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序章 第18話 3月6日 ニカの正体

 ネットにダイブすると、既に二人はホームで待っていた。


「遅かったにゃ。まあ、ニカと話していたからいいけどにゃ」


 マオが遅れたことを、指摘する。


「こちらも忙しかったし、両親への説明もあったからな。そちらはどうだったのか?」


 こちらも状況を説明しながら、マオに返す。


「両親は、爆笑していたにゃ。エンターテイメントとして十分な戦いだったからにゃ」


 確かに、あれはすごかった。

 それこそギャグマンガか? と思うくらいに、圧倒的な戦い方であった。

 だが、今の状態は機体相手であれば十分通用するものの、出力不足で本来の力が発揮されていないような印象も受けた。

 事実そのために、巨大バグとの戦いにおいて危機的な状況に陥ったのであるのだから。


「私も、見せてもらった。組合の連中が吹き飛ぶのは痛快」


 ニカが、シニカルな言葉を付け加える。

 そのくらい、ヒーロー組合の者たちはこちらの地域では忌避される存在なのだ。


「おまけに、私も今日は働いた。いい仕事ができたと思う」


 その言葉に、衝撃を受ける。

 ニカは確か、引きこもりだったと思うのだが……。


「働いた!? ニートではなかったのかにゃ!?」


 マオも同じく、びっくりしていた。

 どうやらこちら側では、共通の認識だったようである。


「一応、住み込みで仕事をしている。あゝ野麦峠(のむぎとうげ)


 それって、製糸工女の悲惨さを物語った話なのだが……。

 そこまで酷使されているとなると、さすがに労働法上問題だと思う。


「あれ? そのアバター、早速使ってみたんだ」


 俺のアバターを見て、ニカがつぶやいた。

 今回使用しているのは、あのスタジオで手に入れたものを流用したもので……あの姿を「戦闘形態」として登録し、その簡易版を「通常形態」として使うことにした。

 現在はその、通常形態であるが……そのことを知っているということは、もしかして?


「にゃ? ニカは、N(ニードル)&(アンド)S(シザース)の従業員だったのかにゃ?」


 マオの質問が、まさに俺の感じていたことだ。


「うん。そう。大量の服を一気に作ったので、少し目がショボショボしている」


 それはそうであろう。

 何しろ、めあちゃんを含めて7人分の服を、数時間で仕上げたのだ。

 いくら分業しているとはいえ、その手間は半端なものではないだろう。

 しかも、耐久性の高い素材を使っているのであるから、なおさらである。


「ちなみに、私が切る係。もう一人縫う係がいて、そちらも凄腕」


 ニートどころか、立派な社会人であった。

 しかも舞のドレスも、彼女が手掛けているというのであるから……恐らくゲームに費やす程度の金銭は、十分に稼いでいるだろう。


「それは、引きこもりとは言わないにゃ!」


 マオの叫びが、俺の考えと見事に一致した。

 引きこもりの定義は、仕事や学校に行かず家に籠り、家族以外と交流が無い状況又は人を指す。

 こうして「手に職をつけている」上、仕事を行っているのであれば、たとえ滅多に建物から出なくても立派な「労働者」だ。


「あ、新しいイベントの告知がされている」


 ニカの言葉に、お知らせ欄を見てみると……?


「新イベントは、コラボイベントになります。昔流行したあのアニメとのコラボ! 今はまだシルエットだけ公開するので、どのアニメなのか想像して楽しんでください、か」


 そのシルエットであるが……非常に「見覚えのある」ものであった。


「にゃにゃ!? 結希(ゆうき)久郎(くろう)、こんな形でデビューすることになるのかにゃ!」


 そう、シルエットは俺たちがコスプレしていた「塵灰戦姫(じんかいせんき)」のものであった。

 これは……結希には絶対、見せられないと確信する。


「かなり良いデータが取れたので、オファーを送ったら一発。それだけあのコスプレが良くできていたという事でもある。広告にもなるので、一石二鳥」


 モーションキャプチャーも行っていたのは、このためかと理解した。

 ゲームの掲示板を見てみると、どのアニメなのかある程度想像がついているようで、どれだけのクオリティーで再現できているのかが楽しみだという書き込みが多い。


「果たして、どれだけの人が男の娘であると気づくことができるか。実験という意味でも楽しみ」


 ある意味、俺もそれは楽しみである。

 それにしても、服を作る、売るだけでなく、スタジオを経営し、更にゲームに使用するデータ加工まで行える店。

 それは、莫大な利益が出るのも当然だろうと感じた。


「一応、使用料としてもう一着、完全オーダーメイドの服を作らせてもらうつもり。さすがにただであのデータをもらうつもりはないから」

「それならば、こちらとしても文句はないな。あの制服はそれこそ、学校で採用されてもおかしくないほどのクオリティーであったし」


 (まい)のドレスほどではなくとも、完全オーダーメイドの服となれば相当高額なものになる。

 加えて素材にこだわれば、天井知らずの世界であろう。

 そのクラスの服を一着もらえるのであれば、対価としても十分だと思う。

 俺たちは専業の俳優ではなく、ヒーロー候補生でしかないのだから。


「にゃ? 機体を2つもぶっ壊しているのにゃけれども、お金をもらわなくても大丈夫なのかにゃ?」


 マオの質問は、もっともなものであった。

 確かに、訓練用とはいえ機体2つを大破させたのであるから、相当な金額になるのだが……。


「その点は問題ない。俺は、自損が保証される保険に入っていたからな」


 まず、機体を使うものは問答無用で、強制保険に加入させられる。

 いわゆる「自賠責(じばいせき)保険」を想像していただければ、ほぼ同じものと考えて良いだろう。


 ただし、こちらの方は戦闘によって発生した、被害に対してのみ支払われる形になっている。

 そのため、バグを倒したときに得られる、報奨金の一定割合が天引きされるという形が採用されており、結果としてヒーローたちの負担割合がそこまで高くならないよう工夫されている。


 また、車両保険とは比べ物にならないほど高額ではあるものの、任意保険も存在している。

 俺はそちらの方にも加入しており、そのため上記の強制保険では出ない「自機の損傷」に対しても支払われるのだ。

 いざという時に、ためらわずに行動できるようにするためには必須と考え、入っていたのが幸いしたことになる。


 次に、学校の備品を壊したほうであるが、こちらは基本的に学校側がもつことになる。

 試験で教師が思いっきり力を発揮した結果であるため、ある意味当然であろう。


 また、こちらの方にある程度の要因があるとされ、負担割合が課されたとしても、この場合は強制保険の方でまかなうことができるようになっている。

 これは「戦闘によって発生した、自機()()()()被害」であるため、支払いの対象になっているのだ。


「つまり、金銭的には問題ないということだ。それよりは、高性能なスーツなどの方がありがたいということになる」


 素材によっては、それこそバグの攻撃が直撃したとしても、命を失わなくて済むほどの丈夫なものが存在している。

 そういったものは、機体に乗らないタイプの任務、例えば護衛任務などの時に非常に重宝するのだ。

 ヒーローといっても、常に機体に乗っているわけではない。

 戦闘能力の高さから、通常の警備などの任務を任されることもあるのだ。

 そして万が一バグが出現した時には、機体に乗って戦うという事もある。

 その際にバグから「不意打ち」を受けたとしたら……着ている服の良し悪しが命にかかわるという事が、容易に想像できるであろう。


「ゲームのコラボイベントで、ベースとなるキャラクターの報酬がどれだけになるのかは分からないが……遠慮なく要求するぞ。いいな?」

「了解。金額的には、舞のドレス並みを予定しておく」


 なんとも剛毅な話である。

 原価率を考えれば、それでも十分利益が出るのだろうが。


「にゃ!! また話し込んでしまったにゃ! そろそろ真面目に、シナリオを進めるにゃ!」


 マオが不意に、大声を上げる。

 確かに、今日はしっかりゲームを進める予定だったのだが……二日連続で、話の方に夢中になってしまっていた。


「シナリオを進めるのもいいが……少し時間が足りないな。素材を集める方に力を注いだほうが、いいかもしれない」


 俺はそう提案する。

 思ったよりも話す時間が長くなったため、時間が相当進んでしまっていたのだ。


「賛成。もうすぐ夜になるし、洞窟で素材採掘したい」


 ニカもこちらの意見に同意する。

 野外では夜行性の動物が活性化するため、危険性が高まるが……ダンジョンや洞窟などの場合は、逆に外出中であるため安全ということもあったりする。

 今回狙うのは、そういう場所だ。


「しょうがないにゃ・・いいよ」


 マオがネタをぶち込みながら、同意した。

 別のオンラインMMOで、有名になった言葉であるが……よく三点リーダーではない部分まで発音できたものだと、むしろ感心してしまう。


 洞窟に入り、何体か残っていたコウモリ型の魔物を倒して、鉱脈に向かう。

 思った以上に質が良く、貴重な鉱石もいくつか手に入り、ニカはご満悦のようだ。


「こちらの世界でも、ものを作るのが好きなのかにゃ?」

「衣類と金属加工は別物。まあ、楽しいのは事実だけど」


 彼女がいい鉱石を手に入れるということは、そのまま俺たちの装備が充実することにもつながっている。

 楽しんでやっているようで、何よりだ。


「そろそろ、俺は休もうと思う。今日は色々ありすぎて、疲れてきた」

「同感にゃ。ちょっと早いけど、おやすみなさいにゃ」

「それじゃあ、また。 私は手に入った鉱石を使って、色々と試してみる」


 声をかけ、俺たちはネットの世界を後にした。


 それにしても、ニカがあの店の店員だとは、さすがに思いもしなかった。

 コスプレ報酬の受取の時に、もう一度顔を確認しようと思い、俺はベッドにもぐりこむ。

 疲れがたまっていたようで、すぐに眠りにつくことになった。

 明日は、もう少し穏やかな一日でありますように。

ようやくこれで、序章が終わりです。

閑話を一つ、第0.5章を経て、第1章から学校生活スタートです。


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