた事が無いもの」


 私もつい結衣の言葉にうなずいてしまった。彼に関しての勘は本当に外れた事が無い。結衣がトイレにいると言えば本当にトイレに行ってたしある日彼が休んだ時には休んだ原因まで言い当てていたものだ。


 そんな結衣が言うのだからきっと生きているのだろう。私は結衣を信じる。


「ほら、彼に会った時のために特訓よ! 『身体強化』も使えないようじゃ彼に愛想を尽かされて逃げられちゃうでしょ!」

「えぇ~!?」


 なんとなく、私にも彼が生きているのが感じられるような気がした……と思う。


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