第12話 大きな杉の木ノ下で
「じゃあ、俺が女」
「了解。俺が男やる」
男子二人が大きな杉の
木の下でこそこそと
話している。
周りには誰もいない。
二人っきりである。
校舎裏に位置しているが
なにぶん、杉が大きく
枝があちこちなが~く
のびているから
廊下の窓から見ようと
こころみても
ちょっとやそっとじゃ
見えないのである。
「なんか本当じゃないけど
緊張するな…」
「何恥ずかしがってるんだよ!!」
「いや~、されたことは
あるけど、したことは
ないからなあ~」
「いいからさっさと
しようぜ。みんなが
でてきちまうだろ…」
「わかったよ…じゃあ…
いうぞ…」
「ああ」
二人は黙りこくった。
しかしその沈黙は
片方の意外な言葉により
破られたのだった。
「初めて見たときから
好きでした。付き合って
下さい」
するともう片方は。
「俺も…好きだった」
男二人が見つめ合った。
しかし何も起こらない。
しかし何かが、
得体の知れない何かが
外見では判断できない
何かが二人を貫いた。
空の青さが眩しかった。
それから数十分後、
WJCの部室には
一人きりで佇む
美少女が…
後ろ姿は物悲しげに
佇む美少女だったが
実際は違った。
顔は険しく、テーブルを
指でトントンと
叩いている。
「ったく~、
呼び出した方が
来ないなんて
信じらんない!」
WJCの一員、狭山なな。
今日もいつも通りに
部室に集合。
もちろん、あの二人から
同じメールかつ
同時にくる。
いつものことだ。
一つをのぞいては。
「いつもなら二人いるのに
いないなんて…
また私に何かしようと
してるのかぁ?」
そう…あのスーパー
問題児達がいないのだ。
ガラガラ。
「おいっ!慎治怜治!!
おそ、あ、香奈~」
「あれ?ななちゃん、
今日は一人?」
女子サッカー部
キャプテンの寺島香奈が
入ってきた。
「違うよぉ。慎治怜治が
呼び出しといて来ないの」
頬を膨らまし、
香奈に訴える。
香奈も少し驚いた顔をする。
「あの二人がななを
呼び出しといて
遅れるなんて珍しい」
「そうなんだよ。
いつもならいるけど
今日は来てないの…」
ななは端により
香奈にソファーを勧めた。
香奈はソファーに
座った。
「私ならあの伝説の
鬼会長を待たせたりは
しないね。怖さのあまり☆」
「香奈ちゃん!!」
ななは少し怒った。
「昔の話はしないで!!」
「ハイハイ、昔って
言っても数ヶ月前の話でしょ」
反論しようとななの
開きかけた口は
ドアが開く音に
閉じることを余儀なく
させられた。
ドアには慎治怜治が…
「おっそ、い…
何…やってんの?」
慎治怜治はお互いに
肩を寄せ合い、まるで
できたてアツアツの
恋人のようにひっついて
いる。
怜治が慎治の肩に
頭をよりかけている。
ななは胸くそ悪くなった。
吐く真似をした。
「え~…あの慎治君?
怜治…君?二人とも
何かあったのそんなに
ひっついて…」
香奈が何故か慌てた感じ
焦った、戸惑った感じで
二人に聞いた。
「きもいよ。二人とも~
さっさと離れなよ」
ななが厳しく言った。
今度は香奈が吐く真似を
した。
ここで初めて
二人が動きだした。
ななと香奈をどけて
ソファーにすわるや
いなや、イチャイチャ
しだした。
「怜治…もう君を
離さない」
「嬉しい!!慎治!!」
二人は熱く抱擁しあう。
「「なにこれ…」」
なな、香奈が二人して
目の前で起こっている
奇妙な男同士の行動に
指をさして言った。
「「さあ」」
また、ハモる。
困惑する二人をよそに
男どもはまだ続ける。
「俺達は生まれた瞬間から
小指が赤い紅ショウガで
繋がっていたんだ」
「紅ショウガ!?
普通に糸でいいだろ!!
あんた達は焼きそばか!」
なながツッコむ。
「嬉しい!!やっぱり
紅ショウガがあったのね」
また怜治は慎治の
胸に飛び込む。
「紅ショウガでいいの?
小指臭くならない?」
香奈が的確に言った。
イチャイチャが続く。
だいたいは慎治が
コーヒーに砂糖を
山盛り5杯ぐらい
いれたぐらい甘い言葉を
machine gunのように
呟き、怜治がそれに
感嘆の辞をのべる。
(非常に非常にさむけが)
「お茶でも…飲む?」
ななが気まずそうに
聞く。何故か、ななと
香奈は今まで二人きり
だった恋人達の部屋に
間違って入ってしまった
ような感覚に捕らわれていた。
早くもこんな部屋から
出て行きたいが
二人がどう考えても
おかしいので
無視出来なかった。
ななの問いかけが
というよりも慎治怜治の
視界にはななと香奈は
いないようだ。
「「………」」
((気まずっ!!))
只今のシンクロ率は
400%(爆笑)
沈黙が続く(ななと香奈)
イチャイチャが続く
(慎治怜治の)
ななが耐えかねて
お茶を淹れた。
慎治怜治のぶんも
テーブルに置いた。
すると怜治が
「ねえ、あれしよう☆」
(あれって…?)
「あれか!よしわかった」
(わかったのかい!)
慎治がゴソゴソと
制服の内ポケットを
探っている。
何かを探している。
あちこち探した結果、
何かに触れて
<あっ、あった>
みたいな顔をした。
(何取り出すんだろ?)
「これだろっ!!」
(ストロー?)
二人が疑問を感じる。
「それそれ☆
じゃあやろっ!」
(何を?)
チュー
二本のストローで一杯の
お茶を飲む!!!
「やめんかっ!!
あんた達は華に
群がる蝶々かっ!!」
止めない二人。
すると携帯の着信音。
「もしもし?」
慎治の携帯だ。
「そうか、うん。
ああ、君か。わかった。
では、またあとで」
慎治が電話をキルト
スグニ怜治が
「さっきの誰?」
ときつめの口調で
聞いた。
「いや、友達だけど…」
「嘘!!私以外の男でしょ」
「ちっ…、ちがう!!」
「何!?その間は!!?」
(こんな女の子いたら
さぞ、面倒だろうな)
ななと香奈が心で呟く。
「ホントだっ!!
友達だって!!」
「そういって…
浮気でしょ!!」
ソファーから怜治が
立ち上がる。
「もう、いいっ!!
私、帰るっ!!」
ドアを開けて
出て行こうとする怜治。
その腕を掴む慎治。
「離してっ!!」
めちゃくちゃに
振りほどこうとする
怜治。
すると、慎治が
思い切り抱きしめる。
「君しかいないんだ。
怜治!!結婚しよう」
「「「はっ!?」」」
ドアの近くには
何故か岸本慎哉が…
「アニキ達って…
アニキ達って…」
後ずさりする慎哉。
「慎哉君、ちょっと
待って!!」
誤解したと思い
ななが慎哉を呼び止める。
「欠根って
根がなかったんですね~~~~!!!!」
「「何それっ!!!?」」
叫びながら走り去る
慎哉の背中に突っ込んだ。
また仲直り?した
慎治怜治がソファーで
イチャイチャして
話してる。
さすがにそろそろ
トイレに行って
吐きたいなと思い始めた
ななと香奈は
二人に話しかけた。
何でこうなったかを
知るためだ。
「二人はさっきまで
どこにいたの?」
ななが聞くと
初めて二人が
反応した。
「「校舎裏で愛を
語っていた」」
どうも二人は
自分達がどれだけ
アツアツかを
言いたいらしい。
「そこで慎治が…」
「いや怜治も…」
とか話している。
「わかった!!」
香奈がいきなり
手をたたいた。
「どうしたの?」
香奈がななを見て
「校舎裏の杉の木、
知ってる?」
(確かにあるはあるが、
それが関係あるのかな)
「知ってるけど、
何で?」
「この学校の七不思議の
一つで校舎裏の杉の
木の下で告白すると
絶対叶うっていうのが
あるんだよ!!」
「噂は知ってるけど
なんで二人が?
男同士だよ?」
「二人のことだから
男同士でもなるか?
って思って試したんだよ」
「まぁ~た
しょ~もないことを…」
二人ならありえるなと
ななは思った。
「直す方法はあるの?」
「その木の下で
違う女の子に殴って
もらえばいいらしいよ☆」
「よしっ!!
行こう」
二人を引きずり出し
木の下に。
ななは二人を殴った。
ほぼどうじに
「「イテテテ」」
「世話焼けるな!たく!
行くよ!!」
慎治怜治はキョトンと
している。
「どうしたの?
部室戻るよ?」
二人はななを見て
「「私は誰?ここはどこ?」」
「記憶喪失っ!?」
香奈は苦笑い。
「強く殴りすぎたんじゃない?」