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大河

束の間の静寂。魔術師達は今自らの身体に何が起こっているのか全く理解できなった。


理解できない故の沈黙。


刹那それは悲鳴へと変わる。そして絶叫。更に混乱。


身体が崩れ行く。止まらない。止めようがない。




様々な禁忌を犯し、神をも支配できると言って憚らないゴガール=シルダッタ教団の最高幹部達は阿鼻叫喚の地獄絵図の中にいた。


「アアアアア!!!!なんだ!!なんだってんだよおぉぉ!!」


一人の男が焦ったような声で叫んだ。ここにいる全員の気持ちを代弁しているとも言える言葉は黒髪の青年には届かない。


「これ、異世界トリップちゅう奴やろ?しかもあんさんらワイに何やら服従の魔法みたいなもん使いよったし。さすがに自分を魔法で服従させよう思ってる奴らただで見逃したるほどワイもお人よしや無いで。ワイを呼び出したんが、めちゃくちゃ綺麗な王女サマで国のために私のことはどうしてくれても良いからとか言われたらあれやけどな。あんさんらむさいし、男ばっかやし……取り合えず死んでくれてええで」


無表情でそう言うと青年は魔力の放出を更に強めた。それに圧倒されて、ついに一人の男の身体が完全に崩れ落ちた。これは比喩ではない。砂で作った山が崩れるように男の身体が崩れ落ちたのだ。

それを見た他の魔術師達が恐怖で顔を引き攣らせる。


身体が腐るというのなら分かる。災害級のアンデットに腐食魔法をかけられて、身体が腐り落ちることが無いわけではない。


だが、違うのだ。男が行使した術は文字通り身体が「崩れる」のだ。

砂のように崩れる腕と足。どういうわけか発動しない魔術。時間とともにどんどん身体が無くなっていく。哀れな魔術師達には青年の魔術から逃れる術はない。


「許して。どうか許して下さい」


「何でもする。いや何でもしますから」


「そ、そうだ。国に働きかけてあなたに魔術師統括の地位を与えよう。それだけの力があれば国の権力を欲しいままに出切る。なんだったら世界だって支配できるかもしれない」


抵抗は無駄だと悟ったのだろうか。魔術師達はついには命乞いを始めた。

それを聞いた男はひどく落胆した表情を覗かせ、冷めた言葉を紡ぐ。


「あんさんらな。ワイの都合を完全に無視して呼び出した挙句、精神操作の魔法かけようとして、今度は命乞いやて?ワイその精神がちょっと信じられへんねんけど。よー言われてることやけど、命取ることが出切るんは自分の命を取られる覚悟ある奴だけやで。ワイをここに呼び出してもうたんやからそれはワイの人生、つまり命を奪ったようなもんやろ?それってつまり、ワイにどうされても文句は言えへんってことや。……と、いうわけでや。きりきり死んだって」


「なっ!?」


魔術師の男の驚きの声は高い地位を断ったことに対して出たのか、青年の理論の破綻具合に対して出たのか。その声を発した瞬間に彼の身体は完全に崩れ落ちたためにそれはわからない。


だが、青年はそんな男に構うことなく、己に酔ったかのように更に言葉を続ける。


「なんで呼び出すことが命取ることに繋がるやって思ったん?いや、確かにそれはちょっと違う気もするわな。あんさんらがワイのこと理不尽やって思うのも分かる。でも違うねんな。そんな甘いもんじゃないねん。人生の失敗はクーリングオフでけへんねん。昔のエロい人はこう言ってん。『眼には眼を異世界人の召還には破滅を』ってな。

他の世界の人の強大な力に頼るようなあほ共はその力に滅ぼされるのが常識やねん。えっ?何の常識かって?あんさんらちょいとライトノベルとかweb小説とか読んだほうがいいで。ワイみたいに不幸な召還にも冷静に対応できるようになるし。あと、男だけで異世界からなんか召還しようとしたら大概その化け物に食われるってことも分かるから。有名なとこやと魔人ブウを召還したバビディとかな。いやあれは食われてはないけどな。ていうか人間でもないけどな。


……あっそうそう。こんな理屈を色々と捏ね繰り回してるけど、ようは言いたいのはこれや。美人の姫さんもなしにワイを異世界召還したおまいらは死んでくれ」


言い終わると同時に青年の発する魔力が膨れ上がった。

魔術師達にも青年が身体が崩れ終わるのも待たずに自分たちを消し去るつもりなのは分かったが、どういうわけか動かない身体と発動しない魔術ではどうしようもない。


絶望で魔術師達の顔が歪むのを見て青年は最後の言葉を告げた。


「小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?

……まさかリアルで言える日が来るとは思わんかったわ。というわけでこれでジ・エンドや。グバイ」


その台詞を最後に魔術師達の身体が弾けとんだ。それと同時に臓器が破裂し、大量の血や体液が青年の身体にかかった。青年はそんなことを全く気にしないかのように薄ら笑いを浮かべ、独白する。


「やっぱ出来たか。ほんまあんさんら異世界人の癖に魔力の扱い下手すぎや。この世界やと、原始の構成物質にまで魔力が入り込んでんのに相手にそれを好き勝手に操作させるとか。あほちゃうんかいな?

そりゃ身体も破裂するで。まぁそれも良い実験にはなったし。これから色々見て回りたいし。まぁ何だかんだ言って何やら面白そうな世界に呼んでくれたあのおっちゃんらには感謝はしてるけどな」


勿論、青年の独白を聞く者はここにはいない。それにも関わらず、青年は愉悦の表情を浮かべ、闇に語りかける。己の境遇を喜ぶように。まるでこの世界そのものに感謝するように。


◇◇◇◇◇◇


「う~ん。良い朝や」


青年、象牙大河(ぞうげたいが)は大きく欠伸をして伸びをした。不運(?)にも突然異世界に召還された大河は自ら召還した魔術師を皆殺しにした後、地下室らしきところから抜け出して、外に出た。

その際に口封じのために出会った人間を何人か殺してしまったが、本人はそれは仕方が無いことだと思っている。


城らしきところを抜け出したもの、外は夕方で通貨も持っていなかったので街を突っ切り草原に出て、手頃な洞窟で夜を明かしたのだ。


「もしかしたら追っ手がくるかもしれへんな。てか、今思ったらここで寝たんはめっちゃ迂闊やった。二度と目覚まされへんかったかもしれんもんな。取り合えずはこの国から離れよ。あの魔術師のおっちゃんや兵士らを簡単に殺せたし、もしかしたらワイって結構チートなんかもしれへんけど、行動は慎重にせなな。調子乗って死ぬんはまだもったいない」


そう呟いて男は西に向けて歩き出した。



ーーこの世界に第二の厄災が解き放たれた瞬間だった。


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