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第4話:体育に参戦。今回は魔法禁止!

 体育館に、バシッとボールの音が響く。女子はバレー、男子はバスケ。今日はそれぞれの試合が同時進行で行われる。


「灯里〜、見にきたよ〜」

 まだ自分の試合が始まらないルカは灯里の応援に来ていた。


「瀬戸くんも見てるし、頑張らないとね!」


 変にやる気満々のルカに、灯里は嫌な予感が胸をよぎる。

(また変なことしないといいけど……)


◇ ◇ ◇


 灯里は女子チームのコートに立ち、相手チームのサーブを受ける構えを取る。緊張で手のひらが汗ばんでいる。


 と急にボールは元の軌道から外れ、灯里の前に現れる。

「えっ、こっち!?」

 思わず手を伸ばすが、ボールはあさっての方向へ飛んでいく。しかし次の瞬間、また急に軌道が変わり、すごい勢いで相手コートに向かう。

 ーードーン!

 凄まじい音がして、ボールのは相手コートにめり込み、シュウシュウと焦げた音がしている。


 あまりのことに相手チームは怯えて硬直。

 周囲の生徒は大笑い。「見た!?」「やばっ、すごっ!」

 ざわざわと声が飛び交い、みんな目を丸くして灯里を見つめる。

 みんなに注目され、灯里の頬は真っ赤になる。


(……ありえない! これ、絶対ルカでしょ!)

 観客席をちらりと見ると、案の定ルカがにっこり笑って親指を立てている。

「灯里ナイスプレイ〜!」


 灯里は思わず試合を抜け、ルカのもとに駆け寄った。


「ルカ! もう魔法使うの禁止!」

「えー、いい感じでめっちゃ目立ってるのに〜」

「いや怖いって! 普通が一番だから!」

 灯里にに言われてルカは渋々魔法を使うのをやめる。


 さっきのルカの魔法で、みんなの視線が灯里に集中していた。

(めっちゃ見られてる、最悪だ〜)

 思わず肩をぎゅっと上げ、手のひらを握りしめる。心臓がドキドキするのが分かる。


 観客席から見ていたルカは、灯里の不安そうな表情に気づく。

(灯里って緊張するタイプだったんだな……悪いことしちゃったな……)


 ルカはにこりと声をかける。

「灯里、リラックス〜」


 一見軽い調子だけれど、その目はじっと灯里を見つめていた。


(もー、誰のせいだと思ってるのよ……!)

 ヘラヘラした笑顔を見て、思わず力が抜ける灯里。

「大丈夫だ」と言われた気がして、張り詰めていた心が少しずつ解けていく。


 気づけば、いつもの調子を取り戻していた。

 ボールを追う足取りも軽く、仲間と声を掛け合ううちに、笑みさえこぼれる。


(……なんでだろう。ルカが近くにいると、すごく安心する)


 さっきまで、みんなの視線が気になって仕方なかったのに。

 今はただ、自然に笑っていられる。


◇ ◇ ◇


 そんな灯里を見てルカは思う。

(……魔法がなくても、灯里はちゃんとやれるんだな)


 灯里がいつもの調子を取り戻し、ほっとした反面、少し拍子抜けした気持ちもあった。

(僕がいても、いなくても――変わらないのかも……)

 そう考えると、胸の奥がほんのりチクッとして、少しだけさみしくなる。


「ルカくん、そろそろ試合始まるよー」

 クラスメイトに呼ばれ、ルカはその場を後にする。


 他の男子チームの試合を終え、ついにルカのチームの番がやってきた。

 ルカは人間業とは思えないプレイーー人間でないので当然だが

 を連発し、周囲を圧倒していた。


 ジャンプ一つでリングに届き、空中での回転シュート。

「え? 今の何?」

「すごいかっこいい〜!」

 ルカの容姿も相まって、コートは華やかな歓声に包まれていった。


 けれど、その華やかさは同時に別の視線も集める。

(なんだあいつ)

(かっこつけやがって)

(目立ちたがり屋だな…..)

 小さな悪意が、じわじわとルカにまとわりつくように広がる。


 ーーするとルカの表情が急に曇り、顔色がどんどん青ざめていく。


(あ……これまずいやつかも……)

 灯里の方を見ると、まだ試合は続いているようだった。


(魔法を使わなくても、せめてそばで応援したいな……)


 ルカは体がふらつきながらも、必死に笑顔を繕ってその場に留まる。

 腕や足に力が入らない。立っているだけでも辛い状態だった。


(……普通にプレイするの、面倒になってきたな……そうだ!)


 ルカは思い立ち、離れたところからボールを投げた。

 ーーシュパッッ


 一見適当に投げたように見えるそのボールは、驚くほど綺麗な弧を描き、ゴールを決める。


 そしてボールは床にぶつかり跳ね、自然にルカの元へ戻る。

 彼はすぐに投げ返し、またゴールを決める。

 ーーシュパッッ

 ーードーン

 ーーシュパッッ

 ーードーン


 ルカは連続シュートを決め続ける。

(いいやり方思いついた〜、これ、楽〜!)


 めちゃくちゃすぎて曲芸のようなルカのプレイに、観客席から歓声が湧き上がる。

「な、なんだこれ……???」

「スゴすぎる〜! どうなってんのこれ??」


 ザワザワと周囲が騒ぎ出し、試合が終わった灯里も異変に気づく。


「ルカ、相変わらず変なことやってんな〜」

 灯里は呆れてルカの方を見るが、少し違和感を感じる。

(あれ? ルカ、なんかいつもと違う気がする……)


 灯里は目を細め、眉を寄せた。

 その瞬間――ルカの元へ駆け寄った


「ルカ、大丈夫? ちょっ……顔真っ青だよ!」

「……あれ? 灯里……気づくんだ」

「そんなの、わかるよ!」


 思わず声を荒げた灯里に、ルカは少し驚き、それからふっと笑った。

 その笑顔は弱々しいけれど、どこか嬉しそうだった。


◇ ◇ ◇


 保健室へ向かう途中。

 心配した灯里がルカを問いただす。

「絶対おかしいよ。なんかあったの?」


 ルカは一瞬ためらう様子を見せ、ポツリとつぶやく。

「……僕ら天使は、“人間の悪意”が苦手なんだ。 たくさんの人から向けられると、調子が悪くなっちゃって……」


 灯里は思わず足を止めた。

「……じゃあ、さっきのって」

「うん、そのせいだと思う。

 ……まぁ嫉妬されるのは慣れてるけどね。なんせ僕はかっこいいから」


 口調はいつもの調子だったが、その横顔は弱々しい。


「もー! 体調悪いなら休んでればいいのに! 

 別に魔法がなくても大丈夫だったよ」


 灯里の言葉に、ルカは少し寂しそうに目を伏せる。

「……魔法を使わなくても、そばにいて応援したかったんだ」


 ルカの言葉に驚いて灯里が見つめると、照れくさそうに目をそらす。

「だって、それが僕の“仕事”だろ?」


 ルカの言い訳じみた言葉に灯里はふっと笑ってしまう。

「……そうだね。ルカがそばにいてくれると、なんか安心するよ」


 思わぬ灯里の返事に、ルカの目がわずかに見開かれる。

「……ちゃんと”仕事”できてたみたいでよかったよ」


 なんでもないふりをしたけど、その頬はほんのり赤かった。

 思わず笑みがこぼれ、慌てて顔を少し逸らす。ニヤけた表情を見られたくて。


(でも、なんでこんなに嬉しいんだろう……? 

 いや、仕事だから当然だよね……たぶん!)

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