間章その1 第3話 3月16日 舞の思惑
現実逃避もありますが、一定の裏設定などは早めに明らかにしておきたいと感じたため、更新いたします。
「ミフユさん、お久しぶりです。もう領域を解いても大丈夫ですよ」
舞が、ミフユに語り掛ける。
それに応じて、アスガルドが解除されていくのを感じた。
「こちらも、ご無沙汰しております。これから息子たちがお世話になりますので、しっかり導いてあげてください」
舞がフジ中央高校の教師であることは、号外でも記載されていたことからすぐに分かったようだ。
とはいえ、交流があったという話は聞いたことが無かったため、質問してみると……二人はかなり仲の良い間柄であり、魔法の共同研究も行っているとのことである。
「世の中って、広いようで狭いのだね……」
結希が漏らした言葉は、奇しくも俺の感想と見事に一致していた。
「さてと。久郎、あの時の手紙に同封されていたカードは、今持っている?」
舞の言葉に応じて、俺は財布の中から一枚のカードを取り出した。
そこにはタコのイラストが描かれており、足の3本は青く、2本は赤く染まっている。
このカードこそが、契約の証だ。
手紙に書かれていた言葉は「タコの手を借りたい?」だけであった。
そして、同封されていたのがこのカードである。
実は、前々から噂で聞いていた都市伝説がある。
この言葉と、カードだけが入った手紙が「自分の力ではどうしようもない窮地に陥った者」に届けられるというものだ。
ちなみに「借りたい」と答えることで、その者が抱えていた問題が解決される。
その代償として、善行を行うことを求められるという続きがあるのだ。
善行を行っているかどうかは、カードに表示されるようになっており、タコの足が赤く染まったときは善行を、逆に青く染まった時は悪行を示しているらしい。
そして、8本の足すべてが染まったときに、赤く染まっていた足が多い場合はそのままカードが消滅する。
しかし、青く染まっていた足が多い場合は「ゴメンダコ」と呼ばれる謎の存在によって、「ひどい目にあう」というところまでが一つの話となっている。
ただ、ちょうど4本ずつになったときにどうなるのかは、なぜか語られていない。
恐らく何者かの判断を経た結果として、どちら側になるのかが決まるのではないかと推測している。
かなり多くの人に広まっていることから、あえてこの都市伝説を流行させている人、あるいは組織の存在は、あるだろうと思っていたのだが……。
それを考慮すると、俺はかなりまずい状態であったことが分かるだろう。
巨大バグとの戦闘に躊躇なく向かったのも、これ以上青く染めることは、致命的な状況になるという打算があったことは否定できない。
「うん、今回は完璧。死傷者ゼロ、こちら側の損害もゼロ、巻き込まれた被害者ゼロ……パーフェクトな勝利だから、ご褒美をあげる」
そのまま舞が、懐からスタンプを取り出す。
カードに押すと、それに応じて足が赤く染まっていった。
……スタンプのデザインは、髪の毛がタコの足になっている舞の顔という、非常にシュールなものであり、どこからツッコんだらいいのか分からないのだが……。
まるでメドゥーサのような代物であるが、デフォルメされ、むしろコミカルな感じになっているのが、せめてもの救いである。
3回押されたため、タコの足は赤が5つ、青が3つとなった。
そして空中に溶けていくようにカードが消え、これで「契約は無事に終了した」という事がはっきり分かる。
今までの行動から判断すると、このカードの作成、及び手助けをしていた人物が舞であることは、ほぼ確定であろう。
「済まない、一つ疑問なのだが……なぜ、タコの形で善悪を表しているのだ?」
日本ではともかく、他の国では「デビルフィッシュ」と呼ばれ、忌避される生き物である。
そのため、選んだのには何かしらの理由があるのだろうと思って聞いてみたのだが……。
「簡単なことよ。私、タコが大好きなの!」
……しょうもない理由が帰ってきた。
これは、冗談なのだろうか……?
「生き物としても、研究していて面白いし……何より一番の好物なの。あのプリッとした食感が、たまらないのよね~!」
どうやら、ガチらしい。
研究も行っているという事は、茹で上がったあの状態だけでなく、生きて動いているグロテスクな状態も目にしているはずだ。
その上でなお「好き」だと断言するのだから……かなりマニアックである。
その時、足元の前主任がもごもご、とうごめきだした。
何やら文句を言いたいような感じであり、更に可能であれば逃走しようとしているようであるが……。
「ごめんなさい。私、肉よりも魚の方が好きなの」
冷たい目で一瞥した舞が、冷気系の魔法を放つ。
体の表面が氷で覆われ、完全に身動きが取れない状態になった。
ワイヤーが絡まっているところは、凍傷に陥るかもしれないが……自業自得としか思えない。
「舞様、まずは卒業式を終わらせましょう。……一同、起立! 礼! そのまま卒業生退場!」
巌生徒指導主任の声に従って、卒業生が退場していく。
「それじゃあ、後でね。あなたたちに聞きたいこともあるから、逃げないでね?」
足元の冷凍品を見てから、こちらに笑顔で舞が告げる。
これは「逃げたらこうなる」という、脅しではないだろうか……。
まあ、こちらとしても話し足りないと思っていたため、渡りに船ではあるが。
その後在校生も退場し、ようやく波乱含みの卒業式は終了した。
「私の方は、仕事があるから。後でどんな話をしたのか、教えてちょうだい」
ミフユも去っていき、俺たちだけが残されることになった。
ちなみに、校長、前主任、結希の相手は共通の制服を着た者たちによって身柄を確保され、既にこの場から消えている。
警察官では無さそうであり、そこがむしろ不気味さと怖さを感じさせる。
もしかしたら、冬花家の「暗部」ではなかろうか?
どうしようと思っていたところに、舞がやってきた。
「さて、と。もう分かっている部分も一応、答え合わせをしておく?」
俺たちは頷いた。
結希も、俺がこのような「契約」を結んでいたことは知らなかったようで、何から質問しようかという目を向けている。
「まず聞きたいことだが……校長が組合と繋がっていることは、ある程度予測済みだったのだろう?」
俺の問いかけに、舞はまじめな顔になって頷く。
もっとも、すぐにその表情は笑いをこらえるものへと変化した。
「まあ、あんなことがあったらね……カツラ掲揚の動画、思わず爆笑させられたから」
校長が俺に対し、決定的な敵意を抱いたのが、体育祭の時に起きたこの事件である。
元々カツラを使用しているという疑惑はあったのだが、それを元に頭の薄い教師に対し、マウントを取るような行動がみられ、極めて不快感を抱いていたのだ。
そこで、俺が体育祭の時に行ったいたずらがこれである。
国旗のロープに、密かに極細のワイヤーを固定し、それで校長のカツラを吊り上げるようにしておいたのだ。
国歌に合わせてカツラが昇っていくその姿は、教師を含むほとんどの者の腹筋に大ダメージを与え、当然のように動画として配信されることとなった。
シュールかつ笑えるその動画は、瞬く間に広がっていき……同世代の者で知らない人は、存在しないのではないかと思うほどの再生数を記録することとなった。
また、「旗」を「カツラ」に置き換えた替え歌なども大量に生まれ、一種のネットミームと化すほどの状況になり、むしろ怖さを覚えたほどだ。
当然海外にも広がり、一部の国はそれを利用し、日本自体を貶めるような言動を行ったのであるが……結果として自ら墓穴を掘ることになったのは、言うまでもない。
「あれは、僕も笑うと共に同情したよ……組合と繋がってでも、反撃したいという気持ちになっても、仕方ないと思うよ」
結希は素直に、思いを口に出した。
この真っすぐな考え方は、俺とは正反対であり……正直、うらやましいと思うこともしばしばである。
「次だが……このカード、都市伝説になるほど普及しているようだが、なぜこんな面倒なやり方をしているのか、それが知りたい」
「あ、それは僕も思った。普通に手助けする方が、絶対に楽だと思うし」
俺が実際にカードを持っているとは、結希は知らなかったようである。
しかし、都市伝説としては聞いたことがあるようで、質問が重なることになった。
「う~ん……お助けロボットのアニメは、見たことがある?」
「ああ。日本人でそれを知らない人は、ほぼいないだろうからな」
「あいつ」の世界とこちらの世界では、異なる部分も多数あるのだが、共通している部分も多い。
その一つに「お助けロボット」のアニメがあり、恐らくこの会話を見た者は、すぐに作品名まで思い出すであろう。
「それって、結局依存されることになるのよね。だから、助けるのは一回だけ。そして、その後にどんな行動をとるのかをチェックすることで、手助けしたことが正解だったのか、それとも誤りであったのかを判断していたの。手助けすることがいいのか悪いのか、統計的に知っておきたかったから」
迂遠な形で行っていた理由が、ある程度納得できた。
ちなみにそのアニメでは、主人公はロボットに依存しており、無理難題であっても結局そのロボットは仕方ないと迎合して、状況にあったアイテムを手渡している。
結果として、主人公の成長が阻害されているという説もあり、恐らくそのあたりの見極めを舞はしたいと考えたのであろう。
「もう一つ。こちらの方は夢物語に近い目的なのだけれども……たとえ強制されるような形であったとしても、助けられた者が他の者を助ける。そういう繋がりが網のようになれば、もう少し生きやすい世の中になると思わない?」
こちらも、ある程度納得できる理由であった。
社会というものは、一人でできることに限界があるからこそ、集団になることでより大きなことをできるようになる、あるいは安全を確保できるようになるというところが始まりである。
そこにはいくつもの思惑が入れ混じっており、結果として犯罪を行う者、そこまではいかないものの、他人の権利にただ乗りするものなどが一定数発生してしまうのは、どうにもならないことだと一般的には捉えられている。
そこに、舞は新しいルールに沿ったグループを組み込むことによって、少しでもましになるような方向性を与えたいという思いを抱いたようだ。
具体的に「悪行を行うことで、ペナルティが発生する」というルールを設け、強制的に執行することで、悪行を行いにくくする。
更に「善行を行うことで、負債が消滅する」というルールを加えることで、内心は別としても外部には「善行を行う」という効果が発生する、というシステムは確かに、単に道徳に委ねるよりは実効性が担保されているかもしれない。
「う~ん、そろそろ時間切れになりそうだけれども……もう少し話をしたいわね。昼食の予定は決まっているのかしら?」
舞が俺たちに問いかける。
「今のところは、決まっていないな。適当に外食で済ませるつもりだったが」
「お昼もだけど、夕食も多分ピザかチキンになると思うよ。両親が忙しいのは分かっているから、食べられるだけでもありがたいけれど」
両親ともにヒーローの組織の幹部である以上、どうしても食事の準備などは難しくなる。
そのため、俺や結希も多少は料理が作れるが、こういう「ハレの日」にはそういった少し豪華なものを食べることが多い。
「じゃあ、場所を変えましょう。もうすぐ警察が来て、色々と質問されると思うから。その前に動いた方がいいと思うわよ」
確かに、重要参考人として質問攻めに合う危険性は高い。
後日改めて呼ばれる可能性はあるものの、今日は勘弁してもらいたいところだ。
「鉄板焼きで、美味しいお店を知っているの。そこに行きましょう。あ、心配しなくても今回はこちらのおごりでいいわよ」
こうして、俺たちは舞について行くこととなった。
おごりという事であれば、昼食代として両親からもらったお金は、後で返そうと思う。
意外とこういう部分はきっちりしておきたいのが、俺という人間の特徴の一つだ。
後で、結希にもそのことは伝えようと思いながら、舞の後に続くことにした。
某キャラクターの「タコ」を想像していただければ、おおむねその形で合っています。
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