聖剣と剣術
訓練は今日も昨日と同じように素振りとランニング。魔法の訓練が始まるまでは基礎と体力づくりに専念するらしい。
「よし、今日はここまで! 各自体を休めるようにな」
ダンが終了を宣言すると一人の生徒から質問が上がった。
「あの……何で俺たちは剣だけなんですか? この世界には槍とか杖があるんでしょう?」
確かあいつの名前は……あー、男子生徒Aが質問した。
その質問にダンは、
「勇者伝説によると魔王にとどめをさすことができるのは聖剣という特殊な剣のみらしい。他の武器ではダメージを与えることはできてもとどめを刺すことはできない……と、言われている」
と、答えた。
ふむ、聖剣とな。確かに勇者伝説には聖剣で魔王を封印していたな。でも確かあの物語の中では聖剣は……
「そうなんですか、それでその聖剣はどこにあるんですか? この城に?」
尋ねる男子生徒……男子生徒Bにダンは顔を顰める。
「その聖剣なんだが……魔大陸で魔王が封印されている魔王城に刺さっていると言われている」
そう、聖剣は魔王を封印するために聖剣が魔王城に刺さっている。
「じゃあ俺たちは魔王をどうやって倒すって言うんだ!? 聖剣無しにどうやって!?」
叫ぶ二宮。でもダンに突っかかるんじゃなくて、その場で叫ぶだけにとどめているのは成長した証だろう、多分。
その叫びにダンは真面目な顔で答える。
「まあ落ち着け。無いなら作ればいい。違うか?」
お前はどこの王妃様だ。そんな簡単に作れるものじゃないから、聖剣に価値あるんだろうが。
「あの聖剣は伝承によると代々伝わるエルフの技術の結晶と言われている。エルフの里に行けば、聖剣を打ってもらうことも不可能では無い筈だ」
エルフの里か……確か人間の大陸の中でもかなり面倒な森の中にあるんだっけ?
それにしてもまさかクラス全員分打ってもらおうとか言う訳じゃ無いだろうな?
「もちろん三十人以上いる勇者全員に聖剣を打ってもらう訳にもいかない。おそらく一本が限界だろう。その代わりと言っては何だが勇者たちには国から剣が支給される。もちろん聖剣ほどの性能があるわけではないが、それでも特異級の剣で光属性が付加されているため、悪魔も斬ることができる」
つまり聖剣は一本だけだが、他の勇者には光属性がついた剣が国からもらえるという訳か。
ちなみに特異級というのは道具のレアリティの一つで、低い方から順に
下級
中級
上級
特級
特異級
伝説級
神器級
無限級
の八つがある。目安としては一般的な鍛冶屋で打っているのは中級~上級、上級が打てる鍛冶屋は一般的に一人前とされる。
その上の特級になると一気に数が減り、一流の鍛冶職人や器用と言われるドワーフの中でもそれなりの修行を必要とするレベルだ。
更にその上の特異級は世界の中でも数えるほどしか作れる人間がいない。そんな剣を三十本も手に入れられる王国の権力は驚くべきものだ。
その上の伝説級武器は基本的に人の手では作れない。唯一作れるのが勇者の聖剣というわけだ。
超高難度のダンジョンの最奥部に置いてあることが多く、このクラスの武器を持っているだけで世界の情勢が傾きかねないレベルのブツである。
その上の神器級は神話の中でしか登場しない、神々が使っていたと言われている武器で現在は存在していないらしい。
更にその上、一番上の無限級。これについては神話の中でも登場しない、実際に見たこともなく、なぜこんな区分が存在するかも分からないというものらしい。なんじゃそりゃ。
話が逸れたな、つまりそんな中でも人間が作れる最高峰の武器を三十本も寄越してくれるという。王国様様だな。
「なるほど、つまりエルフに頼んで打ってもらうしかないんですね。難しい問題ですが魔王を倒すためにやり遂げてみせます!」
ダンの話を聞いて意気込む浅野。実際に難しいんだろうな、勇者ですと言ったらはいそうですかと、打ってくれるわけじゃないだろう。まあ俺はそんな聖剣なんていらないから関係ないな、浅野あたりが使ってくれればいいさ。
話も終わり解散になったが俺はなぜかいつもほど疲れてないので図書館に行く前に何度か素振りをする。
そんな俺を見かけたダンが俺によってきた。
「おう、セイイチか。どうしたんだ? 自主練なんて真面目なこったな」
「いえ、今日は何でかそこまで疲れなかったので少し素振りをしようかと」
俺が答えるとダンが見ていてくれると言ったので、ダンに教わりながら素振りをする。すると、
“【剣術】スキルを獲得しました”
どうやら剣術もスキルとなって出てくるようだ。後で確認しないとな。
その後十分ほど素振りをつづけた俺はダンに礼を言って訓練場を後にした。
主人公はチートだけだなくまじめにコツコツやってもらいたいと思います。