序章 第7話 3月6日 死闘を終えて
8月31日修正 冬花→藤花。
これからは、こちらが名字になります。
「お疲れ様。みんな、大変だったようだけれども……とりあえず、もう機体を除装して大丈夫よ」
エメラルドグリーンの機体の言葉に従って、俺たちも機体を除装する。
正直、今回ばかりはダメだと思ったほどの恐怖を感じており、未だにに手の震えが止まらない。
「「フェイズシフト」」
そして、それぞれの素顔が明らかになった。
マリンブルーの機体から現れた少女は、緑の美しい髪を左右に分けた、いわゆる「ツインテール」であった。
少しやぼったく感じるメガネをつけており、深緑色の瞳をしている。
少しゴシック風味の、黒い服を着用していたが……戦闘によってボロボロになっており、露わになった肌にはあざがいくつも見られ、痛々しい印象を受ける。
更に何かしら先ほどの戦いで思うことがあるのか、少しうつむいたような表情であることが気にかかった。
紅の機体からは、ボロボロになった学生服を着た人が現れた。
男性用の学生服であるが……中世的な顔立ちであることと、声の質感を考えると恐らく男装であると考えられる。
緋色の髪を短くカットしており、強い意志を感じる真紅の瞳が印象的だ。
また身長が男性の俺をかなり上回っており、この場で一番背が高いのは間違いなさそうだ。
ターコイズカラー色の機体からは、水色の髪を伸ばした女性が姿を現した。
上品な礼服をまとっており、落ち着いた印象を抱かせる、瑠璃色の瞳が特徴的である。
表情も人形のように整っており、戦闘中のクールな声から予想した印象を裏切らない顔立ちであった。
まあ、さすがに巨大バグが自爆寸前の時は、焦りを感じていたようであるが……。
黄緑色の機体から出てきたのは、オレンジ色の髪をボブカットにした少女だ。
量販店のバーゲンで、ある程度まともなものを選んだような……正直センスはあまり良くない服を身に着けている。
着るものにはあまり、こだわりが無いのかもしれない。
きょろきょろと動く茶色の瞳を有した、少しふくよかで、巨乳の少女だ。
もっとも姿かたちよりも、戦闘中の独特な口調の印象の方が強い。
エメラルドグリーンの、「フレスベルグ」を放った機体からは……俺たちよりもかなり年上の女性が現れた。
ピンク色の少しウェーブがかかったロングヘアで、濃い碧眼が特徴である。
スーツをキッチリ着こなしており、いかにも「できる」という印象を受ける人物であった。
どちらかというとオフィスで見るような感じであり、正直戦場という場にはあまり似合っていないような気がする。
コクーンを解除したところにいたのは、まるで人形のような少女であった。
明らかに俺たちよりも年下、恐らくは小学生であり、明るい金髪と青い瞳が更に人形らしさにつながっている。
もっとも瞳の動きや表情が、明らかに「生きている者」であることを如実に伝えてくれるが。
戦いの興奮からか、少し顔が赤くなっていて……見ていて微笑ましい。
最後に、白い機体からは……金髪の美少女が姿を現した。
スカイブルーの瞳を有しており、汗で少し髪型が乱れているものの、そこがむしろ魅力に繋がるほどの整った顔立ちをしている。
このメンバーの中でも、1、2を争うことができる美貌であると断言しよう。
コクーンの中にいた少女と少し似ており、姉妹と言われても違和感を覚えない。
気づいたのだが……瞳の色の青の確率、高すぎないだろうか?
まあ俺も、髪は濡れ羽色であるが青の瞳を有しているので、他人のことは言えないのだが。
「……久郎、絶対変なことを考えているだろう?」
金髪の美少女……もとい、結希がジト目をこちらに向ける。
こういう時の鋭さは、長年の付き合いによって形成されたものかもしれない。
「ありがとうなの。助かったの~!」
コクーンに入っていた少女が、俺たちに礼を言う。
あの危機的状況を目の当たりにしておきながら、泣きだすこともなく、助けられてすぐにお礼を言えるというのは、並大抵ではない。
見た目や話し方よりも、精神年齢は高いのかもしれないと感じた。
「ごめんなさい。私はほとんど、何もできなかった……」
マリンブルーの機体から降りた少女が、お礼に対してむしろ、贖罪のようにつぶやいた。
「いや、そちらが攻撃を引き付けていたからこそ、俺たちが間に合ったのだ。そういう意味でも、素直に礼を受け取っていいと思うぞ」
俺が助言する。
実際、このマリンブルーの機体が、最初の時にいなかったら……恐らく巨大バグの攻撃はコクーンに向かい、あっという間に破られてしまっていたであろう。
「話はともかく、そろそろ急いだほうがいいと思うけれども? みんな、ヒーロー試験を受ける予定なのでしょう?」
年上の女性の言葉に、ハッとする。
完全に、頭からそのことが抜け落ちていた。
まあ、それだけ強烈な経験だったということでもあるのだが……。
「とりあえず、守先生がマイクロバスを用意してくれたから、みんなそれに乗り込んで。また、遅刻したとしても状況を説明するから、安心してちょうだい」
この言い方からすると……この年上の女性は、教師なのだろうか?
まだ20代前半であり、教師にしてもなりたてのはずなのだが。
「とりあえず急ぐよ、久郎!」
結希の声に頷き、俺たちはバスを目指した。
バスの中に乗り込み、椅子に座ってシートベルトを着用する。
「意外と久郎って、そういうところがしっかりしているよね」
結希もシートベルトをつけているが、他のメンバーはやっていないようだ。
「万が一事故があったときに、怖いからな」
「でも、バスに乗っていてシートベルトをする人って、あまりいないよね?」
法律上は着用することになっているのだろうが、確かにあまり見かけない。
「それよりも、機体をどうするかだな……試験に臨むにしても、あの状態ではどうにもならないぞ」
「そうだね。僕たちや最初にいた子の機体は、起動したとはいえ悲惨な状態だろうし……後から来た紅の機体の人も、かなりダメージを受けていたみたいだから」
巨大バグの羽を貫き、その勢いで転がった際にブースターを破損してしまったようだ。
その上最後の攻撃の時に、無理やり暴走させることで推力を得た結果、完全に機能停止してしまったらしい。
「一応、予備機はあるからそれを使ってちょうだい。まあ、馴染んでいない機体の上、改がつかないディシブルだけれどもね」
女性の声に、試験が受けられないという状態にはならないということで、一安心した。
「さて、かなり遅くなってしまったけれども……とりあえず自己紹介するわね」
そういえば、まだお互い名前すら知らない状況である。
まだ学校までには少し時間がかかるため、やっておいて損はないだろう。
「まずは私から。藤花舞、22歳。これから向かうフジ中央高校の、新任教師よ」
「「冬花?!」」
俺と結希の声が、見事にハモってしまった。
もっとも、当然のことなのだが……。
ヒーローにとって欠かせない「機体」。
それを開発した人物の名は「藤花誠司」という。
一代にして巨大企業を築き上げ、この「シズオカ府」を作り上げた人物と言ってもいいほどの、超有名人だ。
そして、彼の唯一の肉親である妹の名前が「舞」であることは、ヒーローにとって常識である。
少なくともここシズオカで、この姓を名乗る人間が二人存在するということは考え難く……。
「なぜそんな人が、高校の教師に!?」
結希の言葉がまさに、俺の疑問を代弁していた。
「まあ、色々とあってね。もしかしたら長い付き合いになるかもしれないから、その時はよろしく!」
結希の疑問ははぐらかされてしまった。
まあ、今の段階でそれを求められるほどの信頼関係は無いため、やむを得ないだろう。
「次は、こちら……は少しきつそうだから、そちらの男性にお願いするわね」
マリンブルーの機体から降りた少女は、まだ顔色が悪い。
何度も命の危険にさらされるという、俺たちですらあまり経験したことのない状況であったのだから、ある意味当然だろう。
「俺の名前は、神崎久郎。気軽に久郎と呼んでほしい。戦闘ログを見れば分かる通り、搦め手を得意としている。そしてこちらの美少女が……」
強烈な肘打ちで、自己紹介は終了を余儀なくされた。
「僕の名前は、御門結希。剣を得意としている。あと、僕は男だから!」
「「「「え!」」」」
バスの中に、驚きの声が広がる。
恐らくほぼ全員が、女性として認識していたのであろう。
「リアル男の娘、キタにゃ~!」
オレンジ髪の少女が大声を上げ、隣にいた赤髪のゲンコツを受け、頭を抱えて悶絶する。
どことなく、俺と結希の関係に近いような印象を受けた。
「じゃあ、次は私だな。秋葉明だ。性別上は女性に分類されるが、自分でもあまりしっくりこない。可能ならば明という、一人の人間として接してほしい」
拳に息を吹きかけつつ、赤髪の少女が自己紹介を行う。
性同一性障害というほどひどくは無いようであるが、性認識にやや問題があるようだ。
もっとも男装が決まりすぎていて、結希とは別のベクトルで性別詐欺だと感じる。
「そういえば、結希の顔は見たことがあるような気がするな。髪型は違うが……確か近接総合の決勝トーナメントに出ていなかったか?」
「うん。一回戦負けだったけれども、出場していたよ」
トウキョウで行われたこの大会は……さまざまな問題が発生し、通称「金メッキ全国大会」と蔑称されるほどの事態に陥った。
ちなみにネーミングの由来は、優勝した者たちの不正行為がことごとく判明し、金メダルを剥奪され銀メダルのものが繰り上がったことによる。
結果として「優勝者のメダルは金メッキだ」という話になり、この名前が定着してしまったという経緯だ。
大会のトップはしっぽを切って逃げおおせたようだが、その下にいた者たちはことごとく失職し、大会自体の運営権も別の組織に譲渡せざるを得なかったという、非常に大きな事件である。
結希の剣術における準優勝というのも、その一環であり……本来であれば優勝は間違いなかったはずなのだ。
まあ、この件に関してはおいおい話す機会もあるだろうから、今は省略しておく。
どちらかというと、髪型が違っているのにも関わらず、本人だと気づいた勘の鋭さの方が賞嘆に値するだろう。
「次は私ですね。清水漣。回復魔法が得意です。ところで……二人とも、痛むところは残っていますか?」
続けて、青髪の少女がこちらに問いかけてきた。
「うん。とりあえずまだ少し痛むけれども、このくらいならば大丈夫!」
「俺の方も、問題なく動けそうだ……むしろ試験で慣れない機体を使う方が、懸念事項だな」
二人で、問題ないことを伝えた。
言葉遣いといい、なんとなく人形のような硬質な印象を受けるのだが……こちらを気遣う言動からは、温かみのある心が伝わってくる。
「最後はあたしにゃ。志田みかん。風と土の属性を持つダブルにゃ。まあ、使いこなしているとは言い難いけれどにゃ」
……すごく特徴的な語尾であり、思わず頭の上を見てしまう。
見た目では、ネコミミは生えていないようであるが……?
「そのしゃべり方は、素なのか?」
俺が問いかける。
「まあ、普段からこれでやっているにゃ。しっかりしたしゃべり方ができないわけではないから、その点は安心してほしいにゃ」
キャラクターを作っているようであるが、かなり徹底しているようだ。
そして、このしゃべり方をする人物といえば……。
「もしかして、マオ?」
「えっ、その名で呼ぶということは……カササギだにゃ!」
間違いない。
俺がプレイしている「ブレイブ&ウィッシュ」の、マオが目の前にいる少女のようだ。
確かトウキョウに住んでいたはずなのだが……恐らく惨状を見かねて、シズオカに引っ越してきたのだろう。
「はい、そろそろ学校につくわよ。……自己紹介ができなかった子は、後でするかどうかを決めてちょうだい」
舞が、俺たちに声をかける。
いよいよ試験……しかも、不慣れな機体で行うという逆境。
まあそれでも、ベストを尽くせば結果は付いてくると信じて、行動することにしよう。
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