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勝利と発芽

いつの間にか50万PV超えしてました。これからもよろしくお願いします。

 俺はダンを連れて王城を抜けると二人で森の中を全力疾走した。


「セイイチ! そのソードオーガの特徴とか分かるか!?」


 走りながら俺に聞いてくるダン。相当やばいのだろう。いつもの余裕が顔から消えて歴戦の騎士の顔をしている。


「はい、大きさは大体5mほど、手には俺の剣より長いくらいの爪があって――ダンさん! 横です!」


 説明をしようとした所でソードオーガが出てきた。先ほどより王城に近づいている。このままだと王城を攻撃する可能性もある。


「チッ! 思ったよりでかいな。だが遅い!」

「ガアアアアアアアッ!」


 大声で吠えるソードオーガにダンは胸の部分を狙って斬りかかる。すると数メートルほどオーガが吹っ飛んだ。こいつ本当に人間なのか?


 吹っ飛んだ先で木を何本かなぎ倒したオーガ。やったか!? いや、これはフラグか。そもそもあれで倒せてるとは思っていない。


 予想通り起き上ってきたオーガ。胸元にはうっすらと傷が付いているだけで血は出ていない。思ってた以上にタフなようだ。


「あれでほぼノーダメージかよ。まずいな……来るぞ!」


 新たな獲物が来たと思ったのかダンに向けて突撃するオーガ。正直こんな筋肉でガチガチのおっさんを食ってもおいしくないと思う。


 どうやら狙いはダンのようで俺が少し下がるとオーガはダンに向けて爪を振りおろした。しかも俺にはなった時より数段速い。


「ふんっ!」


 しかしダンはそれを超えるスピードで剣を合わせてはじき返した。この速度になると俺も殆ど目で追えない。どうやら二人とも化け物のようだ。


 爪を弾かれたオーガはダンの事を敵と認識したのか超スピードで殴りかかってくる。しかしそれもダンにかわされ腕を斬りつけられる。


 今度は先ほどよりも深く入ったようでうっすらと傷から血がにじんでいる。おそらく普通の人だったら鎧ごと真っ二つの斬撃だろう。


 このレベルの戦いとなると俺は足手まといにしかならないので後ろに下がってくるかどうかも分からない援護の機会をうかがっている。俺も一応魔法が使えるがこんなオーガ相手に通用する魔法は一つも持っていない。せいぜい目くらましがいいとこだろう。


 その後もしばらく攻防が続いたが少しずつ疲れが出てきたのかダンの動きが鈍くなってきている。このままではまずい。しかし俺が行っても手助けどころか邪魔にしかならない。

 このままではダンがやられる。どうすればいい?


 手伝えないもどかしさが冷静な思考を邪魔する。

 考えろ、まだきっと何かあるはずだ。起死回生の一手が。どこかに必ず!


 しかし俺の努力もむなしく何も出てこない。このままでは本当にまずいと焦っていると突然オーガの咆哮が聞こえた。


「グルアアアァァァ!」


 オーガが吠えた途端森が揺れる。空気が震える。圧倒的な威圧感が恐怖を誘う。それを認識した途端に自分の下に死がやってきた錯覚にとらわれる。


「がっ!?」


 俺が恐怖にあらがっているとダンの短いうめき声が聞こえた。まさかと思ってダンの方に目を向けるとダンがオーガに吹っ飛ばされていた。吹っ飛ばされたダンは自身で木を折りながら森の中へ消える。


この国の最高戦力は騎士長のダンと近衛騎士長の二人、つまりダンはこの国で最も強い人間ということになる。


 そのダンが、負けた。


 そしてそのダンを倒したオーガが、俺を睨みつけている。

 逃げようと思っても足がすくんで動かない。そもそも逃げること自体が無意味なのだと思わされる。


 オーガはダンと戦ったせいでかなりの傷が付いているがそれでもなお獰猛な目をこちらに向けてゆっくりと近づいてくる。


 そして俺に向かって巨大な腕を振るう。俺は防御の姿勢を取るも圧倒的な筋力の差で簡単に吹っ飛ばされる。おそらく腕も折れているだろう。


 木にぶつかって止まった俺は立とうとする前にオーガに蹴り飛ばされる。

 それだけで俺は数メートルをノーバウンドで飛んだ。更にまるでボールのように何度もバウンドして吹っ飛んでいく。


 そして全身がボロボロになった俺にオーガは長く凶暴な爪を振りかぶる。


……これが万事休すと言う奴だろうか。


 俺が完全に諦めた時、俺の中で何かが弾けるような音がした――気がした。


「ガッ!?」


 ()はオーガの爪をかわすと飛び上がってオーガの顔面に蹴りを食らわせた。


 オーガは突然の抵抗に怯んで体勢を崩す。()はその隙を見逃さずに魔法を唱えた。


「大地よ窪め!『アースデント』!」


 体勢を崩したオーガの足元が突然凹む。急に現れた落とし穴にオーガは反応できずにそのまま仰向け倒れこんでしまう。


「大地の鎖よ 敵を縛れ 『アースバインド』!」


()は倒れたオーガに近づきながら魔法を唱えオーガを拘束する。

 

 仰向けのまま縛られたオーガめがけて()は持っていた剣で眼球を刺す。


「ガアアアアアアアッ!」


 目を刺された痛みで叫ぶオーガ、()はそのまま剣を蹴って深く差しこむ。しかしそれでもオーガは倒れない。


 ()は腕をオーガの眼球に突っ込むと中にある剣を掴み更に奥に差し込む。


 するとようやくオーガの抵抗が止まり端から光の粒子となって消えていく。



………

……


 そして俺は我に返る。何が起きたのかははっきりと覚えている。しかしそれを自分がやったように感じる事が出来ない。まるで自分の体が何をすればいいのかが分かっていて頭より先に体が出てきたような気がした。


 すると急激に疲労と激痛が襲ってきた。おそらく全身の骨が折れている。無理やりオーガを蹴飛ばしたせいで足も骨折をしているだろう。だがそんな激痛がするのにだんだんと瞼は重くなる。そして最後に完全に消え去っていくオーガの死体を見て俺は意識を手放した。



**********



“レベルがアップしました”

養分(経験値)が規定の値に達したため【種】が発芽します”

“【強欲の種】が【強欲の芽レベル1】に進化しました”



**********



「う……」

「気がついたか?」


 俺が目を覚ますとダンが俺を覗き込んでいた。知らない天井ならぬ知らないおっさんだ。いや知ってるけど。


「ここは?」

「王城の医務室だ。その中でも重傷の奴のみを扱う場所だ。ここには俺が運んでオルトの奴が治療してくれた」


 俺が聞くとダンがすぐに答えた。医務室?……ああ、確かオーガが出てきて……


「!! そうだ、オーガは!?……痛っ」

「無理すんな。お前はほぼ全身の骨を折ってたんだぞ? 治療をしたとはいえまだ完治はしてない。安静にしとけ」


 飛び起きようとして激痛が走った俺にダンは腕で俺を寝かしつけようとする。


「は、はい。それであの後はどうなったんですか?」

「俺がオーガに吹き飛ばされて気絶しているとスライムに起こされてな。どうやらおまえの従魔のようだったが俺が倒れているからと助けを求めに来たんだ。そんでスライムの案内に従うとお前が倒れていてな、怪我もひどいみたいだったから医務室に運んだんだ。ちゃんと従魔にも感謝しろよ?」


 俺が聞くとダンが簡単に説明してくれた。更にタイミングを計ったかのようにダンの背中からスライムが出てきて体をぷるぷると震わせた。


「そっか、お前が助けてくれたんだな。ありがとう」


 ついでになでてやろうかと思ったが手が折れているので諦める。代わりに微笑んでやるとスライムは俺のベッドに入ってきて俺の頬でぷるぷるし始めた。何この生き物可愛いんだけど。


 俺は最初にあったスライムが時速200kmで突っ込んでくる化け物だったので少々苦手意識があったようだ。


「それよりすまんな、結局役に立つ事が出来なくて。俺も王国でトップを争うなんて言われていて少々自惚れていたようだ」


 ダンが申し訳なさそうに頭を下げてくる。別に禿げかけのおっさんの頭皮なんて見ても俺は全く嬉しくない。


「しょうがないですよ。ダンさんが負けるってことはこの国の人間で倒せる人なんていないと考えてもいいくらいなんですから落ち込む必要なんてありません」


 これは俺の本心だ。そもそもダンは国の中で近衛騎士長と同じ強さを持っている人だ。あの状況でそれ以上の助けなんてなかった。たまたまあのオーガがイレギュラーだっただけなのだろう。


「そうか、すまんな。それはそうとお前はオーガをどうやって倒したんだ?」


 ダンが話題を変えて俺に聞いてくる。


「ああ、なんか死ぬと思った瞬間体が無意識のうちに動いて……」


 俺はあのとき感じた感覚を話した。あの感覚を味わったのはこれで二回目だ。

 ちなみに一回目は中一の頃いじめっ子にリンチされそうになった時、あのときは意識もあまりはっきりしていなかったが感じた感覚は全く同じだ。


「なるほどな、おそらく極限の状態で何かリミッターが外れたんだろう。俺はあまり詳しくないが死にかけた時に思わぬ力が出たってのは何回か聞いた事がある」


 ダンの言っているのは火事場の馬鹿力の事で俺のこれとは違うと思う。でもこの事を誰かに話したことでなんとなく安心が出来た。今までこの秘密は大地にしか教えていない。それもかなりぼかして説明しただけだ。


 俺はもしかしたら周りや自分が思っているよりずっと心が弱いのかもしれないな。だからこうやって信頼できる人には何でもさらけ出してしまうのかもしれん。


「……でもまあ、こんなときくらいは人に頼るのも悪くないかな」


 ダンにも聞こえないようにつぶやいた言葉だがスライムには聞こえたようでそれを理解したのかしてないのか、また体をぶるっと震わせた。


やっとチートがちょロッと出てきました。

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