戦利品と大地
来月になると言ったな、あれは嘘だ。
取りあえず短いですが更新します。これで今度こそ今月最後の更新です。
「……知らない天井だ」
目を覚ました俺はいしのなかにいた。間違えた、石の部屋の中にいた。
異世界に行ったら言ってみたい言葉ベスト10に入るセリフを言って満足した俺は辺りを見回して状況確認をする。
周りには石で造られた頑丈な部屋。近くにはおなじみの魔石、そして曲がった短剣と似たような短剣――折れまがっている短剣は銀色なのに対してもう一つの短剣は赤く輝いているが――が落ちている。
「ああ、確かソードオーガの……変異種? ってのを倒したんだっけ? 俺の相棒も使いもんにならなくなっちまったな」
手足を軽く動かしながら記憶を呼び戻す。手足にかなりのダメージが蓄積されていたようでかなり痛い。火傷などでボロボロになった痕がある。
痕、というのも【再生】スキルのおかげで、火傷の方もある程度癒えているのだ。このスキルの恩恵を初めて受けた気がする。
ちなみに俺が最後に使ったのは水蒸気爆発を利用した攻撃だ。原理もうろ覚えだったがなんとかうまく行ってくれて助かった。あれが失敗してたらまず間違いなく死んでいただろう。
俺は残りの傷を魔法で癒すと毎度おなじみドロップ品の確認を行う。この作業も随分と慣れてきた。
まずは魔石を【鑑定】する。なんの変哲もないオーガ亜種の魔石の魔石だった。ここには変異種の痕跡は出ないのかと思ったが、括弧のなかの数字が前に倒したソードオーガの3倍近くあるので変異種は魔石が大きくなるのだろうと結論を付けた。
[オーガの魔石 亜種(26)
オーガの亜種からやや低確率でドロップする魔石が合成されたもの。
魔力を込めることができるが一定以上の魔力を注ぐと壊れる(0/290)]
次に短剣を見る。見た感じオーガソードと同じだが色が全く違う。俺はすぐに【鑑定】を発動させる。
[オーガソード(炎) 特異級
レベル50以上のソードオーガの変異種から超低確率でドロップする短剣。その切れ味はすさまじく鉄も簡単に斬り裂く。
また、炎属性を有しており魔力を通すと刃の部分だけが熱くなる。その温度は最高で2000℃に達する]
……ハハッ。なんだこのチート武器は。
これで鉄の溶接が出来るぞ。人に向けたら絶対に大変な事になる。調節を間違えないようにしないとな。
「結局今日一日でこの層しか突破してないよな……そもそも気絶してたからどのくらい時間が経ったのか全く分からないし」
まあ過ぎた事はしょうがない。少し休憩したら次の層に進もうと思い最後にステータスを確認する。
【名前】 セイイチ・キサラギ 17歳
【性別】男
【種族】人族
【レベル】1
【生命力】1300
【魔力】 1400
【筋力】 1150
【防御】950
【持久力】1050
【敏捷】 1100
【魔攻撃】1200
【魔防御】870
【運】300
◆スキル
[鑑定 lv7]
[偽装 lv7]
[看破 lv6]
[剣術 lv8]
[短剣術 lv7]
[魔力感知 lv3]
[魔力操作 lv8]
[水魔法 lv8]
[土魔法 lv6]
[無魔法 lv6]
[風魔法 lv6]
[火魔法 lv5]
[光魔法 lv6]
[回復魔法 lv7]
[使役 lv4]
[剛腕 lv6]
[豪脚 lv6]
[威圧 lv5]
[夜目 lv6]
[索敵 lv6]
[咆哮 lv3]
[思考分割 lv2]
[魔石加工 lv5]
◆エクストラスキル
[強欲の芽レベル2]
◆固有スキル
[異種族間交尾]
[再生 lv2]
[火炎耐性 lv2]
◆称号
[異世界を渡りし者]
[前人未踏]
[強くてニューゲーム]
[下剋上]
[豪脚] 発動すると一時的に足の力が強化される
[強くてニューゲーム] レベル100以上からレベル1に戻った者に与えられる。
レベルアップに必要な経験値が激増する代わりにレベルアップ時のステータス上昇値が増える。
[下剋上] レベルが100以上離れている相手を倒した者に与えられる。
自分よりレベルの高い者と戦う場合運以外のステータスが一時的に1.1倍となる。
[強欲の芽レベル2] 所有者が得られる経験値が3倍になる。また、所有者の経験値の半分を吸収する。
更に倒した相手のスキルのうち、自身が所有していないものを取得することができる。すでに持っているスキルについてはスキルの経験値が得られる。
また、目を合わせる、若しくは手で触れた相手のスキルを奪う事が出来る(任意)。
あれ? レベルが1になっているぞ? 何があった?
いきなりの事に驚いて慌ててしまうが、下のステータスを見ると別に弱くなっているわけではないようなのでとりあえず落ち着いた。まずは全部見てみようと思い読み進めると、スキルと称号が増えていた。
この【豪脚】スキルは先ほど戦ったソードオーガのものだろう。レベルが高いのが気になるがひとまず置いておく。
次に称号を見る。称号は二つ増えていた。【下剋上】と【強くてニューゲーム】だ。これは説明文のまんまなのでそのまま次に行く。
最後に強欲の芽の説明文を見る。基本的には【強欲の芽レベル1】の効果がそのまま強くなった感じだ。スキルの経験値というのはスキルのレベルが上がるのに必要なリソースの事だろう。おそらくこれは俺達人間がレベルアップするのに必要な経験値と同じだと思われる。
ついでにこれは俺の勝手な予想だがこいつが俺のレベルをリセットさせたんじゃないだろうか? なんと言うかそんな気がする。
まあステータスも下がったわけではないし、細かい事は気にしなくてもよいだろう。【強くてニューゲーム】の効果のおかげでレベルは上がりにくくなっているみたいだがそれも多分大した問題じゃない……と思う。
「それじゃあ休憩も取ったしそろそろ先に進むか……ってあれ? 階段どこだ?」
俺が辺りを見回すとそこには下に続く階段があった。おそらくボスを倒した瞬間から出現したのだろう。便利な機能だ。
俺は新しくなったオーガソードの感触を確かめつつ、下の層に下りて行った。
――大地SIDE―――
あれから四日がたった。あのダンジョンは討伐隊が出るまでは封印されるらしい。
俺達は一週間ほど休みをもらった。鎌倉さんをはじめとして、精神的なショックが大きい人にはカウンセリングのようなものも付けられるらしい。
俺はカウンセリングこそ受けなかったが精神的なショックは大きく今の今まで無気力に生活を送っていた。
そして、昨日の夜眠らずに考えた事がある。これから俺たちはどうすればいいのか、と。
ショックが小さかったクラスメイト達の中にも、あの事件以来魔王討伐に関して恐怖を抱くものが大量に居る。
これから先、魔王を討伐する事になればまた犠牲が出る可能性がある。いや、ほぼ確実に犠牲が出ると言ってもいいだろう。
俺達は全員どこか浮かれていたようだ。ゲームのようなステータスに勇者、そしてその他の未知の世界に。
これから先どうやってあんな化け物と戦うつもりだ? 騎士団長でさえ逃げるのがやっとだった相手に?
誠一は強かった。それこそ俺達の何倍も強かったはずだ。前衛が苦戦してたグレイウルフを軽く倒してしまうくらいに強かった。
それは誠一が城の外で魔物と戦ってきたからだろうか? いや、違うだろう。
誠一は最初から分かっていたのかもしれない。この世界がどれだけ危険なのか、魔王の討伐などという危険な事で犠牲者が出ないわけがない事を。
俺もあのくらい強くなりたい。あのキメラを退けられるような力を、周りを守るための力がほしい。
そして一晩中考え込んだ俺は結論を出した。
青い空の下、朝早くから剣の素振りをしている騎士団長――ダンさんがいた。
俺はダンさんの元まで歩いていく。すると俺の姿に気付いたダンさんが怪訝な表情をした。
「どうした? 確か……ダイチだったか? 今日も訓練は無いぞ?」
俺はその言葉を聞きながらダンさんの前に出て頭を下げる。
「お願いします。俺を強くしてください!」
しばらく大地編が続く……かもしれない




