切り札と仇打ち
二日連続更新……! 久しぶりだ!
俺は大見得を切ると同時にキメラへ踏み込む……などという危険な賭けはせずに【鑑定】を発動させる。
[キメラ lv515
【生命力】24,000/57,000
【魔力】12,000/38,000
◆スキル
[夜目lv8]
[索敵lv7]
[威圧lv8]
[並列思考lv7]
[火魔法lv9]
◆固有スキル
[精神誘導lv8]
]
相手の生命力も半分、魔力も三分の一ほどに減っている。このままいけばなんとか倒せると思う。
俺は今度こそキメラに接近――しようとしたところでキメラが巨大な炎を吐く。
「全てを焼き払え 『火炎放射』」
俺は接近をあきらめ迎撃姿勢を取る。だが俺の魔法では押し切られてしまう事は分かっているのでそのまま回避姿勢を取る。方向は真上。結界を蹴って忍者のように上に進む。
先程のレベルアップのおかげか、一気にステータスが向上した俺はその速さにびっくりしつつも昇って行く。上限は天空にそびえたつ魔法陣の所まで。地上から約90mほどだ。
俺は無魔法を使って魔法陣にへばりつくと魔法の詠唱を始める。
「大いなる風よ 全てを押しつぶせ 『下降気流』」
魔法を唱えると、俺がいたあたりから一気に風が真下に向かって吹きあげる。基本的には自然現象としてのダウンバーストと同じだが、達人級のスキルレベルと、人間としてはあり得ない程の魔力と魔攻撃の値を存分に使った魔法によって生み出された風は通常の自然現象の比では無い。
風はとてつもない速さで下に降りて行き数瞬前まで俺が居た所に叩きつけられる。
しかし俺の風魔法では奴の火を消す事が出来ない。その事はちゃんと分かっている。
だがしかし、キメラの炎は前に押し切るような方向で放っていた。
先程は防御主体の魔法だったから、あらゆる方向からの攻撃を防ぐために外部からの干渉を受けにように発動させていたため俺の竜巻は防がれた。
なら今回の魔法だったらどうだろうか。今回は前にいる敵一人に集中すればいい。そして相手も火魔法を放ってきている。ならば前に向けて進むように炎を出すはずだ。
魔法の指向性や制御の法則などは人間も魔物も同じだ。自分が思い描いたように発動させる。
そしてキメラは今まで前にいると思っていた人間が、いきなり真上に移動して上から風を放ってくるとはさすがに予想できていない。
つまり上からの魔法への干渉は予想していない訳で。そんな所を崩されたらまっすぐと向かっていた炎の形はすぐに崩れる。
俺の魔法が当たると同時に結界の中全体に炎が広がった。もし俺が『下降気流』を発動させ続けて居なかったらこちらにまで炎が上がってきただろう。
しかし上から断続的に流れてくる魔法のおかげで上空に炎はほとんどなく、ほぼ全てが地上に降り注ぐ。
地上で燃え盛る炎はとても激しく、しかし思ったより早く消える。キメラが防御姿勢を取ったのだろう。
俺はそれを確認すると風の威力を少し弱め、土煙を払うようにしてから魔法を完全に止める。
煙がはれた地面を見ると高温により硝子化が起こっている。そしてキメラが居た所にはキメラをすっぽりと包むような火球が。おそらくすぐに防御姿勢を取ったのだろう。だがそれでも無傷では無いはずだ。
「大いなる水よ 穢れを落とせ 『懺悔之滝』!」
俺はすかさず上空から水を落とす。水はキメラに近づくとすぐに蒸発していくが少しずつ水がキメラの方に近づき爆発を起こした。
これは変異種のソードオーガにも使った水蒸気爆発だ。上にいるため蒸気が物凄い勢いで上がってくるので熱くて息苦しい。だがここは我慢だ。
いつの間にか【金剛化】が発動して熱さが緩くなったがそれほどの熱だったのだろう。このスキルを持ってなかったら今ので死んでたかもしれない。少々迂闊だったか。
爆発が収まるとそこには未だにキメラが立っていた。だがさすがに満身創痍と言った状況で全身が傷つき、火傷のあとのようなものもあった。
俺はそれを見ると天井にへばり付くために使っていた魔法を解き地面に落下する。90mほどなら【金剛化】さえあれば問題ないだろう。
そして地面に着いた俺は木刀を構えキメラと対峙する。ここの温度が高すぎるせいか【金剛化】がスイッチ入りっぱなしだが大した問題では無い。俺は温度から守る為の意味合いも込めて、木刀に魔力を入れながらキメラと打ち合う。
キメラも慢心創痍とはいえ圧倒的なステータスで俺の攻撃をさばいていく。しかし今度は確実に俺が押している。
そして、キメラの爪を木刀がへし折った。
そこから先は一気に状況が変わった。
俺がどんどん攻めて行き体が傷だらけになるキメラ。体術も駆使しつつ圧倒する。
そしてついにキメラを飛ばして結界の壁に叩き付けた。俺は魔法でとどめを刺そうとして――やめた。
「せっかくだしお前に使ってやるか、これはあいつの敵討ちでもあるしな」
俺は木刀に魔力を込める。とにかく今持っている魔力のほとんどをつぎ込む勢いで魔力を注ぎ込んだ。
すると木刀が黒いオーラを纏い始める。そのオーラはどんどん大きくなっていき最終的には俺の身長を超して2mほどになった。
「これはあのサイクロプスのおかげで編み出した技でな……」
これはサイクロプスの戦いぶりを見ていたときに思いついた技だ。
サイクロプスがある魔物と戦っていたとき。あいつは自分の拳に炎を纏った。
そいつとサイクロプスの距離は30mほど離れていて俺はそのまま飛びかかって殴るのだと思っていた。
しかしそれは違った。あいつはなんとその場で拳を振り抜き、手にまとっていた炎を飛ばしたのだ。
何でもそうすることで普通に炎を飛ばすのより高速で炎を打ち出す事が出来るらしい。
もちろん、その速さというのは魔法が動く「速さ」であって、魔法が効果を成すまでの「早さ」では無い。早く繰り出したいだけなら魔法を普通に飛ばせばいい。
だがその時戦っていた相手は逃げ足が異常なまでに速く、二人して苦戦していた相手だった。サイクロプスはそいつを捉えるためにその場で新しい技術を獲得したのだという。
その魔法からインスピレーションを受けて開発したのがこの木刀にある機能だ。
ここまで言えばきっと分かるだろう。
「これで……」
俺は木刀を振り上げ……
「終わりだっ……!」
一気に振りおろした。




