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序章 第8話 3月6日 試験会場到着

「ここが、試験会場のフジ中央高校……」


 結希のつぶやきが、俺の耳にも届いた。


 区画整理により、フジの町は大きく変容している。

 その結果学校も統廃合が行われ、現在フジ全域で12もの高校が存在しているのだ。

 その中のトップに君臨するのが、このフジ中央高校である。


「何とかギリギリ、遅刻にはならなくて済んだみたい。とはいえ、もう着替え始めている子もいるから、早めに準備して。あと、結希に久郎、明と……ごめんなさい。ツインテールの子はこちらに来てちょうだい」


 舞先生の指示に従い、俺たちのグループは二つに分かれることになった。

 結局バスの中では、ツインテールの子は自己紹介を行う機会がなく、そのためまだ名前が分からない状態である。


「私の名前は、(かなで)と言います。呼び捨てで構いません」


 さすがにこの呼び方には思うことがあったようで、端的に名前をグループに告げた。


「わたしは、めあなの~! よろしくなの~!」


 ……え?

 コクーンの中にいた少女が、そこにいた。


「あらら……一緒にバスに乗ってきちゃったのね。まあいいわ。とりあえず一緒に行動しましょう」


 舞先生が、少女に声をかける。

 まあ、あのバタバタした状態ではついてくることを選択しても、仕方ないであろう。

 目の前で死闘が繰り広げられていたこともあり、たとえ表には出していなくても心の奥では恐怖心が強く支配していて、一人になりたくなかったとしてもおかしくない。

 俺たちも大慌てでバスに乗っていたので、一人増えていたにもかかわらず、全く気付かなかったのだし……。


「まずは機体の登録変更を行うわね。すぐに済ませられるから」


 学校内に存在している、倉庫に向けて歩き出す。

 機体を収納している関係上、「あいつ」の世界に存在している学校の体育倉庫に比べて遥かに大きく、また体育館とは離れた、独立した建物になっている。

 倉庫のカギを舞が開け、中を確認する。

 そこには座った形のディシブルが、5機存在していた。


「何とか人数分の予備があって、良かったわね。じゃあ、スマホを出して」


 言われるがままスマホを提出し、舞先生がすばやく操作を行う。

 その操作速度は、日々使用している俺たちよりも上であり……正直少し気持ち悪いほどであった。

 普通にパソコンを使う人が、タッチタイピングとショートカットを駆使しているプロの作業を目にしているような感覚、と言えば伝わるだろうか。


「登録完了。これで動かせるようになったから、戦闘服に着替えて搭乗してちょうだい」


 4人分を登録するのに、ほとんど時間がかからなかった。


「えっと……僕たちが着替えるところと、こちらの二人では分けないとまずいですよね?」


 結希が舞に問いかける。


「あ……確かに。一応カーテンはあるから、それを使ってちょうだい」

「いや男性の俺はともかく、他の人たちはそれでいいのか?」

「俺、じゃなくて僕たち、だよ……まあ、言っていること自体は間違っていないけれども」


 少し、戸惑ってしまう。

 女性にとってすぐ近くで男性が着替えを行っているというのは、相当嫌だと感じるのだろうが。


「まあ、私は別に問題ない。覗くような奴らには見えないし、時間がもったいないからな」


 明はあっけらかんと答え……確かにこういう言い方をされると、覗くことに対して罪悪感を覚えるのは間違いないだろう。


「私も割り切ります。緊急事態で、これ以上遅れるのはまずいですから」


 奏も同意してしまったため、結局ここで着替えることになってしまった。


 俺が着ていた服は、確認する必要がないほどボロボロになってしまっている。

 元々戦闘用に作られたものではないため、仕方のないことではあるが……一張羅がダメになったというのは、かなり痛い。

 当然、結希の服もボロボロになっていて、性別を知っていてなお、扇情的と表現するのが適切な姿となってしまっている。


 奏はもっとひどい状態であり……むしろ試験を受ける前に、医療班に連れて行ったほうが良いのではないかとすら思う。

 明の方は多少ましではあるものの、擦り傷だらけで悲惨な状態であるのは間違いない。


 今はともかく、帰りはどうしたものか。

 服を誰かに持ってきてもらうのが一番であろうが、両親も忙しいだろうことから、少し気が引ける。

 それに、奏や明の服は用意できないし……後で舞先生に相談してみることにしようと思った。


 それはさておき、俺たちは戦闘用の服に着替え終わった。

 男の着替えは基本的に、短時間で済むので楽なものである。

 可能な限り急いで着替えることで、向こう側の衣擦れの音を聞かないよう配慮していたことも、要因の一つであろう。


 ちなみに、戦闘用の服は……普段街中で着るのには、不向きなデザインである。

 試験で汗もかくため、そのまま帰宅するということを躊躇うような感じだ。

 衝撃を和らげるという側面が強いため、いわゆる「全身タイツ」に近いような恰好を思い描いていただければ、ある程度目安になると思う。


「こちらは終わった。とりあえず外に出ているから、安心して着替えてくれ」


 俺は倉庫から出て、空を仰ぐ。

 すぐに結希も着替え終わり、隣に並んで同じく空を見上げた。


「慣れない機体で、ちゃんと普段通りの動きができるかな……緊張してきた」

「まあ出力は劣るものの、動き自体はそこまで影響しないから、大丈夫だろう」


 鍔迫り合いなどのような、パワーがものを言うような状態になってしまった場合はかなり不利になるだろうが……結希の戦い方はスピード重視であるため、あまりそのような状態にはならないだろう。

 むしろ機体が軽い分、いつもより有利と言えるかもしれない。


 一方俺の方も、同じくギミックを多用して戦う方法なので、影響は少ないと思われる。

 もっとも格闘戦、特にホールドされると厳しい状況になるため、その点は気をつけないといけないのだが。


「問題は、明と奏だな……あの巨大なブースターなしで、どこまで明が粘れるか」

「奏に至っては、戦い方を見ていないからね……何とか合格してほしいよ」


 俺たちが話をしていると、舞があきれ顔で声をかけてきた。


「ほらそこ、勝ってもいないのに他の人の心配をしない!」


 まあ、確かに舞の言うとおりである。

 少し待ち、女性の方も着替え終わったため機体に搭乗する。

 久しぶりの「フェイズシフト」でない搭乗であるため、少し新鮮だ。

 いつもは自動で巻き付く固定具を、手動で体に装着し、準備は整った。


「会場での割り振りは……データを送ったから、そちらで確認してちょうだい」


 機体のモニターに、データファイルが送信されてきた。

 受け付けは舞が代行して行ってくれたようで、俺たちは直接会場に向かい、試験を受ければ良いようである。


「え? なにこれ?!」


 結希が悲鳴に近い声を上げた。

 確認してみると……結希の相手は「守」と表示されており、俺の方には「舞」と表示されていた。


「おいおい、冗談だろう……」


 普通は、同じヒーロー候補生が相手となる。

 それを数戦行って、合否が決まるのだが……なぜか俺たちの相手は、教師直々に行うようである。

 こんな特別扱い、要らない……。


「2対2ならば、まだハーモニクスによって若干の勝機はあったのだが、これは……」


 ハーモニクスには、一つ大きな欠点がある。

 それは「同時に戦場にいて、同じ戦いに気を向けていないと維持できない」というものだ。

 戦闘時の緊張感を共有し、それによって意識も共有させるという理論だと思うが、詳しいことは俺たち自身でも分かっていない。

 ともあれ、観客席からハーモニクスを行うという方法が、不可能であるのは確実だ。


 それを抜きにしても、さすがに勝てる戦いとは思えない。

 もしかしたらその状況でどれだけ「諦めない」でいられるかという、精神面を確認したいのだろうか……?


「しかも、俺たちが戦うのは最後の方になっているな……それまでに慣らしを終えて、本気で挑めということか」

「うわあ……ちょっとこれは、ひどすぎない? 運営に文句を言ってもいいと思うよ……」


 結希が憤慨している。

 正規のヒーローが使う「第(さん)世代」の機体と、初期の「第(いち)世代」の機体の性能差は大きい。

 たとえ騎乗者の腕前に相当の差があったとしても、埋めがたいほどの違いが生じるのだ。

 更に先生たちと、ヒーロー試験を受ける俺たちで、どちらの腕前が上であるかは言うまでもない。


「うん? 教師たちは、ディシブル改を使用するのか……それでも大人気ないが」

「少しだけ、ホッとしたかも。これで瞬殺される可能性は、低くなったと思うし」


 ディシブル改は第()世代に近い性能であるため、不利であることには変わりない。

 それでも第参世代と戦う事に比べれば、決定的な差ではなくなっている。


 また、俺たちの敗北条件は「戦闘不能」であるのに対し、教師たちの敗北条件は「有効打を受けること」とされている。

 かなり有利な条件になっているが、そもそもハンデがなければどうにもならない事態であるため、妥当なところであろう。


 ちなみに、通常の候補生同士の戦いにおいては「戦闘不能」を求められる。

 セーフティーがあるため、戦闘不能になっても怪我をする可能性は低いこと、有効打を受けながらも、反撃でより大きなダメージを与えるような戦い方をするものを救済する、などの観点からこのようになっているのだ。


「そうと決まれば早速慣らし、及び武器の確認を行うぞ。この機体がどのくらい動けるのか、確認しておかないと」

「分かった! やれるだけのことはやってみる!」


 ちなみにこのフジ中央高校では、訓練施設は複数存在している。

 ほとんどが今回の試験のために埋まっているのだが、準備を行うためのスペースに空きがあったため、そこを確保することにした。


「思ったよりは、違和感は少ないな。ワイヤーなどもきちんと指定されたものが装填されているし……これなら今までと、変わらない動きができそうだ」

「もしかしたら、少し設定をいじってあるのかもしれないね。あの先生なら、そのくらいは簡単にこなしそうだし」


 一通り動作確認を行った結果、パワーという点では若干今までのものより劣るものの、自分たちの得意とするスピードを重視した戦い方においては、むしろ今までのディシブル改よりも使いやすいという事が判明した。

 状態も非常によく、ヒーローの力の伝導性も今までと変わらないか、むしろこちらの方がスムーズに流れているかもしれない。


「さて、まずはヒーロー因子の測定だな」

「うん。早めに行こう!」

 俺たちは一度機体から降り、測定会場である保健室を目指すことにした。


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