一章 第三話 混沌に指す光明
◆ 一章 第三話 ◆
「それでは第一回『勇者育成計画』はっじめっるよー!!」
転送陣を使いラングはソーンへと到着した。そのまま直行で第六騎士団の、司令塔にある会議室へと連れてこられていた。
「「イエーーーーーイ!」」
軍の会議室とは思えないノリに、転送陣を使って送ってくれたシーリンと、豪快そうなおっさんが答えた。
その他にも幾名かの人物がいるものの、あまり動じず座っていた。
(もしかして、これが日常風景なのか?)
「さてその前にラングの疑問に答えておこうか」
四角い机の上座に一人座るマックスが隣に座らせたラングに振り向いた。
ちなみに他の者は両側にそれぞれ座り、ヨーコだけはマックスの後ろに立って控えていた。
「疑問ていうか、全部が全部分かってないけど。そうだな……とりあえず知りたいのは、マックスが俺に対して思ってる問題点と、さっき言った謎の議題の理由。あと出来ればここにいる人たちの自己紹介が欲しいかな」
混乱、疑問、置いてきぼりに慣れたラングが問題を絞って聞き返す。
「あれ? 俺のことについてはもう聞かないの?」
「なんかどうでもよくなってきた」
「チッ! もうちょっと驚くラングを見たかったんだけど……」
指を鳴らして真剣に悔しそうに舌打ちするマックス。
「確信犯かよ」
あんなに順従だった少年の変わりようはどういうことなのか? という多大な疑問は聞きたくはあったものの、当面の問題には差し支えないので後回しにすることに決めたラング。
といよりも『さあ聞いて来い』というマックスの視線が、うざかったのも理由としては大きい。
「そうだな聞かれた順番に答えていこうかな。まず俺が問題だと思っていることであり、たぶんここにいる者しか知らないこと。それは勇者と呼ばれるラングが実はそこまで強くないということだ」
「それなりには腕の立つつもりだけど、騎士団に比べればまだまだなのは事実だな」
それの何が問題なんだ? という疑問を抱きつつも話を聞くラング。
「はっきり言って国民から騎士団、または国王様まで、ほぼ全ての人はラングの事を強いと思ってる。しかも最強、もしくわそれに相応しい強さだと」
「いやいやいや、そんな勝手なこと思われても事実は事実だろ!?」
勇者の伝説。だれもかれもが子供の頃から御伽噺として聞いて育ち。大人となってもその憧れは詳細をしるほどに膨らんでいく、この国、世界共通の憧れであり絶対的神話なのだ。
いままで例外なく勇者は強かった。一人で戦争の勝敗を覆し、巨人を打ち倒し、数百の数千の魔獣を払いのけ、広大な魔族領の最奥へと辿り着き、神をも恐れぬ魔王を討つ。数々の偉業を残してきた勇者達は、まさに人類の最高到達点に位置することに、誰もが何の疑いもなかったのだ。
「事実は小説よりも奇なり。な~んて昔の人はいったらしいけどハッハ例外とか異端ってのはどこでもあるもんだね~」
「そうだろ。はっきり言えば魔王を倒せたのは運、偶然に過ぎないんだ。そんな超人っぷりを期待させても困るんだが」
会議室にいた何名かが溜息をもらしていた。
「でもそいうわけにはいかないのが現実なんだよね~。紛いなりにも『勇者』の称号を王様から頂いてしまったんだから。間違いなくそれはホンモノだ。強いか弱いか、相応しい相応しくないとかは置いといてね。じゃあもしも、もしもその強いはずの勇者が弱いと知れたらどうなる?」
強いはずの勇者が弱いという矛盾。たしかに言われてみれば、その溝はなにかしらの不利益を生みそうな話だ。
「村八分とか? 国民の意気消沈とか?」
「ほぼそれで間違いはない。でももうちょっと先の事を考える。そうなるとラングが弱いという事実を知られるわけにはいかないんだよ。今回ソーンに派遣された経緯は聞いてるよな? 問題は魔族だ。村八分や意気消沈だけみれば、そこまでの損害じゃない。どっちもある意味自業自得だしね。だけど今は魔族との緊張状態であり、おそらく魔族側は魔王の仇討ちに躍起になってくると思う」
マックスの言わんとする事がなんとなくわかってきたラングは、次第に顔が険しくなっていく。
「勇者が弱くて、もしも魔族に仇討ちを成功されてしまったら? 国民は意気消沈どころじゃなくたぶん絶望するだろうね。強さの象徴を魔族に倒されたとあっちゃ当然なんだけど。その後に戦争にでもなってしまえば……士気は歴然の差になって、甚大な被害が出るだろう。下手をすれば国が滅びかねない」
沈黙が会議場を支配する。
「…………じゃあ今すぐ『俺は弱いから勇者の称号を取り下げてくれ』って言えば……」
「そんな事になったら国王派の騎士と勇者派の国民側に分かれて内乱になる可能性があるぞ。内乱中の国が攻められて勝てるかどうかなんて火を見るより明らかだ。そうなれば確実にラングは暗殺されるね」
「暗殺っ!?」
さすがに予想していなかった答えに戸惑うラング。
「暗殺して適当にでっちあげた、ん~そうだな。『小さな村を守るため盾となりその身と引き換えに国民を守った』なんて美談を捏造されて葬られるだろうな。そうすりゃ国民の記憶にも新しい伝説として残るし、魔族側も仇討ちの対象がいなくなって万々歳だろ。政治的には間違いなくやるね」
とんでもない理不尽な話を聞いてラングは、はっとする。
「なるほど、おれって詰んでのか」
顔は笑っているものの、視線があらぬ方向に向いている。
「その責任が他にあるってのが、むかつくんだけどね」
「へ?」
能天気なマックスに一瞬、暗い影が差したような気がした。次の瞬間には明るく笑っていたので気のせいかとラングは再び思考する。
「じゃあどうすれば……いやマックスはどうしたいんだ? そこまで結果がわかっていて、事実も知っている。その上で俺をここへ招いたんだろう」
「理解がはやくてたすかるわ。そこで次の質問、今回の議題の話に繋がるんだよね」
「はあ? ……まさかお前」
「偽者なら本物になってしまえばいいじゃない」
親指を立てて渾身の笑顔を偽勇者に繰り出した、自信たっぷりのマックス・バイナスだった。
王城のとある一室。騎士団第一執務室にて報告書に目を通している人物がいた。
黄金色の肩まで伸ばした髪。黄金色の瞳と黄金色の鎧と剣。全身の7割が黄金に包まれた男は椅子に肩を付きながら長々と考え事をしていた。
コンコンと部屋をノックする音が静寂だった部屋に響き渡る。
「開いている。入ってよいぞ」
「失礼します」
部屋に入ってきた男は黒ずくめだった。鎧、マント、剣から繋ぎ目まで。髪の毛は茶色のかかったものだった。しかし椅子に座っているどこか高潔さを纏う男とは対照的に、その様相は圧迫感に満ちたものだった。
部屋の中ほどまで歩み、敬礼の形のまま礼の姿勢を取った。
「勇者はやはりソーンへと就任したようです」
「うむ。まさかあの第六団長が、政治力をここまで振るってくるとはな。単なる阿呆ではなかったか」
「……よろしかったのですか?」
礼の姿勢で顔を僅かにあげ視線を黄金の男に向ける。
「さすがに王と賢人会の決定を、これだけ短期間に覆すのは我でも無理だな。憎らしいことに筋は完璧に通っておるしな。だが……」
いまだに黒衣の男に視線を向けないまま書類に目を向けていた黄金の男は、口の片側を上げて笑う。
「ここまでするのだ、なにか裏があるのだろうさ。もしくわ弱みかもしれん。いずれそれは突き止めるとしてだ。勇者と剣聖が同じ場所に集うことは何も悪いことではないさ」
黒衣の男に向き直り、今度は口を開けて歪んだ笑顔を浮かべる。
「潰すのには好都合というものだ」
大陸の果て。険しき森の深遠で悲しみと憂いの声が響いていた。
「アア ワタシタチノ リソウガ」
「ヨンヒャクネンノ ネンガンガ」
「ツギハ アイツダ ムニカエル」
「オワリダ オワリダ ナニモカモ」
「ユメハ ヤッパリ マボロシナノカ」
「イヤヨ!!」
悲しみにくれる声に抗う者がいた。
「ワタシハ アキラメナイ」
暗く沈む森でその輝きが曇ることはなかった。
王道なのに邪道。
「ストレートに見せかけた変化球を。」がモットー