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落下と報告

 お久しぶり? です。みなさんはGWをいかがお過ごしですか? 私も久々の四連休で心がぴょんぴょんしてます。

 俺は全力で落下していた。いや、実際には自由落下だから全力もくそもないのだが。


 俺の視線の先には天井に張り付いたキメラが見える。まず間違いなくこいつが崖を消し飛ばしたんだろう。


 もう一度あのレベルの攻撃をされたらまず死ぬので、どうせ落ちるならと頭を下にして加速させる。

 

 すると数秒でキメラの姿は見えなくなった。ひとまず目の前の危機からは逃れる事が出来た。しかし現在進行形で危機が迫っている。正確には危機(地面)に向かって俺が迫っているのだが、そんな些細な事はどうでもいい。


 まずはどうやって命が助かるかを考える必要がある。そのためにはまず……状況を確認して……


 駄目だ、魔力切れによるとてつもない疲労感と倦怠感が頭の中を支配して冷静な思考ができなくなる。このままじゃ数分後にはミンチになっている可能性すらある。


 その事で焦った俺はあたりを見まわす。


 するとそこには俺のアイテムポーチが一緒に落下していた。意外な所でガリレオの実験と同じ事が出来た事に、若干の感動を覚えたが俺はすぐにアイテムポーチの中に腕を突っ込みある物を探す。


 アイテムポーチから出したものは魔力回復ポーション。それもランクはかなり低いものである。


 一応それなりのポーションも大地から受け取ってはいたのだがそちらはキメラ戦で飲み干してしまったのだ。


 俺はポーションの瓶を一気に呷る。こんな低品質のポーションでは魔法を打てるほど回復するわけではないが倦怠感を和らげる事は出来るだろう。


 ある程度思考がクリアになった俺は頭をフル回転させる。どうすれば助かるのか、それと落ちるまでにどの程度の時間があるのか。


 この崖は最低でも20kmはあるとダンは言っていた。更に人間の落下速度は空気抵抗の問題で最高でも約300km/hほど。

 最低でも4分。落ち方と崖の深さによっては倍近くに伸びるはずだ。


 体を広げ、最大限空気の抵抗を受けるようにする。服も拡げてモモンガのような格好をしているのでかなり減速できているはずだ。


 時間を確保した後はどうすればいいかを全力で考える。しかしアイテムポーチの中ものぞいてみたが何一ついい案が思い浮かばない。


 ……それにしても、まさか俺が落ちるとはな。確かにいかにも「落ちろ!」みたいな崖があったとはいえ、思いっきりフラグを回収してしまうとは……


「うーん……どうする? このままじゃ本当に死ぬぞ」


 緊張感の無い声を上げるが実際はかなりテンパっている。オーガやキメラの時よりも明確な「避けられない死」が迫ってきているのを感じられる。しかもカウントダウンをされているような気分になって余計に怖い。


(やばいな……この中からなんとかして生き残る方法を考えねえと……魔法は使えるほど魔力が残ってねえし、壁にナイフを突き立てるなんて神技は出来ない。そもそも壁が手の届く距離に無いし……いっそ悔いのないように荵のパンツでもかぶっておくか?)


 諦めの境地に達してアイテムポーチからパンツを取り出そうとすると、ポケットの中で硬い何かがぶつかるのを感じた。


 ポケットの中からそれを取り出すと出てきたのは黒光りしている石、魔石だ。


「なっ!? 何でもっと早く気付かなかったんだよっ!」


 緊急用として手元に入れておいた魔石をいざという時に忘れてしまうとは、何とも情けない。

 尤も、キメラ戦で下手に持ちこたえていたら、自分が消し炭になる可能性さえあったのだから良しとしよう。


 俺は落下しながらもしっかりと魔石を握りしめる。魔石に込められた魔力は全部で900程、俺の最大魔力量の1.5倍もある事からしても十分な量であろう。


 一応説明しておくと魔石を握っていると魔法を使う時に魔石から魔力を消費して魔法を放つ事が出来る。

 ちなみに魔石から魔力を吸い上げて自分のものにすることもできるが、こちらは集中が必要なうえに自分の最大魔力量を超す魔力量だと効率が落ちる事から使わない。


 俺は魔石を握りしめ考える。


(どうする? こんな状況だと落ちる直前の一回しか試す機会がないだろう。魔力で風を起こすか? それとも地面をトランポリンにして落下による衝撃を緩和させるか?)


 まずは魔法を使うタイミングをはかる必要がある。そこで目に身体強化を施した上で夜目を全開にして地面を凝視し始めた。


(見えない……まだ見えない……まだだ…………見えた! でも距離がわかんねえな……【鑑定】!)


 地面が見えた俺は鑑定を発動させる。必要な情報は俺との距離、それ以外の余計な情報はいらない。


[土の地面

魔素を吸いこんで変質している土。術者との距離約2700m]


 しっかりと鑑定結果が表示された。距離は50m毎にどんどん減って行っている。これで鑑定結果を表示させっぱなしにしておけばリアルタイムで距離を知ることができる。


 確かスカイダイビングでパラシュートを開き始めるのは1000m辺りから、そしてパラシュートが完全に開ききるまでに200mほど落ちたはずだ。魔法ならほぼノータイムで発動できるため800mから850m辺りから魔法で空気抵抗を増やす……下から風を送ればいいだろう。


「しっかし……こんな無駄知識が命を救うなんて誰も予想できないよな」


 妹にキモイと言わせるほどの雑学王だと自負してたからな。今となってはいくつか忘れてしまったがあのときの努力は無駄じゃなかったってことだな。


 苦笑しながらも魔石を握りしめ魔法のイメージを固める。

範囲は限りなく小さく、俺に集中させてかなり強い風を発生させる。徐々に風を強くさせて行けばいいだろうか。


「2000……1500……1300……1000……」


 強化魔法によって動体視力が上がっているため細かく数値が見える。狙うのは850になった瞬間だ。


「900……850! 我力を用いて風を起こさん 我を支えよ『風衝(エアインパクト)!』」


 俺は風属性上級魔法の風衝(エアインパクト)を発動させる。上向きの風を吹かせるために詠唱をいじったおかげか、どんどん減速していく。


「我が魔力よ 我の殻となり其の身を守れ 『身体硬化』!

我が身を覆う魔力よ 『身体強化』!」


 念のため直前に自分に魔法をかけておく。スカイダイビングなんてやったことないからこの落下速度が普通なのかわからないしな。


 そして俺は地面と激突した。受け身の姿勢を取っているとはいえかなりの衝撃がした。しかししっかり減速が出来た事と魔法で体を守ったおかげで目立った怪我はないようだ。


「いてて……さて、どうする?」


 地面が土であったため少しめり込んだがなんとか起き上ると辺りを見回して同時に【索敵】を発動させる。


 どうやらこの周りに魔物は一体しかいない。その代わりにかなりの強さを持っているが、魔力量からして森であったソードオーガより少し劣る程度のものだろう。距離もかなり離れているし問題はない。


「ひとまず安全の確保が最優先だな、今のところは魔物はいないがいつ来ないとも限らない。せめて隠れる場所だけでも確保しておかないと」


 しばらく辺りを探していると小さな穴を見つけた。人間二人くらいなら普通に入れる程度だろうか、

 取りあえず中に入り土魔法を使い穴を簡単に塞ぐ。これで一応の安全だけは確保できたはずだ。


「それにしてもどうする? 今のうちに寝ておくか? 食料は3日分くらいあるし、水は魔力が回復しさえすれば出せる。向こうの方に居た魔力反応は結構大きかったから、この穴には入れないはずだし襲われる心配もない。今のうちに寝ておいた方がいいだろう」


 俺は穴の奥の方に行くと眠る姿勢を取った。ボロ屋生活のおかげで基本的にどんな体勢でも寝られるようになっていた事と、驚きの連続で疲れていた事もあり俺はすぐに眠ってしまった。


―――鈴SIDE――



 王城に戻ってきた私は気絶した結衣を医務室のベッドに寝かせた。


「ふぅ……まずは王様の所に行くんだっけ? まぁ、勇者の一人が死んだのならそんな事にもなるわよね」


 私は結衣を運ぶ時にずれたメガネを元に戻して重い足取りで医務室を出ると訓練場に足を運ぶ。なんでも如月くんが死んだことで王に報告するにあたって、勇者全員で行く必要があるらしい。余り思い出したくなるものでは無いがしょうがないだろう。


「ん、神田さん。大丈夫?」

「ええ、問題ないわ」


 私が訓練場に戻ると野本くんが最初に心配しに来てくれた。彼も親友(如月くん)を失ったことでショックが大きいのか蒼い顔をしている。


 周りを見渡してもショックが大きかったようで皆顔色が悪い。中にはダンジョンの中で吐いた人もいるそうだ。


 如月くんとほとんど関わりが無かった人でも、知っている人が魔物に殺されるというのは衝撃的だったのだろう。

 こうなる事は簡単に予測できたであろうに何であの国王は今すぐ会うだなんて馬鹿な事を言い出したのか甚だ疑問である。


 しばらくするとダンさんが戻ってきた。どうやら先に王と話をしてきたようだ。だからそれなら私達の方は明日にしておいてほしい。


「皆疲れているところ悪いが今から国王陛下と会う必要がある。装備を外したらまたすぐに集まってきてくれ」


 ダンさんがいつものうざったいテンションではなく、珍しく落ち込んでいるような声で皆に呼び掛ける。あの人も彼が死んでしまった事に大きなショックを受けているんでしょうね。


 私達は最初に王とあった広間で王に向かって跪いている。何でもこの国の基本的な礼儀らしく、ここにきてから一通りの礼節は学んだ。その中でも王族や貴族との関係については真っ先にやらされた分野だ。

 それがこの世界の常識なのか、それとも王城という特殊な場所のせいで貴族達に良く合うからなのかは分からないが。


「勇者達よ、よく来てくれた。まずは帰ってきてすぐに集めてしまったことに謝罪する。すまなかった」

「いえ、緊急な事だったのでしょうから構いません」


 少し顔を上げると話し始める国王と、それに返答する浅野くん。なんでこの人はこんな堂々としていられるのかしら?


「そうか。まずは確認だ、勇者セイイチ・キサラギがダンジョン内の戦闘で死亡した。間違いないな?」


 すでに報告を受けているであろうに私達に聞いてくる国王。浅野くんが「間違いありません」と答えると国王はさらに話を続けた。


「確かあそこには強い魔物はいなかったはずだ。騎士団は何をやっていたのだ?」


 国王はダンさんに聞く。ダンさんの方は国王の方をしっかりと見て、


「はっ! 『サウロスの迷宮』10層にてキメラが出現。撤退中にキメラと交戦し勇者セイイチ・キサラギが崖に転落、死亡したと思われます」


 と、答えた。私達も彼の詳細は知らなかったけれどどうやら戦闘中に崖に落とされたようね。


「キメラだと? 確かに奴は強力な個体だが騎士団が居れば退ける事も不可能ではないはずだが?」

「はい。普通のキメラでしたら撤退だけなら我々にも可能でしょう。しかし今回遭遇したキメラは通常のキメラとは比べ物にならない程の力を持っていると考えられます」


 国王の問いにダンさんが答える。つまりあのキメラは普通にキメラと比べて強力な個体だったってこと? 確かにあのキメラはグレイウルフを一撃で倒した如月くんより強いみたいだったけどそう言うことだったのね。



 その後も30分ほど質問が続けられ私たちは解放された。今は大体夕方くらいだろうか、普段だったら授業が終わって一段落ついている頃だが、今日はキメラの事や如月くんの事で大変だったためかどっと疲れが押し寄せてきた。


「私達もこれからどうすればいいのかしら……」


 部屋に戻ると独り言と一緒にため息が漏れる。クラスメイトが死んだ、いや、殺された。


 その事実はクラスメイト達をおびえさせる。もちろん私も例外ではない。

 私はこれから先、どうすれば生きていけるのだろうか?


「……あまりこの事を考えたくはないわね…………」


 私は夕飯を食べる気力もなくベッドに倒れこんで寝てしまった。


 出来ればGW中にもう一度更新が出来るはず……です。

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