一章 第六話 光と影と
◆ 一章 第六話 ◆
授業が終了した後、高等な法術や技術をラングへと解説するシーリン。
シーリンの受け持つ法術の修練では、座学を基本として、イドのコントロール術に終始している。短期間で、なおかつ効果的な修練にはこれが一番だと、自信を持って行なっていた。
その他の、ブルー、エズノル、ヨーコの訓練はほとんどを座学に費やしている。残りの授業も多少は入っているものの、ほとんどは実践訓練だ。
もとから器用貧乏で、知識と幅を武器にしていたラングへと合わせた内容になっているのだろう。
そんなスパルタ教育が実施される中でも5日に一回は休みがあった。命に関わり、下手をすれば国の存亡を左右しかねない状態で休日があるのもおかしな話かもしれない。そんな疑問をマックスに聞いたところ。
「余裕こそ成功の秘訣。って教えてくれたのはラングじゃないか」
と返されてぐうの音もでなかった。ラングが10歳の時、マックスは他の街へと移っていた。一緒にいたのは年数でいえば3年にも満たないのだが。なぜここまで信頼されているのかという答えを、ラングはいまだ見つけれず、不可解に思っていた。
訓練開始から10日経った、二度目の休日。ラングはソーンの商店通りへと来ていた。シーリンの買い物に付き合う、もとい荷物持ちとして。
ソーンは砦であり街でもあるタンバ王国においても特殊な形をとっている。六角形の外壁を持ち、さらに内側に同じ壁を持っている。その外側が軍施設。内側が一般市民の商店や市街地となっている。そしてなによりも中心地に立てられている巨大な塔が異様な存在感を放っている。
幅200メートル。高さが50メートルを超えた、円柱状の建築物。首都のラライルラの王城でさえ敷地では勝っているものの、ここまでの高さは持ってはいない。ちなみに何の施設かというと、居住区だ。最上階こそ軍の施設が入っているものの、その他の階層は一般の人々に解放されている。一回層10メートルと無駄に空間を有しているその場所には、家がそのままはいるほど広い。塔の外にも住居用の建物は存在するが、ソーンの住民はここに7割が住んでいる。残り2割が兵舎住まいで、その他一割は商会組合や貿易商の支部詰め所などがほとんどだ。
最前線の街であり、おそらく国内で最も騒乱に見舞われるであろう場所ソーン。しかしそんな、不安と隣り合わせであるはずの商店通りは活気に満ち溢れていた。
実はこの街は第六騎士団が結成された一年前に作られたばかりの新しい街なのだ。そのわりには建物が充実しているだが、それは街の生い立ちに属するので追々説明するとする。
つまり、ここに住んでいる軍所属でない者は、みな好き好んでこの町に移住してきた人なのだ。新しい場所でチャンスを掴む為。今までの生活にあった閉塞感を脱する為。開拓心を少なからず全員が持っているこの街は、活気という部分なら、首都ラライルラにさえ負けてはいなかった。
そんな活気溢れる通りで、両手に紙袋をすでに6個持たされたラングがふらついていた。
「シーリンさんや、シーリンさんや。まだまだ買い物は続くのでしょうか?」
散々お菓子を買いあさったシーリンが、いまだに道に並ぶ出店を物色していた。
「え~なにいってるのさラング~。まだ半分も買えてないよ」
「おぉぅ……」
妹のリーンやルーティーの買い物に付き合ったことは多々あるが……今日の買い物は量が半端でなかった。
「しかも、今のとこお菓子100%……」
「おじさんおじさん、これって何味のあめなの?」
「おっそれはこないだ作った新作でね、柑橘系を練りこんで甘酸っぱく作りこんだ大人の味な一品だ」
「甘酸っぱい……あめ……」
すでに味を創造してか、よだれが零れ落ちそうなシーリン。
「花より団子とはシーリンのためにある言葉だったのか」
「おじさん! これ袋一杯分もらうよ!」
「おうおう相変わらず豪勢だね譲ちゃん! ちょっとおまけしておくから今度来たとき感想を聞かせてくれよ!」
「わお! ありがとう!」
笑顔満点であめの入った袋を受け取るシーリン。そのままラングの背負ったリュックへとそれをつめていく。
「そうか……買い物に背負いカバンは要らないと思ったが……認識不足だったか」
半分なんて言われても両手がすでに一杯だったラングの疑問は氷解する。
「このドデカイ鞄を一杯にする気かこの食いしん坊は」
背が140ぐらいしか無く、結構やせ気味な彼女がこの手に持つお菓子を平らげるのは想像しにくいのだが。ラングはすでにその暴食っぷりを生で体験していた。
午後にシーリンの訓練が始まる日や、休日の飯時なんかはよくご飯を一緒に食べることが多かった。マックス曰く、お気に入りのお兄さんと玩具が同時にできたようなはしゃぎっぷりだな。と言わしめるほどにラングを気に入っていた。
なんでもシーリンの座学はとてつもなく長い上に、喋る速さはそのテンションが上がるにつれてヒートアップしていき、ほとんど理解できないらしい。そのためかシーリンの座学を受けようとするものはしかめっ面をする者が多く嫌煙しがちだ。シーリンもなんとなく自覚はあったが、間違っているとは思わなかったので改善する気は無かった。そんな中ラングはシーリンの座学を尊敬の眼差しをもって真剣に聞き切ったのだ。それがどうにも嬉しかったようだ。
そして問題の食事なのだが。初めて一緒に食べた時のラングの驚き様はなかった。自分の半分ほどしか体重のない少女が目の前で自分の3倍は食べて見せたのだ。物理法則が失われたのか? という疑問が脳裏を走ったが、その驚く顔を見てシーリンが。
「体力を使ったらおなかが減るでしょ? 実はイドを消費してもすっごくおなかが減るんだよ!」
今まで響術が苦手で、紋章術しか使ったことがなく。急激なイドの減りを体感したことのないラングには初耳な話だった。しかし個人的な食い気問題の方が大きいような気がしたが、ラングは言葉には出さなかった。
同じように商店通りを練り歩く、一風変わった女性の一団がいた。
「首尾はどう?」
才色兼備な第六騎士団副団長が三人の少女を連れていた。
「10日でだいたい5人くらいは捕まえたかなぁ」
「それらしいという意味では、ざっとその三倍は確認できました」
「予想以上に多いわね」
「まぁ権力を脅かす危険分子が二人一緒にいるんですからねぇ、弱みの一つや二つ握っときたいでしょうね」
「で、確定した5人はどうしたの?」
「裸に剥いて近くの街に吊るしておきましたー」
「フフ、上出来よ」
三人の少女達は小さい順から橙色、黄緑、灰色の東方の着物に包まれていた。皮などの生地をつかわず布のみで作られた衣服はど、清潔感を感じることができる。そして色は違えどその着物の形は三人とも同じだった。少し余裕のある長い袖。少し短いズボンのような着物に、足下から膝まで覆われた足具。よく見ればヨーコの着物によく似ていた。
橙色の少女は見るからに元気溢れるといった感じで、頭に花飾りを付けており、しゃべっている間も常に笑顔を絶やさない元気っ子だ。
黄緑の少女も同じく笑顔ではあるのだが、どちらかというとおっとりしているしゃべり口調。時間が緩やかになってしまったかと錯覚するほどである。
一方灰色の少女はなかなかの長身で、ヨーコが男性平均ほどの身長があるのにに対しまださらに頭半分ほど上を行くほどだ。ほかの二人に比べてあまり表情の変化がなく冷静、という印象が見受けられる。
「しかしあのような者たちを生かして返してよかったのですか?」
「埋めたりしといてもここならばれないとおもいますけどねぇ」
彼らは第六騎士団の親衛隊たちだ。しかし実際にはヨウコ直属の諜報部隊として暗躍している。現在は、ソーンに入ってくる間者たちを撃退、捕縛して放り出す。という任務に就いている。
「……いくら相手が汚い手を使ってこようと私たちが邪道を使うわけにはいかないわ。でないとあの暗闇の世界から、ココに引っ張り上げてくれた彼に申し訳がたたないわ」
全員一同ににやついた顔でヨウコを見つめた。
「なっなによ!?」
「いやぁぞっこんだなーって思ってー」
「あのアサシンの星と呼ばれた。『黒の蜂』とはもう思えませんね」
「で? で? どこまで進んだんですか?」
からかいなのか、呆れているのか、興味本位なのか。一斉にヨウコに詰め寄る三人。
「うううううううるさーーーーい ハイッ解散!」
さっきまでの冷静な態度を崩し、顔から手のひらまで真っ赤に染め上げているヨーコ。
「えーーーもっと乙女トークに花咲かせましょうよ~」
「うんうん」
ふたりの少女も揃って頷いた。
「フフフフフ。いいわよ存分に語ってあげようじゃないの肉体言語でね。鈴香さん」
両の手をパキパキとならし三人に近づくヨーコ。
「あらぁからかいすぎた」
鉄拳という名のお言葉をいただいた後、それぞれは再び街へと散開していった。
その日の夕食の後にラングはマックスの自室に来てくれと誘われていた。なんでも話しておきたい事があるとの事だった。
「お待たせ」
「おお、ちょうどいいタイミングだったな」
どうやら酒を飲みながら喋るつもりだったらしく、机の上にはちょっとした酒のつまみとグラスが置かれていた。
「まあとりあえぜそっち座ってくれよ」
「お邪魔します」
席に着いた二人は酒をそれぞれのグラスへと注ぎ乾杯した。
「遅くなったけど、友人の再会に」
「「乾杯」」
二人そろってグラスに満たされたアルコールを飲み干す。
「ふーー! うまいねこのエール。……さて、わざわざ二人っきりになってまでなんの話なんだ」
「わお、もうちょい友達としてのたわいないお話を楽しもうぜ~」
「俺がこの状況に慣れてからならいくらでもしてやるよ」
周りから見れば落ち着いているように見えるラングだったが、生活が一変したことに対してはいまだに一杯一杯だった。
勇者の称号はいまだに現実味がなく、そこまで重荷にはなっていなかったのだが。問題はどちらかといえば第六騎士団だ。騎士団というだけでも規格外。その中でもさらに異色を放つ彼らには、度肝を抜かれる毎日だ。特に師事を仰いでる隊長格については常識外の化け物ぞろいだとラングは断言している。
「ウサギが肉食獣の折に入れられたら、きっとこういう気分なんだろうさ」
「しかもそのウサギをライオンにするつもりだからね、オレらは」
「はっはっは、なんだか言葉にするとイカれてしまったのかと錯覚するよ」
嬉しそうに笑うマックスと苦笑いのラングが互いに笑いあう。意味合いはまったくの逆なのだが。
「じゃあ本題を話そうかな。まぁわざわざ呼んだのはラングの『ワードプロセッサー』についてなんだ」
『ワードプロセッサー』。人々にはギフトと呼ばれ、時に多いな力を世に送り出すと言われる力。
「今のところ、こないだ会議に参加した人以外には、ラングが勇者であるということすら公表していない。元からラングの居場所には緘口令が敷かれていたから当然なんだけど。そんでもってラングのギフトに関しては持っているという事は隊長たちにはいってあるが、詳細は黙ったままだ。そこまで戦闘尾向きではないってぐらいに留めてる」
「まあギフトの詳細はあまり人に教えないのが普通だけど……。いいのか?」
「ああ、それはオレの都合もある。オレがラングがそこまで強くないのにあの魔王に勝てた事。それを見抜けたことに関係してるんだ」
「ううん? 話が見えないな」
「実は死んでしまった魔王もギフトを持っていたんだ」
「!?マジか!? 初耳だぞ」
ラングの倒した魔王は恐ろしい程に強いという噂はあるものの、容姿や能力などの情報は一切世に出ていなかったのだ。一説によればあまり戦乱を起こすことがなかったので、研究肌な魔王だったのでは? なんて予想もある。まるで引き篭もりの魔王だと。
「世界中でもその力を知ってるやつは少ない。知っててもなんとなくだ。しかもその使い方まで知ってるのは片手の指にも満たないだろうさ」
「……つまりマックスはそれを知っているんだな?」
いつになく真剣なマックスの雰囲気に釣られてラングも真剣な面持ちになっていく。
「そうだな。その力は『リターンサイド』って呼ばれてた。なんでも今まで行ったり見たことのある物を再現するらしい」
「おれのギフトと違って強そうだな」
「いやそうでもない。なんでもこれを行使するには、体積に対してかなりイドを消費するらしく万能にはほど遠かったらしい」
「便利ではあるけど、絶対的ではないのか」
自分以外のギフトの詳しい話などはあまり聞く話ではなく、興味を持って聞いているラング。
「だけどあの魔王は賢かった。ある使い方を開発してその力を圧倒的な力に変えたのさ。それは紋章術の再現。術が発動される寸前の紋章術を再現すれば後は、術名を唱えるだけですむし。体積の問題だってほぼ平面な文字ならば対したことにはならなかった」
「つまり?」
「極大の紋章術を失敗のリスクなく打ち放題になったのさ」
「こわすぎるだろそれ」
紋章術の弱点である製作時間が無くなり、後出しもし放題。おまけに作る時に消費するはずのイドもふっとばし。一度成功させれば何度やっても失敗する恐れも無く連打できる。自分の最強の攻撃を隙も無く、消費も少なく、連打できる。もはや強いどうこうよりも理不尽の領域だ。
「さすが歴代最強と言われるだけはあって反則だよな。でもラングの『ワードプロセッサー』は順番の大事な紋章術の天敵だからな。もしもを起こしてしまったかもしれないと、第一報を聞いた時に直感したよ」
「紋章術の最高記録9903文字でも可能なのかそれ?」
「もしも成功したことが一度でもあったら可能だろうね」
「よくタンバ王国が滅びてないな」
9903文字『火竜招来』鉄をも溶かす炎を纏った飛龍を作り出し使役する。紋章術最強の威力を持つその術を連発できたとしたら。たとえ首都の厚い外壁とて簡単に崩壊されていただろう。
「まあ……それはそれだ。つまりなにがいいたいかというと。二人のギフトを知ったのならば、あの日なにがあったかを想像するなんて簡単だってことだ」
なんの間違いか、魔王を切った夜の事を想う。
「了解。口にふたをしておくよ」
「だがそのギフトは今アキレス腱であると同時に、ラングの唯一の武器でもある」
「まあたしかに唯一だな」
ギフトの所有者はそれなりにいるものの、なぜか同じギフト保有者は生まれない謎があるのだ。
「だから鍛える事を忘れないでくれ」
「ギフトって鍛えられるものなのか?」
確かに小さいころよりも効果範囲などは広がったものの、鍛え方なんて思いつきもしていなかったラングには意外な言葉だった。
「それはだな――――」
昔話と冗談を交えつつ、夜遅くまでマックスのギフト講談は続いていった。
なんだか説明多いな~。
でも設定の3割もしゃべってなかったりする。