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一章 第十一話 互いの手札

 ◆ 一章 第十一話  ◆







「さて、順調と言っていいかの今のところは」


 第二陣のスカルトスを撃退して一息付いていたジョージがその残骸を眺めて一考していた。


「何か気になることでもありますか?」


 伝令を飛ばすためにそばに控えていた法術師が大きな戦果に喜びではなく疑問視するように思いふけっていたジョージに聞き出した。


「ふむ、では後学のためと一つ教えておいておこうかの。物事が簡単に行き過ぎる時は疑ってかかるのが鉄則、勝負事においては特にじゃ。なぜなら相手はバカではない、勝つための手段を講じて当たり前、なのに簡単に勝たせてしまうのはそうであるかのように見せかけているということかもしれん。もしもその策にかかり油断しようものならあっというまに勝負をかっさらわれていまうでの。魔族とて同様じゃぞ? 確かに戦術という面では我ら人が先んじておるが見たところ奴らの長と名乗るドノバンとかいう道化はなかなかの曲者と見える。そんなやつがこんな正攻法どころが愚直という手段で我らに挑むとは到底信じられんのよ」


「では何かの策を講じてくるというのでしょうか?」


「おそらくの。……もしくはすでに始まっているのかも知れんがの」


 僅かに作られた空白の間に兵たちは装備の確認をし、疲労した者、オドの消耗が規定を超えた者から予備に控えている者との交代を行なっていた。兵の質だけならかなりの高さを誇っている第六騎士団ではあったが、どうしても兵数が少ないために持久力が圧倒的に不足している。一回の開戦で敵を打ち倒すなどの場合であれば様々な方策を行いなんとかその弱点を補うことはできる。しかし防衛戦になれば否応なしに受けて側に回ってしまうため、もし泥沼の持久戦に持ち込まれるようなことも有り得てしまう。もちろんそのための対策も用意はしていたのだがそれは|マックス≪・・・・≫もしくは|シーリン≪・・・・≫がいることが前提の苦肉の作戦なのだ。ゆえに持久戦になる事を想定して予備兵をなけなしの兵数から配置して、手隙の者にはオドの回復に努めさせていたのだ。


「マックス殿が帰ってこられるまであと6時間ほどかの……ふん、どんな奇策奇襲であろうとわが『鉄壁』の名に掛けて受け止めて見せてやるわい」











 岩の猛獣が走り、爆裂する火球や巨大な岩の塊が飛び交う。第三陣のスカルトス達は今までとはうって代わり、迎撃部隊の射程範囲にはいるやいなやその持てる限りの全力疾走で防御を捨てて走り出した。想定の範囲ではあるもののこの先方はかなり効果的であった。持久戦を想定して予備兵を多めに控えさせて、本来の6割程にあえて落とした攻撃力ではどうしても迎撃に時間を要してしまうため優れた耐久力を盾にした特攻とも言える速攻は相性としては最悪だった。


「いいか! 出力を上げるでないぞ! ペース配分を怠ることは即ち敗北を招くことになるぞい!」


 その総数の約7割、100弱のスカルトス達が壁の眼前まで迫っていた。その様子に多くの力を込めようとする法術師を諌めるジョージ。


「3同赤5! 紋章術展開!」


 ジョージの号令と共に戦列の後方から大きな布が掲げられる。その布に最後の一文字を書き加え、紋章術が完成していく。


「「「「「3781文字『|火舞蜥蜴≪ヒマイトカゲ≫』」」」」」


 赤く光る陣から炎で体を成したトカゲが飛び出していく。『火舞蜥蜴』は火を司る下級の精霊を陣で強化し、術者の意思をある程度くみ取り行動させる事ができる。

 炎のトカゲ達は空を駆けてスカルトスに襲いかかっていく。全長5メートルに及ぶ彼らは次々に岩の巨獣を組み伏せていき、突き立てた牙からスカルトスの中身を燃やし尽くしていった。


突然の逆襲を受けたスカルトスは僅かにその速度を鈍らせてしまい、その隙を逃さすことなく騎士団は法術を放っていき数秒の間にスカルトスはその数を半分にまで減らしていた。


「この調子でいけば堀にまで辿り付けるのは数体といったところ……む!?」


 火舞蜥蜴が牙を突き刺し炎を舞い上がらせ、スカルトスの全身を覆い尽くしその命を奪ったかと思われた。だが火舞蜥蜴の胴体はその右腕に貫かれていた。同じように他の場所でも二体のトカゲがその体を砕かれ空へと帰っていった。


「バカな!?」


 誰かがそうつぶやいた。火舞蜥蜴の戦力を考えればスカルトス単体など一蹴できるはずであり、よほど強い個体に当たったとしても五分以上にはならないはずであった。しかもその炎をその身に受けて無事に済むはずはないのである。

 そのありえないスカルトスたちは申し合わせたように砦に向かって疾走しだす。その速度はとても鈍重なスカルトスとは思えない速さだった。騎士団も予想外の出来事に慌てるものの迎撃の為、弓や法術をぶつけていく。しかしそれを全く意に介さないままそのスカルトスたちは堀まで辿り着き、その巨体を飛躍させた。壁の中段辺りに張り付くように飛びついた彼らの左右の腕には銀色の刃物が見え、それを壁へと突き刺していき壁の上と到達した。


「な!?」


 上段まで到達した謎のスカルトス達はその勢いのまま宙に飛び上がった。それを見上げながらジョージ含め騎士団は驚愕にとらわれる。防御力、機動力、法術により防御壁を追加されているはずの壁の苦もなく登ってみせた謎の力。すべてが常識ハズレのそれを目の当たりにして流石の歴戦の兵たちも一瞬の思考停止の陥ったのだ。

 その常識外れのスカルトスが地面に飛び降りた衝撃で体に纏っていた岩の|表皮≪ひょうひ≫が崩れ落ちる。


「化けて……偽装しておったのか」


 崩れ落ちた岩の中から青と銀色で覆われた鎧の巨人が姿を現せた。刺刺しい装飾、同じく刺刺しい右手のサーベルと左手のメイス。そして兜の奥に魔族の証である光る赤い光。まさに何かを殺す事に特価させた存在であることを体のありとあらゆる場所で表していた。その名をアトラス。ドノバンが数十年の年月を掛けて開発した|新種≪・・≫の鎧族だ。

 手に持つ凶器を今だ状況に追いつけずにいた術者達に振り下ろす銀色の巨人。しかしその刃と術者の間に颯爽と盾を持った戦士が割り込んでいた。

 戦術とはあらゆる状況を想定して、そのための備えと対応策を揃えてこそ良い戦術と言えるだろう。もちろん不利になること、負けてしまうということすら想定してこそ一流の戦術家だ。ジョージ・マッケロイドはその一流と呼ばれる者に分類されると断言できる。常に最前線を好み、研究と鍛錬を怠らず慢心することもなく正しくその歳を重ねてきた男だ。彼ほど戦術の幅を持ち合わせた者はタンバ王国内には存在していない。

 そんな彼が壁を突破された場合の対策を怠っているはずもなく、弓と術を駆使する遠距離戦を得意とする迎撃組には防衛のための戦士を小隊規模、約10名ほどに分けて等間隔で配置されており、左翼の位置にももちろん屈強の戦士達が待ち構えていたのだ。


「全員下がれ! 隊士は足を止めるんだ! こんな距離じゃ走られただけでも大損害だぞ!」


 指示と共にめくらましの為の法術を放ちその隙に足へと斬撃や刺突を加える戦士たち。


「「な!?」」


 しかし体に直撃したはずの火球はその威力を発揮することなく霧散し、足への攻撃もかすり傷がせいぜいの結果となってしまう。しかもその傷さえも次第に修復されていく始末。世に知られている鎧族の生態を照らし合わせると不可解な存在である物体を認識して戦士達はひとつだけ確かめることができた。


「こいつ……鎧そのものを纏ってるのか」











 一方替わって中央に舞い降りたアトラスにはジョージが単騎で立ち塞がっていた。


「まさかこんな早くに見たこともない隠し札を切ってくるとはの」


 3メートルを超えるアトラスの眼前に60の老人が立つ光景はこれから凄惨の光景が始めってしまうことを誰もが予想出来るものであったのだが、第六騎士団の面々は誰一人としてその手を貸す素振りすら見せていなかった。


「レイナに右翼のやつを任せると伝えよ。左は……まあなんとかなるわい。他の者は戦列を崩すでないぞ」


 指示を飛ばすジョージを重要人物と認めたの勢い良く踏み込んでの全力の攻撃を振り下ろすアトラス。巨体から繰り出された凶悪なその一撃が地面を砕き砂埃を巻き上げた。


「まったく老人が喋ってる間ぐらい待てんのか」


 だがそんな攻撃を受けてジョージはその場から動いた様子もなく堂々と立っていた。あれほどの攻撃ならば躱すなり防ぐなりしない限り無事にはすまないはずだ。間違いなくジョージへと目掛けて繰り出されたはずの攻撃は目標をそれてジョージの右側の地面を削っていた。なんらかの危機を察したのかそれを確認したアトラスは後方に退いた。


「ではその不可思議な体の秘密、とくと解析させてもらうとするかの」


 武器を持たずに手甲を握り締め、不敵な笑顔を見せてジョージは眼前にいるアトラスへと構えてみせた。











 遠距離部隊の隊長であるオリガ・ブローム右翼に飛来したアトラスへと駆けていた。それが壁を登り出した時点で付近にいた副長へと指揮を任せて着地地点へとむかっていた。まだジョージからの指示を聞いてはいなかったのだが、あの爺さんなら間違いなく自分に対処を任せるであろうとの判断から即座に行動していた。アトラスが地面に着地しようとしていた場所は右翼の最端ではあったがその下には幾人かの術師が滞在していた。


「その一手は 硬さを持ちて 風を得る。『スタッド』!」


 その一言を綴る間に腰にある矢筒から矢を取り出し弓へと供えて弦を引き狙いを定める。当たり前の様にその動作を行い弓をアトラスへと放つオリガ。

 しかし響術を使用しながら走り、あまつさえ弓を番える動作も同時進行でこなしていく。精密作業を走りながら二つも行う技術ははっきり言って異常とも言える神業だった。だがオリガにとっては何万回と繰り返し、まるで手を握った状態から開いてみせるほど程度の難易度でしかなくなっているほどにそれは本当の意味で当たり前でしかない技術となっていたのだ

 弓から放たれた矢が衝撃音とキンと高い音を鳴らした金属音と共にアトラスを吹き飛ばした。


「防衛部隊は一小隊だけ援護して頂戴、無理しない程度に気を引きつけておくれ」


 姿勢を崩しもんどりうって監視塔の壁に突っ込んだアトラスではあったが、その息を止められてとはオリガは微塵も思ってはいなかった。


「了解したぜ姉御!」


「年上のおっさん共が姉御って呼ぶんじゃねぇぇぇぇ」


 誰もが認める姉御肌、|螫蜂≪ささりばち≫オリガ・ブロームの必中の弓が銀色の巨人へと向けられた。











 中央、右翼と違い左翼はかなり混乱をきたしていた。それなりの密集地に着地されたこともそうだが、その場に居合せた守備部隊の攻撃がまったく通らず、その進行を力で無理やり抑える形となってしまったからだ。いくら法術で体を強化して力をました戦士たちもアトラスの怪力を単純な腕力で返すのは厳しかった。しかもアトラスはそれなりの知能を持っているようで盾に斬撃を加えても無駄だとみるや、横へと体を逸らしてからの横薙ぎまで放ってくる始末。いまだ重症者こそ出てはいないもののそれも時間の問題だった。


「関節部か頭部を狙え! 術師はもっと圧縮した術を使用するんだ!」


 小隊を率いていた剣士がアトラスを抑えながら指示を飛ばしていく。このまま防御に徹していては間違いなく突破されてしまう。ならば機動力、もしくは命そのものを早く断ってしまわなければならない。なぜならアトラスが隊列に雪崩込みさらなる混乱を招こう物なら今だ迫り来るスカルトス達の対応に手が足りなくなり壁へと接岸されてしまう。そうなってしまっては例えそれを凌ごうとも数の不利がある第六騎士団側が致命的な消耗を受けてしまうのは間違いなかった。

 そのためのわずかに焦りを背負った小隊を好機と見て後方へと公転してみせた。アトラスは3メートルを超え、おそらく一トンを超える重量を抱えたその巨体でそんな身軽な動きをしてみせたのは余りにも予想外な行動だった。そして限界まで膝を折り曲げたその力をバネに全速力とその全てを重さをもって小隊への突撃を敢行する。


「まずい!!」


 止まった状態で押されていただけでも精一杯だったのだ、速度の乗った突撃など力だけで到底防ぎ切れるものではなかった。

 危機的状況に陥る、まるで時が止まったような中で誰もがそう思ったその空間を一人の剣士がアトラスへと剣を振り下ろす。


「ダラッッッシャーーーーーー!!!」


 おそらくアトラスのその突撃は小さな家なら一撃で粉々にしてしまってもおかしくないものであったが、その剣士の振りかざした斬撃はその運動エネルギーそのものを打ち消しあまつさえ打ち返してみせたのだ。地面を削るようにアトラスは仰向けに倒れこんだ。


「硬ってぇぇぇぇ痛っえぇぇぇぇ!?」


 その斬撃に耐えられずに根元から折れてしまった剣を落としてユウマ・カミザキが両手をわなわなさせて絶叫していた。


「隊長!? 何してんすかこんなところで!?」


 守備部隊に組み込まれてちた突撃部隊所属の若い青年が後方で待機しているはずの隊長へと声を上げていた。


「いや……暇じゃん? 部隊運営やらとかはブルーのヤツに任せとけばいいしな。こっちのほうが後ろでくだまいてるよかよっぽどおもしろそうじゃねえか」


「いいのかな~それで」


「まあいいじゃないかおかげで助かったのは事実だ」


 全く納得出来ない青年を小隊長がなだめる。


「じゃあ礼と言ってはなんだが、こいつは俺一人でやらせてもらうぜ」


 なんだか悪そうに上半身だけをひねって振り向いたユウマの向こうでアトラスが立ち上がる。


「さあデカブツさんよ、おれを存分に楽しませてくれよ」

マックス「召喚獣ってカッコイイよな!」


ラング「まあ男の子の憧れではあるな」


マックス「よっしゃー! オレも有名なサモナーを真似ていっちょやってみるかー!」


ラング「円陣からとかベッタベタだよな」


マックス「|火○蜥蜴≪ヒトカゲ≫君に決めた!」


作者「オイヤメロ」

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