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一章 第八話 踊る思惑

◆ 一章 第八話 ◆







 首都からの一報を受けて急遽ソーンを後にしたマックス。その翌日、残されたヨーコ、ジョージ、そしてラングは団長室に集まっていた。


「なにやら難儀なことになっとるようじゃの」


 ジョー老子は少し険しい顔で部屋の隅に置かれた椅子に座っていた。


「ええ、これが昨日届いた手紙よ」


 そう言ってヨーコが一枚の紙を机の前に立っていたラングに差し出した。


「……魔王軍からの要求書?」


「そうよ。どうやら魔王を討たれたことに対する賠償を請求してきたようね」







 

 人は盟約を違え 尚且つ我らの王を


 討ち滅ぼした 許されざる虫にも劣る


 愚者どもよ しかし我ら魔族は寛大である


 魔王を討った者を差し出すならば


我らはそれを許すだろう 魔王ガーズ


 









 どうやら王宛にこれが届き、賢人会と団長各位がこれの検討のために召集されたようだ。


「……これはもしかしなくても俺のことだよな」


「そうじゃ。さてそこで問題じゃ。もしもその要求をつっぱねるとどうなると思う?」


 文書そのものは、仇を取りたい魔族側からすれば至極真っ当な要求といえよう。しかしタンバ王国はこれに答えることはできない。魔王を倒した者。すなわち勇者であるラングを魔王軍に差し出すなどまさに愚の骨頂、論外だ。ならば考えるべきは、もし渡さなかった時にどのようなことが起こるかである。


「はっきり言って俺の人相は向こうにはばれていると思う。あの時周りには魔王の側近がいたからな。てことは主犯が分からなくて要求しているわけじゃないはず。……これは脅しか。戦争と勇者の両天秤にかけさせる」


「半分正解じゃな。一明らかに呑めない要求を叩きつける。そしてそれを理由に一方を悪に見立てるといった古典的手法ともとれる。しかし今回は先制攻撃をしてきたのは魔王側だ。はっきりいえば先の効果は薄いといえよう」


 戦争において士気を高ぶらせ続ける最高の手段は『正義』を持つことだ。

 今までのタンバ王国も、絶対的悪であった魔王を前に幾度の戦乱を正義の旗の下に戦い続けてきた。はっきりいってこの戦争でタンバ王国が得られる物は何もない。栄誉や階級を勝ち取るものこそいるものの、物質的な得がなにもないのだ。

 敗戦国からの賠償金を受け取ることもなく。領土拡張とて、国の境を荒れた大地で覆われた魔王領へと進めるのは難しかった。なんの益もない戦乱を数百年の間、団結して戦い続けられたのは『正義』という名の旗であることは間違いないのだ。


 そしてその正義を掲げるものが勇者でもあるのだ。


「ならばどんな結果が考えられるか。おそらく人相を頼りに無断で探すであろうな。もちろん人間領を魔物が手当たりしだいに探し回るのだ。見方を変えればそれは虐殺と呼ぶかもしれんの」


 魔物が大人しく人に聞いて回るわけがない。魔物が人に危害を加えないわけがない。魔物が王の仇を許すわけがない。


「戦争という明確な目的があるのであれば、おのずと攻め入る場所も限られる。しかし個人、もしくは少数の者たちが各々で目的を達成させるのならば、その道筋は無限が如く増えるだろう」


 魔王軍の戦術面においては圧倒的に人側に負けているものの、個人的兵力ならば魔王軍側にかなり傾くものが多い。

 その証拠に人側には魔王領で単独行動、もしくわ少数行動できるものは極小数に限られる。しかし魔物はその種族の特性によって、タンバ王国領で動き回れるものは数多い。

 現に、街道沿いで未だに魔獣をみたり、盗賊のように活動する魔族がいるのがいい例題だ。


「対処はできる。可能だとしても実際問題時間をかければ全てを殲滅することはできるであろうな。しかし確実に被害がでる。しかも一般市民に多大な被害がな。そうなれば勇者を匿うあまりに人々が苦しみ続ける事になる。などという確執を生まれかねんな。戦を収める勇者が争いを呼ぶなど本末転倒だからの」


 『正義』を最大限に使う人類。ならば魔族達からすればそれは、それこそが最大の敵ともいえる。もしジョー老子の懸念通りに事が進んでしまえば、担い手ごとその旗が折られてしまうかもしれないのだ。


「一番最悪の可能性ではある。が、この文章からすればおそらく狙っておるのだろうな」


 自嘲的な笑みで語ってみせるジョー老子。


「ほんとに嫌になるような搦め手ね……。そして最大の問題は次の魔王、夜の王ガーズよ」


「……最悪な奴がなってしまったの。こやつの人間嫌いはかなり有名じゃ」


「ていうか魔王って襲名性だったのか」


「前回は200年近く前と聞いていますから知らなくても仕方ないでしょうね」   

     

 気の重くなる話ばかりに、三者三様で深くため息を吐く音を団長室に満たせていった。    










 ラライルラの賢人の間には、かつてないほどの豪華な面子が机を囲んで白熱した議論を展開していた。7人の賢人。第2、4、5、6の騎士団団長団長と第3の代理の副団長。商人連盟会長。生産職代表のラライルラ2番工房長。王族代表の皇太子。領主貴族代表のカルディナ伯爵。法術研究所ミラルド・ディーン所長。それぞれの立場からそれぞれが集めた情報を持ち寄って対策を練っていた。魔王からの要求は勇者一人ではあるものの、この先に見えるのはほぼ確実な戦争故に、数々の状況を想定していたのだ。


「それではソーンへの兵の補充と兵站、装備品などをまわしてもらうということでよろしいでしょうか?」


「異議はないがいいのかね? 勇者の居場所を公表すれば一点集中で狙われることになるが」


 賢人会議長のカーリアズが難しい顔をしてマックスに再確認する。会議の結果、勇者の居場所がソーンであると公表することとなった。魔王側の要求をある意味飲む形となるが国内中を荒らされるよりは幾分ましだとなったのだ。言い出したのは意外な事にマックスだったのだが。もちろんラングの実力を隠すために自分の元に置いておくという思惑が多分に入った提案でもある。


「以前団長になるときに提出した魔族の体制と制度の資料。そして魔王領へと潜入したことのある私から言わせていただくならば、間違いなく攻めてはくるでしょう。しかし種族間で手を取り合うという事はないはず。そして竜種、獣人種、妖精種のような膨大な数をもつ種族も、同じように体制の問題から攻めては来ないとおもわれます」  


 普段の彼を知る者が見れば、お前は誰だ? という疑問が確実に浮かぶであろう真面目で礼節ある態度でマックスが発言していた。


「おれの方に依存はないよ。うちの兵から300ほど送ろう、好きに使ってくれて構わんよ。どうせマックスのことだから予備兵に使って傷などつけないだろうしな」


「……」


 第五騎士団団長がなぜか嬉しそうにマックスへと視線を送った。マックスへの反発の多い騎士団の中でも第五騎士団はわりと好意を持って第六騎士団と接していた。街がお隣だからなのか団長の資質なのかは今だにマックスはわかっていない。

 好意の視線と台詞にわずかにはずかしさを顔に出してしまい、それを誤魔化すように咳き込むマックス。


「第四騎士団からも200名と兵站を送ろう。ただうちは軍の大編成の影響で少しばかり遅れる。第五は10日ほどでそちらにつくだろうが、うちのほうはさらに10日かかるだろうな。急ぎで何名かは送るが50人いていいところだ」


「感謝します」


「首都からは私が責任を持って最低でも500名は集めておく。しかし最前線の激戦地に送るのだそれ相応の時間を要するだろう」


 皇太子殿下が自ら動いて見せると発言すると僅かに会場に驚きの空気に変わる。


「光栄です皇太子殿下」


「うむ、どうやら話はまとまったようじゃの。それでは戦争に踏み入ってしまった場合の―――」


 三日かけて行われてた会議がやっと終着を見せ、新たな議題に移ろうとしたその時。賢人の間の扉が勢い良く開かれた。


「ご機嫌いかがかな皆々様?」

 

 廊下からの光を背に、黄金の髪に黄金の鎧に身を包んだ第一騎士団団長ギーン・ランザスが両手を広げて入室してきた。


「……えらくギーン殿は遅い到着だったのう。ちょうど話合いも一段落したところじゃ、席に付いてくれるかの」


 突然の出来事にも動じず、場を取り仕切る議長。


「ほう、一段落した話し合いとは魔王の書状の件ですかな?」


 軽く微笑みを交えて議長に聞き返すギーン。その微笑みと問いにマックスの背筋に悪寒が走り、とてつもなく悪い予感が脳裏をよぎる。


「それは大変申し訳ない。無駄に労力を使わせてしまいましたな」


(ああ、なんとなくこの場にお前がいない時点で悪い予感はしていたさ)


「魔王への返答は私が既に出しておきましたよ」


(ここまであくどいとは思いたくはなかったけどな)


 細めた目の奥から目線をマックスへとギーンは送っていた。











「ああくそっ! あんの糞野郎め!」


 悪態を付きながら馬を転送陣の間まで飛ばしているラング。


「まさかオレの使った手を流用するなんてな……。あのプライドの塊がやるとは思わなかったぜ」


 ギーンは魔王への返答を独断で出したわけではない。そんな事をすればいくら騎士団長とてただではすまない。話は簡単、ギーンは王へ直接「返答は速やかに行わなければ危険だと」と直訴したのだ。粘り強い説得に王はそれを承諾し、後はその権限をギーンへと託したのだ。


「しかも内容は機密の為未公開だとぉ!? ふざけやがって」


 かなり珍しく怒りを全面に押し出しながら馬から飛び降り、転送陣で待つシーリンに駆け寄るマックス。


「シーリン! ソーンへ帰るぞ!」


 床に四つん這いになって転送陣を書き込んでいるシーリンは顔を上げないまま返答する。


「え~まだお菓子買ってないよ~」


「すまん今度来たときは奢るから勘弁してくれ」


「まあそれはいいけど、実際問題今は無理だよ?」


「はい?」


「だって、今日の午前中に備蓄してあったソーンへの転送陣。ぜーんぶ使われちゃったんだもん」


 転送陣は以前にも述べた通り、超高等技術の結晶だ。紋章術と響術の併用。さらに大地の力をかりる精霊術の応用を補助的に使う。実質三元法術を同時に扱う最高等法術のひとつだ。その使い手は最も法術の発展しているタンバ王国でさえ両手で数えるほどしか存在していない。その稀少性ゆえに使用の際には多大な金額がかかるのだが。


「これも……嫌がらせの一環だっていうのかよ……」


 思いもよらぬ事態にたじろいでしまう。一回の使用料は、多少立派な一軒屋をまるまる買えるほどの金額だ。シーリンがせっせと貯蓄していた5つの転送陣全てを利用したとしたなら、それは屋敷を買えてしまうほどだろう。


「そんなに……そんなに俺が嫌いか!―――――――殺したいほどにっ!」


PCさようなライオン。

あまりの暑さに天に召されてしまった。


データは残ってるものの、忙しさとあいまって更新は週1か多くて2になりそうです。

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