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獏の夢

太陽の国のひまわり

 眠らない羊が一匹に二匹、三匹、四匹……。次第にあふれかえってしまった羊たちへ、眠れない子供たちへ。潮が満ちて満月の笑うこんな夜には『太陽の国のひまわり』のお話をしてあげましょうか――。

 むかしむかし、太陽の国と呼ばれる国がありました。そこでは国民は皆日の光を浴び、笑顔を絶やすことなく健やかにいたといわれています。ですから、太陽の国では誰もが陽気で明るい気質だったのです。

 そんな太陽の国には国一番に明るく元気でひた向きな花がありました。名前をひまわりといいました。

 ひまわりの笑顔は皆を明るくさせ、それから前をむく希望をあたえました。太陽のほうへ一番に向いて咲くのがその証です。太陽もひまわりのことが大好きでしたので、惜しむことなく日の光をあたえてあげました。

 毎日それが当たり前となることで、ひまわりはいつしか「自分に日の光が向くのは当然のこと」と勘違いをしてしまったのです。そんなことなんてあるわけがないというのにですよ。それから貪欲に太陽からの光を惜しむことなくもらうために、ひまわりは自分のもとへ全部の光が来るように仕向けたのです。


 そんな行動のせいで太陽の国の国民たちはだんだんと元気がなくなってきました。笑顔は疲れと悲しみにかわり、健やかな人々は病弱なからだになっていきました。国民がいくらいってもひまわりは太陽の光を独占して一歩も動くことはありません。

 ある日、国の生活を嘆き、たまらなくなったひとりは風にお祈りをしました。

「ああ、太陽の国はしんでしまう。これではみんな元気をなくして眠りについてしまう! お願いです、どうかひまわりが皆のこころを食べきってしまわないうちに太陽の国をお救いください!」

 風はどうにもかわいそうに思い、こう言いました。

「国が弱りきってしまったのですね、かわいそうに。あなたの約束通りお願いを叶えてあげましょう、ですが以前のような太陽の国に戻すことはできません。所詮私は北風、寒さを与えることしかできないのです」

 ひとりはそれでも構いませんと風にお願いしました。これ以上皆が弱る姿が見たくなかったのです。


 風は太陽の国のひまわりの元へと行くために、すぐさま行動しました。風は流れる髪をなで、ひまわりにあいさつをしました。

「こんにちはひまわりよ」

「あらあなたはだあれ?」

「私は風と申します、あなたが太陽の光を独り占めしているときいてやってきました」

 そのことばにひまわりは憤慨しました。

「いいえ、風さん、それはちがうわ! だって太陽の光はあたしのためだけにあるんですもの。だからあたしは日の光をぜーぇんぶあびなきゃならないのよ!」

 そのことばは以前のひまわりからは考えられないようなものでした。ですが、事実としてひまわりは国民をないがしろにするのだと公言したのです。

 風は仕方ないのですね、と呟き、ぴゅうっ、と冷たい吐息を辺りにおおいかぶせました。すると、暖かく温もりを感じた今までは風の一息によってもの寒さとくしゃみが出てきてしまうほどのものへとかわってしまったのです!

 ひまわりは驚いて叫びました。

「な、なんてことをするの! さむい! さむい!!」

 風はひまわりにこう言いました。

「ひまわりよ、これはあなたが太陽の光を浴び続けている間に皆がずっと感じていたものなのですよ。あなたが日の光をうばうことで国には曇りがかった冷たさがあったのです。わかったのなら反省なさい」

 日の光を浴びられなくなったひまわりはがっくりと首を前に倒しました。


 それからです。太陽の国は寒さを感じるようになりましたし、毎日太陽の光を浴びることはなくなりました。

 そのかわり、曇りがかった寒い一日はそのぶん別のかたちで仕事をこなし笑顔になる方法を探し、国民皆が以前にまして明るく元気になったのです。


 皆のこころを弱らせてしまったひまわりはどうしてしまったのか、ですって?それはひまわりが一歩も動かなかった場所から逃げ出さないようにと、誰かがリボンで結びつけてしまったといわれています。そのせいなのか季節の移ろう頃には前のめりにたおれこむ花の姿を見かけるようになったそうですよ。

 そんなひまわりがあんまりにもかわいそうなので、星屑たちが夏の太陽が照る数日だけリボンをほどいて上を向かせてあげるそうですがね。

 さあさ、これでこのお話はおしまいです。ひまわりのように夢をひとりじめしないようにお眠りなさい。

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