間章その1 第5話 3月16日 観測者
サブタイトルを追加しました。
意味は、次の更新の際に語られることになる予定です。
「さて、と。話し込んでしまったわね。具材が来ているのに調理しないのは、お店に悪いし……今から焼きはじめましょう!」
舞の言葉に従い、具を混ぜていく。
そろそろお腹が空いてきて、きつい状況であったのも事実だ。
「そして、「コールスピリット:ダビ」!」
舞の言葉とともに、俺の横に一人の男性が現れた。
その男は……一言でいえば「凶顔」であった。
まるで世の中のすべてに対し、激しい怒りを感じているような三白眼をしており、眉間には刻まれたしわが常に表れている。
白目には赤い血管が浮き上がっており、見るからに「近づくな危険」という印象を与えるものであった。
歳はおそらく、両親よりもかなり上であろう。
「はじめまして。これであなたは、単なる傍観者ではいられないわよ。あなたもこの物語の人物の一人として、きっちり働いてもらうから」
「だから、嫌だったんだ……名前は呪術につながる。絶対にこうなるだろうと思っていたからな」
見るからに、不機嫌そうな顔をしているのだが……この声、そして自分との「繋がり」を、確かに感じる。
「「あいつ」って、こんな顔をしていたんだね。知らなかったよ!」
結希が驚きの声を上げるが、俺も同様だ。
まさか、直接「あいつ」を引きずりだし、対話することができる状態になるとは思いもしなかったため、かなり動揺している。
心の中に呼びかけても、「あいつ」の声は帰ってこない。
「一応、礼儀としてあいさつは行う。初めまして、俺……では被るか。私はダビ。久郎の中に間借りしていた幽霊だ。ちなみに一番苦手なタイプは、舞のように陽気でグイグイ来る者だな。陰の世界に属している私にとって、まぶしくて仕方がない」
かなり、今回の暴挙に対して怒りを覚えているようである。
まあ、元々「消える」ことを望んでいた「あいつ」にとって、今の状況はまさに理想と正反対の状態なのだから、怒るのも当然だろうな、と感じた。
もっとも内心では、結希や舞のような「光側」の存在に憧れており……俺自身がそうであるため、怒りを抱いている相手は、実は舞に対してではないと分かっている。
「まあ、そう怒らないで。ネギ焼を作るけれども、食べる?」
「幽霊がものを食べられるのか? そもそもお供えで、香りだけを楽しむものでは?」
ダビの言葉に、舞は苦笑して答えた。
「香りを食べるのは仏様ね。あなたは幽霊だから、異なる法則が適用されると思うのだけれども?」
「まあ、食べられるというのならば。とはいえ、お助けロボットと同じ作者の、大食漢のお化けのようにはなりたくないのだが……」
どうやら俺の中にいたとき同様、自分に対して最も厳しい視線を向ける性格らしい。
基本的に、限界まで自分の欲求を外に出そうとせず、ひたすら俺に対してプラスになるよう働きかけてきていたのだ。
ダビは「久郎が立派になることこそが、最大の喜びであり報酬である」と常々口にしており、実際彼の未練も、元いた世界で何も残すことができなかったことに起因しているらしいのだ。
聖人になりきれなくて苦しむ者、それが、俺のダビに対して抱いている印象である。
とりあえず、目の前の鉄板に集中することにする。
結希もお腹が空いてしまったようで、かなり辛そうな顔をしているようだし……。
「よし、できたぞ。とりあえず結城が半分、俺が4分の1で……ダビ、食べるか?」
「試してみよう。何ができて、何ができないのかを知っておくことが必要だからな」
いかにも「らしい」言葉に、思わず少しにやけてしまう。
俺自身、ダビに引っ張られて性格形成がなされたという側面があり……実は好奇心旺盛で、知りたがりであることも分かっているのだ。
見た目は悪霊そのものであるが、俺の中にいたとき同様、仕草は意外にも可愛らしい……というか「幼げ」に見える。
「ああ、この味だ。もう二十年以上食べていないのだが、覚えているものだな」
どうやら「ものを食べる」ことは、可能なようである。
また、この店でネギ焼を食べたことがあるという事も、同時に判明した。
ちなみに隣では、結希がむさぼるように焼いては食べており、加えて舞は食べながらもメモを取っているという、非常にカオスな空間が展開されていた。
俺も、目の前のネギ焼を食べてみる。
ネギ焼という名前から、ネギの辛みが心配されたのであるが、杞憂であった。
香ばしく、普通のお好み焼きよりもシンプルな味で、俺の好みに合いそうだ。
ちなみにミックスも食べてみたが、こちらも美味しく、舞の舌の確かさを感じさせられる。
全員が食べ終わり、タコ焼き(舞が大喜びしていた)、海鮮焼き(こちらは結希の好みに合ったようだ)を食べ終わったところで、舞が真顔になる。
「さて、と……ここから先は、かなり重要な話になるわ。悪いけれども、逃がさない。この本題のために、今回協力したのだから」
雰囲気が一気に、緊張したものに変わる。
一体何を、話すのだろうか……?
「ちなみに、ダビにも聞いてほしいわね。あなたの存在が、もしかしたらカギになるかもしれないから」
「それで、わざわざ命名したのか。確かに話し合うのに、久郎を通してではやりにくいだろうからな」
「そういうこと。結構頭の回転、良いじゃない」
どうやら「あいつ」の存在は、ずっと前からバレていたようだ。
それだけに、どんなことを舞が告げるのか……かなり、恐ろしい。
結希の顔も、緊張を感じさせるものに変わっている。
「私の場合、並列思考が可能だというのは先ほど述べたわよね。実はその応用で、いくつかの世界を観測しているの」
「つまり、並行世界の存在には既に気づいていたという事か。私にも聞かせたいという事は、もしかして私が知っている世界の可能性もある、という事か?」
年の功もあり、すぐにダビは彼女の話す内容を予測できたようだ。
まあ、俺もその可能性は当然、予測済みであるが。
キョトンとしているのは、結希だけである。
「今のところ、観測している世界は三つね」
舞によると、一つ目の世界は「バグがいない」世界のようだ。
だからといって平和というわけではなく、世界の各地で内戦や侵略などが行われており、またニホンも経済格差が酷くなっていて、極めてまずい状態に陥っているらしい。
「その世界だと、ホンチョウ通りはどうなっている?」
「辛うじて、アーケードの塗り替えはされているけれども……ほぼシャッター街ね。地方都市では珍しくもない光景よ」
これは、俺たちがいる「この」世界とは大きく異なる点だ。
舞の話によると、首都としての機能を有しているのはトウキョウのままであり、精神支配も行われていない。
対してシズオカは、衰退及び人口流出が著しい状態に陥っているとのことである。
「少なくとも、話を聞く限りでは私のいた世界に極めて近い環境だな」
ダビが答える。
ちなみに俺たちが服を作ってもらった「N&S」は、業務用スーパーになっているらしい。
ダビの知識では、インターネットカフェであるらしいので、多少の差はあるようだ。
あるいは、ダビの認識している時間よりも少しだけ後の世界、という事なのかもしれない。
「多分、この世界に関してはダビの方が詳しいと思うから、疑問ができたら聞かせてちょうだい。私だけだと、分からないこともあると思うから」
「正解になるかは分からないが、元いた世界との類似性から、近い答えは出せると思う。それでよければ」
一つ目の世界については、こうしてあっさり意見がまとまった。
「あ、悪いけれども、その時は久郎を借りるから。ダビには、完全に独立行動できるほどの力はないみたいだし」
これは、仕方がないだろう。
まあ、傍目ではまだ「破綻していない」ようなので、それほど機会が多いとも思えないのが救いである。
「次の世界なのだけれども……結希、怒らないで聞いてちょうだい」
「え!? 急に僕?」
これは、何やらとんでもないことになっているような予感が……。
「次の世界では、結希は戦艦に乗って戦っているの。ただ、今の結希よりもずっと若くて、しかも完全に女の子。剣が得意な結希が、指揮官をやるとは思えないし……不思議なのよね」
それは、確かに奇妙な話だ。
俺から見ても、結希は完全に「前線」タイプであり、戦艦のような「後方支援」は不向きだと断言できる。
「怒らないけれども……どうしてそんなことに? もしかしたらそれ、僕じゃあないかもしれないよ?」
「確かに、その可能性はあるわね。結希に似た別の少女。そう捉えたほうが、良いかもしれない。これについては保留という事で」
それよりも、その後に告げられたことの方が衝撃的であった。
戦艦に乗って戦っている相手は、「機体」と「バグ」の混合編成であるというのだ。
「バグと共闘?! そんなの、聞いたことがないよ!」
結希の言葉通り、バグはあくまでも「人類の敵」であり、普通に考えれば「共闘」という事はあり得ない。
「あら? 久郎の方は、何か思い当たる節があるようだけれども?」
……舞のこの俯瞰的な視点は、並列思考のもたらす技だろうか?
確かに、いくつかの可能性が考えられる。
「まず一つ目に、バグを利用している。バグを人為的に発生させるための条件に関しては、俺が論文を出したことから分かっていると思うが……いわゆる「敵をなすり付ける」という方式だな」
これについては、実際に「おこなったことがある」。
その結果として、トウキョウの全国大会において、結希と二人とも生きて帰ることができたのだ。
ちなみにその行動は、しっかり「悪」として認識されたらしく、タコの足が3本一気に青く染まり、相当焦らされたものだ。
「次に、バグを「支配」している。混合編成という言葉から推測すると、こちらの方の可能性が高いと思うのだが?」
「そうね。実際、連携して動いているように見えたから」
その世界では、バグを支配できる者たちと、そうでない者たちが戦っているという事になる。
その状況だと、多分俺たちは「そうでない者」の方に分類されるだろう。
恐らく戦艦は、こちら側の切り札に近い扱いではないだろうか、と思った。
「やっぱり、一人で考えるよりも話し合う方が理解は進むわね。この世界に関しては、まだあまり深入りしていないので、こんなところかしら」
そして、舞はふぅっ、と息を吐いた。
どうやら、ここからが「本番」らしい。
「そして、最後の世界は……「死んだ世界」ね。草木もほとんど残っていない、荒涼たる砂だらけの世界。植物も、観測した範囲では菌類すら存在していない、本当の意味で終わった世界」
並行世界を観測しているのだから、当然そういう世界も存在しているだろう。
一歩間違えれば、最初の世界もそうなりかねない危険を孕んでいるのであるのだから。
「違うのよ。その世界に一つだけ残っていた人工衛星から、情報を得ることができたのだけれども……その世界を観測した日時は、X5年5月5日。そして、川や道路などの跡地から得られる情報を総合すると、どう考えても「この世界、最低でもこの地球」の未来としか思えないものだったの」
全員、顔色が変わる。
並行世界のことであり、今までは「他人事」だと思っていたのだが……比較的近い未来に、この世界が「そうなる」とするならば、まさに「当事者」でしかない。
「それ、何かの間違いではないの?!」
結希の叫びは、ある意味当然のことだろう。
魔道具を使っていて良かったと、心から思った。
「残念ながら、事実よ。加えて、もっと悪い情報もあるの……逃げられないのだから、せめて覚悟を決めることだけはさせてあげないと、と思って話しているのだけれども、もし聞きたくないというのなら、ここで止めるわよ」
さすがにこの状況で、やめるという選択肢はあり得ない。
俺たち「3人」は、続きを促すことにした。
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