表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/128

嫉妬とピンチ

寝落ちって怖いですよね。投稿の確認画面で寝ちゃうとかいう素晴らしいトラップ付きなんですもん。

 つり橋の向こうでこちらを睨みつけるキメラ。本能が全力でやばいと言っている。こいつはソードオーガでさえも比べ物にならないくらい強い。勇者と騎士団、全員で戦っても勝てる可能性の方が低い。なんだかドキドキしてきた。これが釣り橋効果という奴なのだろうか? やだ、キュンキュンしちゃう……


 さすがにあまりふざけてもいられないので俺はキメラに鑑定を発動させる。


[キメラ lv500

【生命力】50,000/50,000

【魔力】30,000/30,000


◆スキル


[夜目lv7]

[索敵lv6]

[威圧lv7]

[並列思考lv5]

[火魔法lv9]


 ◆固有スキル


[精神誘導lv8]


]


 なんじゃこりゃとしか言いようがない。最初は生命力と魔力しか表示していなかった。しかし魔力が今までの魔物と比べて突出して高いので、魔法が使えるのかと思いスキルも表示させてみた。そしたらずいぶんとふざけた内容が返ってきやがった。もうこれは倒せるかどうかじゃなくて、逃げ切れるかどうかのレベルだ。


 俺がどうするか考えているとダンが叫ぶ。


「お前ら全員逃げろ! あいつはお前らがどうこうできるレベルの魔物じゃない!」


 突然のダンの指令に生徒たちは困惑する。


「大丈夫ですよ! 俺達ならなんとかできます!」

「そうですよ! おれたちが力を合わせればあんな奴楽勝です!」


 現実を分かっていない馬鹿共(主人公(笑))が何やらほざいている。俺はそいつらの首を掴み、後ろの方に投げて強制的に退避させていく。


「やめろ如月! 何をするんだ!」

「馬鹿かお前は!? あれの強さも分かってねえのに戦おうなんて言ってんじゃねえよ!」


 途中で浅野が抵抗してきたが、筋力(ステータス)に物を言わせてぶん投げる。

 生徒たちからは非難の目線が送られたが、今はそんな事を気にしている暇はない。


「隊長! 俺達も加勢します!」

「馬鹿野郎! お前らは他の勇者の誘導をしろ! 全力で守らないと戦闘の余波だけで死ぬぞ!」


 加勢しようとした騎士に向かってダンさんが怒鳴る。たしかにこの状況では一般騎士レベルでは話にならないだろう。さすが騎士団長、正しい判断だ。


 倒すことなど考えてはいけない。あいつから逃げられるだけで万々歳と言ってもいい程だ。俺はすでにこの場を逃れることしか考えていなかった。


「水の刃よ 『水刃(ウォーターカッター)』!」


 現れた複数の水は刃を形作りつり橋の縄を断ち切る。それを見たダンがクラスメイトに指示を飛ばした。


「今のうちに逃げろ! あいつはまず間違いなく俺より強い! 倒そうなんて思わないでとにかく逃げろ!」


 その直後にキメラが吠え、口から巨大な炎の塊を放った。


 その炎をみたクラスメイトは混乱状態に陥って逃げ惑う者、水魔法を連射する者など様々な反応を見せた。しかしそれだけでキメラの炎を消す事は出来ない。


「くっ!……魔力の盾よ魔を防げ 『マジックシールド』!」


 俺は無魔法のマジックシールドを放つ。この魔法は魔力による盾を作り出して魔法を止める。そのまんまの技だ。魔力を乱すことで魔法を霧散させるため、物理攻撃が相手になるとまったく意味を成さないが、魔法相手の場合は絶大な効果を発揮する。


 しかし俺の全力で放ったマジックシールドでも完全に消す事は出来ず弱まった炎が迫ってくる。


「大いなる水よ 炎を飲み込み災厄を祓え 『ウォーターブラスト』」


 そこに水魔法を叩き込み、やっとのことで消滅させる事が出来た。しかしあれを一発防ぐのだけで、かなりの魔力を持って行かれた。これが火魔法lv9の力なのだろう。このままだとまず押し切られる。


 正面からの魔法の打ち合いになれば、魔法のスキルレベルと魔力の差ですべてが決まるので確実に負けるだろう。俺が一人なら逃げに徹すればなんとかなるかもしれないが、こいつらが全員助かるようにするのは今の俺には実力不足だ。


「くっそ……どうする?――っ! ガアアアアアアアッ!」


 俺は咄嗟に【威圧】と【咆哮】を発動させる。それとほぼ同時にキメラも威圧をこちらに向けてきたのだ。


 ある程度は相殺する事が出来たが、それでもスキルレベルの差というのはかなりあるようで相殺しきれなかった威圧が俺達に降りかかる。


 威圧を予想できた俺はとっさに身構えることで何とか持ちこたえたが、いきなり食らったクラスメイト達がおびえて動けなくなる。どうやらあいつの狙いは皆殺しのようだ。


 するとキメラが数歩下がった。一瞬引いてくれるのかと淡い期待も抱いたがそんな希望はすぐに打ち捨てられ、助走をつけてこちら側に飛びかかってきた。

 俺はすぐに魔法の詠唱を始める。


「魔の衝撃よ『衝撃波(インパクト)』!

土の壁よ 我が盾となせ『土壁(アースウォール)』!」


 飛びかかってくるキメラの顔に斜め上から衝撃波を飛ばし、それと同時に土の壁を生成しキメラの行く手を阻んだ。


 キメラは衝撃波でバランスを崩した上に土壁に激突したせいで攻撃が止まった。後ろを【索敵】で確認するとまだ半分ほどしか避難が完了していない。

 小さい階段に大人数で押し掛けているため、なかなか全員で避難できない。その上、呆然としている者や自分でも戦えると思っている勘違い野郎までいるせいで、避難が完了するまでに時間がかかりそうだ。


 すぐに思考を戻し、壁越しに【索敵】でキメラの様子をうかがっていると、キメラが火魔法を放つ。俺の作った土壁は一瞬で昇華していく。幸い壁の上の方を狙ったお陰か、俺達まで消し飛ばずに済んだがダンジョンの壁がかなりえぐれた。あまり攻撃をさせると崩壊もあり得る。このままだと危ないかもな。


「ガアアアアアアアアアアアッ!」

「させるかよっ!」


 消し飛んだ土壁から出てきたキメラをダンが剣で叩き斬る。あの鉄の塊みたいな重さをした剣で思いっ切り攻撃しているのに、キメラは傷一つ付いた様子はない。しかもダンは尻尾の蛇に体当たりを食らい、数メートルほど吹っ飛んでしまった。


 ダンを吹っ飛ばしたキメラはこちらを睨みつけている。そしてそのまま尻尾をこちらに叩きつけてきた。


「やばいな……我が身を覆う魔力よ 『身体強化』」


 身体強化を唱えると同時に剛腕スキルも使い、キメラの尻尾()を掴んで短剣で突き刺す。


 短剣で深々と刺された蛇はすぐにひっこめられて代わりに前足が飛んできた。


 ぎりぎりで受け身を取ったが腕の骨ごと砕かれたようだ。


 すぐに自分に治癒魔法をかけつつ回復ポーションを飲み、態勢を整える。


 その時一人の生徒が火属性の初級魔法。『ファイアーボール』をキメラめがけて放った。


 しかしそれはキメラの鼻息で簡単に吹き飛ばされてしまい10倍返しと言わんばかりに火魔法を放たれた。


 俺はそれを水魔法で受け止めて相殺する。ついでに魔法を放った生徒に向かって怒鳴った。


「何やってんだ! アホなことしてないでとっとと逃げろ!」

「うるせえ! 鑑定も使えないお前がでしゃばってくんな! あのくらい俺にも余裕で出来るんだよ!」


 するとその生徒が俺に向かって怒鳴り返してきた。確かこいつはいつかダンに質問していた男子生徒Aだったな。こんな事を言う奴じゃないはずなのに何があった?


「グガアアアアアアアア!」

「ああああああああああっ!」


 残念ながら考える時間は無いようだ。とにかくこいつから逃げないとどうにもならない。キメラの威圧を相殺した俺は、余波で硬直している男子生徒Aをほうっておいて出された前足を受け止める。


「我が魔力よ 我の殻となり其の身を守れ 『身体硬化』!」


 体の上にうっすらと魔力が張られてしっかりとキメラの前足を受け止める。更に押し返して短剣をキメラの体に突き立てたが全く傷が入らなかった。


 その後も何度か殴ったり殴られたりを繰り返しているとほぼ全員の避難が完了したのを確認できた。


「よし! そのまま俺達も引くぞ! 残っている奴等もすぐに階段をあがれ! 持って後三十秒だ!」


 途中で復活して一緒に戦ってくれていたダンが残っている奴に向かって叫んだ。クラスメイト達を全員退避させた後、俺が最大魔力で障壁をはればなんとか階段まで逃げ切る事は出来るだろう。


 そして崖ぎりぎりの所にいたキメラが俺達に体当たりを仕掛けてくる。


 キメラの方にも疲労がたまってきたのか少し単調な攻撃になってきている。

 俺とダンは体当たりに合わせて剣を叩き込むとキメラを止める。


 するとキメラの顔がにやりと笑った――気がした。


 キメラに全神経を集中させていたせいで無防備な背中に、いきなり魔法を叩き込まれた。いきなり魔法に打たれて動揺した俺はキメラに飛ばされる。

 しかも崖に向かって飛んで行ったせいであと少しで崖から落ちる所だった。


 俺はキメラを視界に入れながらも魔法を撃ってきた犯人を見る。



 するとそこには二宮と数人の男子生徒がどこかうつろな目でこちらを見ていた。


 ……どういうことだ? 何で二宮達が? 確かにあいつらには名前呼びとかの勘違いから嫉妬されていたが、別に命を奪ってやろうと思うような人間ではないはずだ。


「何だ? どういうことだ?」


 ダンもこの状況が解らないのか困惑を口にする。


「一体何が……まさかっ!?」


 俺は一つ心当たりがあったので鑑定を二宮に発動させた。


【名前】タイガ・ニノミヤ  17歳 【状態: 呪い(嫉妬)


【性別】男


【種族】人族



 やはりステータスに状態異常が追加されている。俺の推測が正しければこのスキルはキメラの固有スキル、「精神誘導」に由来するものだろう。本来持っていた小さい嫉妬が大きい嫉妬になったせいで、人殺しすらしてしまうということだろうか。


 そんな事を考えている間にも魔法が飛んでくる。俺とダンはキメラの攻撃も食らわないようにしつつ、クラスメイトからの魔法もギリギリでかわし続ける。正直ただでさえ余裕がない戦闘に、さらに邪魔が入るんだから鬱陶しい。


「考えられるほど暇はなさそうだな……ダンさん! 俺は生徒たちを無力化させます! 十秒だけそっちを任せてもいいですか!?」

「おう!任せろ!」


 クラスメイトからの一撃はよっぽどの事がない限り一撃で死ぬ事がないがこの化け物(キメラ)との戦闘では一瞬の隙が命取りになる。まずはこいつらを排除しないとな。


 ダンとキメラから離れた俺はクラスメイト達と対峙する。やはり嫉妬の効果なのか全員がこちらを向いてきている。

 俺はそいつらに向けて手を伸ばすと魔法を唱えた。


「聖なる光よ その者の呪いを解き放て 『リムーブカース』!」


 光属性の上級魔法、リムーブカース。対象の呪いを解除する魔法だ。光の玉のようなものが5個ほどできると生徒たちの胸の中に飛んでいく。すると魔法はうまくいったのか生徒達の眼が元に戻った。


「あれ? 俺は?……」「何があったんだ?」


 どうやらここ数十秒の事は記憶にないらしく混乱している。だが余りここでぐずぐずして居られても困るので逃げるように促す。


「とにかく階段へ昇れ!」


 俺が弱く威圧を使いながら叫ぶと、生徒たちはそれに従って階段のほうに駆けだしていく。今回ばかりは二宮も指示に従ってくれたようだ。

 俺はすぐにダンのもとに戻り、ダンに襲いかかろうとしていた蛇をはじき返す。


「ありがとうございます。あいつらが逃げ次第撤退でいいですね?」

「おう! お前が全力で障壁をはったら逃げる。いいな?」


 索敵で後ろを気にしながらも、キメラの攻撃をさばいていく俺達。そしてあいつらが完全に避難したのを確認するとダンに向かって合図を送る。


「避難が完了しました。こっちはいつでも行けます!」

 俺がキメラの左足を受け流しながらダンに呼び掛ける。今の魔力量は全体の四分の一ほど。少々心もとないが、ここで魔力を回復する事も出来ないのでこのまま突っ走る。


「よし!じゃあカウントダウンだ! 三、二、一……〇!」


「土の壁よ 我が盾となせ『土壁(アースウォール)』!」


 俺がほぼ全魔力を使って壁を出現させると全力で走り出す。魔力切れ寸前なため足が鈍いがそれでも走る。

 ダンはすでに階段の所に到着していて、俺の方に向かって手を伸ばして待っていてくれている。


 俺がダンに手を伸ばそうとした時、悲劇が起きた。


 突如轟音がしたかと思うと俺の足元が消し飛んだ(・・・・・)


「なっ!?」


 さすがにこれは予想していなかったので思わずバランスを崩す。しかし俺の体は魔力が枯渇していてふらふら。そんな状態でバランスを崩したら持ちこたえられるはずもなく転ぶ。


 俺は地面が消し飛んだせいで一気に崖まで転がっていく。体を動かそうとしても言う事を聞いてくれない。そんな状況で受け身も取れなかったらどうなるか、答えは簡単。


「あ」


 俺は何とも間の抜けた声を出して崖に放り出された。


次にもう一話投稿したら一週間ほど更新をお休みします。エタる事は無いので温かく見守ってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ