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幸福刑  作者: 郷新平
1/1

幸福刑

新しい量刑に幸福刑が採択された。


 一般的な1Kの構造で作れている4畳のアパート。

 玄関を開けると左手に浴室が設置されていて、その隣にはトイレがあり、反対側にはキッチンがある。キッチンにはカップラーメンのゴミが幾多か散乱しており、洗っていない皿が水に浸かったままになっている。

 そこを過ぎて扉を開けると居室がある。

 

 消し忘れたテレビからニュースキャスターの声が狭い部屋に反響する。

「法案で幸福刑が新しく可決される事になりました。それについて、専門家の日野さんにコメントをお願いしております。」

 眉間に皺を寄せた、初老の男が重い口を開く。

「全く、ふざけた法律ですよ!犯罪者を」

 日野が言いかけている途中でテレビの画面が黒に変化した。

 部屋の主人、室田武が寝起きで不機嫌なまま、テレビを切った。

「うるせぇよ」

 武は生欠伸をするとスマホに触り、時間を確認する。

恋人の美奈からメッセージが届いていた。

「会えない?」

 武はのっそりと立ち上がる。

 時間は12時を指していた。


 武は商店街を歩いていると、前方から袋を持ったサラリーマンが歩いてきた。

 武はすれ違い様にサラリーマンの胸ぐらを掴み、サラリーマンは突然の出来事に竦み上がった。

「何だよ」

 武はサラリーマンの顔をマジマジと見つめ、恐怖に怯えた様子を確認して、愉悦を感じる。

「金がないんだ、くれない?」

 サラリーマンは慌てて、財布を出し、現金を取り出そうとするが、緊張のあまり、うまく取り出す事ができない。

 その姿にイライラした武。

「早くしろよ」

 武はサラリーマンを蹴り倒す。倒れた所に追撃を動かなくなるまで続けた。

 武は財布を取ると中身を取り出して、現金がなくなった財布をサラリーマンに投げ、立ち去った。


 武は立ち止まり、携帯を取り出す。

「あー、来た来た」

 武は顔を上げるとショートヘアでヤンキー風の服装をした女性が立っている。

「おはよう」

 美奈はキャハハっと笑った。

「今、何時だと思ってんの?」

「うるせえよ」

 美奈は笑いを張り付かせた顔で武を眺める。

「で、これからどうするの?」

 武は下卑た笑いを浮かべ、美奈の身体を眺める。

「ホテル代が手に入ったんだ」

 美奈は苦笑いをする。

「その前にデートしない?」

 武は美奈の肩に手を回す。

「いいじゃねえか」

 美奈は武の手を振り解く。顔を顰める武。

「デートしてくれないと嫌」

 武はハァと溜息を吐き。

「いいぜ、行こうか」

 美奈は武の手を取って、歩き出した。


 日が暮れた道を歩く武、急な用事ができた美奈と別れ、晩飯を食べる予定で店を探していた。

 そこで、目に留まったのは行列を作っているラーメン屋だった。武は当然のように、先頭に割り込んだ。

 注文を取っていた店員が詰め寄る。

 武は店員を見ると

「ラーメン定食」

 そう告げると携帯を触り始めた。

 店員は困惑したが、注意することにした。

「お客様、最後尾にお並びください」

「やだよ」

 武はそう即答する。

「他のお客様の迷惑になりますので」

  店員は負けじと返すと、武はハァと溜息を吐いた。

 「ウルセェ」

 武はそう言うと店員にパンチを放って、店員は倒れた拍子に頭をドアの角にぶつけて、そのまま動かなくなった。

 並んでいた客は店員に歩み寄ったり、電話したり、武を押さえつけたりした。それから救急車が来て、店員を運び、武は逮捕された。

 取調室で刑事と対峙する武。

「何故、こんな事をしたんだ」

 険しい顔をした刑事は武に問いただした。

「ムカついたから」

 武は即座にそう答えた。

「お前、2人をやった事については、どう思う?」

 刑事は武が葬った2人の事を問う。

 武は悩む

「2人?」

 武は殴った末に殺めてしまった店員を思い浮かべる、もう1人は誰だと疑問が浮かんだ。

 刑事の目がカッと見開かれる。

「お前が朝、殴り殺した、サラリーマンの事だ!」

 武は朝、カツアゲしたサラリーマンの事を思い浮かべた。

「あー、あの人、いっちゃったの?」

 刑事は顔を怒りで真っ赤にする。

「その人は娘に誕生日プレゼントを買い終わった所だったんだよ」

 武はふーんと興味が無い顔をする。

「何だ、その態度は!」

 刑事は掴みかからんとすら勢いで武に詰め寄る。

 武は「あっ」声を発する。

「今日、観たいテレビがあるから帰りたいんだけど」

 刑事は何を言っているか、分からないようにキョトンとする。

「何だって?」

「テレビ観たいから帰りたいんだけど」

 刑事は今までの怒りがサッと引いた。コイツ何を言ってるんだ?

「テレビって、お前は罪を犯したから、帰れないんだが」

 それを聞くと武は烈火の如く、暴れ出した。

「ふざけんなよ!帰らせろよ」

 そこに取り調べ室に刑事が入ってきて、武を押さえつける。

 

 それから、取り調べを受け、裁判を受ける事になる。色々な事を聞かれたが流していたので、何回も取り調べをして、何回か、裁判をしたが詳しい事は覚えていない。

 

 裁判では傍聴席にはこの裁判の行末を見届ける人達で溢れている。

 多くの人達に注目されていると感じた武は気を良くして、手を振った。

 担当弁護士は珍獣を見るかのように武を見る。見学者達はザワザワと騒いだ。

「静粛に」

 裁判官の声が響くと静まり返った。

「被告人室田武は第一の事件を起こした後に、女性に会いましたか?」

 武は考えていると

 裁判官は埒が明かないと感じ、証人喚問した。

「被告人が会ったのは、この女性で間違い無いですか?」

 俯いた顔のネックレスをした美奈が犯行の日に会った、証人として、出廷した。武は美奈を見つけると、

「お前も捕まったの?」と話しかける。

「静粛に被告人は勝手な発言は控えるように」

  と言い放った。

  武は裁判を睨む。

「証人は当日、会っていたのは、室田武で間違いないですか?」

「はい、間違いありません。」

「被告人は変わった様子はありましたか?」

「いいえ、ありませんでした」

  いつもと違う美奈の態度に違和感を感じる、武

「どうしたんだよ?そんな顔して、」

  美奈は武に恨めしげな視線を浴びせる。

「何で、殺したのよ」

  武は困惑した表情を浮かべる。

「何のことだよ」

「静粛に」

  裁判官がそう言い、ガベルを2回素早く叩く。

「何で、お父さんを殺したのよ。アンタ、私に会う前にお父さんを殺したのよ、このネックレスはお父さんが買ってくれたものよ」

 美奈はネックレスを引っ張ってアピールする。

「静粛に!」

   裁判官は素早く2回ガベルを叩く。

「被告人室田武は犯行に及んだ後も反省がないと思われる。」

  武は裁判を睨みつける。

「よって、被告人室田武を幸福刑に処する」

   周囲から、オオッと響めきが上がった。


   それから武は連行された。


   武は護送車に乗ってから、眠気が襲い、意識が闇に包まれた。


 目が覚めると武は高級ベットの上に居た。周囲は白い部屋に大型のテレビ、ゲーム機が置いてある。

 立ち上がり、周囲を歩いてみると、風呂場は高級ジャグジーが付属で、別室には清潔なトイレ。

 武はこれまでの暮らしから、急激に変化したが、詫びかなと思ったので、気にしなかった。


 武は外に出ると蒸し暑かったが、近くに商店街を見つけたので、行ってみる事にした。

 服屋に入ると、穴が空いた机の横に帽子が一個とYES、NOを押す。ボタンが置いてあり、(被って下さい)と一言、筆で書かれた、用紙がケースで保護されていて、机には掲示板が設置されていた。

 武は帽子を被る。

 すると、机の空いた所から、服が一着、払い出された。掲示板に身体いいですか?という表示が出て、YES、NOと書かれたボタンが点灯する。

 武はNOと押すと、服が戻っていき、新しい服が出てきた。

 気に入った服だったので、YESと押すと掲示板に後で家に届けますと表示されて、服は穴の中に戻って行った。

 他の店に行くと、服屋と同じような作りになっていて、気に入らないものが出てくると、NOを押し、YESが出るまで、繰り返す。

 歩いていると、好みの女性が歩いていた。

 いいなぁと思っていたら、女性が

「これからどう?」と声を掛けてきたので、相手をしてやる事にした。

 満足したら、帰る道を歩いていたら、近くにタクシーが停まった。

 中を見ると誰も居ないので、完全無人になっているらしい。運転席と後ろの席はタクシーのようにガラスで分離されていた。

 帽子があったので帽子を被ると、ガラスに飯屋と表示されたので行き先の近くにYES、NOボタンになっていたので、NOを押し、自宅に変わったのでYESを押し、帰宅した。

 帰宅すると涼しい風が武を迎えてくれた。

 ベットの近くには先程、購入した服が置いてあった。スゲェじゃんと思い、風呂に入ろうと思い、浴室に入ると、既に適温で湯が沸いていた。ジャグジーを堪能して、寝る事にした。

 翌日、商店街に入って、同じ服屋に入って、帽子を被ると、服が出てきた。気にいる服だったので、YESを押した。他の店にも入って、帽子を被ったら、タクシーも含めて、昨日よりもNOの回数が減っていた。

 帰宅して、オンラインゲームをする。

 手強い相手だったが、ギリギリで勝てた。

 マッチング運が良かったのかな?そう思い、寝る事にした。

 翌日、ゲームをすると、苦戦はしたが、昨日よりも楽になったと感じた。成長したのかなと思って、気持ちよくゲームをした。

 そんな日々を送っていると、外出してNOを押すことがなくなった日に帰宅したら、机の上に帽子とパネルとボタンが置いてあった。帽子を被るとパネルに風呂と表示されたが、NOを押すと、次にトイレが表示されたので、YESを押すと車輪が付いた椅子が出てきた。パネルには座って下さいと書かれていたので、座るとトイレに移動した。

 次にゲームをしていると、パネルに女性の顔が出てきたので、YESを押すと廊下から女性が現れた。

 自分の欲が満たされたら、女性は玄関に歩いて行った。武から見えなくなった所で女性はいつの間にか、空いた穴に消えた。

 武は女性が、何故パネルで選べるかも考えなかった。武は思考力を無くしていった。思っただけで、自分に都合のいい、事象しか提供されない事に武の思考は徐々に失われていた。

そして、今は完全に欲を満たすだけの生物になっていた。

 

 担任に引率された小学生低学年がミラーマスク越しに口を半開きにして、涎を垂らし、虚な目でゲームをしている生物を見ていた。

「この生物は自分の欲望のままに、生きていた元は人間でした。こういう元人間を集めて、新しい種族として、分けていくこれが幸福刑です。皆もこんな風になりたくなかったら、しっかり、勉強をしましょう」

 小学生の集団が去ると、カップルが現れる。

「そろそろだぜ」

 男が興味津々という顔でミラーマスク越しの生物を眺めていて、女性は苦笑いを浮かべながら、その様子を眺めている。

「もう、いやだぁ」

 女性型ロボットが現れて、生物と情事を始める。

「なあ」

 男が真顔で女性に尋ねる。

「何?」

「この生物、何考えてるのかな?」

 キョトンとする女性

「どういう事?」

 男は不思議そうな顔で、情事を見つめる。

「顔を見てても、何か感じてるようにも見えないんだよ」

 女はマジマジと情事を見つめる。

「確かに」

「それとこのシステムを管理してるのは、この生物に殺された男の娘で、元恋人なんだって」

 男性はそう告げる。

「え?この生物に恋人って居たの?」

 驚いた顔で女性は男を見る。

「これに関わるためによっぽど、勉強したんだってさ」

「へぇ」

 女性ロボットの下で生物は

「美奈」と呟いた。

 


こんな生活いいなぁ

でも、見せ物はやだなぁ

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