第3話:笑顔のランチタイム②
そうして迎えたお昼休み。
お昼のチャイムが鳴り、二人は食堂へ向かった。
「わー、すごい! 食べ物が沢山ある!」
ルカは目を輝かせ、キラキラした表情で食堂を見回す。
「人間界の食事って、かなり種類があるんだね〜!」
ルカの大げさなリアクションに灯里は疑問を口にする。
「食べたことないの?」
「うん!なんせキューピッド初任務だからね!」
「相変わらず無駄に堂々と言うなぁ……」
灯里は苦笑しながら小声でつぶやく。
「何から食べようかなぁ〜」
ルカが手をぱっと広げると、厨房から料理がふわりと宙に浮き、ルカの元へやってくる。気づけばハンバーグやサラダ、カツ丼まで、ルカを囲むように浮かんで、くるくると回っている。
「ちょっ……勝手に持ってきちゃダメだって……!」
灯里は慌てて止めようとするが、ルカはお構いなしだ。
「えー、いっぱいあるんだからいいんじゃないの?」
ルカは全く魔法を隠す気もなく、集まってくる料理に目を輝かせている。
その様子に、さすがに周囲の生徒もだんだん気づき始める。スマホを取り出す者まで。
「何これ?カツ丼が浮いてる……」
「勝手に動いたよね? どういうこと??」
(やばい、みんな騒ぎ出した……! なんとかしないと……!)
灯里は焦りつつ、とっさに声を張る。
「えっと……そう! 手品! ルカ手品上手だね! 凄すぎて魔法かと思っちゃうよね〜!」
灯里は引きつった笑みを浮かべ、明らかに棒読みで、必死にごまかしているのがバレバレだ。
周囲の生徒たちは目を丸くして固まる。顔を見合わせ、ざわざわと囁き合う。
「え、あれ手品なの?」
「そうなの! よく見ると糸が〜、ね? ルカ!」
(……話合わせて!)
灯里は必死の形相で小声でルカに促す。
ルカはすぐに察したらしく、にっこり笑って軽く手をひらひらさせる。
「あー、そうそう!実は手品なんだ、ほら!」
ルカは何の迷いもなく糸を操っているかのような仕草する。その動きはやけに堂々としていて、妙な信憑性すら出てきてしまう。
「……」
しばしの沈黙。
やがて、生徒の一人がぽつりと言う。
「確かに糸見えるかも……」
それに続き、次々に他の生徒たちも呟き、納得したように頷き合って散っていく。
「みんな順応力高くて助かった〜!」
灯里は胸をなでおろし、ほっと笑みを浮かべる。
「こういう時は堂々としてる方が却ってバレないよ」
何事もなかったかのように言うルカに、灯里は思わず呆れて視線を向ける。
「ちょっとは嘘つく罪悪感持ちなよ……ちゃんとお金払わないとだめだから戻してね……」
「そうなんだ。わかったよ〜」
◇ ◇ ◇
その後、二人は普通にお金を払ってお昼ごはんを買い、席に座る。
ルカは唐揚げを一口頬張ると、その美味しさに思わず目を丸くする。
「……すごい!人間界の食事って、こんなに美味しいんだ!」
ルカの素直なリアクションに灯里も思わず微笑んでしまう。
「ほんと、美味しそうに食べるね。 よかったじゃん」
「あ、いいこと思いついた!」
ルカは目をキラリと光らせ、手をひらりと一振りする。
すると、空から唐揚げが次々に降ってきて、トレイいっぱいに積み上がった。
「へ〜すごい便利だね〜」
灯里は驚いて感心する。
「いいでしょ? 灯里の分も増やしてあげるよ~」
ルカはまた手をひらりと振る。
すると灯里のハンバーグはみるみる膨らみ、トレイの上に収まりきらないほどの大きさになった。
「わ、でか! でかすぎるって! ちょっと増やして欲しいとは思ったけど!」
灯里は目を丸くして、その迫力に驚く。
「へーき、へーき。食べれるって」
ルカは楽しげに話す。
「そうかな……とりあえず食べてみるか……」
灯里も箸を手に、恐る恐る一口。――ジューシーな肉汁が広がる。
「美味しい! なんか大きい分、いつもより美味しくなってる気がする……」
「ほら、意外といけるでしょ!」
「ね! 案外余裕かも!」
最初は二人で勢いよく食べ進める。
「全然余裕だね〜!」
「でしょ〜!」
……しかし。皿の半分を越えたあたりから、急にペースが落ちる。
「……お、おかしいな……胃が……重い……」
ルカはお腹を押さえ、顔が引きつる。
「私も……なんか……胸のあたりまで詰まってきた気がする……」
灯里も青ざめて、箸を持つ手が止まった。
「く、苦しい……もう無理かも……」
「ごめん……次は量、気を付ける……」
さすがに限界を迎える二人。
ふと灯里が顔を上げると、向かいに座るルカの表情が目に入った。
整った顔立ちがすっかり崩れ、眉は八の字、口元はへの字にゆがみ……イケメンの面影がどこにもないほどヘロヘロだ。
その落差に、灯里は堪えきれず吹き出してしまった。
「ルカ、顔やばいって……」
一度笑いのスイッチが入ると止まらず、肩を震わせ、涙がにじむほど笑い続ける。
「お腹いっぱいなのに、笑ったら、苦しいって! お腹痛い〜」
「灯里もかなりきてるけどね」
ルカもそんな灯里も見て笑い出す。
二人は顔を見合わせ、笑い転げる。
苦しいはずの状況も、いつの間にか楽しく思えてきた。
(……ルカといると、めちゃくちゃだけど、なんだか楽しい……)
胸の奥に、やわらかな温かさが広がる。
この時間がずっと続いてほしい、そんな気持ちになっていた。