序章 第12話 3月6日 試験終了
まず「ギフト」について説明する。
以前「ハーモニクス」の時に軽く説明したが、「ギフト」とは「先天性の特殊能力」と考えてもらえれば分かりやすいであろう。
ある意味俺たちにとって、最も重要である「ヒーロー適性」もまた、ギフトの一つである。
「ギフト」は基本的に先天性であるが、ごくまれに偶発的に習得する者も存在している。
後天的に獲得できる「スキル」は、努力や学習によって得ることができる能力であるが、先天性の「ギフト」の方が強力であることが多い。
そして、俺の持つ「ギフト」の一つが、「万能の天才」だ。
この「ギフト」は、自分が保有していない「スキル」を任意に取得し、発動させることができるという、強力かつ特殊なものである。
今回はこの「ギフト」を利用して、スキル「瞬間剛力」を取得。
それを発動させ、「機体を腕力で無理やり動かして、射撃を行った」ということになる。
ちなみに、この世界の「機体」はパワードスーツの発展形であることは、以前述べたとおりだ。
そのため、構造としては「体を覆う」ように展開され、体の動きに追随するように設計されている。
このことから、構造上はヒーロー自身の力で無理やり動かすことも、可能となっている。
もっとも、4メートルもある機体の腕を、自分の力で動かすというのは非現実的な行為だ。
「あいつ」のいた世界の金属に比べ、異常に軽量化されている機体であっても「理屈の上では」という注釈が入る。
もっとも今回、俺がスキルを使用することで実際に動かせることを、証明したというわけだ。
ダメージを受けて動かなくなった腕が、電気系統のダメージだけであり、関節の可動性には影響がなかったことも幸いしていた。
ちなみに、無敵のギフトのように見える「万能の天才」には、いくつもの制約が存在している。
まず、一度発動させると、24時間の間使用不能になる。
きっちり24時間経過しないと、再度使用することができないため……前日の夜に使用すると、その日で再使用できるのは夜になってからということになる。
この融通のきかなさが、いつ使うべきかを迷わせる大きな要因である。
気軽に使うわけにはいかないというのが、分かってもらえるだろう。
次に、使った場合の効果はあくまでも「選んだスキルを一つ取得し、発動させる」だけである。
今の戦いのように、あらかじめ決めてあったスキルを、決まったタイミングで使用するのであれば問題になることはない。
しかし、朝行われた巨大バグとの戦いのような状況では、話が変わってくる。
一つの「スキル」だけで、状況を打破するような方法は思いつくことができなかったため、結果として使わないで戦いを終えることになった。
「ギフト」を発動できるのであれば、もう少し使い勝手が良いのだろうが……。
更に、スキルを使用する時に「反動」が発生する。
その反動がどれだけの規模で起きるのかは、使ってみないと分からないのだ。
今回使用したのは「瞬間剛力」という、「筋力を瞬間的に、極限まで向上させる」ものである。
スキルツリーで示すならば、かなり上位に存在するスキルだと思われる。
ツリーの前提条件をほとんど満たしていない状態で、この強力なスキルを使用したのだ。
その反動で腕に大きな負荷がかかり、凄まじい痛みを感じている、というのが今の状況である。
恐らく、筋組織の断裂、内出血などで悲惨なことになっていることが想像できる。
怖くて除装し、確認することができないほどの痛みであり……さすがにここまでの反動は、予想の範疇ではなかった。
ちなみに反動は、魔法などのスキルでも同様に発生する。
巨大バグを一撃で葬った「フレスベルグ」を、もし今回使っていたとしたら……下手をすると脳に深刻なダメージを負い、廃人になっていたかもしれない。
想像するだけでも、ぞっとする。
これだけのリスクがある「ギフト」であるため、文字通り「最後の手段」と考えていた。
そしてその「最後の手段」を使って、何とかとっておきの「バリア貫通弾」を、舞の機体に叩き込むことに成功したのだ。
訓練用とはいえ、非常に高価な代物であり、一発しか用意することができなかったのであるが、それだけの価値はあったと考えている。
ただ、周りから見れば俺の行動は「戦闘不能を装って攻撃した、卑怯者」にしか見えないだろう。
故にブーイングだらけのこの状況もまた、予想の範囲内である。
「審判、もう一度言うぞ……俺の勝利条件と、敗北条件は何だ?」
「勝利条件は舞の機体への有効打、敗北条件は戦闘不能ですが……戦闘不能ではなかった?」
舞の技量を考えれば、普通に攻撃したところで対処されるのが目に見えている。
そのためジェネレーターを落とし、動けなくなったように見せかけて、攻撃するという手段を選ばざるを得なかった。
一般的にはジェネレーターが停止することは、戦闘不能と直結して考えられがちであるが……その裏を突いた形である。
そのために、戦闘前に再度条件を確認したのだ。
「腹部直撃……これはもう、有効打というしかないわね。こちらの負けだわ」
舞先生が除装して、両手を上げる。
即ち降参ということであるが……更にブーイングがひどくなっているようだ。
「静かに! まず久郎、除装しなさい。ただし腕に力を入れないように」
その言葉に従って、俺は機体を除装する。
着用は手動で行わなければならなかったが、除装はプログラムで行えたのは不幸中の幸いである。
そして、露わになった瞬間剛力を使った方の腕は……力なくぶら下がる状態であり、ほんの少し動かそうとするだけで、激痛が走る。
戦闘服も千切れてしまっており、自爆とはいえダメージの凄まじさを示していた。
「だから、力を入れてはダメだって。とりあえず……そうね。清水漣はいる?」
「はい。治療ですね」
舞先生の呼びかけに答えて、漣がステージの上に上がった。
悲惨な腕の状態がさらされたことで、単に卑怯な行動によるものではないと、観戦していた者たちもある程度は理解できたようだ。
「私でもできるけれども……ボーナスステージ、挑戦してみる?」
「やります。少しでも高評価が欲しいですから」
漣が魔道具の鈴を数回鳴らして、腕の状態を確認する。
どうやら彼女は医療器具の「エコー」を魔法で再現できるらしく、徐々に顔がしかめられていった。
「まず太い筋肉の断裂が1つ、細い筋肉は相当数。血管が破裂した状態が数か所。神経は言うに及ばず。意識があるのが不思議です」
「らしいわよ。私も少し探ってみたけれども……これだけのダメージでよく耐えられるわね」
予想よりも酷い状態だったようだ。
意識を保っているのは……頭の中で必死に「あいつ」が、意識を失わないように声をかけてくれているからである。
さすがに「寝たら死ぬぞ!」というのは、あいつなりのブラックユーモアだと思うが……。
「今の魔力だと、完全に回復させるのは厳しい。可能な範囲で行う」
漣が回復魔法を使ったようで……更に痛みが激しくなった。
意識を失うことすら許さないほどの痛みであり、正直きつすぎる。
「せ……せめて、麻酔のような魔法はないのか?」
「あります。ですが、使うと治療が中途半端に終わります。ゆえに、治すことを優先します」
回復魔法は、部位の修復と同時に、痛みを軽減する魔法を併用して行うのが一般的だ。
つまり、二つの魔法を同時に使用しているようなものであるため、他の魔法に比べて難易度が高い。
逆に言えば、痛みを軽減する魔法を使わずに部位の修復だけに専念すれば、魔力の消耗や難易度は下がるのだが……結果として受ける側にとって、激しい痛みを伴うことになる。
無理やり筋肉や神経を伸ばし、繋げていくのであるから……どれほどの痛みであるか、ある程度想像できるであろう。
「治療完了です。細かい部分は、自然治癒で十分であろうと判断しました」
とりあえず、この苦痛に満ちた状態は終わったようだ。
腕を見ると、まだはれはあるものの、先ほどの状態より遥かにましであることが感覚的にも分かる。
ちなみに回復魔法に対する一般的な認識は、「魔法を使ってHPが回復する」というようなものであろう。
しかし現実では、回復魔法をかけたが故に後遺症が残るという可能性もあり、非常に扱いの難しいものである。
関節や筋肉などの可動域を、知識がないまま固定してしまったらどうなるか、という事だ。
そのため必然的に、回復魔法を使うものは、高度な肉体に対する知識と、非常に繊細な技術を必要とされる。
そのため、回復魔法の素質を有する者は研修を受ける義務があり、その後「治療師」と呼ばれる資格を取って初めて、回復魔法を使うことを仕事にすることができるようになる。
この辺りは俺が持っている「行政書士」が、行政庁への書類作成の代行に必要であることと、同じようにとらえてもらって構わない。
「さすが2級治療師。残存魔力を考えれば、ほぼ満点の措置ね」
舞先生が太鼓判を押す。
これはボーナスステージの名の通り、かなりの加点となるであろう。
ちなみに、治療師には特級と、1級~3級が存在している。
まず特級と1級であるが、前提として大学で医師と同レベルの学習を行う必要がある。
その上で試験に合格して、初めて認定されるのが「1級治療師」であり、更に一定年数の臨床、治療成績の要件を満たし、特別な試験に受かることが「特級治療師」の条件である。
ヒーロー候補生である俺たちの場合は、2級の取得が限界である。
しかし、「2級治療師」として認定されるための試験は、「専門学校を卒業した後」に受けるレベルであると考えられている。
それを現時点で取得している彼女は、間違いなく「天才」のグループに属するであろう。
一般的にはヒーロー候補生で、回復魔法を使えるものが卒業前に「3級」を取得することを目的とされる。
もし、候補生の段階で「3級治療師」を持っているというのであれば、それだけで非常に大きなアドバンテージになるほどだ。
彼女が有している「2級」がどれほどの価値を有するのかは、これである程度わかったと思われる。
「それにしても、なぜこんな無茶をしたの? 卑怯に見える手段まで使って勝とうとするからには、理由があるとしか思えないのだけれども」
「可能であれば、結希と同じ学校のヒーロー科に行きたかったからだ。結希が守先生を相手に勝利をおさめている以上、横に立つには同じく先生に勝つことが、もっとも確実な手段だからな」
結希は同年代ではあるものの、俺の方が半年ほど早く生まれている。
また家に来たのが後ということもあり、彼は弟分としてふるまう傾向がある。
その弟があれほどの頑張りを見せ、教師相手に勝利をおさめたのであるから……ほぼ間違いなく、最高レベルの評価を受けるであろう。
ならば俺が並び立つためには、同じことをやるしかない、というのが理由だ。
「それで、最初にもう一度勝利条件を確認したというわけね」
どうやら、舞の納得は得られたようだ。
「バグの中には死んだと見せかけて、不意打ちを行うタイプも存在するわよ。審判、それを踏まえた上で判定を下してちょうだい」
舞先生が、審判に判定を促す。
「分かりました。不本意ではありますが……勝者、神崎久郎!」
拍手はまばらであり、何とかブーイングには至っていないという状況であった。
とはいえ、少なくとも「勝った」という事実は、間違いなく高い評価を受けるはずだ。
後は、今回の「だまし打ち」がどこまで減点材料とされるかであるが……舞の言動から考えれば、致命的ではないと思われる。
「とりあえず、しばらくは安静にしておきなさい。あと、漣の治療は相当痛かったと思うけれども、それが今回の試験におけるペナルティということで」
舞先生が自分で治療したり、医療班に任せたりしなかったのは、このためだったのかと感じた。
この言葉を受けて、若干拍手の度合いが増したように感じられる。
「以上を持ちまして、今回のヒーロー試験、実技の部午前を終了いたします」
とりあえず、出せるだけの成果は出せたと思う。
腕のダメージは想定以上であったが、今の自分にできることを出し切ったという感覚はある。
結果は後日改めて掲示されるが、恐らく結希と同じ学校に通うことができるだろう。
「あ、あと一つ。結希、久郎、明、漣、みかん、奏。この6人は用事があるので、応接室で待機して。服は戦闘用のままでいいから」
一体、何の用なのだろうか……?
共通項としては、巨大バグとの戦闘に参加したという事が容易に頭に浮かぶ。
とりあえず結希たちと合流した上で、応接室に向かうことにした。
試験は終わりましたが、この日はまだ続きます。
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