序章 第6話 3月6日 巨大バグとの死闘
戦闘描写はあまり得意ではないのですが、何とか頑張ります。
幸いなことに、よねのみや公園につくギリギリのところで、銃を実戦用のマガジンに交換し終えたという連絡が入った。
そのため急いで結希の機体から降り、機体をまとってから公園に突入する。
ちなみに、辛うじてカツサンドと野菜ジュースのミックスは、胃の中にとどまっていた。
「うわあ……大きい。今までに見た中で、一番かも」
結希がぼやく。
俺も全く同感であり、これは厳しい戦いになると感じた。
サイズは横幅だけで、俺たちの機体の倍では済まない。
加えて高さが機体の頭部を超え、更に全長は10メートルを軽く超えるだろう。
間違いなく「巨大バグ」に分類される代物だ。
危険度は大型バグと比べるのが、虚しくなるほどのレベルである。
形状はスズムシに近いものであるが、バグは見た目からは想像できないような攻撃手段を有しているため、油断できない。
もっともこの巨体であれば、手足ではじかれるだけでも、大ダメージを受けそうであるが。
「コクーンはまだ無事、ヒーローの方は……かなりボロボロみたいだ!」
公園の隅の方に、コクーンと呼ばれる繭状の空間が形成されていた。
これにはヒーローの力が込められており、一般人が緊急時に使用することで、短時間ではあるもののバグの攻撃から身を守ることができる。
中に入っているのは、幼い少女であった。
一方、ヒーローの方は……俺たちと同じ「ディシブル改」であった。
マリンブルーに塗られているその機体は、今のところは五体満足のようであるが……肩などのパーツが大きく破損しており、かなりのダメージを受けているのが分かる。
手にはトライデントが装備されており、近~中距離戦闘を基本とした機体のようだ。
「辛うじて、間に合ったという感じだな……まずは救援信号を放て!」
俺の声に合わせて、結希が上空に救援信号を打ち上げた。
少なくともこんな代物を、二人で倒そうなんていう事は考えない方が良い。
「戦っていたヒーローをかばいつつ、バグの能力について情報を得る。それがない状態で勝てる相手ではない!」
もちろん、スマートフォンでバグの情報は伝達されているのだが……今までにあまり出現したタイプではないため、圧倒的に情報が不足しているのが現状である。
少しでも相手の能力などについて知っておかなければ、話にならない。
「僕がカバーに入る。久郎が情報を引き出して!」
結希が、今まで戦っていたヒーローの機体とバグの間に入り、カバーする。
その間に俺が、どんな攻撃を行うのか聞き、判断するという形になった。
「すまない。挨拶する暇がないので端的に聞くが、相手はどんな攻撃をしてきたのか教えてほしい」
俺の問いかけに対し、機体から返事が返ってきた。
「あ……相手の攻撃は、足を振るうものと羽からの衝撃波です。それ以外は今のところ行っていません」
怯えたような、女性の声であった。
俺たちと同じヒーロー候補生の身で、これだけの巨大な敵とたった一人で渡り合っていたのだから、相当恐ろしい思いをしたのであろう。
「分かった。基本的にはコクーンの近くにいて、万が一の時にそちらを守ってほしい。こちら側は時間稼ぎに徹する!」
必要な情報は得られた。
とりあえず、結希にそのことを伝え、羽にも警戒するように注意を促した。
後は、どこまで戦闘時間を延ばせるか、であるが……。
「結希、あれをやるぞ!」
「了解!」
俺たちは「同じ歌を歌い始めた」。
スピーカー、そして機体自体が伝導して聞こえるリズムが合った瞬間に、結希の方から意思が伝わってくる。
これが俺たちの奥の手の一つ、「ハーモニクス」だ。
歌いながら戦うことで、相手が何を考えているのか、どうすればいいのかなどの細かい情報が伝わるという力であり、「ギフト」と呼ばれる能力に分類される。
この力で、今まで何度も危機的状況を乗り切ってきた、俺たちの「切り札」の一つだ。
ちなみに、バグの種類によっては、通信が妨害されることがある。
そのような時であってもこの能力は、一度発動さえすれば途中で通信妨害をされたとしても維持できるため、非常に有用なのだ。
例え妨害がなかったとしても、戦闘中に意思の疎通が瞬時に行えることの有用性は、説明不要であろう。
ちなみに今回選んだ曲は、「ブレイブ&ウィッシュ」のメインテーマだ。
ゲーム自体はダメだったようだが、このテーマ曲は結希も気に入っている。
そのため二人で合わせながら戦うのに、ピッタリなのだ。
ついでに言うと、俺たちの歌の腕前は「プロ並み」だと自負している。
事実、アニメの主題歌をカバーして、VRのチャンネルに流したことがある。
その時に、本人が歌うよりもレベルが高いと絶賛されたほどだ。
“あいつ、めちゃくちゃ硬いよ! 関節部じゃないと、剣が通用しないくらい!”
結希の意志が、伝わってくる。
見た目通り、通常の攻撃ではほとんどダメージを与えられないようだ。
“おまけに、羽からの衝撃波が厄介! 掠めただけで、装甲が吹き飛びそうになった!”
“そうなると……まずは羽から狙うのがセオリーかな。手足に比べれば、まだダメージを与えられそうである上、攻撃力を大幅に削ぐことができるからな”
即座に意思のやり取りを行い、羽……可能であれば付け根を狙う方向性にする。
衝撃波が飛び交う状況では、思わぬ方向に流れ弾が向かい、結果最悪の事態になりかねないと判断したからだ。
“高い所だから……この技だ! 「崩雀」!”
結希の攻撃が、羽に叩きつけられる。
この「崩雀」という技は、大きく切り上げるのが特徴であり、空を飛ぶようなバグに用いるのが一般的な使い方である。
しかし、これだけの大きさの相手で羽を狙うためには、この技を用いるしかない。
それ以外では威力が大きく劣る「飛燕」くらいしか、結希の手持ちの技では羽に届かせる手段がないのだ。
羽に当たったものの……ギィン! とガラス質の音を立て、剣がはじかれる。
想像を超える硬さのようで、これはかなりまずいかもしれない……。
その時、通信が入った。
「衝撃波を打つようです! すぐに左右に退避してください!」
コクーンの近くで相手を観察していた、今まで戦っていた機体からの通信だ。
左右に……ということは、かなり幅が広く、一方に避けた場合にはまとめて食らう恐れがあるということだろう。
瞬時に攻撃を中断し、ひたすら回避することを優先する。
単に避けるだけではなく、背部のブースターに負荷をかけ、限界まで機動力を向上させた上での回避行動だ。
回避を行った直後に、俺と結希の機体の間を強烈な何かが通り過ぎる。
余波だけで、大きく機体が振られるほどの勢いであり……直撃していたら、ひとたまりもなかったであろう。
予想よりも幅が広く、これは前兆をきちんと確認し、確実に避けられるようにしないとまずそうである。
「こちらは、コクーンを守りつつ相手の動きに注目します。衝撃波の前兆が確認できたら、すぐにお伝えします!」
「助かる。こちらがある程度攻撃に集中できるというだけで、戦いやすさが大きく変わるからな」
彼女の申し出は、本当にありがたい。
とはいえ相手の防御を抜くことができなければ、どうにもならないのだが……。
ちなみに、返信をした後すぐにまた、歌を再開させた。
数秒くらいであれば歌が止まったとしても、能力は維持できるのも強みの一つである。
その後も、厳しい戦いが続いた。
こちらの攻撃は手足の関節部を狙ったとしても、行動不能に陥らせられるほどの威力がない。
相手側は手足をぶつけるだけでも十分な威力がある上、衝撃波も幅を広げて威力を落としたもの、逆に収束させることで大威力にするものなど、多彩な種類があって対応しきれない状況だ。
既に機体の損壊率は、40%をこえている状況で……最悪いつ機能停止を起こしても、不思議ではない。
彼女のサポートによって直撃を避けていてなお、この有様なのだ。
“このままではジリ貧だぞ、どうする?
“羽を狙うより、直接頭を狙ったほうがいいかも。リスクはあるけれども、ここは勝負しないと!”
結希の考えは、納得できるものだ。
もし羽を破壊し、衝撃波を打てなくしたとしても……足による攻撃が残されており、そちらもまともに当たれば致命的である。
それならば頭を狙うことによって、一気に倒す方向で考えたほうがいいかもしれない。
幸い発動に時間がかかるものの、この状況を打破するのにうってつけの技を結希は持っているのだから。
“ただ、あれはきちんと当てないといけないから、何かしらの方法で隙を作らないと”
それがこの技の弱点でもある。
掠るだけでは効果がなく、有効打を与えたうえで発動させないと意味がないのだ。
“俺に考えがある。少しだけ時間をくれないか?”
“分かった。できるだけ時間を稼ぐから!”
結希に任せて、俺は公園の入り口の方に走った。
「え? このタイミングで逃げるのですか?!」
彼女の戸惑った声が聞こえるが、今はそれに答える余裕がない。
「大丈夫。久郎を信じて!」
結希のフォローが、本当にありがたい。
その期待には、しっかり応えようと思う。
公園の入り口で目的のものを手に入れ、戦闘中の結希の元に戻る。
“待たせたな! 相手の動きを止める。そこで発動させろ!”
“分かった。けど、どうやって? 久郎のワイヤーでは、止まらないよ?”
“そのための道具を取ってきた。やるぞ!”
俺は機体を操作させ、相手に対して回り込むような形で行動する。
移動中であるため、こちら側にはたまに衝撃波が飛んでくるくらいである。
そのため、何とかこの攻撃を終えるまでは機体がもちそうだ。
“合図をしたら、一気に離脱しろ!”
“了解!”
最後に思いっきりブースターを噴かせて、バグを飛び越えるような動きを行う。
それに追随するような形で、鋼鉄の鎖がバグに絡みついた。
ちなみにこの鎖は、公園の入り口にあった車止め用のものを拝借したので……後で弁償する必要はあるだろう。
“今だ!”
合図を行い、即座に手元のワイヤーを引っ張る。
ワイヤーは輪を描くような形に展開させてあり、それが背中に向けて伸びる鎖によって補強され、この巨大なバグといえども動きを止めるほどの効果を発揮した。
“行くぞ! 「托卵」!”
結希の機体が、巨大バグの頭部に向けて刃を振るう。
ガシッと音がして、ほんの少しだけ食い込ませることができた。
その直後に、巨大なバグがワイヤーを引きちぎる。
慌てて結希が、こちら側に向けて大きく飛びのき、何とか足の攻撃を回避した。
“バグの一本縛り、一瞬の美だったな……亀甲縛りにするには、時間が足りなかったのが惜しいところだ”
“そんなことを考えるのは、久郎だけだよ! とりあえず、これで後は時間を稼げば何とか……”
「広範囲型の衝撃波、来ます! 回避してください!」
油断した。
大きく広がる衝撃波で、思いっきり機体が吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、一気に損壊率が上昇してしまった。
もちろん中にいる自分たちも、ただでは済まない。
「もう、戦うのをやめてください! このままでは命にかかわります!」
彼女の悲痛な叫びが、俺たちにも伝わる。
「まあ、後一撃だけやらせてくれ。今までの攻撃は、このための仕込みだったのだからな」
あえてそれを無視して、俺は通信を使った。
ちなみに「ハーモニクス」は、先ほどの攻撃によって、衝撃を受けせき込んでしまったため、既に解除されている。
「十分温まったところで……「托卵」発動!」
結希の声が響き渡り、バグの頭部につけられていた傷が大きく爆発した。
これが、「托卵」の効果で……遅延発動型の攻撃なのだ。
一定の限度はあるものの、時間を稼げば稼ぐほど威力が向上するため、装甲が厚くて手が出せないというこの状況を打破するためにはぴったりの技である。
バグの頭部に、大きな穴が空いているのが確認できる。
最後の力を振り絞って、そちら側にブースターで飛び込み、穴の中にありったけの銃弾、爪、ワイヤーにダーツなど、手持ちのすべてを叩き込む。
打ち尽くしたところで結希と交代し、結希が「百舌」や「隼」などの連続攻撃を追加する。
これで、頭部は破壊できたと思うのだが……。
「衝撃波、来ます!」
どうやら、バグのしぶとさを見誤っていたようだ。
なすすべもなく、衝撃波によって吹き飛ばされる俺たち二人。
モニターがブラックアウトしており、どうやら完全に機体は破損してしまったようだ。
「ここまで、かな……後は、他のヒーローが来てくれれば……」
「できるだけのことはやった。悔いはない」
次に衝撃波が来れば、恐らく機体ごと俺たちの体も破壊されるであろう。
辛うじてサブカメラだけが生き残ってしまったため、相手が衝撃波を溜めているのが見えてしまっているのが、最大の不幸だ。
その時、一気に大型バグに向けて飛び込む、紅の機体が視界に映った。
「ブチ抜け! 「ソニック・ナックル」!」
背中にある巨大なブースターを、限界まで吹かせた機体が羽に向けて突進する。
その一撃は羽を貫通し……そのまま地面に機体は叩きつけられ、ゴロゴロと転がることになった。
「……相変わらず、明は無茶ばかりですね。とりあえず目の前を優先します。「ハイヒール」」
気づくと、俺たちの機体のすぐ近くに、ターコイズカラーの機体がいた。
その機体が錫杖を振るうと……俺たちの痛みが消え、機体のコンソールに再び光がともる。
これは……治癒魔法?
「にゃ。「ホワイトボール」、じゃれて遊ぶにゃ!」
俺たちの近くに、もう一機翡翠のような色の機体が待機していた。
その機体の掛け声に合わせ、白い球体が巨大バグの羽にまとわりつき、当たるたびに羽が大きくはじかれる。
もう一方の羽は既に吹き飛んでいるため、これで衝撃波を打てる状況ではなくなったようだ。
「もういっちょう……これでとどめ! 「ソニック・ナックル」!」
紅の機体が思いっきり突撃しようとして……蛇行し、修正して辛うじてバグの方に向けて進んでいった。
上手くバグの背中の方に叩き込めたらしく、バグの体液が大きく飛び散る。
「予想通り、明にもヒールが必要になりましたね。とりあえず、バグの状態を確認します。「エコー」……これは、自爆準備?!」
俺たちを癒した機体が、慌てたような声を出す。
ちなみに言い忘れていたが、声を聞く限り、三機とも搭乗しているのは女性のようだ。
「やば。バーニアがぶっ壊れた。もう大ダメージを与えるのは無理」
「こちらも、一気に倒す技を使うには時間が足りないにゃ!」
「内圧、急激に上昇中……あと数秒で臨界点です!」
あのサイズで、自爆なんてことになったら……恐らくこの辺りは、悲惨なことになるであろう。
当然俺たちの命運については、言わずもがなである。
「お待たせ。一気に決めるわよ……「フレスベルグ」!」
最後に現れた、他の機体とはデザインが全く異なるエメラルドグリーンの機体が、ナイフを振るう。
魔法の言葉に応じて魔法陣が展開され……巨大バグの周りに、荒れ狂う風の領域が形成された。
あれだけの耐久力を有していた巨大バグが、まるでおもちゃのようにバラバラになっていき……風がおさまった後に残されていたのは、赤いバグのコアだけであった。
「回収っと。これでおしまい」
緑色の機体が、コアをケースにしまう。
バグの場合、コアが健全である限り復活する危険性があるが、特製のケースに入れることでその危険を回避することができる。
研究のためにコアは可能な限り回収を求められており、そこからいくつものデータが得られているのだ。
危機一髪とは、今回のようなケースに使う言葉だと強く感じた。
ようやく戦いが終わり、俺たちは生き残ったのだという実感を得ることができた。
今までの戦いの中でもっとも厳しいものであったことは、言うまでもない。
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