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序章 第1話 3月5日 朝の風景

ここからが本編です。

「……嫌な夢を見た」


 俺はよく、悪夢を見る。

 それも自分が死ぬという悪夢だ。

 死ぬまでの経緯はさまざまであり、戦いの中死ぬこともあれば、ネクタイで首を吊る、高い所から飛び降りるなど、一般的に「自殺」と呼ばれるような方法であることもある。

 恐らく自分の中にいる、もう一人の存在が影響しているのだろう。


 説明が遅れがこと、申し訳ない。

 俺の名前は「久郎(くろう)」。

 正確には「神崎(かんざき)久郎(くろう)」という。


 俺にはいくつか、「普通」の人と異なるところがある。


 俺の最初の記憶は、神崎夫妻により「装置」から出してもらったところから始まっている。

 恐らく「人工胎盤」であろう装置の中では、まだ胎児であったにもかかわらず、そのころから記憶の連続性が保たれているのだ。

 そのため他の子供よりもかなり成長が早く、いわゆる「天才」型であると周りからは見られている。


 装置から出してくれた男女こそ、俺の両親と呼ぶべき存在であろう。

 俺が装置から出される前から、夫婦として生活しており、俺を養子として育ててくれた恩人である。

 この二人に対する感謝の念は、尽きることがない。


 少し説明が遅れたが、俺の中に「もう一人の人格」が存在している。

 そいつはそこそこ長く生きたらしく、ある程度の知識や経験を有しており、尋ねればすぐに答えてくれるというありがたい存在だ。

 とはいえ、ただ有利なだけではなく……そいつ自身の経験やトラウマに引きずられることもあるため、一概に良いとばかりは言えないのも事実だ。

 そいつの経験、及び得た知識などの多さもあり、自分自身「子供っぽくない」ことは自覚している。


 ちなみに、そいつは「フジ市」というところに住んでいたらしい。

 現在俺たちが住んでいるところも「フジ市」であるが、かなり異なる部分が多いようだ。

 そいつがいた世界には「バグ」は存在していなかったので、違いが生じるのは当たり前なのだろうが。


 そいつはどうやら向こうの世界で亡くなり、こちらの世界に来たようである。

 死ぬ間際の記憶はないということであるが、たまに死んだ「後」の記憶が流れ込んでくることがあるらしく、恐らく「死んだ世界線」と、「生きている世界線」に分岐しているのではないかと思われる。


 なお、今までずっと「そいつ」で通しているのは、頑ななまでに自分の名前を明らかにしないからだ。

 元の名前が相当嫌だったようであり、そのため新しい名前を求めている節がある。

 ただ、それをやってしまうともう、そいつは元の世界とは切り離されてしまうのではないかという懸念から、あえて名前を付けない状態が続いているのだ。


 今日は「ヒーロー試験」の前日である。

 この試験により正式なヒーローとして認定され、更にこれからを過ごす学校も決まるため、相当重要な試験だ。


 なお、大前提としてであるが……この世界には「ヒーロー」と呼ばれる者たちが存在している。

 このヒーローたちによって、辛うじてこの世界は滅びを免れているというのが現状だ。

 なぜならば、ヒーローたちが戦う「バグ」に対して有効な攻撃ができるのは、ヒーローだけだからである。


 バグと呼ばれる敵性生命体は、2000年代初頭に観測されるようになった。

 人間に対し極めて敵対的な存在であり、特に当初は有効な攻撃手段の確立がなされていなかったことから、世界全体の人口で、およそ3割が失われるという悲惨な状況に陥ったのである。


 名前の通り、虫のような外観をしているその生命体は、ヒーロー以外の人間が攻撃したとしても、ほとんどダメージを与えられないという特徴を有している。

 しかも、ヒーローだからと言ってすべての攻撃が有効というわけではなく、その者の特性に合った武器によらなければ、効果がないというのが更に厄介なところだ。



 そのためもし、一般人がバグを倒そうと思った場合、とれる方法は二つとなる。

 一つは回復力を上回るような、高い攻撃力を叩き込み続けること。

 もう一つは、一撃で生命を奪い取るような極めて高いダメージを与える事だ。


 前者の方法の場合、アサルトライフルなどが比較的適した武器となる。

 しかし、一体の相手に数秒間の斉射が求められるため、特に群れを成して行動している場合にそれができるかと問われれば、否と言わざるを得ない。


 後者の方法は、ミサイルなどを叩き込むやり方である。

 群れであってもほぼ確実に仕留めることができるが、周囲に与える被害の大きさ、また万が一生き残った個体が存在した場合のことを考えると、この方法も現実的とは言い難い。

 そのため、通常兵器でバグと戦うということは「非現実的」であるとされている。


 この人類全体に対する脅威に対し、対抗するための手段が喫緊(きっきん)に模索された。

 その中で有効であると判断されたのが、「ヒーロー」と呼ばれる特殊な者たちである。

 この者たちが行う攻撃は、バグの再生能力を相殺することができるという特性があるのだ。


 もっとも、ヒーローがバグの再生能力を相殺できる範囲には限りがあり、しかもヒーロー自身が行う攻撃でなければ、基本的にはその効果を得ることができない。

 そのためただ「ミサイルのスイッチを押させる」だけでは、意味がないのだ。

 それでもヒーローの力によって、人類はようやく「現実的な対抗手段」を得ることができたのである。


 更に研究は進み、「ヒーロー」の力をあらかじめ内包することで、一般人が使用してもある程度まで耐えることができる「結界」なども開発された。

 しかし、それまでに失われた人口は、世界の全人口の1割以上である。

 二回の世界大戦以上に悲惨な出来事であり、今なお世界中がその影響に苦しめられているのが、今の世の中なのだ。


 そして「ヒーロー」の特性から、戦闘訓練の必要性が強く求められた。

 そのため学校施設に設けられたのが、「ヒーロー科」というものである。


「ヒーロー科」といっても、さまざまなレベルが存在している。

 この辺りは「あいつ」のいた世界の高校受験と同じようなシステムがとられており、上位の者から高レベルな学校に通うことができるようになっている。

 まあ、「ヒーロー」に求められるのは戦闘能力であるため、学科と実技の両方を行うことになる点は、違いと言えるだろうが。


 その学科と実技の試験を合わせたものが「ヒーロー試験」である。

 試験を受け、高校に入った時点で正規の「ヒーロー」として扱われ、それ以前の段階では「ヒーロー候補生」という形になり、汎用(はんよう)の機体で訓練することになるという、大きな違いが存在しているのだ。


 ちなみに、学科と実技は別の日に行われ、また実技は数日に分けて行われることもある。

 多くのヒーロー候補生が存在しているため、どうしても一日で終わらせるというわけにはいかないようだ。

 既に学科試験は終わっており、明日は実技の試験ということになる。


 ところで、育成施設は一か所にまとめたほうが効率的ではないかと、疑問を感じた者もいるだろう。


 確かに、昔はそのシステムを採用していた。

 しかしある年、大規模なバグの襲撃を受けたヒーロー育成学校がほぼ全滅に近い状況に陥り、その年のヒーロー登録者数が激減したという事態が発生したのだ。

 結果としてリスク分散、及び緊急出動の際の即応性(消防が分団規模になっているように)を考慮して、このような形になったらしい。


 その中でも、ここ「シズオカ」にある「シズオカ中央高校」はトップクラスの設備を有しており、また卒業生たちのレベルも高く、一線で活躍しているということもあって人気を集めている。

 今回シズオカ地区の試験会場として選ばれたのがこの学校で、ヒーロー科に進む生徒全員がこの高校で実技試験を行い、その成績によってどの学校に配属されるかが決まることとなる。


 当然俺たち二人が目指しているのも、この学校に所属することだ。

 結希は「ヒーロー」になることで、より多くの人を救えるようになることを目指しているらしい。

 それに引き換え、俺が「ヒーロー」になろうと思っている理由は、あまり誇れるものではないのだが……。


 とりあえず、伸びをしてから部屋を出て、1階に向かう。

 この家は2階建てで、1階にリビングと両親の部屋(+仕事用の部屋とトレーニングルーム)、2階に俺と結希の部屋、物置代わりの空き部屋が2つという構成になっている。

 かなり広めの作りになっているのだが……両親の仕事を考えれば、もっと豪邸であってもおかしくないと個人的には感じている。

 そして、物置代わりの部屋のうち1つは近いうちに、「俺専用の仕事部屋」になる予定だ。


「おはよう、久郎……顔色が悪いね。いつもの嫌な夢?」


階段を降りると、洗面所の方からショートヘアの金髪美少女が歩いてきて、俺に質問を投げかけた。


 彼女……もとい、彼の名は「結希(ゆうき)」。

 先ほど紹介した俺の「相棒」、あるいは「弟」だ。


 彼もまた「神崎夫妻」に救われた一人だ。

 家族をバグによって失い、必死に抵抗していたところを保護され、そのまま我が家で育てられることになった。

 本来は施設に入れる予定だったらしいのだが、非常に高いヒーローの素質を活かすために、両親がその手で育てることを決意したらしい。


 ちなみにこの世界では、養子であっても希望する者は「以前の姓」を称することが認められており、そのため俺とは氏が異なっている。

 バグによる多くの孤児発生に伴う児童施設の飽和状態を解消するため、少しでも養子縁組を進めるための政策であり、「あいつ」もかなり興味を示していた。

 あいつのいた世界では、養子は養親の氏を称するという規定になっていたらしい。


 ちなみに、結希の顔についての話題は「避けるべき事項」である。

 本人が一番、女顔であることを気にしているからであり、実際にさまざまなトラブルに見舞われたこともあるからだ。


 閑話休題。


「ああ。ここ最近は、収まっていたのだが……」


 俺はいつも通り、結希に対して答える。

 このやり取りももう、何度もしているので慣れたものだ。


「二人とも、ご飯ができたわよ~。早く準備して、リビングに来てちょうだい~。」


 母の声が聞こえる。

 リビングに向かう結希を横目に、俺は急いでお手洗いや洗面を済ませ、そちらに向かった。


 テーブルの上には、いかにも美味しそうな朝食が並んでいた。

 トースト、サラダ、ベーコンエッグ……まさに「洋風の朝食」そのものだ。


「おはよう、久郎。結希はもう座って、あなたを待っているわよ」


 目の前の青髪の美女が、こちらに向かって微笑みを浮かべた。


 彼女の名は「神崎ミフユ」。

 俺にとっての「母」だ。

 既に30代後半のはずなのだが、見た目は20代にしか見えないという特性があり……もしかしたら「ヒーロー因子」が影響しているのかもしれない。


 ちなみに、この世界が「あいつ」のいた世界と大きく異なっている点の一つとして、髪の毛の色が挙げられる。

 まるでアニメの世界から出てきたような、さまざまな髪の色が実際に存在しているのだ。

 遺伝子自体にも違いがあるのだろうし、もしかしたら適用される法則そのものが違っている(メンデルの法則が作用していない)のではないかというのが、あいつの考えである。


「父は既に、仕事に行ったのか?」


 恐らくそうだろうな、と思いつつも、俺は質問する。


「そうよ~。あ、きちんと朝のキスは済ませたから」


 ……この歳で、それは少しキツイのでは……?


「あれ? 何か変なことを考えている?」


 ……鋭い。これ以上は止めておくことにする。

 怒らせたミフユの怖さは、嫌というほど経験しているからな……。

 急いでテーブルにつき、手を合わせる。


「それでは、いただきます!」


 三人の声が揃って、朝食が始まった。


 相変わらず、喫茶店のモーニングと比較してもそん色ないレベルの完成度だ。

 下手をすると、料理だけで十分家計を賄えるほどの腕前なのでは? と思うこともしばしばである。


「次のニュースです。大規模な汚職が疑われる本事件において、自殺した職員が職務規定に違反していたという事実が判明しました。そのことから、今回の告発は逆恨みによる根拠のないものであると、熊坂(くまさか)首相はコメントしております」


 ……嫌なニュースがテレビから聞こえ、せっかくの美味しい食事が台無しになった。

(この世界ではネットが主流になっているが、こちらでの「ラジオ」のような感覚でテレビを利用している者も多い)


 現在の首相は「熊坂(くまさか)喜久雄(きくお)」という人物であるが……とにかく黒いうわさが絶えない者である。

 普通であればこんな人間が首相になることは、想定できないのだが……裏社会や宗教とのつながりを存分に振るい、事件が起きてももみ消していると噂されている。

 しかもなぜか、トウキョウでは圧倒的な支持を受けており、下手をすると行政や司法まで忖度(そんたく)することがあるというのだから……現在のニホンがかなり酷い状態になっているのは、間違いないであろう。

 そのためトウキョウから本社などを移転する動きも加速しており、その受け皿となっているのがこのシズオカ、という側面がある。


「ごちそうさま。食器は乾燥機に入れておくから」


 朝食を終え、俺は立ち上がる。

 朝一でゲームのログインボーナスを確保した後に、家の近くにある「ヨネノミヤ神社」というころに合格祈願に行く予定だ。

 まあ、俺自身はあまり神とは縁がないと思っている(加えて「あいつ」は神社に行くたびに、悲惨な目にあってきたらしい)のだが、結希が行きたいと強く主張していたため、ついでという感じである。


 部屋に戻り、パソコンを立ち上げる。

 技術の進歩により、パソコンも非常に高性能、かつ小型化されているのは事実であるが、やはり家庭用でもっとも性能が高いパソコンが「据え置き型」であることは、変わっていない。


 俺がプレイしているのは、ファンタジー系のゲーム「ブレイブ&ウィッシュ」だ。

 少し前までは、FPSを中心にいくつかプレイしていたのだが……十分「非現実的なシチュエーションでの戦闘訓練」を行うことができたため、そちらは卒業している。


 ちなみにファンタジーではあるものの、自分が選んだ職は「ガンナー」であり、基本的に遠距離攻撃を中心とした戦い方となっている。

 一般的には「スキルツリーの限界が低めで、成長要素が少ないハズレ職」扱いされているのだが……個人的には意外と汎用性があり、FPSの経験を活かすこともできるため、使いやすい職業だと感じている。

 とりあえず、メンバーで楽しむのは夜になるため、この時点ではログインボーナスの確保と自動巡回の設定だけ済ませておくことにした。


 いつもの日課を終え、よそ行きの服に着替える。

 3月とはいえ少し肌寒いため、黒いハーフコートと防風タイプのスラックスを着用し、準備が整ったことを結希に告げた。


「こちらも、大丈夫だよ~!いつでも行けるから!」


 部屋から結希が顔を出す。

 よそ行き用の、ワックスで髪の毛を尖らせたスタイルだ。

 これをすることで辛うじて、「男の子」として認識されるというところが、結希らしいというかなんというか……。


「それでは、行ってきます。お昼を少し過ぎるかもしれないので、昼食は自分で用意します」


 結希が母に声をかけ、俺たちはよねのみや神社に向かうことにした。

序章までは、連日投稿します。

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