文字化けと魔神
今回短いです。が、もう一話あります。
俺が木刀を取ってきて階段の所に戻るとやはり階段はそこにあった。
これ一体どうなってんだ?完全に空間から生えて来てるぞ……しかも階段の中に入るとちゃんとどこか違う所に行くし……
今までもあり得ないような所から階段が生えてきたが、今回のように空中に現れるなんてことは無かったのだ。
尤も、冷静に考えるとそのどちらも大した違いではないのだが。
おそらくどちらも空間を捻じ曲げて作っているのだろう。一応ずっとある階段は見た目を気にしていたが、今回は違うのだろうか。こんなアホみたいに戦わせて次は何をさせようというのか。
ここまで来るとなれたもので木刀を構えて警戒しながらも何のためらいもなく階段を上っていく。今までの経験則からボス部屋でもフィールドでも入ってきた瞬間即死しないような仕様になっているのだ、多分。
「これで間違ってたら死ぬじゃん……」
それでも普通に昇っていくあたり俺も成長? したんだなと感じる。主に嫌な方向にだが。
俺が階段を上りきると予想外の光景が広がっていた。
フィールドでは無い。もちろんボス部屋でも無い。例えるなら……貴族の部屋、かな?
椅子やテーブル、さらにティーセットがテーブルクロスの上に乗っている。壁にかかっている鏡はこの世界の物よりずっと綺麗で、日本の鏡と同じくらいつるつるしている。
部屋も決して豪華絢爛というよりは質素なものだが、その一つ一つがとてつもなく価値のある物なのがうかがえる。
ためしに一つ【鑑定】してみた。
[机
この世界には存在しない『↑$%&↓』で出来た机。決して壊れる事は無い。
『!#→∞π$』によって創造された]
ん? なんだこれ、文字化けか? こんなのなった事無いがどういう事なんだ?
こういうのはブツが強すぎて【鑑定】出来ないってのが定番だよな……俺のスキルレベルには結構自信があったんだが……
「っと、そうじゃないな。ここは一体どこなんだ?」
俺のつぶやきに答えるようにどこからともなく黒い球体が現れる。
俺は警戒をしようとしたが、何故だか害は無いような気がしたので木刀をだらんと下げたまま球体を見守る。
球体は風船のように膨らんで、大体俺と同じくらいの高さになったかと思うと破裂し中から人型が出てくる。そして割れた球体の破片が集まっていき、その人型の周りに集まって行く。
最初は人形のように大雑把な形をとっていた人型が見る見るうちに鮮明になっていき最終的には青年の姿を取った。
[『!#→∞π$』
ステータス:強い
]
“【鑑定】に失敗しました”
俺はすぐに鑑定を発動しようとするが頭を殴られたような感覚と共に聞こえてくるアナウンス。
【鑑定】が失敗? そんなこと今まで一番なかったがどういうことだ?
それよりも鑑定結果のステータス:強いってなんだよ。アバウトすぎるだろ。
でも今の一瞬で理解した事がある。
――こいつは強い。それはもうあり得ないくらいに。
それこそゴーレムが何体束になってもやる気になれば鼻息一つで消し飛ばせるくらいに。
こいつが本気出したら世界があっさりと消し飛んでしまうのではないかと思わされるような強さだ。
「全く、いきなり初対面のレディーのプライバシーを除こうなんて趣味が悪いなぁ。そんな男はモテないよ?」
俺が襲い掛かってくる頭痛に頭を押さえると同時に、何かイケメンな男が話しかけてきた。
え? どこにレディーがいるって? どこ? て言うか見た目がイケメンなのに、ロリ声の女性声優が素で出す声みたいな感じの声を出してるぞこいつ。心底気持ち悪い。
冗談は置いておくとしてこいつ、鑑定を感知してレジストして反撃にまで出たのか? よくわからないが規格外なのは間違いないだろう。もしかしてこいつは――
俺が一つの可能性を思いつくと同時に男が自己紹介をする。
「はじめまして、試練を乗り越えし者よ。私の名前は魔神タナトス。余り外の世界に詳しくないから良くわからないけどもしかしたら『サウロス』と呼ばれているかもしれないね」
大体は俺の予想通りだった。
やはりこいつはサウロスと呼ばれている。そしてほぼ確実に――
――ここ、「サウロスの迷宮」の創設者なのだろう。




