とある休日と名前呼び
それから数日が過ぎた。今日で異世界に召喚されてから一週間になる。あれから魔法の実験をしたり家の近くに迷い込んでくる魔物を倒したりしているうちにステータスもかなり上がった。今のステータスはこうだ。
【名前】 セイイチ・キサラギ 17歳
【性別】男
【種族】人族
【レベル】11
【生命力】220
【魔力】 210
【筋力】 230
【防御】200
【持久力】210
【敏捷】 210
【魔攻撃】210
【魔防御】160
【運】300
◆スキル
[鑑定lv5]
[偽装lv3]
[剣術lv2]
[水魔法lv2]
[魔力操作lv2]
[土魔法lv1]
[無魔法lv2]
◆エクストラスキル
[強欲の種]
◆称号
[異世界を渡し者]
取りあえずレベルアップについて観察してみたがどうやら魔法を使うと魔力と魔攻撃が中心に上がり、打撃系で倒すと筋力が中心に上がると言ったようにレベルアップをした時に主に使用していたステータスが上がりやすくなるらしい。確かにスライムを倒したときは魔力や魔攻撃、魔防御についてはあまり上がっていなかった。ポ○モンで言う努力値と言ったところか。
魔法については水魔法のほかに土魔法と無魔法を覚えた。土魔法は今のところ土の塊を作る程度だがレベルが上がれば家くらいは作れるかもしれない。
無魔法はテレキネシスや魔力の糸を作ったりする魔法だ。土魔法と無魔法は基本的にこの世界ではあまり人気がないようだが割と使い勝手がよく重宝している。
「確か明日から魔法の授業が始まるんだっけ? 俺の魔法は完全に独学だから魔法の授業も楽しみだな」
そう言えばこちらに来てから独り言が多くなった。一人でいる時が多いからだろうか。
そんなことを思いながらボロ屋の扉を開けて朝の訓練をしているダンの所に向かった。
俺が訓練場につくと相変わらずダンは汗を撒き散らしながら素振りをしていた。最近ステータスが上がったせいかダンの素振りが見えるようになってきたのだが素振りの方がものすごく綺麗だ。それでいて俺の倍以上のスピードで振っている。なんでも王国最強と言われている近衛騎士のトップとも互角に戦えるレベルらしい。
改めてダンの凄さを実感しながら俺も剣を振る。剣術スキルが上がったおかげか俺の素振りもなかなかサマになってきた。多分クラスの中では一番強いだろう。尤もレベルの差もあるので技術で一番かどうかを問われると少々怪しい。
ちなみに俺の振っている剣は訓練用の刃を潰した剣で1.5kgほど。それに対してダンは金属の塊みたいな剣を振っている。何でも10kgあるんだとか。なんでもダンが使う剣は特殊な金属が使われていてそいつのせいでアホみたいに重いらしい。やっぱこいつは化け物なのか?
その後はダンと風呂に入り食堂に向かって飯を食うと図書館に向かう。今日は訓練が無いので昼飯を食わずにずっと図書館に籠るつもりだ。
午前中は魔法についての本を読み漁り昼飯時になると気分転換で軽く素振りをしてまた図書館に戻る。
今度はスキルについての本を読もうと本棚を探していると鎌倉さんに遭遇した。
「あ、如月くん。偶然だねー」
「やあ鎌倉さん。鎌倉さんも図書館にいたんだ」
「うん。スキルについてちょっと調べようかと思ってたんだけど……如月くんも何か調べ物?」
「ああ、俺もスキルについて調べようかと思ってここに来たんだけど……スキルについての本ってどこにあるか分かる?」
どうやら鎌倉さんも同じ目的なようなので本の場所を聞いてみる。
「あ、この本なんだけど……せっかくだから一緒に読む?」
本を抱いてこちらを上目遣いで見る。ここで断る奴は男じゃない。いや人間ですらない。いやむしろこれはゴブリンですら断らないと思う。だからこれを断る奴は生物ですらない。
「あ、ああ。でもいいの?なんか悪いな」
「でも如月くんもこの間一緒に読んでくれたしそのお返しだと思って!」
なんか満面の笑顔でこっちを見てくる。これはもう魔王でも断れないね、もちろん俺が断る理由もないし是非お供させていただきたい。
「そうか、悪いな。じゃあ向こうに行こうぜ」
心の中のかなり危ない思考を外に出さずいつもの調子で読書スペースを指す。
……いつもの調子だよね?
俺は鎌倉さんの髪の毛の匂いを堪能しつつ鎌倉さんと本を読んでいく。
スキルとは技が一定の熟練度に達するとスキルとして発現し行動に補正がかかるというものだ。
スキルにもいくつかの種類がある。
ひとつは俺の剣術スキルのような武術系スキル。
剣術のほかに槍術や斧術と言ったメジャーなものから棒術や刀術なんてものもあるらしい。
もう一つは魔法系スキル。これが一番数が多い。
例えば水魔法や無魔法、回復魔法などはほぼ全てがこれに該当する。また鑑定スキルや偽装スキルもこの中に入るようだ。
最後に耐性系スキルだ。
耐性系スキルとはその名の通り状態異常などに耐性を持つスキルだ。
例としてはゾンビの毒耐性やゴーストの物理無効スキル、人間にも取得は可能だが基本的に魔物がよく持つスキルなのだとか。
こう考えると俺の『強欲の種』はどこのスキルになるのだろうか? 神が直々に作ったとか言ってたし例外に入るのか?
後はスキルレベルについてだ。
1、2では初心者、基礎でスキルの使い方が分かっているレベルだ。
3で中級者レベル、4で玄人レベルとなりレベル4もあればそれなりと言われることができる
5で上級レベル。このレベルになるとスキルの種類によってはその道で食っていけるようになるのだとか。
6で達人の域に達して剣術スキル持ちの人では道場を開いてたりもする。
7、8になると王国の近衛騎士レベルになのでダンもこのあたりなのだろう。
9は勇者伝説の中に出てくる勇者一行と魔王くらいしか確認されておらず10になると神レベルと呼ばれ神話の中でしか出てこないそうだ。
その後も俺は鎌倉さんの髪の匂いを堪能しつつスキルについて調べたり髪の毛の匂いをかいだりしていた。どんだけ匂い嗅いでるんだよ変態か俺は。いや、変態か。
「と、ところで如月くん。この世界では平民の人たちは名字を持ってないらしいね?」
辺りも暗くなってきてそろそろ帰ろうかと思った頃、鎌倉さんが唐突に聞いてきた。
「ん? ああ、そうらしいね。俺も本で読んだくらいだからそんなに詳しくはないんだけど」
鎌倉さんの言うとおりこの世界は平民は名字を持っていない。でもなんで今?
「それでなんか意識しちゃうと貴族様みたいでなんか変って言うかちょっとおかしな気がして……ちょっと名前で呼び合ってもいいかな?」
「……はい?」
ドウイウコトデスカ? 名前呼び? 何で俺が? 恋人みたいじゃん。
確かに鎌倉さんのような美少女と名前で呼び合うなんて言うのはおそらく俺のクラス男子の夢なのだろう。俺だって鎌倉さんのような美少女と名前呼びの中なんてのは素晴らしいと思う。
でもなんで俺? 下手したら恋人と勘違いされて二宮あたりに刺されるんじゃないのか? いや下手すると二宮以外にも刺してくる奴がいるかもしれない。本気でそうなりそうなのが怖いな。
「えっと……俺は別にいいけど……鎌倉さんはいいの?」
念のためにもう一度聞いておく。別に名前呼びなら俺じゃなくても浅野みたいなリア充に頼めばいいはずだ。一時の気の迷いで俺なんかに名前呼びを許してしまったりなんかしたら目も当てられない。
「え? あ、その、えっと……うん。大丈夫だよ? ほら! えっと……誠一……くん?」
「グハァ!」
やばい。思わず声に出してしまった。恥ずかしそうにしながら最後の方が小声になりつつも上目づかいでこっちを見てくる。なんなのこの子? 物凄く可愛いんですけど。
……まあ落ち着け、あれだ。鎌倉さんは平民ッぽくって言ったはずだ。だからきっと俺だけじゃないんだ。多分大地や浅野にもなまえ呼びになるはずだ。だから大丈夫、すぐ慣れる、落ち着け俺。
「……如月くん!?……じゃなかった。誠一くん!?大丈夫!?」
そのまま何度も壁に頭を打ち付ける俺を心配したのか鎌倉さんが声をかける。誠一くん? 何それイケメンそうな名前だね? そんな人がいるんだーハハッ。
「……ハッ!?……いや、なんでもない。大丈夫だよ鎌倉さん」
現実に帰ってきた俺は鎌倉さんにごまかすように言う。すると鎌倉さんは少し不機嫌な顔をして、
「私の事も結衣ってよんで?私だけ名前呼びだと変な感じだし」
「えっと……ゆ……結衣……さん?」
「さんはいらないから、結衣って呼んで?」
「えっと……結衣?」
「うん、そう! えへへ……」
俺が結衣と呼ぶと鎌倉さんは途端に笑顔になりどこかおかしな方向に顔を向けたまま図書館を出て行ってしまった。一体なんだったんだろう。
「俺もせいぜい二宮辺りに背中を刺されないように気をつけますかね……っと」
俺も腹が減ったので本を戻すと鎌倉さんが行ったであろう食堂に向かった。
二人が名前呼びする仲にまで発展しましたね。でも鎌倉さんは本当にこんなことを思いつくのかな?
……一体だれの差し金でしょうね?




