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第3話:笑顔のランチタイム③

 ルカとの楽しい時間を噛みしめていた灯里。

 そのとき、ふと目に入ったのは、少し離れたところで笑っている瀬戸陽真の姿だった。


 誰かと並んで笑って話している。いつもより楽しそうで、自然に相手を気遣う様子が窺える。

 ーー食器を片付けてあげたり、混み合う食堂内で人にぶつからないようにしたり……


「……あの人、瀬戸くんの彼女かなぁ……」

 思わず小声で呟くと、後ろの方でルカが反応する。


「え? うそ!」

 慌てて立ち上がるルカ。先ほどまでのヘロヘロ状態から、真剣な目つきに一変する。 


 女生徒が出た隙に、ルカは陽真に詰め寄る。

「今の人、彼女?」

「ちょ、ちょっと!」

 灯里は慌てて小声で突っ込む。


 陽真は少し驚いたあと、苦笑して首を振る。

「いや、全然。俺が一方的に……勝手に色々やっただけで……」

 

 否定しているけれど、少し照れた様子はいつも教室で見る表情とは違う。陽真がさっきの女子のことを意識しているのは、明らかだった。


(へぇ……誰にでも優しい瀬戸くんが、こんな顔するんだ。そうか、好きな人がいるんだ……)

 灯里はちょっとくすっと笑ってしまう。なんだか微笑ましい気持ちになる。


 でも、笑った直後にふと、不安が胸をよぎる。

(……ってことは、ルカのキューピッドとしての仕事って、ここで終わっちゃうのかな……? そんなのって……)


 ルカといる時間が、ちょうど楽しくなってきたところだった。

 ーー冗談を言い合ったり、ちょっとしたことで笑い合ったり……

 それがなくなってしまうかと思うと、胸が苦しくなる。


 灯里は、思っていたよりショックを受けている自分に少し驚く。

(最初はやらかしたと思ってたのに、今はもっと一緒にいたいって思っちゃってる……

 ほんと、私ってチョロすぎだよね〜)


 そんなふうに笑い飛ばしたい気持ちになったが、表情は晴れなかった。


◇ ◇ ◇


 落ち込んだ表情の灯里をルカが心配そうに覗き込む。

「……灯里、大丈夫?」


 灯里はなんでもないふりをして、明るい声で返す。

「いやー、瀬戸くん好きな人いたんだぁ〜、知らなかったよ〜」


 でも寂しい気持ちは知られたくなくて、別れの言葉はルカの目を見て言えなかった。

「ルカ、短い間だったけど、ありがと。意外と楽しかったよ」


 ーーしかし

 灯里の言葉に、ルカはきょとんとした顔をする。

「え? なんで?」

「だって瀬戸くん好きな人いるって……」


 困惑する灯里をよそに、ルカは相変わらず軽い調子で言う。

「別に付き合ってるわけじゃないんだから、灯里のこともっと知ったら変わるかもしれないよ」


 灯里に笑顔を向けつつ、ルカは軽く肩をすくめる。その無邪気な仕草に、灯里の胸のざわつきがふんわりほどけていった。


「……でも、そんな簡単にいかないでしょ……」


 胸の奥は嬉しくてふわっと温かい。だけど、心の片隅では少し引っかかる。

 好きな人がいる相手に、キューピッドサービスを続けてもらっていいのだろうか。そもそも陽真が好きというのも嘘だし……


 ルカはふっと真剣な顔になり、灯里をじっと見つめる。

「僕はこのまま終わりたくないよ。せっかく瀬戸くんと仲良くなれてきたところなのに……」

 

 灯里が目を合わせると、ルカはさらに続ける。 

「それに……灯里のいいところ、僕ももっと知りたいんだ」


 ルカのまっすぐな言葉に、灯里も目を逸らせず、彼をしっかりと見つめる。

(思ってたより、真剣に私のことを考えてくれてるんだ……)

 嬉しくて心が満たされていく。


「……そっか。じゃあもうちょっとよろしくね」

 少し照れくさそうに話す灯里に、ルカはくすっと笑う。

「うん。よろしく」


 ルカが手を差し出すと、灯里も自然に握り返す。

 二人でふっと笑い合った瞬間、灯里の心はふんわり軽くなる。


 

 その微笑みに少し安心したのか、ルカは軽く肩をすくめ、にやりといたずらっぽく笑う。

「よし、これでもうちょっと人間界で遊べるな……」


 思わず灯里も笑い返す。

「なーんだ、そっちが本音でしょ」

 緊張がほぐれ、自然と笑いがこぼれる。


(ルカといると笑ってばかりだな……)


「でも、もうあんまり変なことしないでよね!」

「変なこと? してるかなぁ〜?」

「もう! 自覚ないの!?」


 ルカは相変わらず何が悪いのかわかっていない表情で灯里は思わず吹き出す。


(……もうちょっと、一緒にいられるんだ……)


 ウキウキした気持ちが込み上げ、自然と心が軽くなる。

 ホッとしたような、名残惜しさを先延ばしできたような、不思議な気持ち。


 ――いつまで一緒にいられるかは分からないけど……今はただ、嬉しくて仕方がない。

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