実験と思惑
今回は少し短めです。
俺は夕食をとるとすぐに自分の家に戻った。いつもならあんな汚い所嫌なので出来るだけ食堂でお茶を飲んだりして時間を潰しているのだが、今回は違う。とっとと王城から抜け出して魔法を使ってみたかったりする。
いつもの俺だったらこんな真っ暗なところで使いこなせない魔法のために身を危険にさらしたりなどはしないのだが、今日はなぜか異様にテンションが高かった。
そしてボロ屋に入ると地面で座禅を組む。まずは魔力を感じ取る訓練からだそうだ。
(体の中にある魔力……血管の中をめぐっていると考えればいいか?)
まずは転生物の小説の中でも王道のやり方をで実践してみる。なにやら体の中に温かいものがあるのが感じ取れる。どうやらこれが魔力のようだ。
次に詠唱だ、いくらなんでも最初にアレンジや詠唱短縮が使えるとは思えないので、教本に乗っていた呪文をそのまま詠唱する。
「我が魔力よ 水の波動を借りて水を成せ 『ウォーターボール』」
手を前に伸ばして唱えると水の塊が扉に向かって飛んでいき扉を濡らした。
“【水魔法】スキルを獲得しました”
直後にアナウンスが流れたことからもおそらく成功したのだろう。一発で成功というのはすごいのかわからんが幸先がいいな。
他の魔法も使ってみたいが、取りあえずはこの水魔法について考察してみよう。
まずは詠唱についてだ。
まず『我が魔力よ』の部分に魔力を練る工程があるのだろう。
その次の『水の波動を借りて』の部分はよくわからない。これは水魔法にかかわらず初級魔法のすべてについている文句だがなんなのだろうか?
最後の『水を成せ』で水を形成する。ここは簡単だな。
ならば詠唱なしで魔力を練ることが出来れば、最初の部分は省けるわけだ。さっき魔力を感じ取ったイメージのまま体の魔力の一部を手に集中させる。
「水の波動を借りて水を成せ 『ウォーターボール』!」
今度は先ほどよりも大きい水が壁にぶつかって弾けた。
「よし……じゃあ今度は『水を成せ』の部分を『水球を成せ』に変えてみて……」
その後試行錯誤を重ねながらウォーターボールで実験をしていた。
“【魔力操作】スキルを獲得しました”
脳内にアナウンスが流れてくると、なぜか強烈な眠気に襲われた。これはもしかしてあれだろうか。【鑑定】!
[【生命力】 180/180
【魔力】 15/140]
自分を鑑定してみると魔力が十分の一近くに減っていた。おそらくこれの影響だろう。
ついでに最近気付いたことだが、鑑定スキルは特定の事について知りたいと思うといらない部分を省略して表示してくれるようだ。
……ダメだ、もう頭が回らない。
俺は地面に横たわるとそのまま意識を手放してしまった。
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その夜、王城のある一室でノスティア国王と数人の貴族たちが集まっていた。
「よくぞ集まってくれたな。私がここにお前たちを呼びだしたのはほかでもない、あの勇者どもの事だ」
ガウルが全員が集まったことを確認して話を始めた。
「今のところ勇者たちは経験を積むためと言って半年の間ここに留めておくつもりだ。その後忌々しき魔王の討伐に向かわせ、帰ってきたらやつらを監禁して戦争に向かわせる。間違いないな?」
ガウルの言葉に一人の貴族が質問をする。
「国王陛下、奴等が魔王を討伐した後ここ王城に戻ってくるのですか? もし奴等がブレイン公国やグラント帝国に付いたりなどしたら王国は甚大な被害を受けることになると思いますが?」
その質問にガウルはニヤリと笑みを浮かべる。
「何、心配はいらん。それについてはすでに手を打っている。隷属の腕輪を付けさせればよかろう。幸い私は付加魔法士への伝手を持っているのでな。あんなガキどもを騙すには十分だろう」
「なるほど、ならばブレイン公国内に勇者どもを置いて反乱を起こさせることも可能という訳ですか。やはり国王陛下は先を見据えていらっしゃる」
気持ち悪い笑みを浮かべる貴族を見たガウルは更に言葉を続ける。
「それともう一つ、出来損ないの勇者に関してのことだが……マリーによると奴は我々の計画について感づいていると見られる言動をしたとの事だ。奴については早急に手を打っておく。話は以上だ」
そう言うとガウルは部屋を出て行った。
久々に時間ができたのでがんばってストックを作りつつ昼寝をしてみたり