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探索と妖岩

 数時間後、俺は目を覚ました。


「んあ……がばっ! って痛!」


 いつものように思いっきり飛びあがろうとすると天井に頭をぶつけた。普段は二度寝しないように飛び起きているのだが、洞窟内だという事を完全に忘れていた。


 頭に治癒魔法をかけると若干手首に痛みを感じたので、そちらにもついでに治癒魔法をかけておく、着地の時に痛めたようだ。


「まあ目が覚めたことには変わりないしよしとするか……あれからどのくらいたったんだ? そもそも今夜か? もう朝なのか?」


 洞窟の中にいると体内時計が狂うと言うが、本当に太陽の光が無い所だと何時なのかが分からない。俺の腹時計は大体夜七時くらいを指しているだろうか?


 ひとまず飯にしようと俺はアイテムポーチから貴重な食料を取り出す。この量では3日、持っても4日程度だろう。


「まずは食料の方を何とかしないとな、今のままだと魔物に襲われなくても餓死しちまう」


 この辺りの魔物から肉でもドロップしてくれると嬉しいのだがどうなのだろうか? 


「それと一応周りの確認もしておかないとな、っと」


 干し肉をかじりながら【索敵】を発動させる。周りの反応は寝る前より増えていて500m圏内に3体の魔物。そこから少し離れたところにもう一体の魔物がいる。寝る前と同じ所に居る事からして同じ魔物だろうか? 


「今のところ問題はないな……近くの魔物も強い事は強いがそこまでじゃないようだし、肉がドロップしそうな魔物だったら狩るのも手か」


 干し肉を食べ終えた俺は短剣(オーガソード)と国からもらった剣を取る。すると違和感に気付いた。よく見ると剣の上から三分の一ほどがぽっきりと折れている。これでは使えなさそうだ。


「となると短剣と魔法だけか? 万が一に備えて出来るだけ魔法は温存しておきたいがしょうがないか」


 魔物は一応目視できる範囲に居たので、塞いだ岩に穴をあけてこっそりと様子をうかがう。

 すると居たのはオークだ。薄暗くてよく見えないが普通のオークより一回り程大きい。所謂テンプレ小説通りだとすると、ここにいる魔物はめちゃくちゃ強いとかなんだろうか。


 念のために【鑑定】を使い相手のステータスを確認しておく。


[オーク Lv70

HP 1050/1050

MP 25/25


 ◆スキル


[夜目lv5]

[威圧 lv2]


]


 確かに外の魔物とは比べ物にならないが、それでも、だから何? と言ったレベルだろう。


 俺は外ではもっと強い魔物と戦ってきたぞ? 多分スライムよりは強いのだろうがソードオーガと比べると断然弱いだろう。

 他の二匹も同じようなステータスだったのでひとまず安心した。こいつらなら隙をつけば今の俺でも十分対処可能だろう。


 そして俺はオークが一人になった瞬間をねらい、オークに突撃する。身体強化を施してオークの首筋にオーガソードを深々と差し込んだ。


「グガッ!?」

「魔の衝撃よ『衝撃波(インパクト)』」


 短く悲鳴を上げたオーガに向かって衝撃波を飛ばし首を飛ばす。正直もう少し苦戦すると思ったが無理なく倒す事が出来るようだ。


 先ほどのオークの悲鳴を聞いたようで、さっきまで別の場所にいたオークたちがやってきた。

 そこまでオークたちが強くない事を確認した俺は魔法を使って一気に片付ける。


「水の刃よ『水刃(ウォーターカッター』」


 魔力を多めに使って詠唱をすると、複数の水が刃となって二体のオークに襲い掛かる。片方は倒す事が出来たが、もう一方は致命傷は避けられたようで俺に襲い掛かってくる。

 俺はそんなオークの眼に向かってオーガソードを投擲する。吸い込まれるようにオークの眼球に入った短剣は、オークの脳を貫きあっさりと絶命させる。


 俺は一息つくとオークのドロップ品を確認する。いつものように魔石とオーク肉が出てきたが、いつものオーク肉より大きいし高級感がある……気がする。


 俺が【鑑定】を発動させるとそこに出てきた結果は意外なものであった。


[オーク(レア) (200g)

Lv50以上のオークからのみドロップする肉。通常のオーク肉より美味で希少価値のあるため高値で取引される。]


 どうやら強くなるほど肉が美味しくなるそうだ。それでいいのか魔物(オーク)よ。


「まあこのくらいの奴等が洞窟に居るなら食料に困る事はないだろうな」


 寝床と食事の確保は出来た。服もあると嬉しいのだが、あまり贅沢は言っていられないだろうし脱出の方法を考えよう。


 基本的には二択だ。上に上るか、下に進むか。


 上に行くなら崖を登る必要があるだろう。そこで飛行する魔物に襲われたらやばいかも知れない。


 下に行く場合はダンジョンの最深部を目指す事になる。本によると最深部には転移魔法が置かれていて、地上に帰還することも可能なそうだ。何とも便利な機能である。


 しかしここで疑問が生じる。確かこのダンジョンは30階層までしか無い初心者向け迷宮だったはずだ。いくらなんでも何万メートルも落ちるような空間があるとは思えない。どういうことだろうか?


 考えても仕方がないのでひとまず置いておく。今は今後の方針を決めるのが優先だ。

 俺は正直なところ下に進もうと思っている。理由を聞かれたら説明できないがなんとなく直感のようなものが働きかけているのだ。

 俺はこういうときは直感に従うようにしている。これでも自分の直感には自信があり、車にひかれそうなところをぎりぎりで凌ぐような事もあったのだ。この異世界に来てから運も上昇しているし逆らわない理由がないだろう。


「じゃあ下に行くとして……何が起きるかわからないし、この辺りでもう少し狩りをした方がいいか?」


 幸いこの周辺にはオークがいるおかげで食事に困る事は無い。それでも下の層でも食料が確保できるとは限らないことを考えると、手に入る時に手に入れた方が賢明だろう。


「そうと決まれば即実行だ。待ってろよオークどもめ!」


 谷底で高笑いをする俺。安全の確認も出来ていないような所で大声を出すのは我ながらどうかと思うが、なにもなかったので良しとしよう。



 それから大体1時間ほど、俺は辺りを走り回ってオーク狩りをしていた。さすがに森の時のようにザクザク斬っていく事は出来ないが、かなりのペースで狩る事が出来た。

 おかげで戦利品はオーク肉が14個、魔石の方は最初にあったものと統合してオークの魔石(47) (30/490)となった。個体が強いせいか、一匹あたりから取れる魔石が随分上質なものだった。


 そして今、俺は最初に見た魔力反応があったところへ向かっている。俺がオーク狩りをしている間も全く動く気配がなかった。不審に思った俺はオーク狩りが一段落した所でそちらに向かう。


 俺が反応まで後50mほどに差し掛かった。残念ながら巨大な岩の陰に隠れているため何も見えない。

 俺は岩の向こう側が見えるように横にずれる。しかしそこに魔物の姿はない。


「いない?……いや、これは……」


 俺は岩に向かって【鑑定】を発動させる。


[妖岩 lv98

【生命力】30,000/30,000

【魔力】300/300


 ◆エクストラスキル


[金剛化lv9]


 ◆固有スキル


[岩石化]


]


[金剛化lv9] 自身の体の硬度を上げる。その効果は凄まじくlv1でも一般的な身体硬化の約3倍、lv9では身体硬化の30倍以上硬くなる。


[岩石化] 自身の体の硬度を上げる(常時発動)。また、攻撃を受ける瞬間に自動で【金剛化】を発動させる。



 ……はい?

 俺は思わず呆然とした。何なんだこの無駄スキルは。下手したらキメラの一撃さえも凌ぐかも知れない力を持っている。持っているのだが……動けないから意味がない。


「生きてるのか? これ」


 試しにオーガソードで殴ってみたりつついてみたりしたが全く動こうとしない。


「何なんだこれ……」


 俺は妖岩にもう一度【鑑定】を発動させる。


[妖岩

ダンジョン内の特に魔素の濃い所にのみ発生する魔物。魔素を吸った岩石が突然変異で魔物になったものでその強度はドラゴンの皮膚をも凌ぐ]


これがドラゴンの皮膚より固いの? マジで?


 俺は試しに魔法をぶつけてみる。


「火の矢よ 『火矢(フレイムアロー)』」


 俺は火の中級魔法火矢(フレイムアロー)を魔力10倍で放つ。普通のフレイムアローは消費魔力が8程度なので80程魔力を消費してしまった。


 だがその分普通のフレイムアローとは比べ物にならない程の熱量と速度で妖岩に向かって火の矢が飛んで行った。


 矢は妖岩に当たったかと思うと爆発して轟音を上げる。煙のせいで何も見えないが、俺の【索敵】にはしっかりと魔力反応が残っている。更に俺の『画像解析(クリアビジョン)』で詳細を調べると、フレイムアローが当たる瞬間、妖岩の表面に魔力が流れて行くのを観測できた。

 おそらくこれが溶岩の持つ【岩石化】の効果なのだろう。攻撃を受ける直前に自動で【金剛化】が発動して身を守ってくれる、これほど頼もしいスキルは無い。


 俺はそんな素晴らしいスキルをお持ちの妖岩に再び【鑑定】をする。


[妖岩 lv98

【生命力】30,000/30,000

【魔力】300/300


【防御】4900

【魔防御】4500


]


 ……無傷ですかそうですか。一応あの技は単純な破壊力で言えば、俺の使える魔法の中でもかなり高い部類に入ったんだがな。


 【金剛化】と【岩石化】、更に突出した防御と魔防御の値からすればこの程度の技は無意味だということだろうか。ちょっと悔しかったりもする。


 しばらくこいつを殴ったり蹴ったりしてみたが全く通じる気配がない。

放置していても別に問題なさそうなので、こいつの事は放っておいて先に進むか。


 俺はアイテムポーチ――ポーチというより巾着に近い形をしているが――が体にしっかりとついている事を確認すると階段を探し始めた。



**********



 勇者がダンジョンから帰還して来た日の夜、王と数人の貴族が顔を合わせていた。


「まずは集まってくれて礼を言おう、今回集まって貰ったのは勇者セイイチについてだ」


 ガウルが口を開く。

 勇者が来てからこれで三度目となる会議、本来ならこのような頻度で行われるのは異常な事なのだがそんな事は気にしないと言った様子の貴族達の顔を見て、さらに話を続けた。


「まずは奴の死亡についてだ。奴は『サウロスの迷宮』の10階層にてキメラと交戦、他の勇者を逃がした結果崖に落とされて死亡。間違いないな?」


 これについては事前に話を聞いていたのか貴族達がそろって頷く。それを見たガウルは話を続けた。


「これは大きな誤算があったものの結果的にはゴヅェフ伯爵の計画通りだ。しかしながら騎士団長には少し間違えると勇者を全滅させていた可能性すらあると聞いた。魔物の管理はもう少し考えてもらわなければ困るぞ?」

「申し訳ありません」


 ゴヅェフと呼ばれた貴族が小さく謝罪をする。ダンジョンでキメラを(けしか)けさせたのは彼であった。


 実はダンジョン内に人為的に強い魔物を置くのはそれ程難しい事ではない。

 ダンジョン内の魔物は魔素の塊から生み出されるため、ダンジョン内の魔素を操作する事が出来る一流と呼ばれるレベルの魔法使いならば、準備さえしっかりすれば可能である。

 尤も、ダンジョンに生み出される魔物の種類を選ぶ事は出来ないようで今回のように想像以上に強い魔物を生み出してしまう事もあるようだが。



「だがまあ結果的には勇者セイイチの始末に成功した。他にも数人ほどこちらを怪しんでいる者がいるが、そいつらにはまとめて首輪をかけてやれば問題ないだろう。あまり強くなられる前に縛っておかねばいつ寝返られるかも分からん」

「陛下、如何にして勇者達を縛るおつもりで?」


 国王の言葉に先ほどとは違う貴族が質問した。ガウルはいやらしい笑みを浮かべながら、


「ふんっ、せいぜい勇者共の【鑑定】などいくらでも誤魔化す術があるわ。前も言ったように奴等にはしっかりと『隷属の腕輪』を渡しておこう」


 と自信満々に答えた。


 その後は貴族達が簡単に話し合ったあとお開きとなった。

 部屋から出たガウルは、


「ふむ……ついでに貴族共にも保険をかけておくべきか」


 と呟くと自室に戻って行った。


これはしばらくスライムの出番がないフラグ

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