治療と回復魔法
翌朝、昨日と同じ時間に起きた俺は自分の具合を確認する。
「……よし、まだ痛みは残ってるが大丈夫……ダンに頼めば医療室まで連れってってもらえるかね?」
きっと今ならダンも訓練中だろう。城の中なら医務室があるだろうしダンに頼めば連れて行ってもらえるはずだ。
「それにしても自分の回復力に驚きだな。まさか吐血までしたのに歩けるとは……」
結構バトル漫画などでは腹パンで吐血したりする描写があるが実際に吐血するレベルの衝撃というのは胃などの消化器官にが破けるほどの危険なダメージだったりする。幸い肋骨は折れてないようだが下手したら歩くことすらできなかったかもしれない。ファンタジー様様だな。
昨日もそうだったがこの時間は王城内にメイドがいないのだがなぜだろうか?
訓練場に行くと予想通りダンが素振りをしていた。相変わらず汗を撒き散らして暑苦しいなおい。
「ふぅ……ん? おおセイイチか、相変わらず早起きだな、また訓練につき合ってやろうか?」
ちょうど素振りが終わったようで、俺に気付いたダンはまた訓練に誘ってきた。
「いや、今日は少し遠慮しときます。それより、ちょっと怪我しちゃって……治療室みたいなところってありますかね?」
俺が聞くとダンは心配そうな顔をして、
「ん? よく見ると重傷そうだな。俺が連れてってやる」
と言って肩を貸してくれた。いい人だ。いい人なんだが……できれば汗だけでもぬぐってほしい、こっちは見た目だけで暑苦しいんだ。なんかべたべたしてて気持ち悪い。
「あ、ありがとうございます」
「なに、気にすんな。勇者の世話を任されてるしな」
それから二人とも無言のまま歩いていたが、ふとダンがあることを尋ねてきた。
「そういえばお前、自分のメイドに聞けば医務室の場所くらい教えてもらえるだろ? 何でわざわざ俺のところまで訪ねてきた?」
あー、確かにそうだな。メイドがいたらそうするわな。
「実は俺、一人だけメイドつけられてないんですよ、人数が足りないとか何とかで……」
余りこの話を知られたくないので事実を多少ぼかして話す。
「あー……また王女様の悪い癖が出たか」
何やら残念そうにつぶやくダン。また、ってことはいつもやってるのかあれ。
「いやまあ最初にあったとき口論しまして、ステータスが周りより低いこともあってかメイドも付けてもらえないし、部屋なんて王城の外のボロ屋なんですよ。またってことはいつもあんな感じなんですか?」
王女の悪行を知ってるようなのでついつい話してしまう。俺は本当に秘密にするつもりがあるのだろうか?
「まあ、あの人は少し難しいところがあるからな……普段は国の事を一番に考えて居るいい人なんだが……何か不自由してる事があれば俺に言えよ? 少しは手助けしてやるから。おっと、ここが医務室だ。これでも王城の医務室だからな、高位の回復魔法の使い手がいるし安全は保証するぞ?」
それなりに立派な扉の前で立ち止まった俺とダン。この世界の治療というのは、回復魔法と薬草やポーション等の薬類を使用するものがほとんどらしい。絆創膏なんてものはないのだろう。
中に入ると豪華な服に身を包んだ神父さんが居た。
「おや、治療ですかな?」
ダンの肩を借りて入ってきた俺を見るなり、神父さんはそう聞いてきた。
「ああ、こいつの怪我を治してやってくれ、結構重傷みたいでな」
「分かりました。ではそこに座ってください」
神父さんが俺の腹をみると顔を顰める。
「これは結構ひどいですね。治療に少し時間がかかるのでそのまま楽な体勢にしていてください」
「えっと、そんなにひどいんですか?」
結構不安になってくる。
「いえ、確かにひどいですが治せないほどではありませんので安心してください」
神父さんは俺に安心させるように行ってくる。このあたりは現代の医者と同じだな。
「では失礼して……命の鼓動よ 汝の傷を癒さん 汝に命の息吹を 『ハイヒール』」
途端に腹のあたりを気持ちのいい温かさが包み痛みが引いていった。おそらくこれが魔法なんだろう。
三十秒ほどすると光が消えた。もうほとんど痛みは残っていないが、さらに神父は詠唱を続ける。
「汝の傷を癒せ……『ヒール』」
もう一度温かい感覚が包んだと思ったら、少し残っていた痛みが完全に無くなったなくなった。
「これで治療は終わりでございます」
「やっぱりオルトの回復魔法はすごいな。ハイヒールに詠唱短縮までつかえるとは」
「ありがとうございました」
神父さん――オルトさんに礼を言う俺。おそらくさっき使ったハイヒールと詠唱短縮とやらもすごい技術なのだろう。
「いえいえ、それほどでもありませんよ。世の中にはエクストラヒールを使える人もいるのです。そんな人と比べれば私なんてまだまだ……」
謙遜するオルトさん。エクストラヒールなんてものもあるらしい。名前からして凄そうだから、なかなかお目にかかることはできないんだろう。王城にもいないみたいだし。
「いえいえ、十分すごいですよ。ありがとうございました」
もう一度礼を行って医務室を離れる俺達。そのままダンは風呂に行くと言っていた。俺も昨日戦ったせいで汗だくなので、着替えを持って来てから俺もすぐに風呂に入ると言って一度別れた。
「よし、そこまで時間もないしとっとと風呂入りに行くか……そういえば昨日倒したスライムのドロップってどうなったんだろう?」
風呂に行く前に昨日の戦利品がどうなっているのかを確認しに行く。最悪、無くなってても所詮ゴブリンより弱い魔物のドロップだから期待はしていないが、一応な。
昨日スライムを倒した場所に行くと、スライムの落としたであろうアイテムが転がっていた。魔物に取られていることはなさそうだ。
スライムのドロップアイテムを確認するとゴブリンの魔石より大きい、拳ほどの大きさの魔石とゼリーのようなものと――球体の何かが落ちていた。念のために鑑定を発動させる。
【鑑定】!
[スライムゼリー
スライムからドロップするゼリー。
毒があり人間には食べられない]
[スライムの魔石(4)
スライムからやや低確率でドロップする魔石が合成されたもの。
魔力を込めることができるが一定以上の魔力を注ぐと壊れる]
[スライムの核
特殊な条件を満たしてスライムを倒したときに低確率でスライムからドロップする。
複数個のスライムゼリーで覆うとスライムが使役された状態で生まれる]
どうやらスライムのドロップアイテムで間違いないようだ。『合成されたもの』ってのが気になるが、スライムのレベルが高かったからだろうか? 最初からこの状態で手に入った。
このドロップアイテムたちを見ていると昨日の戦闘を思い出す。正直なところ昨日はかなり危なかった。おそらくこの高レベルでも倒せたのは。本来のスライムという種族そのものが弱かったからではないかと推測している。これがオークみたいな強い種族だったらLv90どころかLv50程でやられていただろう。
俺は戦利品を着替えの間に挟んで隠すと、裸のダンが待っているところ……つまり風呂に走って行った。
俺が風呂から上がって食堂に行くと大地が話しかけてきた。
「よお誠一、どうしたんだ? 昨日の夜は夕飯に来なかっただろ」
「ああ、ちょっと外でスライムに襲われてな」
聞いてくる大地に料理を食べながら小声で話す俺。嘘は言っていない。
「スライム? スライムってスライムか? 強いのか?」
「いや、スライムは子どもでも蹴飛ばせば死んでくれる雑魚だぞ?」
「じゃあなんで?」
不思議に思う大地に少し考えたあと喋る。
「ちょっと俺の戦った奴はレベルが高くてな、かなり苦戦した」
「苦戦? お前が苦戦するほどってどのぐらい高いんだ?」
大地には俺がいじめられていた頃5人をまとめてボコボコにしたことを話しているので余計に心配されているようだ。
「お前だから言うけど絶対人には言うなよ?……Lv90だ」
俺も何かあった頼れる仲間がほしい。大地は信用できるし、もうすでに俺の話を聞いている。話しても大丈夫だろう。
「なっ!? それって……すごいのか?」
思わずずっこけそうになった。まあこいつらはまだ魔物にあってないし、こんな反応が妥当だろうな。
「いや俺も詳しくはわかんねぇけど大リ○グボール1号も真っ青なスピードで体当たりしてきたし多分かなり強い……と思う」
俺も普通のスライムがどんなレベルなのか知らんが、時速200kmで動くスライムを子どもが蹴り飛ばせるばせるとは思えないし、あいつは異常だったんだろう。
「お前よく勝てたな……やっぱおまえは異常だよ」
「そうか? 俺は普通の高校生だよ。なんたって俺が一番驚いてるんだから」
本当によく死ななかったよな俺。
大リ○グボール1号は花形が打ち返した奴で2号が水に弱い奴で3号は……どんな奴だっけ?