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序章 第11話 3月6日 試験中~久郎~

「最後の試験は、神崎(かんざき)久郎(くろう)です。御門(みかど)祐樹(ゆうき)の義理の兄弟とのことで、期待が高まります!」


 ハードルを上げないでくれ!

 嫌だと思いつつも、呼ばれたからには行くしかない。

 覚悟を決めて、俺はステージに立った。


「対するは、冬花(ふゆばな)(まい)先生。ハンディキャップとして通常使用している機体ではなく、ディシブル改を使用しています」


 向こう側の緑色の機体が、手を振った。

 その機体に、うっすらとオーラがまとわれているように見えるのは、気のせいだろうか……?


「さてと。さすがに教師が二連敗となると、問題になるからね。全力でやらせてもらうわよ」


 どうやら、気のせいではないらしい。

 恐らくオーラはバリアのようなもので、軽い攻撃であればはじき返されてしまうであろう。

 まあ、もともと有効打を与えなければならないという条件であるため、それに合わせていると言えなくもないが。


「念のために、確認するが……俺の勝利条件は舞の機体への有効打、敗北条件は俺の機体の戦闘不能及び場外。これで合っているか?」

「ええ。……そういえば、法律系の資格を持っていたわね。その条件で間違いないわよ」


 いくつか勝ち筋は思い浮かぶが……正直、通じるとは思えない。

 それでも「最後の手段」であれば、もしかしたら届かせることができるかもしれない。

 そのための仕込みを、今行ったところだ。


「両者構えて……始め!」


 俺の方も、機体から音楽を流す。

 選んだのは「Odile」という曲で、白鳥の湖の一曲をモチーフにした、アニメで用いられたものだ。

 再解釈された物語で、黒鳥の彼女をヒロインとした悲劇となっている。

 美しくも寂しげな響きが気に入っており、俺の場合はこういう曲を戦闘時に選ぶことが多い。


「フィギュアスケートを始めるつもり、なのかしら? まあ、まずはあいさつ代わりに……」


 舞の機体が保持しているナイフから、緑色の光があふれ出す。


 ちなみにこのナイフは、波打った独特の形状をした「クリスナイフ」と呼ばれるものだ。

 巨大バグとの戦いでも用いていたものであり、独特の形状が魔術の増幅率を高める働きがあり、そのことからもこの戦いにおける本気さが伝わってくる。

 さすがにリミッターがかかっているため、いきなり「フレスベルグ」が飛んでくるということはないと思うのだが……。


 緑色の光がおさまったときには、舞の機体の前には10をはるかに超える数の緑の玉が浮かんでいた。

 風属性下位魔法の「ウインドボール」であるが……これだけの攻撃をまとめて食らったら、戦闘不能は間違いない。


「「ホーミング・ウインドボール」……発射!」


 加えて、嫌な単語が付け加えられていた。

 曲線を描き、こちらの機体に殺到する風の玉。

 避けようとする動きに追随して迫ってくるこの攻撃は、ほとんど「壁が迫ってくる」と評するのが妥当な代物だ。

 これに対し、回避することを考えるのは現実的ではないだろう。


「迎撃、だな……フォローを頼む」


 俺は「あいつ」に呼びかけた。


 緊急事態の時には、こうして「あいつ」と共闘することもある。

 巨大バグとの戦いの時に、公園の入り口にあるチェーンを思い出したのも実は「あいつ」のアイデアで……その人生経験に結構助けられているという自覚がある。

 もっとも、特に高度な判断を要求される時に併用し続けた場合、脳にかかる負荷が非常に大きくなるため、常用はできないのだが。


 幸い、ウインドボールの特性として「衝撃に弱い」という点がある。

 わずかな衝撃で破裂してしまうため、撃ち落とすなどの対処ができればあっさり相殺可能である。

 もっとも逆に、体を掠めただけで爆発してダメージを受けるという要素も有している。

 確実に落としきれるかどうかが、運命の分かれ道だ。


「1つ、2つ、3つ……」


 両手に持った銃を使い、迫りくる風の玉を打ち落としていく。

 あまり近くで撃ち落とすと、爆発の衝撃がこちらに届いてしまうので、早めの対応が必要だ。


「っ、7、8!」


 二つの玉が死角から襲ってきたため、それに気づいた「あいつ」が警告し、慌ててそれも撃ち落とす。

 意識が別であるため、たとえこちら側が視界の片隅にしか見えていないような状態であっても、「あいつ」の方で違和感を覚えることができるのが、共闘しているときの大きなメリットの一つだ。


「11……って、次の魔法?!」


 魔法の展開速度が、ヒーロー候補生とは段違いだ。

 今度の魔法はかなり大技のようで、魔力の渦が可視化されている。

 安全地帯は、舞のすぐ近く!


「続けて、「トルネード」!」


 ブースターをフルに稼働させることで何とか、舞の近くに飛び込むことができた。

 残ったウインドボールの1個を、ほぼギリギリの位置でかわしながら一気に接近するという、離れ業を要求されることになってしまった。

 事前に(あきら)の戦闘を見て、突撃するイメージを頭に抱いていなかったら、恐らく間に合わなかったであろう。

 背中の方で、とんでもない勢いの風が吹き荒れているのが感じられる。

 距離的には、こちらの得意とする領域に持ち込むことができたが……。


「からの……「ダウンバースト」!」


 今度は、頭の上から猛烈な突風が吹き下ろされる。

 攻撃を行おうとした瞬間に、嫌な感じがして瞬時に横に避けたのが幸いした。

 ここでもし、そのまま攻撃をしようとしていたら……追撃のこの魔法をまともに受けてしまっていたであろう。

 わずかに掠めただけでも、勢いの激しさに少し体勢が崩れるのを感じたくらいであり……直撃していたら地面に叩きつけられ、下手をすればそれだけで戦闘不能になっていた可能性がある。


 ちなみに、回避しながらダーツを何本か放ったのだが、そちらはバリアで無効化されていた。

 一体いくつの魔法を同時に発動できるのか、想像するだけでも恐ろしい。


「距離を詰められるのは少し怖いわね……「ブラスト・ウインド」!」


 至近距離とまでは言わないものの、この距離で爆発系の魔法!?


 ここまでくると、どうしようもない。

 あえて直撃を受け、自ら爆発の勢いに乗って吹き飛ばされることでダメージを軽減する。

 飛ばされながら目にしたのは、爆発の範囲ギリギリのところに立つ舞の機体の姿で……嫌な事に緑色の光がナイフに集まっているのもしっかりと、見えてしまった。


「これは避けられるかしら? 「ウインド・スラッシュ」!」


 ブースターを噴かせることで、無理やり軌道上から機体をずらすことができた。

 とはいえ、かなりの負荷がかかったのは事実である。

 結希の時同様、エネルギー切れを近づける行動であるが……やむを得ない。


「避けてばかりと思われたくないからな。「エクステンドクロー」発射!」


 腕部に搭載されているクローを、相手に向けて発射する。

 さすがに意表を突かれたのか、次に用意していた魔法を破棄した上で、防御の方に魔力を回したようだ。

 直撃こそしたものの、バリアによって有効打には程遠い結果となった。


「ここからが、本領発揮!」


 クローに搭載されている、小型のブースターを使う。

 これにより、遠隔操作が可能になるのだ。

 また、クローには回収用のワイヤーも取り付けられているため、それを利用すれば……。


「捉えた!」


 バリアで機体が覆われていても、ワイヤーが絡みつくことは防げなかったようである。

 結果、舞の機体にワイヤーを二重に巻き付けることに成功した。

 このチャンスを、逃すわけにはいかない。


「とどめだ! 「ビーク・ストライク」!」


 機体の腕部のもう一方につけられている、くちばし状のパーツを利用した攻撃。

 普段は簡易的な盾として利用しているこれは、突撃力を利用して相手の装甲を貫通するのが本来の使い方である。

 この状況で避けることは、非常に難しいはず……であった。


「フィールド全開、「スラッシュ・バースト」!」


 自分を中心とした、真空の刃をバリアに混ぜ込むという技。

 これによってワイヤーはあっさり切り刻まれ、舞の機体は自由を取り戻した。

 目の前には、突撃体制に入っており、回避不能状態の俺。


「悪いけれども、これで終わりね。「テンペスト」!」


 トルネードと比較しても、圧倒的な力の暴力。

 機体はボロボロに切り刻まれ、両足を失ってしまった。

 片方の腕も動作不良を起こしてしまい、体を起こすことすらできないまま地面に倒れ込む。


 技の多彩さも特徴的であるが、何よりもこれだけの範囲攻撃などを行っておきながら、リミッターが発動しないという見極めの方が恐ろしい。

 こちら側が確実に戦闘不能になり、かつ生命維持に影響が及ぶような致命的な攻撃ではないというラインを、きっちり把握していないとできないことだ。


「参ったな、これは……どうしようもない」


 俺は、機体の電源を落とす。

 ジェネレーターに送り込まれていたエネルギーが断たれ、メインカメラである眼部から光が失われる。


「決まった! 勝者、冬花ま……」


 “ギフト:「万能の天才」起動”“スキル選択:「瞬間剛力」”


 動作不良であった腕を無理やり頭の上に伸ばし、切り札の「バリア貫通弾」を放つ。

 その弾は吸い込まれるように舞の機体の腹部に当たり、大きなペイントが広がった。


 その瞬間、観戦していた者たちの声が途切れる。

 そして、沈黙を埋めるような激しいブーイングがその場を支配した。


 卑怯者! 反則野郎! 外道! ……その他諸々。

 俺はそれを無視して、審判に声を投げかけた。


「……勝利条件を満たしたぞ。審判、判定を行え!」


 審判も混乱しているようだ。

 恐らく、多くの人にとって俺がやったことの意味は、全く分からないと思う。

 そのため今の自分がやったこと、及び状態などについて説明することにしよう。

 ……少しでも腕の痛みから逃れるための、現実逃避も兼ねて。

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