序章 第3話 3月5日 機体での訓練
「「ただいま~!」」
家にたどり着いた二人の声が、見事に揃った。
「お帰りなさい。久郎、結希。思ったよりも早かったけれども、これから訓練?」
母が俺たちに対して、問いかける。
二人で頷き、その旨を示した。
「明日に響かないように、軽めにしておくのよ」
「言われなくても。行くぞ、結希!」
「うん! 了解!」
俺たちは部屋に帰り、着替えて外に出る。
目的地は家の近くにある「訓練場」の一つ、「アオバ公園」だ。
そこでは、何人かのヒーロー候補生が機体を展開していた。
それぞれ訓練に余念がないようなので、声はかけないでおく。
俺たちも空きスペースを確保して、自分の機体を「召喚」した。
機体の体長は、おおよそ5メートル前後となっている。
比較的小柄であるため、大型トラックで輸送することもできるが……いざという時にすぐ使うためには、不向きなサイズであることは間違いない。
そこで編み出された技術が、この召喚である。
機体を個人と紐づけした上で、「整備工場」と呼ばれる場所に待機させておく。
その上で必要な時は召喚を行うことで、瞬時に機体をまとった状態に変身することができるのだ。
個人との紐づけのことは「パーソナライズ」、召喚のことは「フェイズシフト」と呼ばれている。
魔法的な技術が進歩した第参世代の機体で導入されたものであり、今のところこれができる機体を生産できるのは、日本に限られている。
ちなみに、機体には「リミッター」がかけられており、武器の使用などに一定の制約がかけられている。
特に「人に対して、バグがいない状態で実戦用の攻撃を行う」ことに対しては機体の停止、及び通報に加えて召喚状態を解除できないようになっており、間違いなく逮捕一直線だ。
それ故に、恫喝のような使い方には不向きであるため、憲法が定める「戦力の保持」には当たらないという判例が下された。
それらの事情もあり、社会的にも機体を恐れる者よりは、憧れる者の方が圧倒的に多くなっている。
長い間バグとの戦いを支えてきたということも相まって、機体を使用する環境もかなり整備されている。
ある程度の広さが必要となるため、市内の各地に訓練場が設けられており、この「アオバ公園」もその一つだ。
イベントで、フジ中央公園と合同使用される時はともかく、通常時は機体の訓練の場として開放されており、俺たちも愛用している。
もちろん、ヒーロー科が設けられている学校の場合、敷地内に訓練場が存在するのだが、基本的には学生のための施設であるため、休日を除いて開放されていない。
住民であれば無料で使用できるため、学校の訓練場を使えるヒーローであっても、気分転換や野外戦の訓練用として利用することがあるそうだ。
ちなみに、俺たちが使用している機体は第壱・伍世代の「ディシブル改」だ。
訓練用の機体ではあるものの、ある程度実戦に耐えられるだけの性能を有しており、ヒーロー科に配属されて専用の機体を手に入れるまでの「つなぎ」としては十分な性能を有している。
第壱世代の機体である「ディシブル」に、第参世代の技術を利用してフェイズシフトなどの機能を搭載したものである。
操作系なども改修された結果、第弐世代の機体とほぼ互角の性能となっているのが特徴である。
結希の機体は白、俺の機体は黒にペイントされている。
訓練で結構酷使したため、装甲には凹みなども見られるものの、使用には特に問題はない。
整備工場の人たちの、頑張りを感じるところだ。
「おい、あいつら……星付きだぞ!」
「げっ! ディシブル改で、バグと戦った経験が何度もあるのか……」
ざわめきが聞こえる。
機体の一部分(襟に近いパーツを使うことが多い)に星印を入れられるのは「バグを50体以上倒した者」だけであり、加えて俺たちの機体に入っている銀色の星は、「中型、あるいは特異体のバグを倒した者」にのみ許されるものである。
一般的には「ヒーロー科」に所属して1年以内に、通常の星印が入れば「及第点」とされているので、戦闘経験という点では俺たちは、なかなかのものだと自負している。
「じゃあ、行くよ!」
結希がこちらに向かって、突っ込んできた。
戦闘開始の合図をしていない状態であるが、機体を展開した時点で既に「戦いは始まっている」という暗黙の了解があり、それは「不意打ち」のカテゴリーには入っていないのだろう。
「前よりも速度が上がっているな……ここまで引き付けて、こう!」
結希が繰り出した技は「百舌」と呼ばれる突きだ。
非常に出が早く、しかもある程度の追尾性もあるため、初手として使うのは悪くない選択肢であろう。
まあ、さすがに何度も訓練で見ている技であるため、十分対処できるのだが……予想よりも相当速度が上がっており、かなりギリギリでの回避を余儀なくされた。
「体勢を崩したね。行け!「 隼」!」
いきなり大技を繰り出してきた。
こちらも非常に高速の斬撃であり、このままでは確実にくらうのは間違いない。
「来ると分かっていれば。「エクステンド・クロー」!」
あらかじめ保険として、近くにある木に向かってワイヤー付きの爪を伸ばしていたのが功を奏した。
木に食い込んだ爪についたワイヤーを巻き取ることにより、一気に距離を離すことに成功する。
「今度はこちらからだ。「フェザー・ダート」!」
腕部に接続された射出口から、ダーツの矢が何本も飛び出す。
それ自体の威力は低いものの、刺さった瞬間に一気に放電するように設計されているため、当たれば大きな隙をさらすことになるのは間違いない。
「甘すぎるよ。「飛燕」!」
結希が斬撃を「飛ばす」。
それに巻き込まれ、放たれた矢はすべて方向をそらされ、無力化された。
「それを待っていた。「バースト・ショット」!」
俺の機体には、銃が装着されている。
それを使った三連射で、飛燕で体勢が崩れた結城を狙う。
「っと!「 連飛燕」!」
……驚いた。
飛燕を「切り返し」で用いることができるようになっていたようだ。
そのため、こちらの銃弾はダーツと同様、無力化されてしまう。
「もう一度、「隼」でとどめ!」
一瞬の隙をついて、結希が突っ込んでくる。
切り返した上で更に体勢を立て直し、そこから連続攻撃につなげてくるとは……やはり剣の技量に関しては、並大抵のものではない。
「こちらこそ、とどめだ! 「スラッシュ・クロー」!」
隼を使うということは、すなわちこちらに向けて近づいてくるということでもある。
ダーツを放った腕とは、反対側に装着されている爪(ワイヤーで飛ばしたもの)を使い、カウンターを狙う。
結果は……相打ちであった。
両方とも「有効な打撃」としてカウントされており、それぞれ「致命傷レベル」と判断されたためだ。
ちなみに、訓練用の武器を機体に使用する場合は、セーフティーがかなり緩和されている。
そうでなければ「訓練」ができないため、ある意味当然の措置であり……更に「致命的な攻撃」は事前にある程度威力が落ちるようになっているため、安全面での配慮は十分になされていると言えるだろう。
「うわ、自信を無くすよ……久郎の機体は確か、偵察機だよね……」
「どちらかというと、高機動汎用型というコンセプトだな。恐らく専用機でも、同じ方向性になると思うぞ」
実際は、こちら側が九死に一生を得るという形で、ギリギリ勝利をおさめたというのが真相ではある。
とはいえ、それを正直に伝えるよりは、悔しさをばねにもっと上を目指してもらったほうがいいため、あえて口にはしない。
「あれとぶつかるのは、勘弁願いたいところだな……」
「まったく。もし当たってしまったら、運がなかったと思おうぜ……」
どうやら、周りのヒーロー候補生の注目を集めていたようだ。
ちなみにそれを前提とした訓練であるため、どちらも「切り札」は使用していない。
「そういえば、最後に「百舌」ではなく「隼」を選んだのはなぜだ?」
俺は一応、結希に聞いてみる。
「「百舌」はあくまでも「点」への攻撃だからね。少し体勢が崩れていたとはいえ、あの状態からならば久郎は避けて、反撃されて終わりだと思ったから」
自分の技の性質をきちんと理解しており、適切な判断ができる。
このことから考えても、頭の出来そのものは悪くないようなのだが……どうもいわゆる「勉強」となると不得手なようで、テストの前にはいつも頭を抱えている。
それに対して教えるのもまた、復習になるので俺自身にとって悪くはないのだが。
「さて、そろそろ帰ろう。一戦だけとはいえ、かなり神経を使ったからな」
「うう……勝てなかったのは悔しいけれども、仕方ないね」
俺たちは明日に備え、今日は早めに帰ることにした。
しっかり体を動かしたので、恐らく夕食はとても美味しく食べられるだろう。
「「フェイズシフト!」」
二人の掛け声とともに、機体が整備工場に送還される。
召喚と同じく、帰還させるのもこの合図がキーワードとして設定されているのだ。
ちなみに、この機体に乗っている状態を解除することを「除装」と呼ぶ。
帰還させた機体は、基本的にはそのままメンテナンスに移行する。
そのため連続して使用する場合は、事前に整備工場に対して申告する必要がある。
当然時間がとれないため、簡易な整備しか行えない状況になることも想定されるが……そのまま戦うか、あるいは少しでもましな状態で戦うかの判断もまた、ヒーローに求められる能力の一つである。
「うわ、美少女! あんなに美人なのに、剣の腕前まで……」
「むしろぶつかりたくなってきた。彼女に負けるのならば、本望というものだ!」
……注目を集めていたのが災いして、思いっきり結希が目立ってしまった。
前にも少し触れたが、結希の「女顔」はシャレにならないレベルであり、外出時にはワックスなどを使って髪の毛を尖らせて、ようやく「男の子っぽい」のレベルにすることができるという有様なのだ。
汗を流した結果、固めていた髪が崩れてしまい、サラサラのショートヘアがむき出しになってしまっている。
華奢な体格、顔立ち、更には金髪と揃っているため……男だと分かっている俺ですら、たまにドキッとさせられることがあるほどなのだ。
当然周りの受けた衝撃が大きかっただろうことも、容易に想像できる。
「うう……毎日牛乳を飲んでいるのに。カルシウムもサプリで補っているのに……」
結希がぼやく。
あまりにも間違われすぎているので、このくらいで怒り出すようなことはないようだ。
「とりあえず、家に急ぐぞ。このままだとナンパされかねないからな」
「同感。急いで帰ろう!」
とはいえ、このままだと「地雷」を踏み抜く馬鹿が出て……下手をするとトラブルになり、明日の試験を受けられないという最悪の事態にもなりかねない。
俺たちは周りが行動を起こす前に、急いで家に向かうことにした。
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