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生肉と墓

 俺が木刀を振りおろすとほぼ同時に、黒い塊がキメラと結界にぶつかった。


 地面を見ると俺が木刀を下ろした所から放射状に地面に巨大な穴があいている。深さはおよそ3mはあるだろう。


 何て言うか……うん。



「……やりすぎた?」


“レベルがアップしました”


俺のつぶやきに答えるのは脳内に響くアナウンス。これがキメラを倒した事を教えてくれる。


 俺のサイクロプスが殺されたせいで完全に切れてしまったが、いささかオーバーキルすぎる気がしないでもない。


 まあ倒せたし問題ないだろう。今この場にいるのは俺だけなのだから俺が問題ないと言えば問題ないのだ!


 落ち着いた俺はキメラが居た所まで歩いて行こうとする。すると何もない所に罅が入っているのが見えた。


 その罅はよく見ると結界に付けられていた。もっと近くで見ようと思ったが見る見るうちに罅はふさがっていき、十秒もしないうちに元通りになった。


「……よし、この技は封印だな」


 レベル500オーバーの魔物が放ったスキルレベル9の火魔法でも傷一つ付かなかった壁に罅を入れるってどんだけだよ……

 何にもない所や洞窟で使ったら、とんでもない事になる未来しか見えない。特に洞窟の中で使ったら生き埋めコースまっしぐらだ。



 気を取り直してキメラのドロップ品を確認する。おなじみの魔石、しかし大きさは段違いで今までの三倍はある。


 そして次に爪と思わしきものと牙、それに蛇革と生肉だ。


 ……ん?


「生肉?……いや、まさかな」


 まさかキメラから肉が採れるわけないだろ。一応神話にも出てくるめちゃくちゃ強い奴なんだぞ? そんな奴の肉が食えるわけないって。


 もう一度見る、するとそこにはやはり生肉。


「そうかわかったぞ! これは生肉の形をしてるけど実は高価な魔道具とかなんだな!」


 なるほど、生肉に擬態する魔道具かー、珍しいんだろうなー。さてさて、イッタイドンナマドウグナンダロウ?


[キメラ(オリジナル)

レベル300以上で、且つ【火魔法】スキルのレベルが8以上のキメラを【料理】スキルを持つ者が止めを刺した場合にのみ、超低確率(0.001%)でドロップする。

 腐る事が無い。また、どんな環境においても有害な菌が付着する事が無い。

 オリジナルの肉を6割以上残しておけば肉を切り分けても一晩で元の大きさに戻る]


 はい、肉でした。いや、でも効果的には魔道具のようにも見えなく……ねーよ。


 て言うか元の大きさに戻る肉ってなんだよ! それは肉って言わない!

 しかもこの肉、見た目と感覚からして5kgはある。つまり毎日2kgずつ肉を食べれば、永遠に肉を食べ続けることが出来るという訳だ。最早悪ふざけの領域だ。



 ……さて、気を取り直して残りの物も【鑑定】しておく

[キメラの魔石 (106)

キメラからやや低確率でドロップする魔石が合成されたもの。

魔力を込めることができるが一定以上の魔力を注ぐと壊れる(0/2500)]


[キメラの爪

キメラからやや低確率でドロップする爪。

摩擦や引っかき傷に強く、モース硬度はダイヤモンドを凌駕する]


[キメラの牙

キメラから高確率でドロップする牙。硬さはアダマンタイトに匹敵するが熱に弱い。

一度溶かしてミスリルと混ぜ合わせると熱にも強くなる]


[キメラの革(蛇)

キメラから高確率でドロップするアイテム。

キメラの革(山羊) と キメラの革(蛇) はどちらか一方しか同時にドロップしない]


 俺はドロップ品を確認するとアイテムポーチにしまおうとして……全部入らない事に気付いた。


 仕方が無いので中に入っていたトレントの木材をほうり投げて生肉だけでも入れておく。いくら汚くならないといってもあんまり地面に落としたものを食べたくないしな。


 俺が立ちあがるとまた魔法陣が輝く。俺は一瞬だけ警戒したが結界が解除されていく様子を見ると、警戒を緩めて辺りを確認する。


 結界の範囲の外は今までの戦闘が嘘のように平和な草原が続いている。俺の技でもあの結界を完全に破る事は出来なかったようで、俺が結界にひびを入れた方向も地面の草が若干焦げているような気がしないでもない、と言った程度だろう。


 俺は被害を確認するとこの先どうするかを考える。すると何も無い空間に亀裂が入った。


 その亀裂はどんどん大きくなっていき穴になる。何かが出てくるのかと思ったが、穴の中には階段が出来上がっていく。


 やがて階段が完成すると亀裂の周りに渦巻いていた魔力が消えてダンジョンの階段と同じような階段が出来上がる。


「これは先に進めってことなのか?……ならその前にやっておくか……」


 俺は階段には入らず、地面に落ちたトレントの木材を拾って別の方向に歩いて行く。


 十分ほど歩くとそこは小さな丘の頂上だった。


 俺は魔法で岩を削り石の台座を作る。今作っているのはそう、――墓だ。


 俺はトレントの木材を地面に置くと、短剣で削って十字架を作っていく。かなり不格好な形になってしまったが構わないだろう。


「こんなもんか……最後に【錬金】」


 大体の形を作り終えると【錬金】スキルを発動させて表面をきれいに加工する。


 そして完成した十字架を墓に刺す。残念ながら自分の家は仏教だった上に、叔母は一度も両親の墓参りに連れて行ってくれなかったのでこういう儀式についての知識はほとんどない。


 それでもとにかく弔ってやらなきゃいけない気がした。死ぬ間際まで俺の事を思っていてくれたのだ。当然ともいえるだろう。


 そして俺はもう一度【錬金】を使って木と石を固定すると再び短剣を取り出す。


「あいつにも名前を付けてやらないとな……」


 と、呟いてみたものの実はもう考えてある。墓を作っている間に思いついた名前だ。


 俺はその名前を墓に刻んでいく。なれない作業なのでお世辞にもきれいな字とは言えないが思いを込めて刻んでいく。


 俺は書き終わるともう一度【錬金】を使いコーティングをする。


「どうせならお供え物でも置いておくか……」


 最後にキメラ肉を少しだけ切り取って焼くと大きめの葉っぱの上に敷いて台座の上に置いた。


 俺の分も焼いて一緒に向かいあって食べる。

こうやって向かい会って食べる事は最後まで無かったな、と思うと不思議な感情が湧きあがってくる。


「…………」


 不意に視界がぼやけ目頭が熱くなる。


「…………ハハッ、柄にもねえな……」


 軽口を叩こうとするが声が震えてしまう。何年ぶりに涙なんて流しただろうか、と思った瞬間、堰を切ったように涙があふれ出してくる。


 思えばこの数カ月のうちにいろいろな事がありすぎた。


 いきなり家族と引き離され異世界に飛ばされたかと思えばボロ小屋に住まされ命の危険に何度も遭い、かと思えば今度はクラスメイト達からも離れてしまい一人でダンジョンをさまよう。


 いろいろあって感傷に浸る暇なんて無かったのかもしれない。それが今サイクロプスが死んだ事を切っ掛けに一気に思い出したのだろう。



 それから十分ほど泣いた。それはもう泣きに泣いた。多分これ誰かが見てたら死んじゃうかもしれない。


 ひとしきり泣いてすっきりした俺は、墓に供えてあった肉を下げる。このまま臭いにつられた魔物に墓を壊されても困るしな。


「じゃあな……ここでお別れだ」


 俺は墓に向かってそういい手を振ると階段があったところに戻り始める。この先がどのくらい続いているのか分からないが多分もう会う事は無いだろう。だからせめて気持ちを伝えようとしたがなかなかうまくいかないものだ。


 攻略できたらもう一度ここによれたらいいな、と思いつつ丘を下りて行った。



**********


 あるダンジョンのある階層。誠一が居なくなった後には木彫りの花と共に、文字が刻まれた墓石があった。


『主人に忠誠を尽くせし者 ――ベリア』


 彼と彼女は長い別れの時を――




「やべ、木刀丘に忘れた」



 過ごす事になる……かもしれない。


次辺り新キャラが出るかも?

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