修理とオーク
遅くなりました。次話は一週間以内に投稿します。
大回廊を抜けて三週間ほど、俺達はウィールの街を早々に出発して着々と勇者達に近づいていた。ジョズによると、この周囲は街と街の間隔が広く、馬車、それも大人数で移動しているなら確実に何度かは野営をしないといけないらしい。そこを狙って多少強引にでもコンタクトを取ろうという作戦だ。
「一応魔王を倒す希望の勇者様が護衛をいっぱい連れて移動してるってことは無いだろうしな。そういや、結局聖剣とかどうすんだろ? エルフの里とか探してんのかね」
エルフの里がどこにあるのかよく知らないけど、そっから聖剣を打ってもらうよう交渉しなきゃいけないんだよな。浅野も大変だよな。俺勇者じゃなくてほんとよかった。いや、あのダンジョンで崖から落とされたのが良かったとは全く思ってないけど。そういえば俺のことを落としてきた……二宮だっけ? あいつはどっちにいるんだろう。
「もし浅野に覚えられてなかったらどうしよう? 怪しいやつとしてその場で殺されちゃったりしないかな? なんか不安になってきたぞ……っと、ひとまずこれで完成かね」
俺の狭い交友関係のせいでいらぬ不安を抱えながら、手元の木刀に魔力を流して様子を見る。よし、問題なさそうだな。
「ジョズ! 木刀の試し切りをしたいからノワールに乗ってていいぞ。向こうにいるオークでも倒してくるからそのまま進んどいてくれ」
直した木刀の具合を確認するためにジョズとノワールの上を交代する。別に二人乗りでも乗れるのだが、木刀をいじっている間は動かないように一人で乗っていた。ノワールにも時速20kmで揺れない走りをしてもらっている。ちなみにベルは作業中ずっと頭の上に居たが、微動だにしなかったので邪魔にはならなかった。
俺はノワールから飛び降りると、木刀を持ってすぐ横にある森にいるオークの方へ走っていく。皆様お察しの通りではあるが、これは今まで使ってきた木刀を修理したものだ。
もともと木刀に愛着があったのと、今持っている剣があまりにも一撃必殺な武器過ぎてこれでは困る局面も出てくるだろうと思い、なんとか修繕できないかと考えていた。偶然街でトレントの木材を売っていたこともあり、今までのように大量の機能が付いているわけではないが、一応戦える程度に修理はできた。
三十秒ほど森のなかを走っていると十体のオークが見えた。そのうち何体かは魔物のドロップ品であろう肉を持っているのを見ると、狩りの帰りだろうか。これだけの数が狩りに出ているところを見ると、どっかに大きな群れがあるのかもしれないな。
「あんまりジョズとの距離が離れても困るしとっとと倒すか」
不意打ちしては木刀の試し切りの意味も無いのでわざとオークの前に躍り出る。すると俺を見つけたオーク達の内、近くに居た二体が剣で襲いかかってきた。俺は木刀に魔力を込めてその剣を受ける。すると硬質な音を立てて木刀が剣を止めた。どうやらしっかり木刀の硬化はできているようだ。
「今度はこっちから行くぜ」
簡単に受け止められているにもかかわらず力で押し通そうとしているオークをそのまま吹き飛ばすと、今度は木刀に魔力を纏わせて刃を形作る。地面を蹴って吹き飛んだオークの一体とその近くにいたオークを斬り伏せた。
「ブヒ!? グウウウウゥゥゥゥゥ!」
それを見たリーダー格であろうオークが周りに指示を送るが、オークが指示にしたがって動こうとする前に周りのオークの首を刎ねる。二秒弱でオーク七体を余裕で倒せるとは俺も随分強くなったもんだな。
「ブヒ……ブヒイイィィ!」
最後に残ったオークのリーダーはオークメイジだったらしく、魔法を放ってきた。都合よく最後の効果も試せるようなので、魔力を流した木刀をオークが放った火の玉に叩きつけると、魔法をかき消すことが出来た。俺はそのままオークの首を両断する。
今使える機能を全部確認した俺は木刀に異常がないかを調べる。昔の木刀についていた効果も構造上発動はできるが、そこまで内側に負荷をかけると今度こそ修復不可能なまでに真っ二つになるだろう。
「ん、異常はないみたいだな。あんまりジョズと距離が離れると追いかけるのが面倒だし早く行くか……ってあれ、あっちも戦闘中だな」
俺が【索敵】でジョズを補足すると、そのすぐ側に魔力反応が数個。とは言っても完全に雑魚なのでジョズに任せても問題無いだろう。だが、あっちのもオークだとしたらやはりこの辺りに巣があるのかもしれない。
「んー……確かに多いっちゃ多いけど、巣っぽい群れは無いな」
試しに【索敵】の範囲を広めてみるが、街をつなぐ道周辺にしては魔物が多い程度の認識で巣のようなものは存在しない。反応が全てオークとは限らないし、ただの偶然だろうか。
「最近は嫌なフラグばっかり建ててるから不安になるな。ベルはどう思う?」
俺はベルに話を振ってみるが、関係ないとばかりにオークからドロップした肉をつまみ食いしていた。いや、まあ分かんないだろうけどさ。
「とりあえずあっちに合流するか」
俺は少し駆け足でジョズ達のいる方角に向かう。途中でまたオークが四体ほど居たのでそいつらも退治しておいた。
ジョズに追いついてから話を聞くと、やはりオークだったようだ。もしさっきの【索敵】の反応が全てオークだとしたら巣がない事が不思議なほどの数になるだろう。
「もし気になるようなら次の街のギルドで報告でもしておけばいいんじゃないか? SS-ランク冒険者の報告なら調査依頼かなんかで動くと思うし、もしかしたらすでに調査が始まっているのかもしれないけどな」
不審に思っている俺を見たジョズはそんな助言をしてきた。なるほど、確かにわざわざ俺が調べなくてもいいのか。高ランク冒険者が口を出せばギルドの方から動いてくれるだろう。
もしかしたら誰かが報告しているかもしれないが、言うだけ言っておこうという方向にまとまったところで、ちょうど街が見えてきた。
「あの街がイストラだ。周りの街があまり無いのもあってそれなりにデカい。勇者達を待ち伏せするならこの街の周辺になるだろうな」
俺たちはいつもの様に門に入ろうとする。その時に心なしか他の街と比べて警備が厳重に見えて嫌な予感がした。
「それじゃあ次は……お、冒険者か。ギルドカードを見せてくれ」
門番がノワールの腕についている従魔を示す腕輪を確認すると、俺達はギルドカードを見せる。
「ほう、A+とSS-か。通りでこんな強そうな従魔まで従えているわけだ。この状況ではありがたい……よし、いいぞ。ところで、この街に来るまでオークを見なかったか?」
門番は若干不穏な言葉を残してギルドカードを確認するとそんな質問をしてきた。
「ええ、何体かに群れているオークをなかなかの数を見つけました。それにしては巣らしき気配は感じられませんでしたけど」
俺の返答を聞くと門番は「やはりか……」と呟くと、道を開けながら最後に連絡事項を伝える。
「そうか、協力感謝する。それと、Aランク以上の冒険者はギルトから招集命令が出ているからすぐにギルドに向かうようにしてくれ。ギルドは門を抜けて大通りを真っすぐ行った先にある」
――やはりフラグだったようだ。