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間章その1 第2話 3月16日 ダークヒーローの襲来

更新が大変遅くなってしまい、申し訳ございません。

11月中旬に控えている試験が終われば、もう少し執筆にとれる時間が増えると思います。

 なし崩し的に始まった、と述べたが、実際のところは少し異なる。

 ヒーローズネストの構成員からの情報提供により、この連中が仮釈放されたという事は既に知っていたのだ。

 そのため一定の警戒態勢は整えられており、特にこの卒業式は「ねらい目」であろうとヤマを張り、あらかじめいくつかの仕込みはしておいたのだ。


 その一つが、今動き出す。


「ヒーローの風上にも置けないわね。嫌な予感がするけれども……「アスガルド」起動。こちらは維持に集中するから、後は何とかしなさい!」


 まずは、俺たちの母である、ミフユの大魔法が発動する。

 この魔法は非常に高位のものであり、極めて強力であるが、その分維持することが非常に難しいものだ。

 そのため、母の魔力ををもってしてなお、これ一つを維持するのが精一杯となる。

 効果については、後で説明することにして……俺は前生徒指導主任を、結希は剣術大会の相手を担当することになった。


 その時、校長が騒ぎ出した。


「父兄の方々、お静かにおねがいします! あと、勝手なことは謹んでください!」


 状況を考えると、あり得ない言葉だ。

 当然ミフユは無視して、魔法の維持に専念する。

 この状況でこのようなことを言い出すという事は、最悪の予測が現実になったという事であろう。

 襲撃者の中に警備員たちが加わっているところも、その想像が正しいことを裏付けている。


「丸腰、機体無し……思う存分、いたぶることができそうだな!」


 剣術大会の相手(以下「相手」)から、下劣な言葉が聞こえてくる。

 そして、体から赤黒い不気味なオーラが流れ出してきた。


“やっぱり! 既に「ダークヒーロー」になっているみたいだよ!”


 結希の思念が伝わってくる。


 ちなみに「ダークヒーロー」というのは、一般的に「堕ちたヒーロー」という認識をされている。

 人間としての「タガ」が外れた存在であり、極めて危険な者たちだ。


 多くのダークヒーローは、ヒーローの存在意義である「バグとの戦い」を放棄している。

加えて、恨みを持つ相手に力を振るう、あるいは好き勝手な行動に走るなど、ヒーローとは正反対の価値観に従って行動している。

 極めて利己的な存在であり、罪を罪として認識する感覚すら欠如しているというのが、今までの研究から得られた結論だ。


 この状態になること自体が、ある意味「犯罪者である」と自分からアピールしているようなものである。

 そのため刑法上、「ダークヒーロー」に関しては存在が確認された段階で逮捕、拘束の対象とされている。

 一般の刑法上の規定で比較するならば、麻薬を使用したものは、それ自体が処罰の対象となっていることが比較的近い扱いであろう。


 また、裁判でも「通常のヒーローに戻るまで」という、条件付きの不定期刑が科されることになっている。

 ちなみに、今までに「通常のヒーロー」に戻った例は観測されていないため、ほぼ無期懲役と同じ扱いになっているのが現状だ。


 更に厄介なことに、「ダークヒーロー」のまとうオーラは「バグ」の性質に極めて近く、それ故に対処することができるのは「ヒーロー」だけなのだ。

 対バグとは異なる戦い方が要求されるため、ダークヒーロー対策に特化したヒーローが存在するくらいである。


 当然取り扱いには極めて厳重な警戒がなされており、刑務所で勤務し、ダークヒーローを監視することを任務とするヒーローも、一定数存在している。

 万が一脱走を試みられた場合、ヒーローがいない状態では対処ができないからだ。

 通常であれば、政治犯などのような「襲撃によって脱走、あるいは殺害の標的にされやすい存在」と同等レベルの警戒がなされるのが「常識」とされている。


 それを、仮釈放するというのであるから……いかに「トウキョウ」が異常な状態になっているのかが、分かるというものであろう。

 そして「シズオカ」側にもこいつらが侵入できるよう、手引きした者たちがいるはずだ。

 恐らく「組合」の関係者であると推測され、どこまで根を張っているのか分からないのが本当に厄介なところである。


“今は丸腰だけれども……僕には、この能力があることは知らなかったようだね。出でよ!”


 結希が、「ギフト」を発動させる。

 彼の有するギフトは「剣召喚」であり、何もない状態から手の中に「剣」を呼び出すことができる。

 ただ、制約がかなり強めのようであり、現在のところは呼び出すことができる「剣」は子供の頃から使っていた竹刀と、訓練で使っている木刀だけである。

 機体を使用しているときだけ、通常の「剣」を呼び出すことができるのだが、生身の状態では不可能なのだ。

 理由についても、慣れ親しんだ装備だから(真剣は、バグと戦うために機体でしか使わないため)であろうという推測はできるものの、詳細は本人にも分からないようである。


 結果、手の中に現れたのは木刀であった。

 それを見た相手が、愉悦の表情を浮かべながら切りかかる。

 相手の持っている剣は刃のついた「真剣」であるため、通常であれば木刀を叩き切り、そのまま持ち主も切り刻むことができるのであるが……。


“本当に、何も知らなかったようだね!”


 結希の木刀はあっさりと、相手の剣を受け止めた。

 そのまま払うような動きを行うことで、相手の体勢を崩しながら、連続攻撃に移行する。

 心身ともに疲労の限界であった、トウキョウでの試合とは異なり、全力を発揮している結希の力は相手を圧倒する。

 相手もダークヒーローになったことで、力が増しているはずであるが……恐らく早急に決着がつくことになるであろう。


 これこそが、結希のもつ「ギフト」の真骨頂だ。

 呼び出された木刀、及び竹刀は今のところ、戦闘中に折れたところを見た事が無い。

 もちろん、何らかの折る手段は存在しているのだろうが……相手が機体用の巨大なハンマーや斧などで攻撃してきても、折れる気配を感じたことが無いのだ。

 こうなると、下手な真剣よりも遥かに頼りになる武器、という事ができる。


 向こうは大丈夫だろうと判断し、こちら側に集中する。

 前生徒指導主任(以下前主任)の方も、黒ずんだオーラを放っており、一目で「ダークヒーロー」になったことが分かる。


 ちなみに「ヒーロー」の生徒を指導する関係上、生徒指導を行う教師は可能な限り「ヒーロー」であることが求められるのだが、以前対峙した時はここまでの力は感じなかった。

 結希の相手同様、何らかの方法で「嵩上げ」されているのは、間違いなさそうである。


“さて、どう対応するかだが……うん?”


 こちら側で、少し問題が発生した。

 俺の頭の中には、「あいつ」と呼んでいる存在が同居していることは以前述べたとおりである。

 その「あいつ」から、メンテナンスに突入してしまったという言葉が帰ってきたのだ。


 「あいつ」は時々、メンテナンス、あるいは強制アップデートといっても良いような状態に入ることがある。

 基本的にはその後に、いくつかの情報が得られることがあるようだが……情報が有用であるかどうかは別問題であり、もっと厄介なところは、いつメンテナンスモードに入るのかは「あいつ」自身にも分からないという事だ。

 そのことは「あいつ」も理解しており、故に基本的には「俺」にすべての権限や経験を集中させ、頼らなくても大丈夫な状態を保つよう努力しているようだ。

 事実、既に「仕込み」は終わっており、「あいつ」の力を借りなくても何とかなりそうである。


「女、そして結希を好き放題にいじる邪魔でしかない貴様など要らぬ! さっさと退け!」


 ……前主任よ、まさか、結希を狙っているとは思わなかったぞ……。

 緊張が一気に抜けてしまい、あえてそれを狙ったのだとしたら、極めて高度なギャグであるが……恐らく本心をむき出しにしているだけであろう。


“うわあ……最悪。早く拘束して!”


 結希の方から、悲痛な意志が流れ込んでくる。

 ちなみに相手は既に叩きのめされており、頭からの大量の出血で、血だまりができているという状態だ。

 横たわっており、ピクリとも動かない様子は容易に「死体」を想像させられる。


 だが、この攻撃で「命を落とすことはない」。

 それこそがミフユの張った結界「アスカルド」の効果なのだ。

 どれだけのダメージを負ったとしても、確実に生命は維持されるという「領域」を作り出すのであるから、極めて高度な魔法であるという事が分かったのではないだろうか。

 更に補足すると、至近距離での核兵器の爆発のような、複合的な死因を含む状況においてなお、領域を展開している状態である限りにおいては死ぬことが無いという事が、研究の結果分かっている。


“こちらは任せろ! 結希は警備員たちの方を何とかしてくれ!”

 俺は頭の中で、思いっきり結希に向けて叫んだ。


 警備員たちの動きから察すると、どうやら生徒を人質として、こちらを脅そうと考えているようだ。

 例え死ぬことはなかったとしても、逆にそれを利用して「痛めつける」ことは可能であり、下手をすると精神への傷は死んだほうがまし、という事になるかもしれない。

 そのため、結希は焦りながらも警備員たちの方に向かったのだが……いくら戦闘能力に差があるとはいえ、明らかに人手が足りていない状態だ。


「よそ見をしているんじゃねえよ! くたばりやがれ!」


 およそ倫理を有しているとは思えない言葉を吐きながら、前主任が動き出す。


“いや、こちらの行動を全く見ていなかったのは、そちらの方だろう”


 そして、あらかじめ張り巡らされたワイヤーによって縛り上げられ、無様に転がる。

 これだけの時間があったのだから、この程度の罠を仕掛けておくのは造作もないことだ。

 一応口のところにも巻き付くようにして、汚い言葉が出ないように工夫してある。


 卒業式の制服の内側に、ワイヤーを隠し持っていたのだ。

 服を脱がされて調べられていたら、バレていたであろうが……結希ならともかく、普通の男である俺の服を脱がせる趣味はなかったのだろう。

 射出装置も袖にはめていたため、このような複雑な形にすることも、さほど難しい作業ではなかったというわけだ。


“この汚いボンレスハムは無視して、警備員を片っ端から叩く! 少しでも時間を稼ぐぞ!”


 そして、乱戦が始まろうとしたとき……二つ目の仕込みが、目の前に現れた。


「よもやここまで、腐っていたとは……許せぬ。「喝」!」


 その一言で、警備員たちがよろめく。

 直接の対象となった一人に至っては、そのまま吹き飛ばされ、外に消えていったほどだ。


 これが、二つ目の仕込みである「現生徒指導主任」である。

 名前は「永瀬(ながせ)(いわお)」といい、前主任がクビになった後、誰を生徒指導主任にするかで悩んでいた時に「手配された」者だ。


 正直、俺たちは悩んでいた。

 前主任はクビになって当然であり、事実そうなるよう暗躍したのだが……後任者を決めていなかったため、早急に探す必要があったのだ。

 下手をするとまた、ろくでもない者が組合から送り込まれる可能性があり、加えて信頼できる人物であることが必須であったため、非常に難航していたのだが……そんな俺たちのところに、一通の手紙が届いた。

 怪しいと思いつつも、なぜかその手紙を開けることにした俺は……その手紙に従って契約を結び、結果として彼が現れたことで、後任者探しは終了したのだ。

 その契約については、後ほど述べることにする。


 更に、ダメ押しの三つ目の仕込みがやってきた。


「は~い、お待たせ。状況把握……うん。「ダウンバースト」発動!」


 この口調からも分かると思うが……第三の仕込みは、舞先生である。

 あらかじめ事情を説明したところ、卒業式の日に入っていた予定を前後にずらすことで事態に対応できるよう、協力してくれたのだ。

 彼女も忙しく、加えてメリットが少ないためダメ元で頼んだのだが……本当に良かったと実感している。


「ついでに、「シルフィード・トリック」!」


 言葉と共に、校長の元に風が飛んでいき……頭にかぶっていたカツラを吹き飛ばした。

 思わず頭を抱えて隠そうとした校長に、巌が詰め寄り、そのまま質問攻めを行う。

 その結果、以前俺が行ったいたずらによって強い敵意を抱き、対抗するために組合と結びついたうえで、この日を利用して俺たちにダメージを与えようとしたということが判明した。


 とりあえずこれで、最悪の事態は回避できたであろう。

 校長が組合の関係者であったということ、学校という閉鎖空間であったことで、最悪内部のトラブルとして処理される危険性はあったが……ミフユや舞という外部の人間が入ったことで、この場限りで終わらせようという魂胆は打ち砕くことができたと思う。

 最終的にはこちら側の大勝利であるが、かなり危ういところもあったのは、反省を要するところだと思った。

現生徒指導主任の名字は、某ビジュアルノベルに登場する一族に敬意を表し、オマージュとして使用しております。


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