文芸への目覚め
春。
三年生が引退し、僕ら文芸部のメンバーは一年生三人だけとなった。
一年生にして部長の座に就いた僕は、この部に改革をもたらすことを心に決めていた。
かつての文芸部には、自分たちで文芸誌を製作し、文化祭で配布するという一大行事があったという。しかし、世代が進むとともに部はそのバイタリティを失っていき、部誌は年々薄くなり、やがて作られなくなった。
活動内容はただ本を読むだけ。活動日は水曜日のみ、他の曜日は自由参加。そこまで衰退した文芸部に入部する生徒は少なく、部員数は減少の一途をたどった。今年僕らが入部しなければ、文芸部の歴史に幕が下りるところだったのだ。
しかし、この部を廃部に至らせるわけにはいかない。
この学校では、生徒はいずれかの部活に所属しなければならない。放課後に何も求めていない生徒たちは、この規則に縛られている。僕もそうだ。
だから、帰宅部に最も近い文芸部は、僕にとっての救いだった。僕自身のために、そして、帰宅部を望む未来の後輩たちのために、この部は絶対に存続させなければならないのだ。
何もない部室で、部員たちが黙々と本を読む。いつもの光景。
その雰囲気が、僕の同類たちを文芸部から遠ざけていた。
僕は言った。「三人で何かをしよう。」
求めるものは、活気だ。集まり合う意味を持たなければ、この部は終わる。
その日、僕らは三人でトランプをやりながら語り合い、午後のひと時を過ごした。
次の水曜日、僕はカバンにUNOを忍ばせていた。いつもより、部室に向かう足取りが軽かった。僕は確信した。この方向性だ。水曜の夕方を、いかに楽しく過ごせるか。週一回の活動を、いかに短く感じられるか。これが、文芸部が生き残るための道筋だ。
「王手!」
新入部員の力強い声が部室に響く。
それまで有り余っていた文芸部の部費は遊具の購入に充てられた。まずは将棋と囲碁から。
新生文芸部の噂が徐々に広まり、この部に興味を持つ生徒も増えていった。その中の一人が、ついに運動部から移籍してきたのだ。
そして、待望の卓球台が導入されると、部員数は倍増した。
学校には卓球部もあるが、文芸部の卓球はそれとは全く違う。いかなるプレッシャーを感じることもなく、ただ純粋に楽しむ。
ここにきて、文芸部の活気は最高潮に達した。
再び、春。
僕らは二年生となり、新入生を迎えることとなった。恒例の部活動紹介で、部長の僕は生まれ変わった文芸部の魅力を語った。
しかし―
期待通りの反応が来ない。新一年生たちの表情に浮かんでいるのは、戸惑いだった。
話を終え、席に戻りながら、僕は自分の顔が紅潮していくのを感じた。
僕は気付いた。今の文芸部が、もはや文芸部とは全く言い難いものに変わり果てていることに。
―文芸部は、文芸部らしく。
いつの間にか十人を超えた部員たちが、いつものように卓球を楽しんでいる。僕は卓球台に歩み寄る。
ネットに掛って止まったピンポン球を取り上げる。皆の視線が僕に集まる。
僕は叫んだ。
「みんな。ラケットをペンに持ち替えろ!」
僕の気迫に、皆が驚く。しかし、一人、また一人と、徐々に部員たちがラケットを置いていく。そう、それでいい……
そして、再び卓球台の前に立った彼らの手には、新たなラケット。
……ん?
「部長~、やっぱり俺、シェークハンドの方が使いやすいわぁ」
「その『ペン』ちゃうわあああっ!」
その後部長だけが文芸に目ざめ、今もこうして、くだらない作文を書いています。