粗悪な石工として追放されましたが、辺境伯が七段の石と隣室の名札を積んでいます
「粗悪な十二個はお前の仕事だ」
ストヤンが退職札を作業台へ投げた。木札は一度跳ね、私の木製目地型にぶつかって止まった。
「十二個。今日も十二個です。粗悪品を十二個切れるなら、私は勤勉な粗悪品ですね」
「口答えをするな。城門用の石にずれが出た。お前の加工不良だ」
合った石にはストヤンの名義札、ずれた石には私の名義札。石より名札のほうが自在に動く。便利な石切場だ。私ならまず名札で城門を積む。
石の割り肌を上へ向け、鉄槌を落とす。角を逃がし、据え面を削る。木製の型を当てれば、目地は三ミリ。指の腹で粉を払い、十二個目を並べたところへ、カラム閣下が来た。
黒い手袋。飾りのない外套。必要な言葉しか持ってこなさそうな顔。
「検分する」
閣下は一個目の割り肌、二個目の据え面、三個目の角を順に見た。石を見ている。そう思ったのに、私が型を当てるたび、灰色の目が私の指先へついてくる。
右へ。
左へ。
また右へ。
石を見てください、石を。私の指は城門にはなりません。
「何か不良が?」
「品質を見ているだけだ」
その右の人差し指は、十二個目から外した私の没札の上で止まっていた。
いま一個目の不整合です。品質は石にあります。木札にはありません。
閣下の指が札の端を押さえる。折るのかと思えば、親指まで添えて、作業台からそっと持ち上げた。
「それは没札です」
「分かっている」
「捨て場は反対です」
「分かっている」
いま二個目の不整合です。分かっている人は反対へ歩かない。
閣下は札を外套の内側へ入れた。ストヤンが咳払いをする。
「粗悪品の記録までお持ちになる必要はありません。わたしが処分いたします」
「検分物は私が預かる」
また私の指を見る。
よほど粗悪な箇所を見つけたいらしい。私は十二個の石を撫で直した。どれも三ミリ。残念でした。本日の粗悪品は、どうやら口だけです。
* * *
二度目の検品で、カラム閣下は七個の石を仮積みさせた。
単品なら、平らな石はただの平らな石だ。七個以上を正しい順で積めば、横目地が一本につながる。私が切る石は、割り肌の癖を次の据え面で受けるように並べてある。順番を崩せば三段目から口が開く。
「積み順を決めたのは誰だ」
「わたしです」
ストヤンの返事が早い。槌を振るときもその速さなら、少しは腕に筋がついたのに。
「では説明を」
「まず大きな石を下へ。安定を見て、順に重ねます」
大きさで積む。なるほど。七個のうち四個が同じ幅ですが、四つ子の長幼はどう見分けるおつもりで?
「補足を——」
「お前の説明は不要だ」
ストヤンが私の声へ蓋をした。
作業場にカラム閣下がいない日と同じ声だった。太く、速く、こちらの返事が入る目地を残さない。
以前、名義札へ署名しなければ三人分の日当を止めると告げたときも、この声だった。
ロルカンは両手を背へ隠した。ギードレは型板についた目地材を、もう白いのに払い続ける。
カラム閣下が一段目を指した。
「続けろ」
ストヤンは二個目を置き、三個目で迷い、四個目を置いては抜いた。目地が五ミリ開いたからだ。別の石を入れる。今度は縦目地が一直線に重なる。
倒れたがりの城門ができつつある。
「七個を最初から」
閣下の声で積み直しになった。
私は退職札を作業台から取った。どうせなら早めに言っておこう。検品のたびに札を回収されては、捨て直す手間まで増える。
「本日で辞めます」
紙をめくっていた親指が止まった。
閣下の胸が動かない一拍があり、次に入った息だけが妙に深い。耳の縁が、冷えた石切場には似合わない色になる。
「雇用は石切場の問題だ」
「はい。ですから石切場を辞めます」
「検分が終わっていない」
「私の説明は不要だそうです」
ストヤンが小さく笑った。閣下は発注書を閉じる。親指は紙の角に残ったまま。
私を早く追い出したいのか、まだ責任を数え足りないのか。どちらにせよ身体と返事が噛み合っていない。
「七個目を置け」
声だけは元へ戻った。
いま三個目の不整合です。耳は戻っていませんよ、閣下。
* * *
城門のずれは、正式に私の加工不良となった。
ストヤンは発注書の控えから私の署名を外し、合格した積み順を自分の設計として書き加えた。
「石切場の信用を守るためだ」
信用とは、ずいぶん軽い石らしい。名義欄から名義欄へ、ひょいひょい運べる。
ロルカンとギードレは何も言わなかった。
ロルカンの指は背中へ回ったまま。ギードレは唇を結び、型板を抱えていた。二人の日当まで止まれば、明日の鍋が二つ空になる。
私は自分の木製目地型だけを作業袋へ入れた。
「では、粗悪品は退場します」
「二度と城門の仕事に名を出すな」
「先に消した人がそれを言います?」
返事はなかった。都合の悪い目地だけは、埋めるのが早い。
石切場を出て半日。荷物は型、替えの肌着、硬いパンが一つ。夕方には辺境伯家の使者が追いつき、城門修理の試し積みを命じる発注書を差し出した。
退職した日に発注。職を失ったのか増えたのか、数えても分からない。
「お断りします」
「命令だ」
馬から降りたカラム閣下が、使者の後ろに立っていた。
「検分に必要だから呼び戻す」
「私の説明は不要だそうですよ」
「私は言っていない」
「止めてもいません」
閣下は口を閉じた。
黒い手袋の指先が持ち上がる。私の荒れた右手へ伸びかけ、途中で曲がり、そのまま自分の袖口を直した。たいへん遠回りな袖直しである。
「荷物はそれだけか」
「粗悪品は軽量です」
視線が袋を一度見て、私の肩へ戻り、もう一度袋へ落ちた。
「新しい作業棟には何室ある」
閣下は使者へ突然尋ねた。
「職人用が六室、食堂が一室です」
「壁の乾燥は」
「済んでおります」
「隣り合う空室は」
「二室ございますが」
「そうか」
何の検分だろう。石切場を辞めた女の前で部屋数まで数え始めた。私の職業病がうつったのかもしれない。お気の毒に。
私は発注書を受け取った。
「試し積みだけです」
「ああ」
返事は短かった。
手袋の中で、袖口をつまんだ指だけが、なかなか離れなかった。
* * *
城門前には、七個どころか七段分の切石が並べられていた。
ストヤン、ロルカン、ギードレ、石切場の石工たち。カラム閣下は全員を半円に立たせ、中央へ二組の石を置かせた。
「城門修理の積み順を再現しろ」
「閣下、すでに記録は提出しております」
ストヤンの声が、作業場にいたときより半分ほど細い。カラム閣下へ発注書を差し出す手だけは両手になっている。
「わたし自身も、以前から加工不良を疑い、調査を求めておりました」
いま四個目の不整合です。私へ退職札を投げた手と同じ手が、調査依頼を捏造している。
「先に積め」
カラム閣下は発注書を受け取らなかった。
ストヤンが一段目を置く。幅のある石を下にした。木槌で二度叩き、目地材を払う。
「一段目は安定しております」
私は木製目地型を差し入れた。左端は三ミリ、中央は二ミリ、右端は五ミリ。
「いま五個目の不整合です。安定ではなく、右へ傾いています」
「石には個体差がある」
「昨日は私の加工不良でした。今日は石の個体差。石にも担当者を選ぶ自由があるんですね」
石工の一人が鼻を鳴らした。まだ笑わない。よろしい。ここは一段目。石も笑いも、下から積む。
ストヤンは二段目に細い石を置いた。縦目地が下段の目地と重なる。
「そこは角の逃がしを取った設計です」
「角は反対側です」
型を当てる。六ミリ。
「いま六個目の不整合です。逃がした角が、仕事から逃げています」
ストヤンの顎が上がる。
「お前が型を変えたのだろう。自分だけが合うよう細工した。粗悪な石工がよく使う手だ」
私の型を奪って自分の設計へ載せた人が、型の細工を責めている。
棚が高い。城門より先にそちらを積み上げたのか。
カラム閣下が私へ手を出した。
「型を」
渡すと、閣下は三ミリの刻みを指でなぞった。私の指が触れていた場所へ、視線が一瞬遅れてついてくる。
「別の定規で測れ」
ギードレが金属尺を当てた。
「三ミリです」
「聞いたか」
「は、はい、カラム閣下」
ストヤンの口に敬称が戻った。いま七個目の不整合です。礼儀は目地より広がったり縮んだりする。
三段目。
ストヤンは上から二番目に置くはずの長石を持ち上げた。下の二段と噛まず、中央が浮く。木槌で叩く。左が上がる。左を叩く。右が上がる。
石が律儀に反論している。
「別の石だ」
四段目用を抜き、三段目へ戻す。今度は横目地が開いた。もう一個抜く。二人がかりで持ち替える。
「待ってください」
私は抜かれた石の粉跡を指した。
「一個を戻すたび、据え面を払い、目地材を練り直し、二人が運び直す。一日に十二個仕上げるはずが、これでもう九個です」
「完成すれば問題ない」
「三人の日当は個数払いです」
ロルカンの背で、隠された指が動いた。
「積み直せば三人の日当が減る。だから順番を決めた者の名は重要だった。違いますか」
「手元が勝手に迷っただけだ」
ストヤンがロルカンを振り返る。カラム閣下がいなければ、声はもっと太かったのだろう。だが今日の声は、三段目の石より浮いている。
「ロルカン。お前が順番札を紛失したせいだ」
ロルカンの両手が背から出た。
右手には、細長い木札が七枚あった。角が黒ずみ、穴へ通した革紐だけが新しい。
「紛失していません」
短い声だった。
「出せば、日当を三人分止めると言われました」
「脅されたとでも?」
「脅されました」
「では署名も強制だな?」
ロルカンは一度、私を見た。
「署名したのは俺です」
木札を石の前へ並べる。
「止められるのが怖かった。黙ったのも俺です。順番札を残しただけで、ルクサンドラを助けたことにはなりません」
私は一段目の札を取った。
「そこを一緒に数えるなら、話はできます」
「……頼む」
「まだ頼まれていません。試し積み中です」
「では、終わったら頼む」
実務的。助かる。今ここで長く謝られたら、三段目が日暮れを迎えるところだった。
札の一番には、石の割り肌の向きが刻まれている。私はストヤンの三段目を抜かせ、一番札の石を置いた。割り肌を城外へ。据え面を内側へ。型を差す。
三ミリ。
石工たちの肩が一斉に下がった。
「いま八個目の不整合です。紛失した順番札が、紐まで替えて保存されています」
「そいつらが後から作ったものです!」
「後から?」
ギードレが型板を裏返した。
裏には日付が刻まれている。私の名が正式記録から消えた日。その前日。そのまた前日。刻みの横に、七個の並びを示す短い線。
「目地材を払うたび、作業日を刻みました」
ストヤンの名義札を手に取る。
「これは翌月から使われています」
ギードレは札を裏返し、地面へ伏せた。
表のストヤンという名が消えた。木札一枚なのに、棟梁が一人いなくなったように見える。
「ギードレ!」
「俺も署名しました」
ギードレの声は揺れたが、型板は下げなかった。
「異議を言わなかった。型板へ刻んで、知っているつもりでいました。知っていて黙った側です」
「お前たち二人が口裏を合わせた! この女に命じられたのだ!」
ストヤンの声だけが、急に作業場の太さへ戻った。反撃しないと思った相手へ向いたからだ。
「いま九個目の不整合です。先ほどは手元が勝手に迷い、今度は私の命令で二人が揃いました。私、退職してから出世しました?」
石工たちの何人かが俯いた。肩が揺れている。まだです。七段目まで我慢してください。積み上がる前に崩すと危険です。
四段目は、ロルカンの札どおりに短石を二つ噛ませた。縦目地をずらし、荷重を左右へ逃がす。
「型を」
カラム閣下が言う。
「閣下が当てます?」
「ああ」
私が木製目地型を差し出すと、閣下の指は型ではなく、私の親指の横で一度止まった。黒い手袋が触れないぎりぎりを通り、型だけを取る。
「三ミリだ」
「私が測ると細工で、閣下が測ると?」
ストヤンは答えない。
「いま十個目の不整合です。測定者によって三ミリの長さまで変えるのはやめてください」
五段目。角を内側へ逃がす。六段目。下の割り肌と逆向きに据え、横目地を通す。
置く。
型を当てる。
三ミリ。
ストヤンへ説明を求める。
「偶然だ」
そのたび、敬称の消えた声が細くなる。
「いま十一個目の不整合です。偶然が六段続けば、それは積み順です」
「型板も札も、こいつらが偽造した!」
「発注書には、あなたの設計とあります」
「現場では手元に任せることもある!」
「いま十二個目の不整合です。ご自分で決めた積み順が、手元任せになりました」
最後の石を持ち上げる。
七段目は、他より少しだけ長い。最初に据えれば邪魔になる。最後に渡せば左右の段へ荷重が散り、城門の角が締まる。
私は据え面を掌で払った。粉が傷へ入り、ぴりっとする。木槌を一度。石が沈む。二度目は要らない。
横目地へ型を入れる。
左、三ミリ。
中央、三ミリ。
右、三ミリ。
七段の線が、細い一本になって城門前を走った。
誰も息を動かさない。
「この順を決めたのは誰だ」
カラム閣下が尋ねた。
ストヤンの口が開く。声は出ない。
「十三個目の不整合です。十三は石の数ではありません。あなたの説明です」
「ルクサンドラ!」
石工の一人が私の名を呼んだ。
「ルクサンドラ棟梁!」
二人目が続く。
「ルクサンドラ!」
半円の端から端まで、正式記録から外された名が積み直されていく。これはなかなか悪くない。石より人の声のほうが、目地材なしでもよくつながる。
ストヤンがカラム閣下へ詰め寄った。
「閣下、これは仕組まれた試しです! 棟梁であるわたしを陥れるための——」
「私はもう、お前を棟梁とは呼ばない」
カラム閣下がギードレの伏せた名義札を拾い、ストヤンへ返した。
「城門から退け。今後、ルクサンドラの仕事をお前の名で発注することを禁ずる。未払いの日当と棟梁賃は、記録を照合してお前の取り分から支払わせる」
札を受け取るしかない。ストヤンの両手が、先ほど発注書を差し出した形のまま固まった。
「荷物を運べ」
石工が二人、ストヤンの道具箱を城門の外へ出した。棟梁用の木槌も、名義札も、その腕から離れて地面へ置かれる。
「お待ちください、カラム閣下。わたしも被害を——」
「退け」
ストヤンは自分の名義札を抱え、城門の外へ下がった。改心も反省もない顔だった。結構。粗悪品は、磨いたふりをして棚へ戻すより、用途を外すほうが安全だ。
これで十三個。石と仕事の検分は終わった。
ところが、カラム閣下は鞄を開けた。
中から木札が出てきた。
一枚。
三枚。
十枚。
まだある。
私の名と不採用の刻印が入った没札が、束になって出てくる。初日の欠けた札、雨で反った札、端に私が「再加工」と書いた札まで、一枚残らず。
「なぜ閣下がそれを?」
「発注管理だ」
石工たちが一斉に札を見た。
「毎日、石切場へ来ていたのは」
「発注管理だ」
「城門用ではない日も?」
「管理対象は多い」
「私の没札だけですよね?」
「必要だった」
閣下の親指が、一番古い札を覆った。端が折れかけている。私が覗こうとすると、守るように指へ力が入る。
耳から首筋まで、じわじわ色が下りていく。
「品質だけを見ていたのでは?」
「品質管理だ」
「退職は石切場の問題では?」
「雇用管理だ」
「呼び戻したのは検分に必要だから?」
「人員管理だ」
端の石工が吹き出した。
隣が咳で隠そうとして失敗した。三人目は口を押さえ、四人目はしゃがみ込んだ。笑いは七段より速く積み上がり、とうとう半円ぜんぶへ回った。
ギードレが素直な顔で尋ねた。
「閣下、没札を毎日拾うのも管理ですか」
「そうだ」
「一枚も捨てないのも?」
「そうだ」
「いちばん古い札を折らせないよう押さえているのも?」
カラム閣下の親指が、さらに札を覆った。
石工たちがどっと笑った。
冷静な辺境伯の体面が、七段目からきれいに落ちた。幸い怪我人はいない。被害は耳と首筋だけです。
閣下は笑う石工たちを一度見た。全員、口を閉じる。肩は閉じない。上下に揺れ続けている。
「新しい作業棟の棟梁契約だ」
差し出された書類を、私は没札の束越しに見た。
「これも管理ですか」
「ああ」
「私が受け取らない場合は」
閣下の呼吸が、二度目の検品と同じところで止まった。
親指は古い没札から離れない。
私は棟梁契約書を取った。
「石の品質には問題ありませんでしたので」
誰かがまた吹き出した。
閣下は何も言わなかった。耳の色だけが、もう隠す場所を失っていた。
* * *
新しい作業棟には、朝、昼、晩の鐘が鳴った。
一つ目の鐘で温かい粥。二つ目で肉入りの煮込み。三つ目で焼いたパンと魚。
「棟梁分です」
食堂係が大皿を置く。
三食。数え間違いなし。
棟梁賃は以前の日当の三倍。寝台は乾いていて、夜中に雨粒を数える必要もなかった。翌朝、指の裂け目へ塗った薬が寝具につかないよう包帯を巻き、鐘まで眠った。
名誉が戻ったかは知らない。腹が鳴る前に皿が出て、傷が開く前に手を止められ、屋根から水が落ちない。なら、たぶん仕事は正しい場所へ積み直された。
ロルカンとギードレは別々の契約書を持って来た。
「再審査を受ける」
ロルカンが言った。
「日当停止に従ったことと、署名したことを分けて話した。どちらも記録へ残す」
ギードレも型板を差し出す。
「黙って刻むだけではなく、次は先に言います。仕事を頼めますか」
「試し積みからです」
「はい」
「私の積み順を私の名で出すこと」
「はい」
「昼食の魚を勝手に取らないこと」
「それは契約項目ですか」
「最重要です」
二人は別契約に署名した。免責ではない。仕事の積み直しだ。石も人も、割れた箇所を見ずに上へ置くと、七段目で落ちる。
午後、私は住み込み部屋の扉へ木札を掛けた。
ルクサンドラ。
棟梁。
字を指で確かめる。私の名だ。裏返してもストヤンにはならない。
そこで、隣の扉に気づいた。
カラム。
名札がある。
「なぜ隣室に閣下の名札があるんです?」
背後に本人がいた。
「管理上必要だ」
声が揺れた。
「十四個目の不整合です。辺境伯が棟梁の隣室へ住み込む必要はありません」
「城門修理中は現場に近いほうがいい」
「お屋敷のほうが近いです」
「夜間の報告がある」
「報告机は作業棟です」
「緊急時の判断が要る」
「では、なぜ食堂の席まで隣なんです?」
閣下の手が閉じた。
まだ私の没札を一枚持っている。最初の日の、端が欠けた札。親指は今日も折れ目を覆っていた。
「雇用管理だ」
「雇用契約の話ですよね?」
「ああ」
「部屋は偶然隣で、食卓も偶然隣。没札は発注管理。全部、雇用関係です」
「そうか」
「そうです」
自分の名札を先に掛けたことは数えない。あれは契約上の設置。数える対象ではありません。絶対に。
食堂からギードレが顔を出した。
「ルクサンドラ棟梁」
「何です?」
「閣下が運ばせた食卓ですが、椅子が二脚あります」
カラム閣下が目を閉じた。
ギードレは指を一本足した。
「十五個目の不整合です」




