序章 第10話 3月6日 試験中~3人の戦い~
歩きながら、試験のスケジュールと実施状況をスマホで確認する。
既に奏の試験は終了しており、保健室での三人の試験は、まだこれからのようであった。
「確か、試験は受験者ならば見学していいはずだよね?」
「その通りだ。受験要綱にも記載されている」
受験者専用の観覧席が用意されているが、全体を見渡せる良い場所がとれるかどうかは別問題だ。
そのため少し速足で、向かうことにする。
幸いと言うべきか、不幸にと言うべきかは分からないが……自分たちが戦うのは最後の方である。
そのため、他の3人の戦いを見る時間は十分に確保できそうだ。
漣の試験会場につき、席に座る。
「彼女はヒーラーだから、他のヒーロー候補生とは異なる試験になるかもしれないな」
「だよね。近距離戦闘型が彼女を一方的に蹴散らすような形になっても、意味がないと僕も思うし」
それもまた、見学を決めた理由の一つである。
俺たちはどちらも「アタッカー」に近いため、他の職種の戦い方を見ることは、非常に参考になると考えている。
漣が割り振られた訓練施設は、市街地を模したものであった。
俺たちの予想に反して、そこで行われていたのは戦闘試験であり、しかも2対1……漣の側が1という、相当過酷なものであった。
「これはひどい。いじめではないのか?」
思わず口走ってしまうほど、普通の試験と比べて難易度が高い。
「でも見て! 十分戦えているようだよ!」
結希の言葉に従って、状況を確認してみることにした。
漣は、必ず二人が同時に攻撃できないよう、巧みに位置取りを行っていた。
対戦相手の一方は遠距離型で、もう一方は近接型の機体のようである。
基本的に漣は、近接型から離れるような立ち回りをしていた。
加えて遠距離型に対して建物の利用、近距離型が射線上に存在する状態に持ち込むなど攻撃することが非常に難しい形になるように工夫し、相手の優位をとことん発揮させない戦い方を行っている。
明らかに「戦場を支配している」側は漣であると見せつけており、対戦相手と比べ圧倒的に格上であることが、嫌でも分かる状態となっている。
「少し状況を調べてみたが、通信障害も併用して連携を崩しているようだな。更に相手の動きを何らかの方法で察知して、それを元に回避行動を行っているように見える」
「だね。ヒーラーだと思っていたら、とんでもない戦闘能力まで持っているなんて……」
結局漣は一度もまともな攻撃を受けることなく、二機を沈めてしまった。
最初に遠距離型の方を、錫杖からの衝撃波で沈めたのであるが……そこからが更に圧巻である。
近距離攻撃型の機体と正対し、正面から切りかかってくる攻撃を錫杖で捌き、体勢を崩したところに衝撃波を当ててダメージを重ねていくという離れ業だ。
その部分だけ見たものがいたとするならば、確実に「杖術を使う近接型」と判断するであろう戦い方であり、全く危なげを感じさせない。
そのままダメージの蓄積により、近距離型も戦闘不能と判断された
「……今年のヒーロー試験、レベルが高すぎない?」
結希の言葉に、頷かざるを得ない。
専用機ではない機体で、ここまで圧倒的な差を示したのであるから……文句なしに満点の評価であろう。
しかもこれだけの戦闘能力に加えて、回復能力まで有しているというのであるから、総合評価がどのくらいになるのか恐ろしい。
下手をすると、卒業した一人前のヒーローと比較してなお、互角の力があるのでは? と感じるほどだ。
「ほかの二人も、同レベルだとしたら……フジ中央高校に割り振られるのは、あの三人組になりそうだね」
「できれば、残りの枠に俺たちも滑り込めることを祈るばかりだな」
とりあえず、残りの二人の戦闘も確認する必要がある。
が、まずは快勝を労うために俺たちは、漣の控室の方に向かうことにした。
漣は機体から降り、軽く水分補給をしているようだ。
さほど汗をかいていないことから、あの戦いにおいて消耗はほとんどなかったことを物語っている。
「終わりました。重症患者の治癒の直後に戦闘を告げられ、魔力切れを狙われたようですが……機体の中にポーションを備えてあったため、事なきを得ました」
漣の言葉に、不穏な気配を感じる。
普通はこんなタイミングで戦闘を行わせるとは思えず……何かしらの悪意を感じざるを得ない。
漣の同行の申し入れを快諾し、俺たちは次に試験を受けるみかんのところに向かうことにした。
みかんに割り振られた訓練所は……森のような、遮蔽物の多い場所であった。
彼女の機体に関しては、あまりよく分かっていないが……問題なのは相手の数である。
何と、5対1というすさまじい状態に陥っていたのだ。
「2対1でも無茶だと思ったけれども……もしかして、彼女たちって何か恨まれているのかな?」
「あり得るな。あの金メッキ全国大会において、俺達同様「ヒーロー組合」の恨みを買ったというのは、十分考えられる」
ちなみに「ヒーロー組合」という名前ではあるが、ここだけが公式の団体というわけではない。
そのため、法律で認められた特定の組織に所属していれば、問題なくヒーローとして活動できる。
俺たちの両親が営んでいる「ヒーローズネスト」も、その一つだ。
また「ヒーロー組合」はトウキョウ方面が管轄であるが、なりたてのヒーローを有無を言わせず加入させる、横柄な態度をとるものが多いなど悪評が多く、非常に印象の悪い組織だ。
実際、例の全国大会における不正の多くに関わったということは、公然の秘密である。
政権との癒着、洗脳のような支配など、「まとも」な組織であれば考えられないような話が次々と出ているため……正直、ヒーローと名乗っていても組合に属している者たちは「敵」という認識が、組合の者たち以外の総意である。
「とはいえ、ここはヒーローズネストの管轄区域だからな。ここまで無茶な状況になることは、普通は考え難いのだが……」
「だよね……でも、なんだかこの状況を楽しんでいるみたいだよ?」
彼女が放っているのは、黒いボールと白いボールである。
どうやら黒いボールは相手を引き付ける効果があるらしく、逆に白いボールは相手を突き飛ばすような効果を示している。
「引力と斥力、か? かなり稀有な力の持ち主のようだな」
「うわあ……相手がまるで、ピンボールの玉のような状態になっているよ……」
実際、戦いの様子は悲惨なものであった。
彼女に攻撃しようとすれば白いボールで弾かれ、その先にあらかじめ配置してあった白いボールで更に別の方向に。
十分勢いがついたところで、木に叩きつけられてダメージを負わせられるという、まるでカートゥーン(ギャグマンガ)のような状態になっている。
逆に黒いボールを使い、相手を拘束した上で結晶化させた黒いボールで殴り、装甲をベコベコにして戦闘不能という方法も使っている。
明らかに戦いを楽しんでおり、見ていて相手の方が気の毒になる有様だ。
「どうやら彼女の機体は、対多数の戦闘に向いた設定をされているようだな」
「汎用機でこれだけの力が出せるとなると……専用機になったら、どうなっちゃうのだろう……」
「にゃはは、ずっとあたしのターン!!」
試験中ということを忘れたかのように、実に嬉しそうに戦っている。
ただ、少し油断しているかな? という点が気になっていたのだが……。
「こいつ、ようやく捉えたぞ!」
相手の一人が、近接戦闘の間合いに入ることに成功する。
「距離さえ詰めれば、こちらのものだ! くたばれ!」
持っているブレードが、ギラリと不気味な光を放つ。
リミッターがかかっているはずのその攻撃から、何やら不穏な印象を受ける。
動きにためらいがないというか、本気で叩き切ろうとしているというか……。
「にゃんと~、やる!」
相手の攻撃は、結希の普段の動きと比べても、さほど劣らないほどのものである。
かなりの腕前なのだろうが……その攻撃を、みかんの機体は簡単に回避した。
「実は接近戦もできたのにゃ。能あるネコは、爪を隠すにゃ!」
……どこからツッコミを入れればいいのだろうか。
これだけの遠距離戦闘能力を有しており、更に接近戦もこなせるというのは、並大抵ではない。
それは間違いないのだが……ネコは普通爪を隠して行動する生き物であり、出しっぱなしだとしたらかなり問題があると思うし……。
そのまま白いボールを手の中に発生させ、思いっきり「猫パンチ」を行う。
斥力によって大きく弾き飛ばされた相手の機体は、そのまま後ろに展開させていた黒いボールによって拘束され、身動きが取れない状態に陥った。
「さてと。とりあえず物騒なものは、しまっちゃうにゃ」
相手のブレードの部分に黒いボールを押し当て、無理やり手から引き離す。
本物の武器であることは間違いないのだろうが、物騒ということは恐らく……。
「まったく組合系の奴らは、厄介にゃ。審判、判定をお願いするにゃ!」
試験が中断され、武器の確認が行われる。
結果、すべての機体のリミッターが破壊されていることが判明した。
また、第弐世代の機体を無理やりディシブル改に見えるよう、偽装していたことも明らかになった。
「これって、ヒーローの欠格要件になるよね。大ごとだよ!」
「だな。なぜこんな愚かなことをしたのかは分からないが……一生を棒に振るようなことであるのは、間違いない」
ちなみに不正行為が行われると、それから三年間はヒーローとして活動できなくなる。
そもそも、リミッターの意図的な破壊はそれだけで、とんでもない重罪になるものだ。
リミッターだけ壊して稼働できる状態にする技術は、残念ながら第壱世代、第弐世代の機体ではある程度成功例があるらしい。
それ故に、最新の第参世代ではその辺りが徹底的に強化されているようだ。
前述したことがあるが、リミッターの存在=機体への安心感という側面があるため、その情報にアクセスしただけで犯罪となる。
そのため改造は「殺人未遂」とほぼ同義の扱いを受けるよう、法整備がなされているのだ。
はっきり言って、今回の対戦相手は「終わった」と言っても過言ではない。
また、それまでの状況を鑑みて、みかんの勝利は確実だろうと判断された。
結果として5対1での勝利という、とんでもない成績を残すことになる。
これは下手をすると、ヒーロー試験の記録を塗り替えているかもしれない。
「間違いなく、最高レベルの評価だろうな……漣、みかんと続けば、次は明も?」
「この三人、トウキョウに住んでいたはずだよね。こんな逸材を手放すなんて、組合は何を考えているのかな?」
結希の意見に、同意する。
もしかしたら、組合の意に反する行動を行っていた結果、目障りになったというのは考えられることであるが……。
「ここまで露骨にやられるとは、おもわなかったにゃ。明も何かしらやられている可能性があるから、急ぐにゃ!」
機体を除装したみかんが、俺たちに合流する。
「はい。何らかの細工をされる恐れがあります。確認に行きましょう」
漣もすぐに、俺たちの後についてきた。
俺たちのこの懸念が、杞憂であってくれれば良いのだが……。
明の使用する訓練所は平原のような、比較的遮蔽物の少ないところであった。
ただし相手は二機で、しかも一方は近接戦闘型、もう一方は遠距離攻撃型のようだ。
「私のところと同じ状況ですね。間違いなく、ヒーロー組合が手を回しているのだと思われます」
「間違いないにゃ。とはいえ、こちら側も抵抗してくれたようで、フィールドそのものはむしろ有利な地形を選んでくれたみたいだにゃ」
確かに明のあの突撃力を生かすという上では、この地形はうってつけであろう。
とはいえ、2対1という状況、かつ遠距離支援がある状況を覆すとなると、難易度が跳ね上がるのは間違いない。
「このくらいの状況ならば、明なら跳ね返せるにゃ。むしろどんな風に相手がやられるのか、見ものだにゃ~!」
「私もそう思います。私が相手をした者たちも、トップレベルには程遠いものでした。明ならば大丈夫です」
それだけの信頼を寄せられるというのが、彼女たちの絆の強さを物語っている。
そして俺達同様、相当の修羅場をくぐりぬけて来たであろうことも、容易に想像できた。
「相手の機体は……うわあ。もろに対格闘用の装備だよ!」
「卑怯にも程があるな……こんなことをしても、組織の評価を落とすだけだというのに。なぜここまで愚かなのか、不思議で仕方がない」
一方はネットを、もう一方はトリモチ弾を装備している。
更にワイヤーなども用意して、徹底的に足を潰すという悪意がむき出しになっている。
「さすがにリミッターは設定されているようだけれどね。みかんの戦いが無駄にならなくて、その点では安心したよ」
結希の言葉通りである。
事故を装って、ここで再起不能にしようという意図すら感じられたほどだ。
組合の汚いやり方に、反吐が出る。
「明は……うわあ。何あれ?」
「破損したブースターの代わりに、別のブースターを装着したようだが……」
急遽搭載されたのであろうが、ブースターの大きさがシャレになっていない。
それまで使っていたブースターが、機体の半分くらいの大きさであり、大型に分類される。
それに対して今回装着しているものは、機体からはみ出すほどの特大のブースターだ。
確かに出力は高いだろうが……どう考えても制御しきれず、悲惨なことになるのが容易に想像できる。
「アレを出したかにゃ……明、目いっぱい遊ぶつもりらしいにゃ」
「成功率は半々……私には、この状況で使おうとする感覚が理解できません」
どうやら二人は、このブースターに見覚えがあるようだ。
そしてこれを使うのが一種の「賭け」であることも、同時に伝わってくる。
「一応、宣告しておくぞ……私はまず、遠距離型をブチのめす。その後に近距離型だ。覚悟を決めろ!」
明の宣言の後に、試合が始まった。
号砲が鳴り響くのとほぼ同時に、明の機体がとんでもない勢いで遠距離型の機体に迫る。
それこそ「号砲が耳に届く前に動いた」と思われても仕方ないレベルの、とんでもない加速であり……あらかじめブースターに回すエネルギーを最大にして待機していたのは間違いない。
その勢いを乗せられた拳により、遠距離型の機体は試合会場の遥か彼方まで吹き飛んでいった。
「次!」
驚くべきことに、明はその速度を制御して戦っていた。
場外に出ることなく、上手く方向を変え、接近戦型の方に向けて突撃する。
「あいつ」の表現によると、某鳥の羽のついた戦闘機が主人公のシューティングで、ターボエンジンではなくロケットエンジンを使って戦闘しているようなものらしいのだが……。
近距離型の相手が、明の機体に向けてネットを射出する。
だが、この勢いを殺すためにはあまりにも無力であった。
「ありがとうよ。ブレーキを用意してくれて」
ありがと、のあたりで明の機体にネットが接触した直後、近距離型の機体も突撃の勢いのまま思いっきり吹き飛ばされ、遠距離型の機体と同じ運命をたどった。
明の方は、ネットによる減速をうまく利用して着地しており、場内にとどまっている。
「タイムは……よし! 試験の最短時間更新!」
彼女にとってこの戦いは、ニューレコードを出せるかどうかという次元の遊びであり、勝つことは当然の前提であったようだ。
そのためにあえて、リスクを負いながら巨大なブースターを使用したというのであるから……頭がいいのかバカなのか、判断が難しい。
「よっと。ただいま~!」
除装した明が、こちらに向かって歩いてきた。
「しっかし、何というか……これで二つの事が判明したな」
明が二人に対し、思ったことを説明する。
「まず一つ目は、教師の中にヒーロー組合とつながっている奴がいて、そいつはそれなりの権力を有しているということだ」
それは俺も真っ先に思ったことだ。
ここまで不正が起きるのは、あの金メッキ全国大会以来というレベルで多発している。
「さっき吹き飛ばした機体も、リミッターに連動したダメージ測定のセンサーが、取り外されていたようだからな」
それはひどい。
ダメージ測定のセンサーが無い状態で、戦闘不能になったということを証明するためにはそれこそ、一目でわかるほどの破壊か、彼女がやったような場外への落下が要求されるであろう。
「出力の劣るディシブルだと、十分なダメージを与えたかどうかも分かりにくいし……結果としてあんな派手なやり方をせざるを得なかった、というわけさ」
どうやら明のあの戦いは、相手の不正を考慮した上で行うことを決断したようだ。
リスクの高い遊びであり、こんな時にやることではないと思った部分もあったのだが……むしろ頭脳派で、効率を考慮してこの作戦を選んだようである。
「そして二つ目は、それをあえて利用して、あぶり出しに使った奴がいるということだ。私たちの実力ならば、この程度の状況はハンデにすらならないという信頼の上で、だろうがな……そうだろう?」
言葉を発しながら、俺たちの背中の向こう側に視線を向ける。
そこには笑顔の舞先生が立っており、こちらに向けて手を振ってきた。
「その推測が正解かどうかは、おいおい、ということで。それよりも、そろそろ二人とも準備をしてちょうだい。私たちとの試験が待っているから」
あれらの戦いの後で、俺たちの戦い……。
正直きついものがあるが、逃げるわけにもいかないだろう。
「久郎、瞬殺されて試験の最短時間更新、なんてことにならないようにしてね……」
結希が不吉すぎる予言を、こちらに投げかけてきた。
「結希の方は……どんな戦い方をするのか分からないが、まあ頑張れ。こちらもできる範囲でやってみる」
二人で待機室に向かう。
ずっと機体を着用したままであったため、すぐにでも出場できる状態だ。
さすがに試験で、教師がいきなり瞬殺するような技は出さないと思いたいのだが……あの先生のことだから、油断できない。
俺はいきなり大技を放たれても対処できるよう、戦闘直後の動きをいくつかシミュレーションした上で、二人で揃って試験会場に向かった。
明のブースターの元ネタは、ファンタジーゾーンで検索すれば分かると思います。
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