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序章 第10話 3月6日 試験中~結希~

 最初に試験を受けるのは、結希の方であった。

 しかも場所はステージであり、完全な実力勝負となるフィールドだ。


(まもる)先生って、どんな戦い方をするのだろう?」

「一応情報は得ている。二枚の盾を使って、一方を攻撃に、もう一方で防御を行うタイプだ。堅実な戦い方で、非常に崩しにくいという話を聞いたことがある」

「うわあ……出力が低いディシブルで戦うのに、相性最悪だね」


 結希のぼやきは、非常に納得できる。

 とにかく硬い相手に対して、出力が劣る機体で挑むというのはかなり無謀なことであり……そういう場合は、遠距離攻撃などで支援するのが求められる行動だ。

 それなのに今回のこの状況は、明らかにおかしいと思う。


「ところで、この機体……少し違和感を覚えないか?」

「久郎もそう思った? やっぱり、力の伝導性が良すぎるよね?」


 ディシブルは第(いち)世代の機体であり、そのためヒーローの力の伝導性においても後の世代に比べて見劣りするものである。

 しかし、俺たちに与えられた機体はむしろ、ディシブル改よりも伝導性が高く設定されているようだ。


「ガワはディシブルで、中身は第()世代、ただしジェネレータだけディシブルのまま。そんな印象を俺は受けた。恐らく訓練用の機体を、誰かが改造したのだろう」

「みたいだね。まあ、僕たちにとってはかなりありがたいことだけれども」


 ヒーローの力が上手く伝わるかどうかは、機体の動きに大きな影響を与える。

 そのためこの機体の方が、今まで使ってきたディシブル改より性能が上だと判断するものも多いだろう。

 もっとも出力が劣るという点は、大きな不安要素であるが。


「とりあえず、全力を出してこい。明らかに格上の相手だから、躊躇することはないぞ。親父と戦うくらいの気持ちで挑め!」

「あはは……親父とだと、勝ったことがないからね。アドバイスだけ受け取っておくよ」


 最後に言葉を交わして、結希はステージに向かった。


 ちなみに、俺の試験もこのステージで行われるようである。

 地形などを活用する俺にとって、一番嫌なシチュエーションであり、加えて俺たちが最後であるため、残ったほぼ全員が戦いを目にするという状況になっているようだ。

 もはや、いじめだとしか思えない。


「久郎、次はお前の試験だから、ステージの近くで準備しておくように」


 係員の言葉に従って、俺もステージの方に向かうことにした。


 ステージに立っている守の機体は……ディシブル改ではあるものの、二枚の巨大な盾を構えており、非常に重厚かつ圧迫感を感じるものであった。

 結希の機体と比べると、同系列の機体とは思えないほどのウエイトの差が感じられる。

 俺の対戦相手も含めて、采配ミスとしか思えない。


「うん? あのシールドは……?」


 構えている訓練用のシールドであるが、どこか別のところで目にしたような気がする。

 細かいところまでは覚えていない上、実物を見るのは今回が初めてのはずだ。

 となると、何らかの資料についていた写真なのだろうが……思い出せない。


「それでは結希対守、試験開始!」


 審判の宣言によって、試合が始まった。


 結希の機体から、音楽が流れ始めた。

 ハーモニクスは使用できないものの、音に合わせて戦うのは俺たちのやり方であり、実際その方が無音で戦うよりも調子が上がることが多いからである。

 選んだ曲は「Believe Your Heart」で、ゲームのテーマ曲の中でもアップテンポで激しく、かつ少し切なさを感じさせる名曲だ。

 いかにも、結希らしい選択だと思う。


 最初に動いたのは、結希の方であった。

 シールドに向かって「百舌(もず)」を放つものの、完全に弾かれてしまっている。

 突きであるため、運動エネルギーが一点に集中して放たれたはずの攻撃が、こうも簡単に弾かれてしまうとなると……正直、結希の使える技で有効打を与えるのはかなり難しそうである。

 もちろん「托卵(たくらん)」を使うことができれば、十分通用すると思うが。


「『シールドバッシュ』!」


 守先生から即座に、反撃が繰り出される。

 盾を叩き付けるというシンプルなものであるが、それ故に非常に回避が難しいものだ。

 百舌で体勢が崩れていた結希にとって、これはかなりきつい。

 辛うじて直撃は免れたものの、掠っただけで弾き飛ばされてしまった。


 結希の機体は、どちらかというとスピード重視の設定がなされている。

 そのためこういった力技には弱いという部分があり、その点を広大にも狙われることが多い。

 ある意味では父と似たような相手であり、それでいて盾を武器として利用するという異なる部分が影響し、非常にやりにくいようだ。


「『百舌』だとダメなら……こういう動きなら?」


 結希の機体から、別の技が繰り出された。

 動きは百舌に近いのだが、百舌のように全力で突撃して放つのではなく、盾によって弾かれた反動を利用して連続で突きを繰り出している。


 ここが、結希の一番恐ろしいところで……ほんのわずかなきっかけによって、新たな技を編み出すことがあったりするのだ。

 剣に特化した才能の持ち主らしく、その上達速度は半端なものではない。


 これに対して、守はシールドの「縁」を利用して、切りかかるような攻撃を行った。

 どうやら一部薄く作られている部分があり、こういう攻撃を行うことも想定して、設計されているようである。

 動きが剣と似ているため、こちらに対しては結希も即座に反応し、ギリギリで回避することができた。


 その後も、高レベルの応酬が繰り広げられた。

 特に守の技の引き出しは、盾が単なる防具であるという概念を覆すようなものであった。


 カウンターで相手の攻撃を潰すのはもちろん、盾の縁の部分を利用して斬撃を放つ、叩き付けるようにして防御ごと相手を吹き飛ばす……。

 ハンマーなどと同じ鈍器、あるいはそれ以上にうまく使いこなしており、付け入る隙が見当たらない。


 対する結希の方は、とにかく盾に攻撃が阻まれるという状況の繰り返しであった。

 新たに覚えた技(結希は『啄木鳥(きつつき)』と命名していた)も駆使しているのだが、一枚だけでも邪魔になる大型の盾を二枚装備しているのであるから、隙間を狙うことすら困難な状況である。

 回り込むような動きなどの変化を加えているものの、どうしても防御を突破することができない。

 これは結希がなぜか斬撃を混ぜることなく、突きの技しか使っていないというのも一因だと思われる。


「このままだとジリ貧だぞ。どうする?」


 守の言葉通り、まだ直撃を食らっていないというだけで、結希の機体には数多くの傷がつけられている。

 もし一部のパーツが壊れ、その状態でシールドバッシュのような攻撃を受けたら……間違いなく戦闘不能になるであろう。


「こうなったら、奥の手を出すしかないね……一か八か、やってみる!」


 結希が、覚悟を決めたようだ。

 機体後部に配置されているブースターの出力が、一気に上昇する。


 そのまま一気に、攻勢に出た。

 円を描くような動きに合わせて、何度も『啄木鳥』、そしてたまに『百舌』を混ぜながらとひたむきに連続攻撃を行い、相手に攻撃を行う隙を与えない。

 守は落ち着いてシールドでそれを防いでいるのだが……だんだん嫌な音が響くようになり、シールドにひび割れが生じてきた。


「これでとどめ! 『百舌』!」


 少し距離を取った結希が、一気に突きを繰り出す。

 守先生は盾でそれを防御したのだが……その盾が、粉々に砕け散った!

 衝撃が腕に伝わったのか、思わずもう一方の盾を使い、必死に盾を失ったほうの腕をかばうような動きを見せる。


「そして、『(はやぶさ)』!」

 結希の追撃が行われようとしたその時……ブースターが停止し、機体の動きも止まってしまう。

 これは、もしかして……?


「エネルギー切れ……悔しい!」


 どうやらディシブルの弱点の一つである、ジェネレータの最大容量が少ないというところが出てしまったらしい。

 これだけのチャンスを作っておきながら、活かせなかった結希の悔しさは、いかほどのものであろうか……。


「試合終了! 勝者、まも……えっ?」


 審判が判定を下そうとしたとき、守が機体を除装し、審判に駆け寄った。

 そのままその手をとり、結希に向かって声を投げかけた。


「いくつか質問したい。なぜ、盾に阻まれると分かっていながら突きしか使わなかったのだ?」


 これは、会場の誰もが感じた疑問であろう。


「その盾を壊すのが、目的だったからです。以前読んだヒーローマガジンで、局所的に弱い部分が存在することを知っていましたから」


 ようやく、この盾をどこで見たのかを思い出すことができた。

 ヒーロー、及び候補生にとって必読書の一つである「ヒーローマガジン」。

 その中でも細々とした記載であるため、読み飛ばすものも多いところに掲載されていた「商品不都合」の欄だ。

 俺の中にいる「あいつ」も、ようやく思い出せたようで驚いている。


 この型番の訓練用シールドに弱点が存在し、交換対応を行うという記事が、昨日の最新号に記載されていた。

 もっとも経年劣化などによって発覚した事態であり、新品の場合一定期間内であれば、問題は発生しないであろうと記載されていたのだが……その弱点を着実に攻撃することで、新品であってもなお弱点となりうることを証明したのだ。

 最初から結希が狙っていたことは、その弱点を突いて盾を破壊するということであり、それが今回の戦いで「勝つ」ために選んだ彼のやり方だったのだろう。

 本当に、戦闘時におけるセンスはずば抜けているとしか言いようがない。


「それにしても、ここまで正確な攻撃ができるとは……試合中に放たれた突きの回数は、少なく見積もっても300を超えている。そのほとんどが弱点を的確に狙っていたことは、この盾の状態を見れば一目瞭然であろう」


 もう一方の盾も、既にボロボロであり……恐らくそちらで受けていたとしても、同じ結果になったと思われる。

 それほどまで徹底的に弱点を攻撃し、盾を削り続けていたのだ。


 いくら弱点があるとはいえ、それをずっと狙い続けられるかどうかは別問題である。

 しかも相手は動き回っているのであるから、たとえ分かっていたとしても、その部分だけを狙い続けるというのは至難の業だ。


「そして、もう一つ質問だが……なぜ盾を狙った? 体勢を崩してその隙を狙う方が、はるかに楽だっただろうに」

「あれだけしっかり防御されていると、体勢を崩す前にこちらが力尽きる可能性が高いと判断したためです。それならば、シールドを破壊することを狙う方がまだ勝ち目があると思いました」


 実際エネルギー切れによって停止したことを考えれば、理にかなっている部分もある。

 結希の場合、フェイントや崩し技などを使うよりも、ある意味では正攻法である「盾自体を壊す」ほうが「楽」だったのであろう。

 もっとも、針の穴を通すような攻撃をひたすら続けることを「楽」と評することができるのは、結希くらいのものであろうが。

 少なくともここにいる人間でできるものは、探すほうが困難なレベルである。


「そうなると、今回は完全にこちらの負けだ。ディシブル改を使っていたのであれば、恐らくもっと早く盾は砕けていただろうし、最後の攻撃も決まっていたはずだからな」


 確かにディシブル改であれば、もう少しジェネレータに余裕があったことは間違いない。

 それはすなわち、盾を壊す以外にも戦闘の幅が存在し、より有利に戦えたということでもある。


「加えて、最後の攻撃で腕にダメージを受け、かばうような状態になった。これは有効打として十分であろう」


 これもまた、納得できる。

 明らかにあの動きは、腕にダメージを受けていたことを示している。

 剣道で「小手」という技が存在するように、腕であっても「有効打」としては十分であると判定されたようだ。


「えっと、僕はどうすれば……?」


 結希が除装(じょそう)したとたんに、割れるような歓声が起こった。

 尖らせた髪の毛が完全に戻っており、どこからどう見ても「美少女」にしか見えない状態だったのも一因であろう。


「ということで……勝者は、御門祐樹です!」


 審判の声に、歓声がさらに高まる。

 勝利条件でハンディキャップがあったとはいえ、ヒーロー候補生が現役のヒーロー、しかも教師を倒してしまったというのであるから、まさに大金星と言っていいであろう。


「頑張れよ。新たなヒーロー」


 守が呆然としていた結希に対し、声をかけ、肩に手を置いた。

 更に歓声が高まり、半分熱狂状態と言える。


「うわ……この後に、俺が試合?」


 思わず、頭を抱えてしまう。

 結希がこれだけの戦いを見せた後に、(まい)先生との戦い。

 加えて舞のメインとなる攻撃は魔法であるため、通常使っている機体を使わないことによるデメリットは小さいと考えられる。

 今から逃げ出せないだろうか……と思いつつ、俺は会場に呼ばれるのを待つことになった。

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