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序章 第15話 3月6日 N&Sにて 塵灰戦姫のコスプレ

 昼食を食べ終え、もう一度採寸してから俺たちは、スタジオに向かった。

 ちなみにみかんは、特盛りの焼肉弁当を二つ食べて、ご満悦のようである。


 余談であるが、フードファイターは痩せている方が有利とされている。

 胃が拡張するだけの余裕が無いと、それ以上食べ物を詰め込むことができず、脂肪で覆われていると拡張に支障をきたすため、らしい。

「痩せの大食い」ということわざがあるが、ある意味では真実なのであろう。

 それを考えると、みかんの場合はいったいどうなっているのだろうか?


「にゃ。脂肪はつくにゃ。主に胸の部分に、だけれどもにゃ」


 ……貧乳に悩んでいる人が聞いたら、思わず殺意を抱きそうな返事が返ってきた。

 まあ、ヒーローという職業柄、大量に食べる者の割合も多いため、その中でもかなり大食いの方というレベルだと思われるが。


 なお、スタジオに向かう前に全員、シャワーを浴びさせてもらっている。

 汗や汚れがかなり酷かったため、そのままスタジオに入れるわけにはいかないとの判断であった。

 食欲を優先させてしまったが、先にこちらにしたほうが良かったかもしれない。


 ちなみに、それぞれに合ったサイズの服(決められた規格で作ったもの)が渡されており、そちらも非常に着心地が良いため、帰る前に部屋着も一着購入しようか、と考えてしまった。


 そしてスタジオには、一着の服が用意されていた。

 その姿に思わず、声を上げてしまう。


「これは、「塵灰(じんかい)戦姫(せんき)」の「ノーライフキング」!」


「塵灰戦姫」とは、吸血鬼とダンピールの間で繰り広げられる、壮絶な戦いを描いたアニメである。

 ヒロインのダンピールが復讐を行う、最後のターゲットとして「ノーライフキング」が描かれており、その圧倒的な迫力と知性、そして何より実力に、どうやったら勝つことができるのかと、観ている側がやきもきさせられた相手だ。

 確かに、言われてみれば俺の顔と似ている部分があり、似合いそうな気がする。


「その通りです。もし実写で作るとしたら、あなた様がもっともふさわしいと感じました」


 店長の言葉に、少しくすぐったくなる。

 果たして俺は、その期待にどこまでこたえられるだろうか?


「着付けはこちらのスタッフが行います。小道具などもありますので、指示に従ってください」


 そのまま俺は、着せ替え人形状態になる。

 むしろ下手に動いて、服を傷つけてしまわないかと不安になってしまうほど、この出来はすさまじい。


「メイクも行います。男性の方は慣れていないかもしれませんが、ご了承ください」


 顔に独特のラインが引かれていく。

 ちなみに行っているのは、今までとは別の店員だ。

 黒髪の少女であり、あまり特筆すべき印象は受けない。


「完成いたしました。こちらの鏡で、ご確認ください」


 全身鏡(姿見よりも大型のもの)と向き合うと……そこには、あのラスボスが存在していた。


 紺色のビッグカラーコートと、同じ色のズボン、そして編みこみの入ったロングブーツ。

 胸の部分には赤いバラのコサージュがアクセントになっており、首には白いスカーフ。

 顔には長年を生きた証である、ひび割れのような紋様が浮かんでおり、カラーコンタクトで右目は黒、左は元の青い色のオッドアイになっている。


 ほんの少しだけ、作中の姿よりも若いかな? と思う部分はあるものの、誰が見てもあのノーライフキングであると断言できるくらいに、そっくりである。

 それこそ、作中から抜け出してきたと思うほどだ。


「これは、凄いな……」


 メイクも影響しているが、とにかく服の作り込みが凄まじい。

 現代ではフル3Dのアニメも増えているが、当時は2Dの作品が中心であり、立体にするには造形に対する深い知識が必要とされる。

 その観点から見ても、申し分ない代物であった。


「スタジオの方で、ポーズを取っていただけないでしょうか? もし可能であるならば、ある程度動いていただけると、より助かります」


 むしろこちらから、お願いしたいところだ。

 俺はそのまま、スタジオに向かうことにした。

 そこに立っていたのは……?


「久しいな、夕姫(ゆうき)。千年という時は瞬き一つか、長き苦痛か。我にとっては短くとも、そなたにはさぞ長いものであったであろう」


 思わず、最終決戦前のセリフがこぼれてしまった。

 そのくらい、目の前にいたヒロインの「夕姫」は、アニメで見た姿そのものであったからだ。


「千年じゃないよ! うう……嫌な予感はしていたのだけれども、予想通りになってしまって……」


 目の前の結希が、思いっきりぼやく。

 しかし、その姿は間違いなくアニメの「夕姫」そのものであり……偶然の一致か、名前の読みまで同じであるのだ。

 ある意味、運命のようなものを感じる。


 瞳が緑色に輝いているのは、カラーコンタクトを使っているからであろう。

 黒のキャミソールドレスと、金属製の翼を身に着けており、魔法と技術の融合を武器に戦う彼女の姿が見事に再現されている。

 また小道具の方でも、とげ付きの首輪、そして巨大な斧まで見事に再現されており、こちらもアニメから取り出してきたとしか思えないほどの完成度だ。

 メイクによって儚げな雰囲気の中に潜む芯の強さ、そしてその奥に秘められた狂気まで伝わってくるようで、もはや結希とは「別人」と言われても、全く違和感がない。


「うん。完全に解釈一致」

「頑張った。頑張りすぎて、もう実写ではこれしか認められなくなりそう」


 店員二人も、大満足のようだ。

 他の面子もスタジオに入ってきて……この状況に思わず、足を止めてしまう。


「驚いたわね。私も見た事のあるアニメだけれども、コスプレというよりも本人がその場にいるとしか思えない完成度よ」


 舞の意見が、その場にいた者たちの総意であろう。

 そのくらい、俺たちは似合いすぎていた。


「すみません。3Dデータとして、スキャンさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 店長が俺たちに、問いかける。


「俺は構わない。服の値引きは良いから、そのスキャンデータをこちらにももらいたいのだが……ダメだろうか?」


 俺は即座に同意する。

 そのくらい、この格好は気に入っており……もしこれを「ブレイブ&ウィッシュ」のアバターに利用できるのであれば、むしろ正規の料金を払ってでも手に入れたいと思うほどだ。


「僕は……うう、やむを得ないから、許可する。変なことには使わないでね」


 結希も、渋々ながらうなずいた。

 自分とは別物だと割り切って考えるのであれば、実際その姿はデータとして残す価値があるほど、完成度が高いことは彼も納得しているようである。


 まずは、全身のスキャンから始まった。

 角度や姿勢を変え、何度もスキャンを行う。

 これによってより、精度の高いデータを作ることができ、その後の使いやすさが大きく向上するのだ。


「多少アニメ風にしたものが、こちらになります」


 店長がディスプレイに、取り込まれたデータを表示させる。

 そこには、二人のキャラクターを3Dにしたものが並んでいた。

 アニメの原作と見比べても、違和感がほとんどない。


「可能であれば、モーションキャプチャーも行いたいと思います」


 更に動きを加えることで、より滑らかな動作を行うことができるようになる。

 せっかくなので、二人とも協力することにした。


「久郎は、ワイヤーの扱いに慣れているな。奥義の「ヴァーミリオン・クロス」が、アニメと同じくらいに迫力あるものになっているぞ」


 明が称賛してくれたため、手を振ってこたえる。

 もともと機体でも、ワイヤーを駆使した戦い方をしていたため、このくらいはお手の物だ。


「ヒーローではなく、むしろ俳優を目指された方がよろしいのではないでしょうか? 私には、そちらの方が向いているように思えてしまいます」


 店長も褒めてくれるが……こちらは素直に喜べない。


「俺は、あくまでも結希と共に戦いたいからな。アルバイトくらいならばいいが、専属でやるつもりはない」

「それに、僕も女装は今回限りにしたいからね。確かに、女性らしい動きが分かったのは収穫だったけれども」


 結希の方は、若干男性と女性の動きの違いがあったため、修正を受けていた。

 とはいえ、それだけでほぼ完全に、女性としての動きになったのであるから、適性は非常に高いと思う。

 歌舞伎でも女形という役割があるのだから、そこまで忌避する必要は無いと思うのだが。


 また、斧という武器になれていなかったため、動きがぎこちなくなっていたところがあったが、結城に長剣を使わせた上で、CGで斧頭を融合させるというアイデアを出した結果、すべての技を再現することができた。

 まさか最後に使う「般若(はんにゃ)(まい)」まで再現できるとは、俺自身思っていなかったが……。


「ありがとうございました。データは、他社の委託を受けているため多少アレンジをした形になりますが、そちらの端末に送っておきます」


 スマートフォンに、データが送信された。

 早速動きを確認すると……これは、良い。

 マオすなわち、みかんの使っているアバターと比べても、十分太刀打ちできるほどの出来栄えであった。

 胸のバラの色が青に変わっていたり、服の色やデザインが変化していたりするものの、これはこれでカッコいいと感じる。


「僕の方は、データはいいから。何に使うのか分からないけれども、身バレしないように注意して使ってください」


 結希の方は、もらわないようだ。

 こっそり店長にお願いして、軽量版のデータをこちらのスマートフォンに転送してもらえるよう交渉した。

 こちらはこちらで非常に出来が良く、観賞用としても十分使えるレベルだからだ。

 ……下手をすれば、「おかず」としても十分利用可能だと思う。


「めあも、きてみたの! どうかな?」


 こちらはこちらで、実に似合っていた。

 青をベースとしたエプロンドレスで、スカートの裾にはトランプのスートが描かれている。

 その姿はまさに「不思議の国のアリス」そのものであった。


「かわいいにゃ~!! これ、お持ち帰りしてはダメなのかにゃ!?」


 みかんが錯乱したことを口にして、明のゲンコツを食らう。

 とはいえ、思わず連れ帰りたくなりそうなくらいに似合っており、素材のあどけない可愛らしさを、最大限引き出しているのが俺でも分かる。


「こちらも素晴らしいですね。もし、写真を広告に利用することを許していただけるのであれば、その服は差し上げます。その上でもう一着用意させていただくつもりですが、いかがでしょうか?」


 キラキラした、めあの目を見れば結論は明らかであろう。

 代諾者として舞が契約を結び、写真を撮ることになった。

 小道具などが用意され、幻想的な雰囲気の中微笑む、めあちゃん。

 全員がお願いして、スマートフォンに写真を転送してもらったほどに魅力的であった。


 そして、服が完成したという連絡がきた。

 まさかその日のうちに仕上がるとは思っていなかっただけに、驚いたのだが……ブレザーの学生服をアレンジしたようなものに、統一されていた。

 パンツスタイルで統一されており、露出度の低いものになっている。


「恐らくこれから、同じ学校に通う仲間となるのでしょう。ですので、あえてこのような形にさせていただきました」とは、店長の言である。


 全員が揃ったことで、チームの一員という雰囲気になる。

 デザインも良く、加えてカーボンナノファイバーを利用した特殊繊維を使っているため、戦闘服並みかそれ以上の耐久性を有しているようだ。


「うん。これ、いい! 僕は気に入ったよ!」

「俺も、悪くないと思う。制服というスタイルにはあまりいい印象が無かったのだが、この服ならばむしろ好むところだ」


 他の三人も、かなり気に入った様子であった。

 なぜか、めあちゃんの分まで用意されており、お揃いであることに喜んでいたのだが……さすがに彼女はまだ小学生なので、同級生にはなれないだろう。


「そろそろ、良い時間だと思うわよ。家の近くに車を止めるから、少しだけ歩いて帰ってちょうだい」


 舞の言葉に従って、俺たちは店を後にすることにした。

 余談ですが、俺だけではなく全員が部屋着も購入していた。

 さすがにそちらの方は、全員自分の財布から出している。

 一人、そちらまで奢ってもらおうとして、ゲンコツを食らった者がいるが……誰であるかは、説明不要であろう。


「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


 店長の言葉通り、この店はまた利用することになるだろう。

 値段は高いものの、その分非常に作りが良いため、長い目で見ればむしろお買い得だと俺は感じた。

あくまでも、イメージとして結希と久郎の服装の元ネタを示しておきます。


初音ミク Project DIVA

結希:「フランシスカ」の少女

久郎:「ハイハハイニ」の主役


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