ラブコメと秘密の共有
「へ~ずいぶんと広いんだね~、ってここ広すぎないっ!?」
あまりの広さに驚く鎌倉さん。まあそうだろうな、下手な前世の図書館なんか比べ物にならない広さだ。インターネットも宅配便もない、こんな世界でよくこんな数の本を集めたなと感心してしまう。
「すごいな~。ってわわっ!? なんで入口にこんな本が!?」
なんとなく本を手にして、表紙を見た鎌倉さんは慌てて本を戻す。最初に来た人はみんなやってます、と言っても俺だけだけど
「本当何でこんな入口付近にこんなの集めるんだろうな」
俺も通った道なだけに気まずいから思わず笑ってごまかしてしまう。
後にダンさんから聞いた話では、俺たちが出入りするところは王城と直接つながっている部分で、一般の入り口とは違うためにこんなところに出る作りになってしまったらしい。それでいいのか。
「ところで鎌倉さんは何かを調べに来たの?」
ひとまずエロ本コーナーから逃げ出した俺は鎌倉さんに尋ねた。
「ううん、王都にはすごく大きな図書館があるって聞いたから来てみたかっただけだけど……如月君は何か調べ物?」
「まあね、これから戦う魔物ってやつがどんなものなのかを知っていた方がためになると思ってね」
俺は少し迷った後答える。本当はもっと差し迫った、俺の毎晩の安全のためなんだけど。あまり心配をかけたくないのでできる限り内緒にしておきたい。
「やっぱり如月君は真面目だね。私なんてちっともそんなこと思わなかったよ」
感心する鎌倉さん。自分ではあまりまじめだとは思わないけどな。しかし実際に魔物を目にしたから魔物に対して敏感になっているところもあるんだろうが、それでも魔物について全く調べようと思わないのはどうかと思う。
一階に下りてきた俺たちは、今日の朝に来たエリアと同じところで魔物事典を取り読書スペースに行く。今度は運よく机が付いている所が空いていたので、そこに二人で座る。さすがに広辞苑の倍以上ある事典を膝の上で読むのはつらい。
鎌倉さんと一緒に読んでいるので、だいぶスローペースだが別に問題ない。何か体が密着して柔らかい感じがするし、鎌倉さんの髪の毛いい匂いするし、なんの問題もない。鎌倉さんの髪の毛の匂いはシャンプーの匂いだろうか? いやこの世界にはシャンプーがないしそもそもさっきまで訓練してたからこれは汗のにおいだな。つまり鎌倉さん自身の匂いと言える。やばいそう考えるとなんか興奮してきた。
かなり馬鹿な事を考えているが顔はいたって真顔だ。ついでに気持ちを落ち着かせるために柱に全力で頭突きをしたのでそちらも問題ない。
「えっ、如月くん急にどうしたの!?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと混乱しててね」
こちらを心配する鎌倉さんを誤魔化す。何考えてるかばれたらドン引きされて嫌われて避けられるだろう。廊下で会うたびにゴキブリを見るような目で見られたりしたら、もう立ち直れないかもしれない。
「そ、そう? ならいいけど……それにしても私、魔物と戦えるか不安になって来たよ。魔物とはいえ生き物を殺すっていうのはあまりしたくないし……」
「読んだ限りではこっちからやらないと殺されるような相手だと思うよ? 人間ってわりと必要に駆られればなんでもできる生き物だし、大丈夫じゃないか?」
根拠はないが、俺がゴブリンに襲われたときは命の危機を感じた。相手が完全に殺しに来ているのが分かったから、こちらも全力で迎え撃った。叔母から暴力を受けたり中学時代にリンチされそうになった時もとにかく殴ってきたら殴り返すようにしていたのが幸いしたのだろうか?
あの頃はやり返さなきゃ自分や妹の身が危ないと思って、ついやってしまっていたからな。
「そうかな……でも私も如月君や皆を守るためにだったらがんばって戦うよ!」
張り切る鎌倉さんが可愛い。ついでに言うと「俺」と「皆」を分けてるあたりがポイント高い。下手したら思わず勘違いしてしまう。
その後は特に何もなく事典を読み進めていった。
ちなみにゴブリンの名前はゴブリンで合っていた。その他スライムやコボルト、オークにオーガ。ミノタウロスやドラゴンエトセトラ……ほとんどがおなじみの名前だった。
飛ばし飛ばしながらも読み終わったころには、すでに夕方になっていた。夕飯までまだ少し時間はあるがさすがに目が疲れたのでお開きにした。
「それじゃあバイバイ」
「ああ、また明日……まあ夕食で会うかも知んないけど」
図書館を出た俺たちは男子側と女子側の所で別れた。ここまで来たのは部屋を知られたくないのもあるがもう一つ、会いたい奴がいたからだ。
そいつを探そうとしたらタイミング良く廊下で鉢合わせをした。
「お、誠一じゃねえか。どうしたんだこんなところで?」
「よう大地、ちょっとおまえを探しててな。ちょっとおまえの部屋に邪魔したいんだがいいか?」
大地を見つけた俺は大地に案内されて部屋に入って行った。
「で、どうしたんだ急に? お前がわざわざ俺を探してまで話があるなんて珍しいな。惚れたか?」
部屋に入るなりふざけたことをぬかす大地にチョップを食らわせておく。
「んなわけあるか。ちょっと相談事があるんだけどよ……」
俺の目的は服だ。今のところ俺の服は一着しかない。毎日訓練で汗だくになったり魔物に襲われて血だらけになったりしていたら。すぐに着れなくなってしまうだろう。
あまり人に教えたくないが、大地なら口が堅いから教えても大丈夫だろう。鎌倉さんとかに教えたら怒って皆に喋っちゃいそうだしな。
「ああ、まずは俺が今住んでるところの話からなんだけどな……」
俺は大地に説明を始めた。王女や国王が俺たちを騙している可能性がものすごく高い事などは話していないが、それ以外は全部話した。王女に突っかかったせいで目を付けられたこと。ステータスを見られた時に鼻で笑われたこと。王女にボロ屋に案内されたこと。俺が落ちこぼれだと周囲に言いふらされていたことなど全てを話した。
それを聞いた大地は激怒して立ち上がると
「何て野郎だ、そんな奴は俺が直々に成敗してやろう!」
などとわけのわからないことを供述しており……って本当に何言ってんのこいつ?
「悪い、取り乱したな。それにしても何とかならないのか? 王に直接訴えてみるとか」
「無茶言うな、それと見た感じあの王は親バカだからな。多分、全面的に王女の言うことを信用して、下手したら追放されるぞ。むしろグルかもしれない」
正直あいつらは信用できないしな。
「でもなんでわざわざ俺に? 着替えくらいならその辺にいるメイドから渡してもらえるんじゃないのか?」
大地の言うことはもっともだ。しかし王女はそこまで甘くなかった。
「一回やろうとしたんだけどな。王女の命令らしくて直接個人に渡すなと言われているんだと」
つまり着替えの補充はクローゼットにやれということだ。完全に俺対策だな。
「そういうことなら俺が横流ししてやるよ。好きなだけ持ってけ」
すぐに理解して納得してくれる大地。俺もいい友を持ったものだな、大地と言い鎌倉さんと言い。
「さすがにそんな持ってけないし、そんなに置いたらボロ屋の中で埃まみれになっちまうしな、取りあえず五着ぐらいくれ」
クローゼットの中には服がびっちりと詰まっていた。クローゼットもかなり大きく、全部で四十着程あるだろう。その中でも動きやすい服を数着もらった。
「足りなくなったらまたこい、古い奴も持ってくれば俺が洗濯しておいてもらうから」
大地に礼を言い部屋を出ようと、すると後ろから声がかかった。
「おう、お前も案外気がきくな。将来はきっといい奥さんになれるぜ!」
「奥さんかよっ!」
イケメンスマイル(たいしてイケメンじゃないが)でサムズアップする俺に突っ込む大地。あれなんかデジャヴ
俺は改めて礼を言うと、大地の部屋を出て自分の家に戻るのだった。
誠一君が変態に……いやまあ日本でも妹のパンツかぶったりしてたんですけどね