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序章 第5話 3月6日 鳴り響く音

ヒーロー試験実技、当日の始まりです。

 ヒーロー試験実技当日、空は綺麗な青空を見せていた。

 実技試験を行う上で、ベストコンディションであろう。


「おはよう、母さん。いい天気で良かった」


 朝食の準備をしていた、母に声をかける。


「おはよう。今日は頑張ってきなさいね!」


 母は朝食を用意しながら、俺たちが起きるのを待っていてくれたようだ。

 やはり父は忙しいようで、俺たちよりも先に仕事に出かけたらしい。


「おはよう……ふわぁ。ねむ……」


 結希も起きてきたようだ。

 やはり少し寝不足気味のようだが、試験に支障が出るほどでは無さそうであり、一安心といったところだ。

 ふわふわの髪の毛がさらりと流れ、可愛らしさとほんの少し色っぽさを感じさせられる。


「今朝は、ハムカツサンドよ」


 ……昨日の夕食に加えて、今日もカツ。

 少しヘビーな朝食になりそうな予感がする。

 まあ、会場に行くまでに十分消化はされると思うが……そこまで験を担がなくてもという思いはある。

 間違いなく、結希が母に頼んだ結果であろう。


 朝食を食べ終えて、支度をして二人で外に出る。

 まだ少し肌寒い風が吹いており、俺は少し身を震わせた。


「いよいよ、今日だね」


 結希がこちらに語り掛ける。

 俺たちの実技は、午前に予定されている。

 午後はまた、別のヒーロー候補生が実技を行うようだ。


「ああ、そうだな。……ところで、コンビニで何か買って、口をさっぱりさせないか?」


 正直、少し口の中が脂っこい。

 スッキリさせるためにも、何か飲みたいと思っていたのだ。


「うん。分かった。じゃあ、あそこにしよう」


 家から近いところにあるコンビニで、飲み物を調達する。

 結希はウーロン茶を買ったため、俺もそうするつもりだったのだが……。


「また、変なものを買って……何それ?」

「新商品の、野菜ジュースらしい。このシリーズで野菜系は初めてなので、どんな味なのか楽しみだ」


 つい、新商品という言葉につられてしまうのは、俺の悪い癖だ。

 口に含むと……野菜のえぐみとミントの香り、更にチーズの風味が相まって、絶妙なまずさであった。


「なんで、まずそうだと分かっていてそういうものを買うのかな……?」

「飲むまでは分からないからな。好奇心は大事だぞ」

「その好奇心って、試験に支障が出てもなお追及するものなの?」


 ……試験会場の学校についたら、水道で口をすすいでおいたほうがよさそうである。

 分かっていても、この探求心はどうにもならないのが、厄介なところだ。

 頭の中で「あいつ」が、そういえばこのシリーズ、向こうの世界では一つを残して終売になってしまっていたな、などとつぶやいていた。


「それにしても、ふんわりした服装だな。髪の毛を尖らせていなかったら、間違いなく女性だと思われるぞ」

「うう……着ようと思っていた服が、クリーニングから戻っていなかった……早めに出したのに」


 結希の格好は、白いハーフコートとスラックスだ。

 ハーフコートにはファーが付いており、ユニセックスな作りとなっている。

 モコっとした感じが可愛らしく、髪型を整えていなかったら、初見で男性だと分かる者は皆無であろう。


 ちなみに俺の格好は、黒のジャケットとグレーのスラックスだ。

 試験会場についたら運動用の服に着替えるとはいえ、面接の要素も有しているこの実技試験で少しでもいい印象を与えておきたいと思い、こういうセミフォーマルな格好にした。


「髪の毛、ちゃんと尖っているよね? 大丈夫だよね?」

「個人的には、むしろ蒸しタオルを頭に載せて、スッキリさせたいのだが……って、いきなり肘はないだろう!」


 服装の規定では、髪型は指定されていない。

 そのため結城はいつものように、髪の毛を尖らせて「男の子」に見えるよう工夫している。


「どうせならば、いつもの格好の方が良いのでは? 毎日髪型をセットするのも、大変だろうし……だから肘を使うな! 拳もおさめろ! 更にコンボでとどめを刺そうとするな!」


 結希の体術は、全国大会の決勝トーナメントに進出するほどのレベルである。

 それを存分に振るってきたのだから、こちらも焦るのは当然だ。

 まあ、自業自得ではあることは理解しているが。


「よし。これだけ動けば、眠気も取れただろうし、緊張もほぐれただろう?」

「それが目的だったのか、それとも後付けで目的にしたのか分からないけれども……まあ、目が覚めたことだけは感謝しておく……後で一発殴るけれども」


 生まれた時から両親と共にいた俺とは異なり、結希は途中で養子として迎えられた。

 そのため、最初のころは必死で「いい子」であろうとしているのが分かり、見ていて痛々しいと感じるほどであった。

 その上、バグと戦うための鬼気迫るような訓練を、体を壊すほどに続けていたのだ。

 そこで、「このままではまずい」と判断した俺が積極的に構うようにして……今では俺や家族の前でも、素の姿を見せられるようになった。

 こうしてじゃれ合うのも、信頼の証の一つであろう。


 そんな気の緩みを、スマートフォンからの緊急連絡が一気に吹き飛ばした。


「バグ発生。しかも大型タイプの可能性あり、だと!」


 ちなみに、この世界にもスマートフォンは存在している。

 それどころか、スマートフォンの基本となる通話機能に加え、身分証明書などのさまざまなデータがスマートフォンと紐づけられており、まさに「生きる上での必需品」と化している。

 サイズは小型、軽量化されており、カードくらいの大きさになっているのだが、通話の際には上下のパーツを引き出すことで、会話しやすくすることも可能だ。

 もっとも戦闘中に使う俺たちのような場合は、マイク内蔵型のワイヤレスイヤホンを使うのが一般的である。


「レーダー確認……ここって、よねのみや公園!?」


 昨日お世話になった、よねのみや神社のすぐ近くである。

 ちょうど、俺たちが試験会場に向かう途中の場所だ。

 しかも、レーダーを見る限りでは、取り残された人間が「コクーン」と呼ばれる避難装置を使っている上に、一人のヒーローが戦闘中らしい。

 恐らくそのコクーンを守るために、奮闘しているのだろう。

 バグの性質を考えると、なぜこんなところに発生したのかという疑問も生じたのだが……。


「僕達もすぐに向かうよ!」


 結希が即断し、そちらに向けて駆け出した。


「ヒーロー試験はどうするのだ? 下手をすると、間に合わなくなるぞ?」


 並走しながら一応、俺は結希に聞いてみる。


「こんな時に戦わなくて、ヒーローなんていえないよ! バグから人を守るのが、ヒーローの役目なのだから!」


 結希は、当然のようにそう答えた。

 彼ならばそう答えるのは、分かりきっていたことであるが……やはり真っすぐな結希を見ていると、自分がいかに汚れているか認識してしまうため、少し痛い。


「まあ、この事態ではある程度斟酌してもらえる……と願いたいな。――「フェイズシフト」――急ぐぞ!」


 俺たち二人は、機体を呼び出して公園に急ぐことにした。

 一瞬、機体を呼び出すことを忘れて生身で走っていたことについては、ツッコまないでもらえると助かる。


 余談ではあるが、この世界の街並みには「あちら」とは大きく異なる部分がある。

 それは「電信柱、及び電線が存在していない」ということだ。


 昔は存在していたのだが、バグによって切断される、機体の戦闘によって傷つき復旧に時間がかかるといった事態が多発し、そのためインフラ関係はすべて地下に埋設される形に変化している。

 それ故に、街中であっても機体を全力で走らせることができるのだ。


「前方、小型バグ発見! 数は5!」

「分かった。俺が先制してダメージを与え、結希がとどめで!」


 バグは、基本的に複数出現することが多い。

 今回目の前に現れたのは、一番一般的なバグである『アント』だ。

 サイズは大型犬並であり、生身で戦うには厳しい相手であるが、機体の装甲を考慮すれば特に恐れるような存在ではない。


「まとめて仕留める。「フルバースト」!」


 マガジン内の弾をすべて発射し、即座にマガジンを交換する。

 これでかなり削れるはず、なのだが……?


「え? あまり効いてないみたい……」


 結希が驚きの声を上げた。

 俺自身、一瞬何が起こったのか分からなかったのだが……すぐに「あること」に気が付いた。


「しくじった! 試験のために、練習用の弾を詰めていた!」

「やらかしを恐れて、べつのやらかしをやったようだね……久郎、後で両親からの説教確定だよ」

「これは、不可抗力だろう! それよりも、まずはこいつらを蹴散らして、公園にいるボスを相手にするほうが先だ!」


 弾丸は練習用であるが、腕部に搭載されているクローは実戦用のもののままであったのが幸いした。

 それを相手の動きに合わせて振るい、目の前のアントを狙う。

 幸い通常型であったため、それほど抵抗感を感じることなく、あっさり切り裂くことができた。


「特に支障なし。さっさと片づけるぞ!」

「了解!」


 結希が舞う。

「百舌」で一体倒したのちに、もう一体を「隼」で切断。

 残りの一匹が攻撃を仕掛けてくるが、余裕で剣を使ってはじき、そのまま体勢を崩したアントを切り捨てた。


 こちらも、もう一匹をワイヤーで捉え、クローでとどめを刺す。

 正直、俺たちにとってはアント程度なら、準備運動にしかならないのだが……それだけに、今までに戦ったことのない「大型タイプ」がどのくらいの脅威になるのか、不安がよぎる。


「久郎はいったん除装して。整備工場で実弾を込めてもらってから、呼び出したほうがいいと思う」

「その間は、結希の機体にしがみついて進むことになるのか……やむを得ないな」


 移動速度を落とすことはできない以上、多少の不格好さは甘受すべきであろう。

 機体を除装し、結希の機体にワイヤーで体を固定する。

 整備工場へ連絡を行い、弾丸だけ実戦用を詰めてもらうようお願いした。


「飛ばすよ! 舌を噛まないでね!」


 ぐん、とスピードを上げて、結希の機体が公園にひた走る。

 幸いまだ、中心部のバグの反応は残っているものの、コクーンとヒーローの反応の方も消えていないようだ。


「待っていて、すぐに駆け付けるから!」

「まて、そこまで飛ばすと……うぐっ」


 普段は機体によって緩和されている風圧などを、まともに受けて苦しむことになった。

 固定された体が、ギシギシと痛むが……万が一の場合を考えなかった自分自身のうかつさが招いた事態であり、苦しくてもやむを得ない。

 一刻も早く、装備の変更が完了したという連絡が来てくれと願った。

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