第21話 短めで…
朝…
一人での登校にななは
久しぶりに爽やかな朝を
過ごすことが出来た。
言うまでもなく
二人の数々の行いにより
朝から晩まで
胃が痛くなる毎日。
正直慣れは怖い…
なな以外のみんなは
(二人は除く)
こんな爽やかで
気持ちいい朝を
毎日おくれているなんて
ななは非常に羨ましくも
二人にかすかな
憎しみまで感じた(笑)
どうしてこんな
晴れやかな朝を
迎えられたのだろうか?
ななは知る由もない…
始まりは昨日の午後。
昨日は部活がなかった。
慎治と怜治から
メールがきた。
二人とも用事があるので
今日は部活はない
という主旨の簡単な
ものだった。
しかし、ななは
一種の懸念を
押し殺していたのだ。
なな自身はななの
希望というか、
願いから否定するが
心の奥底、無意識下で
ななは疑問を感じていた
朝の爽やかさを
感じながらも
なな自身はすっきり
しないもやもやを
感じていたのは
そのためであった。
朝華と一緒に登校。
非常に女子高生らしい
話をしながらきたのは
おそらく初めてだ(笑)
「そういえば、昨日
最近学校の近くに出来た
店に髪切りに入ってく
慎治くんと怜治くんを
見たよ~」
「へぇ~」
だからか、昨日が
部活なかったのは。
「もう一人いたけど
いつも二人って
一緒だよね~」
まあ、ななも
いつも一緒だけど…
と朝華はニヤニヤして
言った。
「やっぱり二人は
髪型もお洒落なのかな~
この前、二人の私服を
見たけどちょ~お洒落!
やっぱイケメンは
違うね~。
どんな髪型かな?」
朝華は少し興奮気味に
しゃべった。
「ふつうだと思うよ」
ななは適当に相づちを
うった。
そうこうしているうちに
教室まできていた。
だが、いつもと
様子が違うのだ。
人、人、人…。
人が教室に
我よ我よと押しかけて
もの凄い熱気を
発している。
「何かあったのかな?」
なながそうきくと
朝華は首を横に振り
「わかんない。
とりあえず、
教室に入ろ」
人をかきわけて
教室の自分の席に。
しかし、自分の席に
むかっていくごとに
人口密度は高まり、
進んでいくのは
次第に困難になった。
やっとのことで
席に着くと
人ごみの元凶が
そこにいた。
「慎治!!
怜治!!髪!!」
思わず大きな声を
出してしまった。
「「うぃ~なな」」
気楽に手を振る二人。
「どうしたの!?」
「「何をそんなに
驚いている?」」
普通な感じでいる
二人に
「何にって…
髪だよ!!ないじゃん!」
「「失敬な!!0.5mmぐらい
あるわ」」
傷ついたかのように
二人は口を尖らせる。
「なんでも良いけど
どうして丸坊主なの!?」
「「それは…」」
二人が顔を見合わせて
ニヤリと笑う。
「「ひ・み・つ(はぁと)」」
ななの朝はやはりか、
暗雲たちこめるのである
丸坊主になった二人を
見るために一日中
教室に見物人が
殺到した。
誰もが髪を切った理由を
尋ねるが、言葉を
うまく濁し、
うやむやにして
やり過ごしていた。
慎治、怜治は時折、
ななを見て笑っていた。
これは何かある…
ななは直感した。
まぎれもなく部活が
戦場とかすのだろう。
放課後。
ななを連れ出して
校外に出る。
「さぁ、お待ちかね。
今日の部活だ!!」
慎治は張り切って
言った。
「それより
どうして丸坊主に?」
ななはきいた。
「そんなに答えを
焦るなよ、なな。
もうすぐわかる。
ほら、ついたぞ」
怜治が指差したのは
「ここ、朝華が言った
最近出来た店じゃん。
昨日、ここで
切ったんじゃないの?」
「「違うよ(笑)」」
「えっ!?
じゃあなんで
昨日ここに来たの?」
「「下見」」
「下見ぃ~?
じゃあ髪はどうしたの?」
「「二人で仲良く
バリカンで刈りあいを
しました(笑)」」
いやな予感しかしない…
「一昨日、
俺にしょ~もない神が
降りてきたんだ!!
丸坊主で髪を切りに
行ってみるのは
どうだろうと…
神が髪だけに
俺に導きをくれたのだ」
怜治が言った。
しょ~もな神…
またこれ本当に
しょ~もない神が
いたもんだとななは
思った。
「つまり今日のWJCは
丸坊主の人が
[短めでお願いします]
と言ったときの
店員の応対を調査する」
「はぁ~…」
深いため息。
ため息しか出ない。
「どうしたなな?」
「いやなんでも…」
本当にいるんだな、
しょ~もない神が。
しかも目の前に二人…
「ちわ~す」
後ろから声が、
この声は…
「あ!慎哉く…
えぇ!!!」
なんと慎哉も
丸坊主だった。
「アニキ!やっぱり
坊主にあいますね」
「「慎哉もな~」」
「で、今日は
この間言っていた
アレ、やるんすね?」
慎哉が真剣な顔で
言う。
「ここら一帯をしめて
住民を悩ましている
床屋連合の実態調査を」
「「そうだ(笑)」」
(おいおい…そんな
しょ~もない嘘が
まかり通る世の中で
いいのか)
ななは思った。
「では、この店からだ。
作戦はこうだ。
慎哉がまず戦陣をきり
なながそのあとにつく。
俺達は外から観察。
慎哉は髪型をどうするか
尋ねられたときには
(短めで)と頼む。
それが床屋連合の
一種の暗号だ。
これは仲間である
サインだから、
慎哉はその後
仲間として自然体で
会話してなにか
証拠をつかむ。
わかったな」
「了解です」
「では、頼んだ」
慎治怜治が慎哉の
背中を軽くおした。
慎哉は二人からの
重大な(しょ~もない)
任務を任せれて
張り切っているらしい。
あとをおうななは
慎哉の背中から
それを感じた。
「いらっしゃいませ~」
二人が店に入る。
店員が二人、
客は一人もいない、
談笑していた最中に
突然の客の襲来に
柔軟に対応してきた。
二人が待機用の椅子に
座ると店員の一人が
近寄ってきた。
ななのほうをみて
「どうぞこちらへ」
と散髪用の椅子に
招く。
ななは苦笑いしながら
「あの~私は
付き添いです」
そういうと慎哉が
椅子から立ち上がり
店員の先導もなく
一人で散髪用の椅子に
どすんと腰掛けた。
そして、腕を組み
「短めで!!」
(えぇ~…)
店員ABはどちらも
困惑しきった。
ななは表情から
みてとり哀れみを
感じた。
それが普通の反応。
なぜなら短めと言われても
その頭皮を覆うはずの
髪の毛が尻かくして
頭皮かくさず状態(笑)
切れる余地はほぼ0
というか切るよりも
剃る以外の選択肢しか
残されていない。
店員Bが慎哉に
進み寄り、遠慮がちに
こういった。
「お客様、すいませんが
これ以上切ることは…」
そう言われても慎哉は
「短めで」と頼んだ。
「なんでも良いので
お願いします」
いよいよ困惑を
隠しきれなくなった
店員二人は救いの手を
ななに求めた。
しかし、ななは
あらかじめこの展開を
予想、その予想をもとに
行動をおこしていた。
そのために狸寝入りを
してやり過ごしていた。
ななを見る店員達を
薄目で確認していた。
店員達はかわいそうだが
ななにはどうすることも
出来ないと知っていた。
慎哉の張り切りは
もの凄いものだった。
「で、ではどのように
いたしますか?」
店員Aが聞くと
「もっと短く」
とぶっきらぼうに
答える慎哉。
「では、剃って
スキンヘッドにする、
というかんじで
よろしいでしょうか?」
ここで今の慎哉の
脳内イメージを
ご紹介しよう!!
慎治怜治の命令の
通りに仲間である証拠を
みせた(と勘違い)ので
店員は対応をみていた。
慎哉ビジョンでは
店員二人は本当に
仲間かどうかを探って
いた。
が、ここにきて
スキンヘッドにする
という言葉をきいて
慎哉は素早く連想した。
スキンヘッド
→ヤクザ、ヤンキー
→床屋連合
→仲間入り
慎哉はここで愚かにも
ガッツポーズをした。
任務を着実に
遂行出来ていると(笑)
店員二人の心中はと
いうと二人とも
気難しい坊主頭の客に
戸惑っていたが
ようやく解決の
糸口がみえたためか、
この気難しい客にも
いつも通りの接客を
しようという心の
余裕ができてきた。
そのため、
慎哉にも気軽に
話しかけ始めた。
慎哉も慎哉で
床屋連合の調査のため
うまく会話をしていた。
そして何事もなく
20分後には完全なる
スキンヘッドとなった
慎哉とひたすら
寝ているふりを
きめこんでいたななが
店からでてきた。
「すいません、アニキ。
実態の確認はあまり
できませんでした。
お役に立てず
すいません」
肩を落とし
残念そうに慎哉が言う。
逆に実態の確認が
出来たらおかしいと
ななは一般的な考えを
持っていたが
慎治怜治の二人には
それはあまり通用しない
「よくやった慎哉!
外から見ていたが
たくさんの手がかりを
つかめたぞ」
怜治が言うと
「マジですか!!
さすがアニキ達!!」
「もう少しで
全貌を暴けそうだ。
次の店で暴くぞ」
こうして4人は
二店目にむかった。
二店目につくとすぐに
怜治が進み出た。
「今度は俺がいく」
「わかった」
「気をつけて」
慎治と慎哉が言う。
「なな行くぞ」
「え、また私?
お願いだから
一人で行ってよ~
店員さんの
可哀想な感じを
もう間近で
味わいたくないよ」
怜治が溜息をつく。
やれやれとでも
いうように首を横にふり
幼い少女をあやすかの様な
口調でななに言う。
「仕方ないなぁ…」
怜治がこう言うので
ななは
(これはいけるかも…)
と考えた。
「問答無用で
却下だ」
「文脈おかしい!!」
無論、ななは
同伴せざるを得なかった
入店。
店内には
お年を相当めしたと
おもわれる女性店主
一人だけちょこんと
座っていた。
ゆっくりとした動作で
2人のほうをむき、
ぼんやりとした瞳が
メガネごしに怜治を
見始めた。
「おや、まあ。
おじいさん。
帰ってきたのかい?」
さすがに怜治も
困惑した。
「いえ、おじいさんでは
ないんですが。
髪を切ってくれますか?
短めに…」
「おや、
人間違いか。
すまないねぇ~
すっかり目が
悪くなってね~
今、きりますからね」
怜治が散髪椅子に座る。
そうするとよろよろと
片手にはさみを持って
女店主は怜治に
ちかよる。
いたって普通に
切り始めかけた。
だが、怜治の頭には
きるほどの髪はないと
前述した通り。
一種の虚無感が
店内を包んだ。
ななはもちろん、
それは快活な怜治さえも
支配する強烈なもの
だった。
年老いた女店主の
手に持つハサミは
ただ、怜治の頭
すれすれ3cmの
空をきるばかり。
その音が、
その音だけが、
店内に響く。
しかも実際に切るように
頭のまわりをまんべんなく
切り進んでいく。
それが20分も続いた。
店主がはさみを
置いた瞬間、怜治は
ホッとした顔をした。
しかし、店主は次に
高温をはなつ白い球体の
怪物をころころと
怜治のところに
持ってきた。
「頭入れてください」
「えっ?」
予想外…
怜治の頭が
怪物の口に
すいこまれる。
「あつ、あつ!」
ジリジリと怜治の頭を
焦がす。
「さあ、おじいさん、
いつも通りに
出来ましたよ」
そう嬉しそうに言う
店主を残し二人は
店を出た。
「怜治!?」
「アニキ!?」
変わり果てた怜治の
頭皮!!!
からからで
ところどころ
肌がうすく剥がれていた
頭皮の砂漠化が
強制的に行われた。
「散々だったぜ…」
ななも微かな哀れみを
怜治に感じていた。
「お前はよくやった。
最後は俺に
任せてくれ!!」
慎治は肩を落とす怜治の
無念を力にして
次の店に入店した。
そこはまだ新しい
明るい空気に包まれた
最新鋭の店と噂され、
学校で人気のあるものだった。
入店のチャイム。
「いらっしゃい」
カリスマを感じさせる
店員が。
慎治、ななを見、
慎治の頭を見、
ななの髪をみる。
「今日はお二人ともで?」
おや?
ななは思った。
てっきり、
ななが髪を切りにきたと
思われると。
「いいえ、
私は付き添いで」
「かしこまりました。
ではこちらへ」
慎治が誘導される。
どんな客が来ても
落ち着いて対応するよう
店で指導されて
いるのだろうか、
しっかりしてるなと
ななは感心した。
一店目の反応が普通。
「今日は
どうなさいますか?」
ななはここで
身構えた。
店員がこのあと
どう対応するか…
興味をそそられると
同時にななへの
とばっちりが気になった。
「短めで」
運命の瞬間。
「かしこまりました」
あれ?
拍子抜け。
慎治の髪が
普通の量あるような
対応にななの
リズムが狂った。
そんなこともお構いなし
店員は慎治の
要望を聞く。
「当店の可能な短かさは
お客様の髪から
判断しますと
2mmコースと
2マイクロと
なりますが
どちらに
なさいますか?」
「…」
ちょっとまて。
冷静になろう。
ななのこころは
ハゲしく動揺した。
おかしいよね?
常識で考えて!
2mmはまだわかるよ?
2マイクロってなに!?
細胞の核小体の直径と
ほぼ同じ長さじゃん?
「2マイクロで」
っておおい!!
慎治普通に
答えたよ!!
いいの!?
このまま進んで
ほんとにいいの?
「では
始めさせて
いただきます」
「お願いしまーす☆」
軽いな慎治…
ななは自分自身のこと
ではないのでもう
どうでも良くなった。
カリスマ店員は
黒い球体を持って来た。
それを慎治の頭に被せた
そして
ぱちっ!
スイッチオン。
金属音が低く
唸り始めた。
「なんか、
ヒリヒリする…
うわっ!?」
金属音は次第に
激しい轟音にかわり…
「いたい!?
なんか擦ってる!!」
慎治が叫ぶ。
「当店は
最新の技術を取り入れて
おりますので、きっと
お客様の御要望どうりの
仕上がりになること
でしょう」
2マイクロにするため
慎治の頭上では
何かが蠢いている。
痛みをともなう
何かが…
「きぃやぁ~…」
慎治の叫び。
カットが終わり
店をあとにした。
怜治と慎哉が
慎治の頭をみる…
「なんでそんなに
ピカピカに
なってるんだ?」
床屋連合の
恐ろしさを
存分に味わった
四人であった。