5. 協力要請 2
返書には主に協力したい旨と、更に詳細を希望する旨の二点が記載されていた。
訪問はいつでも構わないが、有事で余裕がないようであればエジダイハ側から使者を送ることも可能である、と飽くまでもこちらの状況を慮るような内容であった。
厚意に甘えるつもりはなかったため、レンリは早急に返書を準備した。
結界内部に入ることが出来るようになるまでは数週間の猶予があるため、早ければ明日の訪問も可能であること、またそちらの都合に合わせることも難しくないことを書き記すと、次に遣ってきたのはエジダイハまでの警護を務めてくれるという数人の騎士団であった。
レグルス陛下の命で参りましたと伝えられた時、レンリは王としての格の違いを見せつけられたような気がした。
あの少ない文書での遣り取りの中で、エジダイハの王は一体どれだけのことを理解してくれたのだろう。
こちらの焦燥を読み取ってくれたのか。
それとも、ツェリと連絡が取れないことに以前から疑問を持っていたのだろうか。
どちらにしても、この対応の早さは非常に助かるものであった。
元々、訪問するにしても護衛はリーシェだけにお願いするつもりであった。
只でさえ、オルフェを筆頭に少ない人数で国の問題を抱えてくれていたのだ。
彼らの疲労は言うまでもなく、そこから護衛のためにこちらに人員を割いてほしいなどとは口が裂けても言えそうになかった。
その意見は受け入れられないとオルフェは断固反対を示し、訪問するならば自分も同行すると声を上げてくれていたが、隊長である彼の不在が残った騎士達にどう作用するかを考えるとレンリはそれを是とすることが出来なかった。
極度の不安と緊張の中で彼を中心に統率を取っていたのだ、彼を引き抜いては心の拠り所を失うのではないかとの懸念があった。
同時に、オルフェの不安も理解しているつもりであった。
結界を打ち破り、問題解決の糸口になる存在の安全を確立したいという彼の想いは十分に心得ていた。
それでも、譲れなかった。
護衛を断るレンリと、それを拒否するオルフェの話し合いは平行線を辿るかと思ったが、そんな問題を見抜いていたかのようにエジダイハから騎士団が派遣されたのはそれこそ渡りに船の出来事であった。
護衛の少なさを問題視していたオルフェも、エジダイハの騎士が警護を務めるのであれば閉口するしかなかったようである。
彼らに身を守られること、それ即ち、この世界においてこれ以上の安全はない。
ただ、エジダイハの騎士達に囲まれることとなるリーシェは、既に緊張で顔を強張らせ酷く肩身が狭そうであったため、それだけは非常に申し訳なく思った。
早ければ早いに越したことはない、と当日中にエジダイハの騎士達による警護の下セレシェイラを離れた。
目指すエジダイハは竜化して飛んでいけば半日もかからない。
そうして向かったエジダイハは荘厳な王城を構える、軍事大国に相応しき立派な王国であった。
レンリは過去にアルデラと共に幾度もエジダイハを訪れていた。
王妃ツェリの出身国である彼の国は、アルデラとツェリの婚姻によって、他国よりも強い繋がりを得ていたからである。
故に、何か催しがある度に招待状を送りあっては、互いに往来を繰り返していた。
軍事大国の名に劣らず、国を治める国王レグルス自身も険の名手との噂であった。
身体つきは逞しく、彼の纏う他者を寄せ付けないその威厳はしかし、子供の前では柔らかになることを知っていた。
レグルスには王城にて官吏を務める息子と娘がいたが、レンリは姫殿下であるアンジュとは年が近いこともあり友好的な関係を築いていた。
姫と呼ぶにはややお転婆で、物怖じせずにはっきりと物事を言う性格は、寧ろ彼女の魅力をより一層引き立てていた。
エジダイハを訪問すると必ずと言っていいほど彼女に連れ回されていたため、アンジュやアルデラを交えてレグルスと話したことはあったが、一対一で彼と話したことはなかった。
こんなにも緊張に苛まれる訪問は初めてのことで、レンリは往き道に自分の伝えるべき事を再度胸中で復唱した。
国の代表として訪れる以上、失礼のないようにしなければいけない。
そう確かに意気込んでいた筈なのだが、到着して早々に対面を果たしたレグルスは酷く優しい顔つきでレンリを見つめた。
「――長旅で疲れたであろう。色々と話したいことはあるだろうが、先ずは休みなさい」
「いいえ、レグルス陛下。私は大丈夫です」
「急いだところで結界内部にはまだ入ることはできないと聞いている。ならば、休息を取ったところで誰も貴殿を責めはしない」
「ですが、」
「国を思って焦る気持ちは分かるが、セレシェイラの為に我々が出来る最大限の協力をすると約束しよう。だから、そう気負う必要は無い」
言葉を失うレンリに、レグルスは眉尻を下げた。
「遠回しではいかんな。――アンジュとそう年の変わらない娘が国のために尽くす姿を見てしまうと、どうにも他人事とは思えない。無論、貴殿が如何に聡明かも分かっているつもりだが、今は私の言葉を父の言葉として受け取っておくれ」
家族がなんたるものであるかは知らない。
けれども、今レグルスがレンリに向ける瞳はアンジュに向いていたものと同じであることだけは分かった。
レンリが動揺を隠しながら頷くと、レグルスが微かに微笑んだ。
それに、酷く胸がざわついた。
しかしそれは決して不快ではなく、寧ろ心の柔らかいところを擽られているような、そんな感覚だった。




