第7話:デートプラン、悩める二人
翌朝、学校に着くと、陽真が少し気まずそうに近づいてきた。
「映画のことなんだけど……実は姉ちゃん、彼氏と別れちゃってさ」
「え、そうなの!?」
「うん、それで行かないって言ってて……だから、もしよかったら、二人で行かない? チケットはもうあるし」
「……そうなんだ……うん、そうだね。せっかくだもん、行こう!」
もともとはお姉さんカップルも一緒で、4人で行く予定だったのが、思いがけず灯里と陽真の“二人きり映画”に変わってしまった。
◇ ◇ ◇
放課後、灯里の部屋。
「すごいよね! 二人っきりなんて完全にデートだよ!」
「う、うん。まぁそうだね……」
表情の晴れない灯里に反して、ルカは一人で盛り上がっていた。
「せっかくだし、映画の後どこかに寄ったらどう?」
「どこかって……?」
「うーん……じゃあ、これから僕が探す!」
スマホを手に、一生懸命行き先を調べ始める。
その表情から、いつも以上に気持ちが入っているのが分かる。
灯里は横目でルカを見て、普段とのギャップに戸惑いながらも、胸の奥がざわついた。
(……なんであんなに真剣なんだろ……そんなに瀬戸くんとうまくいってほしいのかな……)
胸の奥に苦い痛みが広がり、静かに締め付けてくる。
(ルカは仕事としてやってるだけって分かってるけど……
私のことは好きじゃないって言われてるみたいで、すごく苦しい……)
いつもならルカの暴走も笑って流せるのに、今日は作り笑いすら浮かべられなかった。
◇ ◇ ◇
ルカは、自分の心のざわつきを誤魔化すように、”応援を頑張る”作業に没頭していた。
どう過ごせば灯里が喜んでくれるか、それを考えている時だけは二人の時間がもうすぐ終わるという現実から目をそらせる。
調べているうちに、映画の告白シーンに使われたロケ地が映画館の近くにあることに気づく。夜景スポットとしても有名だ。
(……ここ、灯里が絶対喜ぶやつ!)
灯里が嬉しそうに夜景を見る姿を想像して、思わず顔がにやける。自然と胸が高鳴り、また無意識に自分も一緒に行く気になっていた。
「このロケ地、映画館の近くだよ! 行ってみたら?」
灯里が喜ぶ顔を想像してワクワクしながら提案する。だが、返ってきた反応は思った通りではなかった。
「……意外だね……夜景とか、ルカが一番興味なさそうなのに」
灯里は笑みを見せず、少し目を逸らしながら淡々と返す。
少し面食らったルカは、息を整えながら、軽い調子で続けた。
「いや、僕は全然興味ないんだけどね? ただの電気のかたまりだし!
……でも……灯里が喜んでくれるかなって思って……」
少し言葉を詰まらせ、照れた表情を浮かべる。
その様子に灯里は少し驚き、顔を上げてルカを見つめる。
ルカは灯里の反応にさらに照れ臭くなり、いつものふざけた調子に戻って続ける。
「……だって、灯里は王道胸キュン演出が好きって言ってたからさ」
「別に……私もそんな興味ないよ……」
「え!? そうなの……?」
灯里は本当に興味がない様子で淡々と返事をする。
先ほどより少し表情は柔らかくなったが、全く喜んでいる様子はなく、ルカのワクワクした気持ちはあっという間にしぼむ。
肩をがっくりと落として下を向く。
「あ、でも……」
灯里がぽつりとつぶやく。
「……夜景って、あの告白のところかな……」
漫画の場面を思い出しているのか、灯里の表情に何か考え込むような様子が見える。
「……確かに、あの二人みたいに、好きな人と一緒に行けたら……すごく…幸せ…かも……」
漫画の二人を思い浮かべ、灯里は少し目を細めて、思わず本音を漏らす。
頬を少し赤らめ、自然と笑みが戻った。
その言葉にルカは驚いて言葉を失う。灯里を見つめたまま動けなくなっていた。
灯里はそんなルカの視線に気づき、慌てて誤魔化すように話を終わらせる。
「わっ……!ち、違うよ!独り言だから!」
なんでもない様子で視線をスマホに戻し、話題はそこで途切れた。
――灯里のその言葉に、ルカの胸はひやりとする。
(灯里にとって大事なのは“誰と行くか”で……好きな人じゃないとダメなんだ……僕とじゃ……)
◇ ◇ ◇
その夜、ルカは灯里の机の上で雑誌に目に止まる。
映画『トキメキ☆モンスター』の特集記事だ。写真には灯里の大好きな俳優、月城流星が写っている。
「あれ……なんとなく僕に似てない?」
軽く訊くルカに、灯里は慌てて目を逸らす。
「わ! 片付けるの忘れてた! そ、そうかな……全然似てないよ!」
ルカは灯里の慌てた様子に思わず笑みが溢れる。――がふと思い出す。
(……あのときの反応ってもしかして……)
灯里はずっと僕を見てた。
言葉もなく、まっすぐ視線を向けられて。
僕がからかうように「見惚れてた?」って訊いたら、顔を真っ赤にして否定して。
さらに距離を詰めてみたら、今度はもっと狼狽して……。
その反応に、灯里は僕のことを少しは意識してるんじゃないかって。
もしかしたら、少しくらいは僕にも気持ちがあるかもって……
そうか。灯里は僕じゃなくてこの俳優を見てたんだ……
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。全部勘違いだったんだ……
◇ ◇ ◇
ルカはふっと笑みを浮かべ、灯里に近づく。
「でも、結構似てると思うよ」
そう言うと、ルカは灯里の顎を軽く持ち上げ、じっと見つめる。
灯里の顔がみるみる赤くなる。
「ちょっ……だからそういうのやめてって……」
口ではそう言いつつも、灯里はルカから目が離せないでいる。
ルカは顔を近づけ、俳優の決め台詞を真似して囁く。
「……ほら、ちゃんと俺だけ見てろ。迷子になるなよ」
ルカのセリフを聞いた途端、灯里は目を見開いて驚き、表情はぱぁっと明るくなる。
「や、やばい……そっくりすぎる……!!」
ルカは灯里のキラキラした表情に思わず吹き出してしまう。
「やっぱり似てるんじゃん」
「違う!違うのこれは……つい……」
「他のセリフももっとやる?」
ふざけた調子で返すルカだったが心の中は乱れていた。
(なーんだ……今までの反応、全部……あの俳優に向けられてたんだ……)
ルカの胸に、切なさと悔しさが重くのしかかる。
それは簡単には消えてくれそうもなかった。




